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第二十二話 霊峰ポイニクス【アルトリオ】
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どうも最近寝覚めがいい。毎日騎士様からきつい訓練を受けているのにも関わらず、起床すると身体は回復しているのだ。
やはり、これも加護の力ということなのだろうか。本当に不思議な力だ。ふと横を見ると、ツェリがとても幸せそうな顔でスヤスヤと寝ている。
「この生活がいつまで続くのか、いつか終わってしまうことを考えるとやはりさみしいな」
ツェリの年齢は十四~五歳ぐらいだろう。もう少ししたらきっと一人で寝るとかいい出すだろうし、いつまでも一緒に暮らすなんてこともありえない。
街で暮らしていたら人との出会いも多い。寂しくなるかもしれないが、その時は笑顔で送り出してあげたい。
「でも僕の心は耐えられるのだろうか……」
「何に耐えるのでございますか、お前さま」
「お、起きたのかツェリ。おはよう、なんでもないよ。朝食はエトワール様が用意してくださるんだよね」
「ええ、遅れないように早めに参りましょう」
着替えをして準備が整った頃を窺っていたのか、まるで僕たちのタイミングを見計らったかのように扉がノックされて朝食の用意された部屋へと案内をされる。
村人の僕なんかを客人としてもてなしてもらえるのは、どこか恐れ多い感じがしないでもない。
「おはようございますエトワール様」
「うん、おはよう。昨夜はよく眠れたかな?」
「はい、おかげさまでぐっすりと眠れました」
朝食の席にはジュードさんとヒューゴさんもいてどうやら一緒に朝食を頂くようだ。貴族社会というものがよくわかっていないのだけど、どうやらエトワール様と騎士様の関係はやはりとても身近に感じられる。
ジュードさん達もそれが当たり前だとは思っていないようで礼儀正しく接している。一般的な上司と部下というには少し違うような信頼関係のようなものが見えるのだ。
騎士という仕事がどのようなものかまだよくわかっているわけではないけど、オースレーベンで騎士をするのはそう悪いことではないように思える。
「お前さま、朝から美味しそうな料理がいっぱい並んでおりますね。このお肉は何のお肉なのでしょうか」
「ツェリさんは食材が気になるんですね。そういえば、村からの旅で美味しい料理を頂けたとヒューゴが話していたね。シルフィーユ、ツェリさんの質問に応えてあげなさい」
「はい、かしこまりました」
僕たちの部屋についていたメイドさん、シルフィーユさんがツェリの側に来て質問に応えてくれる。本日馬車に積み込む食材にどのようなものがあるのか、その調理方法などを細かく聞いているようだ。
ツェリとしては、旅の食事に関しては自分の仕事だと思っているようで、その味を知っている騎士様方も特に反対するようなこともない。というか、間違いなくお願いされることだろう。
村で食べる朝食とは違って、テーブルには色鮮やかな料理が並んでいる。目玉焼きやトマトにレタスといった新鮮なサラダ、お肉がごろっと入ったスープに白くて柔らかいパン。カットフルーツはもちろんのこと果物を絞ったジュースが数種類用意されていて、なんだかとても贅沢な気分になってしまう。
「またしばらく馬車の旅が続くことになる。せめて朝食だけでもしっかり栄養をとってもらいたい」
領主様ともなると毎回このような朝食になるのかと思っていたらどうやら違うらしく、特別に用意してくれたものだとジュードさんが教えてくれた。
自分たちも美味しい朝食を食べることが出来て役得だと言って自重せずに大量におかわりをもらっている。
「アルトリオにツェリさん、サクラステラ側に少しあやしい動きがある。ジュードとヒューゴは二人に何もないように護衛をしてもらうのだけど、君たちも十分気をつけてもらいたい」
「あやしい動きですか」
「そうだ。サクラステラは私が領主に就いてから度々難癖をつけてくるのだが、霊峰ポイニクスを狙っているようなのだよ」
「霊峰ポイニクスですか」
「そう、君たちが暮していた村から見える大きな山脈のことだよ」
どうやら、僕たちが暮らしていた村は霊峰ポイニクスという何やら凄そうな山の麓にあったらしい。
「そんな所に村を作ってしまって大丈夫だったのでしょうか?」
「別に構わないよ。あの山からは豊富な資源と魔物の肉がとれる。近いうちにオースレーベンからも騎士を派遣しようと思っていたんだ」
「そ、そうだったのですね。それで、サクラステラが何故霊峰ポイニクスを狙っているのでしょうか?」
「サクラステラには古くから不死鳥信仰が根付いていてね。霊峰ポイニクスにはその不死鳥がいると言われているんだ」
「あの山に不死鳥ですか……」
「そう。だからサクラステラはオースレーベンにある霊峰ポイニクスをどうしても手に入れたい。前任の領主までは交渉を続けていたようなんだけど、僕はそれを断ることにした」
まあ、ごもっともな話だと思う。領地を決めるのは国の王で、領主同士で勝手に領地のやりとりをしていいものではない。
「ツェリは不死鳥見たことないよね?」
「ええ、私は不死鳥を見たことはありません」
そんな凄い伝説級の魔物がいたらもっと村でも話題に上っていると思うんだよね。
やはり、これも加護の力ということなのだろうか。本当に不思議な力だ。ふと横を見ると、ツェリがとても幸せそうな顔でスヤスヤと寝ている。
「この生活がいつまで続くのか、いつか終わってしまうことを考えるとやはりさみしいな」
ツェリの年齢は十四~五歳ぐらいだろう。もう少ししたらきっと一人で寝るとかいい出すだろうし、いつまでも一緒に暮らすなんてこともありえない。
街で暮らしていたら人との出会いも多い。寂しくなるかもしれないが、その時は笑顔で送り出してあげたい。
「でも僕の心は耐えられるのだろうか……」
「何に耐えるのでございますか、お前さま」
「お、起きたのかツェリ。おはよう、なんでもないよ。朝食はエトワール様が用意してくださるんだよね」
「ええ、遅れないように早めに参りましょう」
着替えをして準備が整った頃を窺っていたのか、まるで僕たちのタイミングを見計らったかのように扉がノックされて朝食の用意された部屋へと案内をされる。
村人の僕なんかを客人としてもてなしてもらえるのは、どこか恐れ多い感じがしないでもない。
「おはようございますエトワール様」
「うん、おはよう。昨夜はよく眠れたかな?」
「はい、おかげさまでぐっすりと眠れました」
朝食の席にはジュードさんとヒューゴさんもいてどうやら一緒に朝食を頂くようだ。貴族社会というものがよくわかっていないのだけど、どうやらエトワール様と騎士様の関係はやはりとても身近に感じられる。
ジュードさん達もそれが当たり前だとは思っていないようで礼儀正しく接している。一般的な上司と部下というには少し違うような信頼関係のようなものが見えるのだ。
騎士という仕事がどのようなものかまだよくわかっているわけではないけど、オースレーベンで騎士をするのはそう悪いことではないように思える。
「お前さま、朝から美味しそうな料理がいっぱい並んでおりますね。このお肉は何のお肉なのでしょうか」
「ツェリさんは食材が気になるんですね。そういえば、村からの旅で美味しい料理を頂けたとヒューゴが話していたね。シルフィーユ、ツェリさんの質問に応えてあげなさい」
「はい、かしこまりました」
僕たちの部屋についていたメイドさん、シルフィーユさんがツェリの側に来て質問に応えてくれる。本日馬車に積み込む食材にどのようなものがあるのか、その調理方法などを細かく聞いているようだ。
ツェリとしては、旅の食事に関しては自分の仕事だと思っているようで、その味を知っている騎士様方も特に反対するようなこともない。というか、間違いなくお願いされることだろう。
村で食べる朝食とは違って、テーブルには色鮮やかな料理が並んでいる。目玉焼きやトマトにレタスといった新鮮なサラダ、お肉がごろっと入ったスープに白くて柔らかいパン。カットフルーツはもちろんのこと果物を絞ったジュースが数種類用意されていて、なんだかとても贅沢な気分になってしまう。
「またしばらく馬車の旅が続くことになる。せめて朝食だけでもしっかり栄養をとってもらいたい」
領主様ともなると毎回このような朝食になるのかと思っていたらどうやら違うらしく、特別に用意してくれたものだとジュードさんが教えてくれた。
自分たちも美味しい朝食を食べることが出来て役得だと言って自重せずに大量におかわりをもらっている。
「アルトリオにツェリさん、サクラステラ側に少しあやしい動きがある。ジュードとヒューゴは二人に何もないように護衛をしてもらうのだけど、君たちも十分気をつけてもらいたい」
「あやしい動きですか」
「そうだ。サクラステラは私が領主に就いてから度々難癖をつけてくるのだが、霊峰ポイニクスを狙っているようなのだよ」
「霊峰ポイニクスですか」
「そう、君たちが暮していた村から見える大きな山脈のことだよ」
どうやら、僕たちが暮らしていた村は霊峰ポイニクスという何やら凄そうな山の麓にあったらしい。
「そんな所に村を作ってしまって大丈夫だったのでしょうか?」
「別に構わないよ。あの山からは豊富な資源と魔物の肉がとれる。近いうちにオースレーベンからも騎士を派遣しようと思っていたんだ」
「そ、そうだったのですね。それで、サクラステラが何故霊峰ポイニクスを狙っているのでしょうか?」
「サクラステラには古くから不死鳥信仰が根付いていてね。霊峰ポイニクスにはその不死鳥がいると言われているんだ」
「あの山に不死鳥ですか……」
「そう。だからサクラステラはオースレーベンにある霊峰ポイニクスをどうしても手に入れたい。前任の領主までは交渉を続けていたようなんだけど、僕はそれを断ることにした」
まあ、ごもっともな話だと思う。領地を決めるのは国の王で、領主同士で勝手に領地のやりとりをしていいものではない。
「ツェリは不死鳥見たことないよね?」
「ええ、私は不死鳥を見たことはありません」
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