あの時助けて頂いた不死鳥です~人に変身出来るようになったので恩返しに参りました~

つちねこ

文字の大きさ
上 下
13 / 26

第十三話 オースレーベンへ【アルトリオ】

しおりを挟む
 翌日は朝早くからの出発となった。久し振りにお酒を飲みすぎたせいなのかまだ少し眠い。

 昨夜は旅に出る僕ら二人のためにと、村中総出で大騒ぎな酒会となった。

 村長がヒュージワイルドボアの内臓と肉、それから酒を提供してくれたのもあってか、とても騒がしい会となった。

 こういうのは今まで苦手にしていたのだけど、いざ中に入ってみると楽しいもので、この機会をくれたツェリには感謝したい。

 領主様の使いの方も一緒に楽しんでもらえたようで、同じく眠い目を擦りながらも、どこか昨日よりもその距離が縮まったように思える。

 二人はオースレーベンの騎士とのことで、どちらも三十代前半。ジュード・ランドールさんにヒューゴ・オードネイさんと名乗った。


「村長、それでは行ってまいります」

「うむ、気をつけるのだぞ。ツェリをしっかり守りなさい」

「はい」

 街の騎士が二人もいて僕がツェリを守るようなことがあるのかと思わなくもないけど、僕にとってもツェリはやはり大事な人なので言われなくても守るつもりだ。

 馬車に少しばかりの荷物と最後にショートスピアと片手用シールドを積み込むと出発となる。すると、積み込む武器を見てツェリが考え込むような顔をしている。

「何か気になることでもあったのかツェリ?」

「い、いえ、何でもございません。ところでお前さま、オースレーベンまではどのぐらいなのでしょうか?」

「そうだなぁ、十日はかからないと思うんだけど、ジュードさんどのくらいなのでしょう」

 御者役は騎士の二人が交互にやっていただけるので、今はヒューゴさんが馬を操り、同じ馬車にジュードさんが腰掛けている。

「順調に行けば七日ぐらいでしょうか。道中は騎士団が魔物狩りをしているのでスムーズな旅になると思いますよ」

 そういえば、念のために騎士団が周辺に盗賊がいないか捜索していると話していたっけ。村から街に続く道周辺は安全に保たれているようだ。

「それは安心いたしました。よかったねツェリ」

「ええ、とても安心しました。山を降りるのは初めてなのでとても楽しみです」

 そうか、ツェリは記憶がないから村でのことしか覚えていないのだったね。知っている景色を見ることで何か思い出すきっかけになればいいんだけど。

 ちなみに、道中の食事については僕とツェリで行うことになっている。これはジュードさんとヒューゴさんがやると言っていたのだけど、何から何まで面倒になるのはちょっとなと思い任せてもらうことになった。

 それでも、御者から夜の見張りまで二人でするというのは大丈夫なのかと心配になる。

「それで、二人はどんな料理を作るのが得意なのかな?」

 旅の楽しみは景色と食事。ジュードさんは僕たちの作る料理がどんなものなのか気になるようだ。

「得意という程のものではございませんが、二人でよく食べるのは鍋料理が多いでしょうか」

「そうだね。ツェリの作る鍋料理は味に深みがあってとても美味しいんですよ」

「おお、鍋ですか。では今夜は鍋料理に決定するとして、お昼はどうしますか?」

「夜に鍋料理をするなら、お昼は少し軽めにいたしましょうか」

「ツェリ、それなら川魚の燻製を使ってみないか?」

「おお、川魚の燻製ですか」

「ツェリの燻製は村でも人気なんです」

「それは楽しみですね」

「それでは、軽く炙ってから身をほぐして、ペンネと簡単な野菜スープに合わせてみましょう。お前さまは火を起こして周辺から野草を集めてくださいまし」

「うん、わかった」

「そ、それで軽めの食事なのですね」

「はい、食はとても大事なものです。栄養バランスの整った食生活は身を助けます」

 ツェリの食事は多くの食材を組み合わせて作り上げるのが特徴で、肉や根菜をスパイスや香草で味を整えていく。

 肉とパンが中心だった食生活も、ツェリと暮らすことになってから野菜を多くとるようになった。

 野菜も食べてみると美味しいもので、肉を引き立たせたり、汁を吸い込んだりと使い方ひとつでメインにもなりうる食材だ。

 ツェリが鍋料理を得意とするのは、食材の組み合わせを熟知しているからなのだろう。尚且つ、火加減の調整は完璧なのだ。美味しくならないわけがない。

「さて、川魚の燻製に合う野草となると爽やかなオオガラ草がいいのだろうな」

 オオガラ草は秋に採れる野草で、魚料理の時にツェリが多用する。

 それから、今夜鍋料理になるので使えそうな野草も集めておこうか。

 目当てのオオガラ草はすぐに採取できたので、サルトリ草やハコベラ草等の香りのいい野草も集めておくことにしよう。

 夜ご飯が楽しみになってきたな。きっと騎士様方もツェリの料理には満足してくれるはずだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

貴方の事を愛していました

ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。 家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。 彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。 毎週のお茶会も 誕生日以外のプレゼントも 成人してからのパーティーのエスコートも 私をとても大切にしてくれている。 ーーけれど。 大切だからといって、愛しているとは限らない。 いつからだろう。 彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。 誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。 このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。 ーーけれど、本当にそれでいいの? だから私は決めたのだ。 「貴方の事を愛してました」 貴方を忘れる事を。

処理中です...