上 下
33 / 151

32 名前はどうするか

しおりを挟む
 何だかバブルクラブとの戦闘とかやってる状況でもなくなってしまったので今日のところは戻ることにした。

 でも、戻る前にせっかく海まで来ているのでやることをやってみる。

「インベントリの中身は?」

「空っぽにしてきたよ」

「それじゃあ、よろしくね」

「うん。任せて」

 これは、アルベロが宵の月亭のおかみさんと交渉していた塩の売買についての話のことだ。

 アルベロは僕のインベントリなら海水を入れて、塩と水に分類できるのではないかと思ったらしい。

 ということで、その実験というか。塩を入手できるかの確認をするのだ。

 海水に手をふれて、限界までインベントリの中へと入れる。すると一瞬にしてインベントリの文字は赤く染まり、これ以上入らないことを意味している。

 海水をタップすると
 →水
 →塩
 →小魚
 →その他ゴミ

 水をタップすると、約六百リットルもの水が入っていた。次に塩をタップすると、塩化ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、カリウムに分類されている。

 塩の味を考えると、こういったミネラル分もあった方がいいのだろう。

 水やその他ゴミを削除すると、塩として残ったのは二万グラム。この数字はどうなんだろう。

「アルベロ、塩っていくらぐらいで取引されているの?」

「バブルラグーンで仕入れるなら五百グラムで小銀貨一枚程度よ」

 五百グラムで千円ということは、二万グラムだと四万円か。

 えっ、この一瞬で四万円……だと。二秒も掛かっていないんだけど。

「ちゃんと成功したの?」

「う、うん。塩だけで二万グラム」

 その数字にアルベロは絶句していた。

「いっぱい採れたの? それっていくらぐらいになるのー?」

「……銀貨四枚よ」

「へぇー、小銀貨四枚かー。いいお小遣い稼ぎになるねー」

「ち、違うわよ。小銀貨じゃないの、銀貨なのよ」

「え、えっ!? ぎ、銀貨!」

 危険な冒険でお金を稼ぐよりも、塩商人として生きた方が人生楽できるのはよくわかった。

 いや、さすがに大量の塩を市場に流したら価格が下がってしまうかもしれない。きっとそんなには甘くはないだろう。だけれども、心の余裕は全然違う。

 何か困った時には塩を売ればお金を簡単に得られるのだ。これでガチャに回す資金も手に入るというもの。

 三人とも呆然としてしまい浜辺で座り込んでいたら、ようやく馴れてきたのかホワイトドラゴンが僕の顔を舐めてきた。

「お、おわっ、少しは元気が出てきた? それともお腹空いたのかな」

 ホワイトドラゴンの幼生体ともなると、何を食べるのかさっぱりわからない。

 そういえばインベントリに小魚があったな。魚、食べるかな。

 インベントリの画面をタップして小魚を取り出すと、ホワイトドラゴンの口元へ持っていった。

 すると、くんくんと匂いを嗅いでは小さな口を広げてパクリと食べてみせた。

 むしゃむしゃと豪快に頭から骨まで美味しく頂いている。

「うわー、かわいい。ニール、私にもその魚ちょうだい」

 ドラゴンの餌付けに興味津々なルイーズが魚の尻尾を持ってゆらゆらとホワイトドラゴンの鼻を刺激していく。

 お腹が空いているので魚には興味があるものの目の前の人が信頼できるのか迷っている感じだ。僕の顔と小魚を交互に見ている。

「大丈夫だよ。ほらっ、食べな」

 ホワイトドラゴンの脇を抱えて、お魚の方に近づけてあげるとパクリと咥えてみせた。

「あーあん、食べてくれたの。かわいいでちゅねー」

「わ、私にも魚をちょうだいニール」

 ルイーズの様子を見ていたアルベロも我慢できなかったのか小魚を奪っていった。

「かわいいのね。名前はどうするの?」

「名前かー。どうしようか」

 改めて情報を思い出そう。

 聖獣ホワイトドラゴン(幼生体)

 以上。オスかメスかもわからない。

 ふわふわの白い毛と翼。人見知り。好きな食べ物は魚? 赤ちゃん。そして特長的なブルーの瞳。

 ベイビーブルーアイズ。それはネモフィラという植物の別名でまたの名を瑠璃唐草ともいう。

 ネモちゃんじゃ、そのまますぎるか。瑠璃唐草、ルリカラクサ……ルリカラ。

「決めた。君の名はルリカラだよ」

「ピュイ」

 真剣そうな眼差しで綺麗に鳴いてみせた。本当に自分の名前と理解しているような気がしないでもない。

「いい名前なんじゃない」

「ルリカラかー。よろしくね」

 餌付けによって少しは馴れたのか、ルイーズやアルベロが頭を撫でても嫌々ながら許している。何となくルリカラの気持ちが伝わってくるのだ。

 これはきっとルリカラの考えがテイマーとなった僕に語りかけてくる感情のようなものなのだろう。

 おそらくはルリカラにも僕の考えていることが何となく理解できているのではないかと思われる。

 これがテイマーとテイムされた魔物の間にある信頼関係みたいなものなのだろう。

「ご飯はこの魚でいいのかな? それとも他に欲しいものとかある?」

「ピュイ?」

 首を傾げながら、ご飯という言葉に鋭く反応するものの、他に欲しいものというのが理解できない様子。

「とりあえずはまだ魚が少しあるし、あとは屋台を見て考えようか」

「そうね。冒険者ギルドでドラゴンのご飯教えてくれるといいんだけどなー」

「それは無理よ。ドラゴンをテイムした冒険者なんて聞いたことないもの」

 アルベロの考えとしては、テイムしているとはいえ、周りにルリカラがドラゴンだと伝えない方がいいのではないかとのこと。聖獣というのもよくわからないし、少し様子を見ようということだった。

 その点は僕も賛成だ。ルリカラの能力とかもちゃんと把握したいし、この子を守るために出来ることを考えたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

自重知らずの転生貴族は、現在知識チートでどんどん商品を開発していきます!!

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
無限の時空間の中、いきなり意識が覚醒した。 女神の話によれば、異世界に転生できるという。 ディルメス侯爵家の次男、シオン・ディルメスに転生してから九年が経ったある日、邸の執務室へ行くと、対立国の情報が飛び込んできた。 父であるディルメス侯爵は敵軍を迎撃するため、国境にあるロンメル砦へと出発していく。 その間に執務長が領地の資金繰りに困っていたため、シオンは女神様から授かったスキル『創造魔法陣』を用いて、骨から作った『ボーン食器』を発明する。 食器は大ヒットとなり、侯爵領全域へと広がっていった。 そして噂は王国内の貴族達から王宮にまで届き、シオンは父と一緒に王城へ向かうことに……『ボーン食器』は、シオンの予想を遥かに超えて、大事へと発展していくのだった……

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

処理中です...