上 下
1 / 151

プロローグ

しおりを挟む
 僕の名前は、銭形にぎる十七歳。
 特にこれといって取り柄のない高校生だった。

 人生は何があるかわからないものである。


 僕の目の前には銀貨がちょうどぴったり入る縦穴とその上に大量のカプセルが入った容器がある。

 そう、あのガチャガチャの機械だ。

 もちろん、ガチャガチャの機械なんて特に珍しいものではないだろう。

 問題があるとしたら、ここが異世界だということだ。

 そして、このガチャは僕以外には見えないらしく、路地裏で座りながら銀貨を握っている姿は、通り過ぎる人々にはさぞかし珍妙に見えることだろう。

 さっきから母親に手を繋がれた幼女がこちらをジーッと見ている。

 異世界人の服装が珍しいのだろう。ポケットにお菓子でもあったらあげたのだけど、残念ながら何も入っていない。

 まあ、今はそれどころではない。

 僕に唯一与えられたスキル「ガチャ」だ。

 ガチャにはイラストで描かれた銀貨のマークに数字で一枚と書いてある。

 つまり、この銀貨を一枚入れて回せということなのだろう。

 初日に城から放り出された身としては、銀貨一枚は大変貴重なお金である。

 この先を考えると絶対に節約しなければならない状況だ。

 そんな状況なのにも関わらず、僕の手はガチャに吸い寄せられるように銀貨を入れそうになる。

「いやいやいや、ちょっと待とう」

 僕の全財産は城から出る時に渡された手切金の銀貨が少しだけ。

「おかーさーん。あの人、変だよー」

「見ちゃダメよ。みーちゃんはあんな風にならないようにしなきゃね」

「くっ……」

 路地裏でブツブツと独り言で誰にも見えないガチャに悩んでいるのは確かに不審人物と言っていい。

 しょうがないとはいえ、自分の今の環境に少し悲しくなる。

 何で僕がこんな目に合わなければならないのか。

 それでもこの世界で生きていかなければならない。

 まあ、いいだろう。

 それよりも今はこのガチャだ。

 僕がこの世界でガチャを回したのは今までたった一回だけ。

 そう、召喚されてすぐに王様にスキルは何だと言われ回した時だ。

 ただ、これはお城で回したガチャと明らかに雰囲気が違う。それは銀貨を投入する穴と初回特典付プレミアムガチャと書かれている点にほかならない。

 お城で回した時は確かチュートリアルと書かれていた気がするし、あの時はお金を入れる穴すらなかったのだ。

「これはひょっとしたら、ひょっとするかもしれない……」

 初回はあくまでもテストガチャであり、性能を理解する上でのお試しにすぎなかった可能性。

 つまり、今回のガチャが今後を左右する本当の意味でのスタートガチャなのかもしれない。

 ちなみにお城で出たガチャの景品はポーションだった。しかも品質的に一番安いやつ。

 異世界をポーションだけで生きていくなんて無理がある。

 銀貨を使ってポーションでは餓え死に確定。圧倒的マイナス。損が大きすぎる。そんなガチャはない。魅力がなければ誰もガチャは回さないのだ。今日までガチャを回さなかった理由は正にそれだ。

 ポーションが銅貨一枚で売られているのは確認済みである。銅貨一枚は約百円の価値。銀貨一枚、約一万円の投資で百円のポーションはありえない。

 きっと、お城でも百円のポーションかよ。せっかく召喚したのにこいつ百円かよ! って思われていたのは間違いない。

 勇者か賢者かと期待されて、ただのポーションが手に入るだけのスキルとか、そりゃ悲しい顔をされても無理はない。

 偉そうな神官長が十年分の魔力がー、とか叫んでいたので、ちょっとだけ申し訳ない気持ちにはなった。

 僕が悪いわけではないけど、何となく謝りたい気持ちがなかったわけでもない。

 ところが、槍をもった兵隊さんに突かれるようにして、小さな部屋に連れて行かれ、待たされること一時間少々。

 袋に詰め込まれた銀貨を渡されて、一方的にサヨナラを告げられた。

 異世界、とても世知辛い。

 あの時少しでも申し訳ないと感じていた自分が残念でならない。これが異世界のやり方なのだろうか。異世界人を勝手に召喚しておいてそれは酷い。酷すぎるじゃないか。

 まあ、そんなことはどうでもいい。終わったことを悔やんでもしょうがない。

 今はこのガチャをどうするかだ。

 初回特典付プレミアムガチャ。

 きっと異世界で生き残るための大切なアイテムが手に入る可能性が高い……気がする。

 いや、そうに違いない。

 どちらにしろ試さなければ前には進めない。このまま、じり貧になるまで待つという選択肢はない。どうせやるなら余裕がある時にやるべきだ。

 僕は祈るように銀貨を投入した。

 チャリン♪

 すると、軽快なミュージックと共にガチャがイルミネーションのように光りだした。

「おおお、演出か!?」

 期待は大きく膨らむ。

 僕は迷うことなくガチャを回した。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

欲しいものはガチャで引け!~異世界召喚されましたが自由に生きます~

シリウス
ファンタジー
身体能力、頭脳はかなりのものであり、顔も中の上くらい。負け組とは言えなそうな生徒、藤田陸斗には一つのマイナス点があった。それは運であった。その不運さ故に彼は苦しい生活を強いられていた。そんなある日、彼はクラスごと異世界転移された。しかし、彼はステ振りで幸運に全てを振ったためその他のステータスはクラスで最弱となってしまった。 しかし、そのステ振りこそが彼が持っていたスキルを最大限生かすことになったのだった。(軽い復讐要素、内政チートあります。そういうのが嫌いなお方にはお勧めしません)初作品なので更新はかなり不定期になってしまうかもしれませんがよろしくお願いします。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

処理中です...