13 / 151
12 ジャイアントトード
しおりを挟む
朝のラウラの森は冒険者の数も多く、それを知っているかのように魔物の数は少ない。
ある意味で平和なんだろうけど、森の奥でランクの高い魔物を狩りたい冒険者がこの平和を作り出しているのだろう。
森の浅いエリアで薬草採取を行うロージー先輩たちがこの恩恵を受けようと少し時間が経ってからやってくる。これはギルドからの指導の賜物といえる。
そう考えるとよくできた仕組みだ。もちろん、まったく危険がないかというとそうではないので注意は必要。それが二人で背中合わせ採取作戦なのだろう。
「ニールさん、荷車の調子はどう?」
「しっかりメンテナンスしてくれたみたいで順調だよ」
中古品ではあるものの、鉄製の車軸と車輪の箇所にはしっかりオイルが塗られていて、動きはとても滑らかだ。
本当は荷車をインベントリに入れておきたいところではあるんだけど、他の冒険者の目もあるので普通に引っ張っていくことにした。
行きに手ぶらで向かった僕が、帰りだけ荷車を引いてきたらすぐに怪しまれてしまうからね。
それでなくてもルイーズさんとアルベロさんのペアは注目されている美少女パーティ。そこに加わった特に取り柄のないニール。既に朝の冒険者ギルドで嫉妬の視線をいっぱい感じていた。
その三人組は今日からいつも以上に討伐証明と肉を持ち帰るようになる。その秘密が何なのか探りを入れてくる冒険者だって出てくるだろう。
「そろそろ湖が近くなってくるから注意しながら行きましょう」
「了解だよ、アルベロ」
「はい、了解です」
ここで、僕たちパーティの役割を簡単に説明しておこうと思う。
前衛はランクDのルイーズさんで、武器はショートソードと簡単な風魔法。
後衛にランクCのアルベロさんで、武器は弓と火魔法。
そして、同じく後衛にランクFの僕で、防具は大盾だ。
ルイーズさんがかく乱させて、アルベロさんが敵の急所を射抜いていくのが基本の流れ。もちろん、ゴブリンやジャイアントトード一体程度ならアルベロさんの助けを必要とせずにルイーズさんが倒してしまうこともあるそうだ。
そして、まだランクFの僕は荷物持ちとアルベロさんの守りに徹する。
一応、火魔法が使えるけど、慣れない僕が森で火を扱うのは練習してからの方がいいとのこと。
魔法には興味があるのでいっぱい練習してみたいけど、取り扱いには注意が必要らしいので、そこはじっくりやっていこうと思う。
とはいえ、火Eランクなので直接攻撃で敵に当てるとかは難しいらしい。一般的には敵の気をそらすとか、時間稼ぎ的な魔法の使い方になるようだ。
すると、すぐにルイーズさんとアルベロさんが戦闘態勢に入る。
「アルベロ」
「ええ、頼むわよ。ニール、ジャイアントトードよ」
「えっ、どこに!?」
その回答は先制攻撃をするルイーズさんの動きが教えてくれた。流れるように洗練された動きで攻撃を加えると、背後を取って追加の一撃。
ジャイアントトードがルイーズさんの方を振り返った時には、後ろからアルベロさんの弓がジャイアントトードの頭を射抜いていた。
「す、すごい」
一瞬の出来事だった。一分も掛からずにランクDのジャイアントトードをあっさり倒してしまった。
「一体ぐらいならこんなものよ。二体、三体いたらもう少し手こずると思うわ」
ジャイアントトードから矢を回収しながらアルベロさんは何てこともないように言う。
そしてルイーズさんはすでに討伐証明の舌を切っていた。
森の中を洗練された動きで攻撃を加えていくルイーズさん。結構な距離があったように思うのに狙い通り頭を射抜いているアルベロさん。しかも離脱したとはいえ、すぐそばにはルイーズさんもいたのだ。
これがランクCの冒険者なのだろう。
僕、本当にこのパーティに入れてもらってよかったのだろうか。少し二人に申し訳ない気がしないでもない。
「ニール、これの足を持ってもらっていい?」
「あっ、解体ですね」
「そう。アルベロが周囲を警戒してくれてるから今のうちにやっちゃいましょう」
ジャイアントトードのお肉として買い取りしてもらえるのはもも肉。この両足と足先を切り落としたものを持っていく。意外と血がそこまで出なかったのはよかった。
皮は剥かずにそのまま渡すらしい。そうすることで鮮度が保てるのだとか。
「それじゃあ、インベントリに入れちゃいますね」
「うん、お願いねー。あれ、アルベロどうしたの?」
「あっちから少し気配を感じた気が……いや、気のせいだと思うんだけど」
アルベロさんが指を指した方角は、遠い木の上で、そんな所に登る魔物はこの周辺には居ないだろうとの判断だったようだ。
「鳥かなー」
「うーん、何か木々が揺れた気がしたんだけど。一応、しばらくは上も気にかけるようにしましょう」
インベントリに入れたジャイアントトードの舌ともも肉は一つの種類として判断されているようだ。ジャイアントトードをタップすると、討伐証明の舌ともも肉に分かれていた。
まだまだインベントリに余裕はある。今日の目標は十五セット。つまり、銀貨約十二枚。一人あたり四万円を稼ごうとしている。その内、各一万円をパーティ貯金やメンテナンス費、荷車保管費用に回したとしても三万。
この額がベースになれば宵の月亭での連泊が現実味をおびてくる。僕自身はまだ一体も倒していないのに、なんだかもう倒した気にすらなっているのがちょっとこわい。
それだけ順調なすべり出しといっていいだろう。
ある意味で平和なんだろうけど、森の奥でランクの高い魔物を狩りたい冒険者がこの平和を作り出しているのだろう。
森の浅いエリアで薬草採取を行うロージー先輩たちがこの恩恵を受けようと少し時間が経ってからやってくる。これはギルドからの指導の賜物といえる。
そう考えるとよくできた仕組みだ。もちろん、まったく危険がないかというとそうではないので注意は必要。それが二人で背中合わせ採取作戦なのだろう。
「ニールさん、荷車の調子はどう?」
「しっかりメンテナンスしてくれたみたいで順調だよ」
中古品ではあるものの、鉄製の車軸と車輪の箇所にはしっかりオイルが塗られていて、動きはとても滑らかだ。
本当は荷車をインベントリに入れておきたいところではあるんだけど、他の冒険者の目もあるので普通に引っ張っていくことにした。
行きに手ぶらで向かった僕が、帰りだけ荷車を引いてきたらすぐに怪しまれてしまうからね。
それでなくてもルイーズさんとアルベロさんのペアは注目されている美少女パーティ。そこに加わった特に取り柄のないニール。既に朝の冒険者ギルドで嫉妬の視線をいっぱい感じていた。
その三人組は今日からいつも以上に討伐証明と肉を持ち帰るようになる。その秘密が何なのか探りを入れてくる冒険者だって出てくるだろう。
「そろそろ湖が近くなってくるから注意しながら行きましょう」
「了解だよ、アルベロ」
「はい、了解です」
ここで、僕たちパーティの役割を簡単に説明しておこうと思う。
前衛はランクDのルイーズさんで、武器はショートソードと簡単な風魔法。
後衛にランクCのアルベロさんで、武器は弓と火魔法。
そして、同じく後衛にランクFの僕で、防具は大盾だ。
ルイーズさんがかく乱させて、アルベロさんが敵の急所を射抜いていくのが基本の流れ。もちろん、ゴブリンやジャイアントトード一体程度ならアルベロさんの助けを必要とせずにルイーズさんが倒してしまうこともあるそうだ。
そして、まだランクFの僕は荷物持ちとアルベロさんの守りに徹する。
一応、火魔法が使えるけど、慣れない僕が森で火を扱うのは練習してからの方がいいとのこと。
魔法には興味があるのでいっぱい練習してみたいけど、取り扱いには注意が必要らしいので、そこはじっくりやっていこうと思う。
とはいえ、火Eランクなので直接攻撃で敵に当てるとかは難しいらしい。一般的には敵の気をそらすとか、時間稼ぎ的な魔法の使い方になるようだ。
すると、すぐにルイーズさんとアルベロさんが戦闘態勢に入る。
「アルベロ」
「ええ、頼むわよ。ニール、ジャイアントトードよ」
「えっ、どこに!?」
その回答は先制攻撃をするルイーズさんの動きが教えてくれた。流れるように洗練された動きで攻撃を加えると、背後を取って追加の一撃。
ジャイアントトードがルイーズさんの方を振り返った時には、後ろからアルベロさんの弓がジャイアントトードの頭を射抜いていた。
「す、すごい」
一瞬の出来事だった。一分も掛からずにランクDのジャイアントトードをあっさり倒してしまった。
「一体ぐらいならこんなものよ。二体、三体いたらもう少し手こずると思うわ」
ジャイアントトードから矢を回収しながらアルベロさんは何てこともないように言う。
そしてルイーズさんはすでに討伐証明の舌を切っていた。
森の中を洗練された動きで攻撃を加えていくルイーズさん。結構な距離があったように思うのに狙い通り頭を射抜いているアルベロさん。しかも離脱したとはいえ、すぐそばにはルイーズさんもいたのだ。
これがランクCの冒険者なのだろう。
僕、本当にこのパーティに入れてもらってよかったのだろうか。少し二人に申し訳ない気がしないでもない。
「ニール、これの足を持ってもらっていい?」
「あっ、解体ですね」
「そう。アルベロが周囲を警戒してくれてるから今のうちにやっちゃいましょう」
ジャイアントトードのお肉として買い取りしてもらえるのはもも肉。この両足と足先を切り落としたものを持っていく。意外と血がそこまで出なかったのはよかった。
皮は剥かずにそのまま渡すらしい。そうすることで鮮度が保てるのだとか。
「それじゃあ、インベントリに入れちゃいますね」
「うん、お願いねー。あれ、アルベロどうしたの?」
「あっちから少し気配を感じた気が……いや、気のせいだと思うんだけど」
アルベロさんが指を指した方角は、遠い木の上で、そんな所に登る魔物はこの周辺には居ないだろうとの判断だったようだ。
「鳥かなー」
「うーん、何か木々が揺れた気がしたんだけど。一応、しばらくは上も気にかけるようにしましょう」
インベントリに入れたジャイアントトードの舌ともも肉は一つの種類として判断されているようだ。ジャイアントトードをタップすると、討伐証明の舌ともも肉に分かれていた。
まだまだインベントリに余裕はある。今日の目標は十五セット。つまり、銀貨約十二枚。一人あたり四万円を稼ごうとしている。その内、各一万円をパーティ貯金やメンテナンス費、荷車保管費用に回したとしても三万。
この額がベースになれば宵の月亭での連泊が現実味をおびてくる。僕自身はまだ一体も倒していないのに、なんだかもう倒した気にすらなっているのがちょっとこわい。
それだけ順調なすべり出しといっていいだろう。
31
お気に入りに追加
1,790
あなたにおすすめの小説
自重知らずの転生貴族は、現在知識チートでどんどん商品を開発していきます!!
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
無限の時空間の中、いきなり意識が覚醒した。
女神の話によれば、異世界に転生できるという。
ディルメス侯爵家の次男、シオン・ディルメスに転生してから九年が経ったある日、邸の執務室へ行くと、対立国の情報が飛び込んできた。
父であるディルメス侯爵は敵軍を迎撃するため、国境にあるロンメル砦へと出発していく。
その間に執務長が領地の資金繰りに困っていたため、シオンは女神様から授かったスキル『創造魔法陣』を用いて、骨から作った『ボーン食器』を発明する。
食器は大ヒットとなり、侯爵領全域へと広がっていった。
そして噂は王国内の貴族達から王宮にまで届き、シオンは父と一緒に王城へ向かうことに……『ボーン食器』は、シオンの予想を遥かに超えて、大事へと発展していくのだった……
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
みんなからバカにされたユニークスキル『宝箱作製』 ~極めたらとんでもない事になりました~
黒色の猫
ファンタジー
両親に先立たれた、ノーリは、冒険者になった。
冒険者ギルドで、スキルの中でも特に珍しいユニークスキル持ちでがあることが判明された。
最初は、ユニークスキル『宝箱作製』に期待していた周りの人たちも、使い方のわからない、その能力をみて次第に、ノーリを空箱とバカにするようになっていた。
それでも、ノーリは諦めず冒険者を続けるのだった…
そんなノーリにひょんな事から宝箱作製の真の能力が判明して、ノーリの冒険者生活が変わっていくのだった。
小説家になろう様でも投稿しています。
異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!
コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。
何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。
本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。
何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉
何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼
※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。
#更新は不定期になりそう
#一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……)
#感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?)
#頑張るので、暖かく見守ってください笑
#誤字脱字があれば指摘お願いします!
#いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃)
#チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。
~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる