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第十七話 炎の加護2【アルトリオ】
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翌日も同じように二人からの攻撃を受ける訓練を中心に稽古は進められているのだけど、何故だか昨日よりも力が強いというか、ジュードさんもヒューゴさんもとても気合が入っている。
「いくら仲が良いとはいえ、我々が同じ馬車にいるというのにあんなにくっついて寝るものなのか」
「村長の奥様から二人はそういう仲であるとは聞いてはいたが、アルトリオがうらやまけしからん!」
なるほど、昨日の夜に馬車の中で寝ることになった時のことで二人に嫌な思いをさせてしまったらしい。
ツェリは夜の暗闇が苦手なので、寝る時は僕から離れないようにくっつく。僕にとってはもう当たり前になってしまったことだけど、二人からしたら驚かれても仕方がない。
特にツェリは美少女であって、そんな子が抱きついてくるのだ。僕も慣れない最初の頃は一睡も出来なかった。
貸してもらった毛布にくるまるようにしていたら、隣にいたツェリが潜り込むように入ってきた。正面から抱き着くように背中に手を回すと顔を僕の胸に擦りつけるようにしてくる。
この場所でもくっついて寝るのかという驚きはあったけど、夜の闇が怖いツェリを引き離すのは可哀想。それに僕もこの匂いや温かさが心地よく、稽古で疲れていたこともありすぐに眠りについてしまったのだ。
「二人のせいで、全然眠れなかったよ……」
「き、君たちは、人前でいつもあんな風に抱き合って眠るのか」
お二人は念のため夜の見張り番を交互にしていたのもあって、眠りも浅かったのだろうし、スヤスヤと気持ち良さげに眠っている僕たちが気になってしまったのかもしれない。
「い、いえ、人前で眠ることはないというか、旅自体がはじめてのことですし」
「そうでございます。私は夜が苦手でございまして、アルトリオと一緒でなければ安心して眠りにつくことが出来ないのでございます。どうか、私たちのことはお気になさらずに」
「そ、そうであるなら仕方ありませんね」
「ツェリ殿がそう申されるのなら……」
ツェリからそう言われてしまっては騎士様も何も言えない。いや、そうなると、その持っていきようのない怒りが稽古中の僕に向かってしまうのだ。
「ちょっ、激しすぎませんか?」
「いや、気のせいだろう」
「それに昨日よりもしっかり受け流して体が飛ぶことがないではないか」
ヒューゴさんの言うように、当たりは激しくなっているのだけど昨日よりもうまくいなせている。ツェリのアドバイス通りにシールドを信じてしっかり攻撃を受けているからなのだけど、目に見えるように僕の腕とシールドが紅く光っている。
「こ、これが加護の力なんですね」
何故か昨日は感じられなかった加護の力が胸の奥からじわりと温かく感じられる。昨夜ツェリにぐりぐりと頭を擦りつけられたちょうどその辺りからだ。
一度加護の力を認識すると、必要に応じて腕やシールドに移動させることが出来るようになってくる。
「武器にも加護の力が伝わるのか……」
「どうやらアルトリオの力は身体や武器を強化することに使えるようですね」
攻撃に合わせて加護の力を移動させながら稽古をしていると、シールドだけでなくショートスピアにも力を乗せられることがわかった。
力をこめると、ショートスピアは深紅に輝きながらかなりの高温を帯びていく。
こんなショートスピアで刺されようものなら致命傷になりうる。少し触れただけでも火傷ではすまなそうな威力を感じさせた。
「アルトリオ、その攻撃は中止してくれ」
「万が一掠りでもしたらさすがに我々もどうなるか……」
この攻撃がジュードさんの防御を超えられるかというと正直わからない。それにヒューゴさんにはそもそも攻撃を当てることすら出来ないだろう。
風の加護を持つヒューゴさんは鎧を着ているにもかかわらず動きも早く、僕の攻撃が当てられるとは思えない。
普通に戦ったら近づかせてもらえずに遠距離からの魔法攻撃であっさりやられてしまうイメージしかない。
「僕のスピードでは当てられませんけどね」
「そうは言ってもだな。あの大木を見ると身体がゾワっとしてしまう」
「ああ、とんでもない威力だよ」
僕の繰り出した攻撃をあっさりと避けた二人だけど、その後ろにあった大きな大木が一突きで倒れたことに慄いていた。
「いや、ですから当たらなくては意味が無いですから。せめて、ヒューゴさんのように僕も身体強化でスピードを上げられたら良いのですが」
「そ、それだっ! アルトリオは強化を部分的には出来ているのだから、ヒューゴのように出来るのではないか?」
僕もスピードを上げられるのか?
ヒューゴさんには薄く体全体を覆うように緑色の光が輝いている。つまり、僕のように一点を強化するのではなく、体全体を強化するイメージなのだろう。
いや、よく見ると動きに合わせて光の量が微妙に移動している。動きに合わせて必要な場所に加護の力を回しているのだろう。あんな動かし方は今の僕にはとても無理だ。
「ちょっと、すぐには無理そうですね」
さすがにそこまで器用に加護の力を操れるほどまだ慣れていない。まだこの力を使い始めて一日も経っていないのだ。
「いくら仲が良いとはいえ、我々が同じ馬車にいるというのにあんなにくっついて寝るものなのか」
「村長の奥様から二人はそういう仲であるとは聞いてはいたが、アルトリオがうらやまけしからん!」
なるほど、昨日の夜に馬車の中で寝ることになった時のことで二人に嫌な思いをさせてしまったらしい。
ツェリは夜の暗闇が苦手なので、寝る時は僕から離れないようにくっつく。僕にとってはもう当たり前になってしまったことだけど、二人からしたら驚かれても仕方がない。
特にツェリは美少女であって、そんな子が抱きついてくるのだ。僕も慣れない最初の頃は一睡も出来なかった。
貸してもらった毛布にくるまるようにしていたら、隣にいたツェリが潜り込むように入ってきた。正面から抱き着くように背中に手を回すと顔を僕の胸に擦りつけるようにしてくる。
この場所でもくっついて寝るのかという驚きはあったけど、夜の闇が怖いツェリを引き離すのは可哀想。それに僕もこの匂いや温かさが心地よく、稽古で疲れていたこともありすぐに眠りについてしまったのだ。
「二人のせいで、全然眠れなかったよ……」
「き、君たちは、人前でいつもあんな風に抱き合って眠るのか」
お二人は念のため夜の見張り番を交互にしていたのもあって、眠りも浅かったのだろうし、スヤスヤと気持ち良さげに眠っている僕たちが気になってしまったのかもしれない。
「い、いえ、人前で眠ることはないというか、旅自体がはじめてのことですし」
「そうでございます。私は夜が苦手でございまして、アルトリオと一緒でなければ安心して眠りにつくことが出来ないのでございます。どうか、私たちのことはお気になさらずに」
「そ、そうであるなら仕方ありませんね」
「ツェリ殿がそう申されるのなら……」
ツェリからそう言われてしまっては騎士様も何も言えない。いや、そうなると、その持っていきようのない怒りが稽古中の僕に向かってしまうのだ。
「ちょっ、激しすぎませんか?」
「いや、気のせいだろう」
「それに昨日よりもしっかり受け流して体が飛ぶことがないではないか」
ヒューゴさんの言うように、当たりは激しくなっているのだけど昨日よりもうまくいなせている。ツェリのアドバイス通りにシールドを信じてしっかり攻撃を受けているからなのだけど、目に見えるように僕の腕とシールドが紅く光っている。
「こ、これが加護の力なんですね」
何故か昨日は感じられなかった加護の力が胸の奥からじわりと温かく感じられる。昨夜ツェリにぐりぐりと頭を擦りつけられたちょうどその辺りからだ。
一度加護の力を認識すると、必要に応じて腕やシールドに移動させることが出来るようになってくる。
「武器にも加護の力が伝わるのか……」
「どうやらアルトリオの力は身体や武器を強化することに使えるようですね」
攻撃に合わせて加護の力を移動させながら稽古をしていると、シールドだけでなくショートスピアにも力を乗せられることがわかった。
力をこめると、ショートスピアは深紅に輝きながらかなりの高温を帯びていく。
こんなショートスピアで刺されようものなら致命傷になりうる。少し触れただけでも火傷ではすまなそうな威力を感じさせた。
「アルトリオ、その攻撃は中止してくれ」
「万が一掠りでもしたらさすがに我々もどうなるか……」
この攻撃がジュードさんの防御を超えられるかというと正直わからない。それにヒューゴさんにはそもそも攻撃を当てることすら出来ないだろう。
風の加護を持つヒューゴさんは鎧を着ているにもかかわらず動きも早く、僕の攻撃が当てられるとは思えない。
普通に戦ったら近づかせてもらえずに遠距離からの魔法攻撃であっさりやられてしまうイメージしかない。
「僕のスピードでは当てられませんけどね」
「そうは言ってもだな。あの大木を見ると身体がゾワっとしてしまう」
「ああ、とんでもない威力だよ」
僕の繰り出した攻撃をあっさりと避けた二人だけど、その後ろにあった大きな大木が一突きで倒れたことに慄いていた。
「いや、ですから当たらなくては意味が無いですから。せめて、ヒューゴさんのように僕も身体強化でスピードを上げられたら良いのですが」
「そ、それだっ! アルトリオは強化を部分的には出来ているのだから、ヒューゴのように出来るのではないか?」
僕もスピードを上げられるのか?
ヒューゴさんには薄く体全体を覆うように緑色の光が輝いている。つまり、僕のように一点を強化するのではなく、体全体を強化するイメージなのだろう。
いや、よく見ると動きに合わせて光の量が微妙に移動している。動きに合わせて必要な場所に加護の力を回しているのだろう。あんな動かし方は今の僕にはとても無理だ。
「ちょっと、すぐには無理そうですね」
さすがにそこまで器用に加護の力を操れるほどまだ慣れていない。まだこの力を使い始めて一日も経っていないのだ。
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