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第十一話 ツェリの罠仕掛け【アルトリオ】
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勘違いされては申し訳ないと、領主様の使いに何度も話をしようと試みるものの、その都度ツェリや村長の奥様に邪魔をされてしまい。
いつの間にやら、身支度をさせられて翌日の朝には出発するという流れになってしまった。
村の奥様方はハネムーンなのね? ツェリちゃん、絶対に離れちゃダメよ。とか言って、とても浮ついた噂話に花を咲かせてしまっている。
ツェリはいつの間にやら村の奥様方と仲良くなってしまったのだなぁと感心してしまった。
「お前さま、私たちはしばらくこの村に戻ってこれないでしょう」
「そうだな。ツェリの策略どおりになってしまったが、オースレーベンへ行きその後にサクラステラに向かうのだろう。戻ってくるのは春になるのではないか……」
今は冬が訪れる少しだけ前。山の麓の村ではこれから雪が降り積もり、人の出入りは途絶えてしまう。
そうなると、たとえサクラステラの領主様への説明が終わったとしても春にならないと戻れないのだ。
「冬の間の干し肉は足りてるとは思うけど、もしも何かあったらと思うと心配だな」
「狩人はお前さまだけではございませぬ。そんなに心配なら、ちょっと罠を見て参りましょうか」
「そんなすぐに罠にかかるものか。先日、掛かったばかりだろう」
「そうですね。でも、しばらく村を離れるのであれば罠も解除しておかねばなりませんし、ちょっと見て参りましょう」
「こんな時間にか?」
「ええ」
「わかった。僕も一緒に行こう」
するとツェリは、あからさまに困った表情をしてからこう言う。
「私の罠仕掛けは、秘密でございます。たとえお前さまの願いであっても見せるわけには参りませぬ」
使用している罠道具は僕の使っている物。どうやら仕掛け方にツェリ独特の特徴があって、ここまでの成果を上げているということらしい。そんなに変わるものなのだろうか。
記憶喪失なのに、ここまで罠に関する知識を持っているとは、一体どういうことなのだろうか。
「どうしてもか?」
「どうしてもでございます」
父からは夜の山はとても危険なので入ってはいけないと言われてきた。いくら身軽なツェリであっても一人で行かせるわけにはいかない。
「わかった。それなら罠を解除するところには近づかないし、後ろを向いていよう」
「むむむ。それはそれで困りましたね。でも、罠は回収しておかねばなりませんし……」
「いいかい、ツェリ。夜の山はとっても危険なんだ。魔物も活発になるし、視界も悪い。足を滑らせたら大変なことになるんだ。仕掛けを覗くようなことは決してしないから、どうか僕を連れて行ってくれ」
「うーん、しょうがないですね。では参りますか」
ツェリは渋々といった感じの表情で、罠を仕掛けた場所へと向かい山の奥深くへと入っていく。
山は危険なため、村人は外にはほとんど出ない。たとえ出たとしても道沿いですぐに戻れるところまで。それほどに山に棲む魔物は脅威であり、とても簡単に命を奪うものなのだ。
「ツェリは本当に身軽だな。狩人でもないのに、こんなにもスルスルと山を登っていく」
「お前さま、疲れたらおっしゃってくださいまし。水筒を用意しております」
「ああ、ありがとう。まだ平気だからどんどん進んでおくれ」
村から三方向を三名の狩人で縄張りを持って狩りをしている。明確にここからここまでと決めている訳ではないのだけど、やはり罠道具などはお互いに秘匿する傾向があり、際どいエリアは不干渉地帯となっている。
僕が任されている南のエリアは山の起伏が厳しい場所で不人気だ。魔物もあまり多くなく、罠にもなかなか掛かってくれない。
それでも、僕には小さい頃からたまに抜け出しては川へ魚をとりにいったりする秘密基地のように落ち着く場所でもある。
「お前さま、一つ目の罠の場所に辿り着きました。その場で後ろを向いてくださいまし。いいですか、絶対に振り向いてはいけませんよ」
「ああ、わかってるよ。約束は守る」
ガサゴソと音が聞こえるのはツェリが罠を解除して、道具をしまっているからなのだろう。何か生き物がいるようなあたたかな気配を感じるがきっと気のせいだろう。
「ダメです、サラマンダーちゃん。怒りますよ」
「サラマンダーちゃん?」
「お、お前さま、振り向いてはいけませんよ。ちゃんと目を瞑っていてくださいまし」
何か得体の知れない者が目の前を横切ったような感じがした。ほんのりとあたたかくて、でも悪い気配ではない。まるで鍛冶をしている時に集中すると稀に感じる感覚に近いものがある。
「あ、ああ。約束は守るよ」
それにしても、こんな山の中でなぜ炎のゆらめきを感じたのだろうか。
「お前さま、もう大丈夫ですよ。どうやら、この場所には何も掛かっておりませんでした。次の場所に行ってみましょう」
「そ、そうか。何も掛かっていなかったのか。確かに何か生き物の気配を感じたような気がしたのだが……」
「気のせいでございましょう。さあ、次へ参りますよ」
いつの間にやら、身支度をさせられて翌日の朝には出発するという流れになってしまった。
村の奥様方はハネムーンなのね? ツェリちゃん、絶対に離れちゃダメよ。とか言って、とても浮ついた噂話に花を咲かせてしまっている。
ツェリはいつの間にやら村の奥様方と仲良くなってしまったのだなぁと感心してしまった。
「お前さま、私たちはしばらくこの村に戻ってこれないでしょう」
「そうだな。ツェリの策略どおりになってしまったが、オースレーベンへ行きその後にサクラステラに向かうのだろう。戻ってくるのは春になるのではないか……」
今は冬が訪れる少しだけ前。山の麓の村ではこれから雪が降り積もり、人の出入りは途絶えてしまう。
そうなると、たとえサクラステラの領主様への説明が終わったとしても春にならないと戻れないのだ。
「冬の間の干し肉は足りてるとは思うけど、もしも何かあったらと思うと心配だな」
「狩人はお前さまだけではございませぬ。そんなに心配なら、ちょっと罠を見て参りましょうか」
「そんなすぐに罠にかかるものか。先日、掛かったばかりだろう」
「そうですね。でも、しばらく村を離れるのであれば罠も解除しておかねばなりませんし、ちょっと見て参りましょう」
「こんな時間にか?」
「ええ」
「わかった。僕も一緒に行こう」
するとツェリは、あからさまに困った表情をしてからこう言う。
「私の罠仕掛けは、秘密でございます。たとえお前さまの願いであっても見せるわけには参りませぬ」
使用している罠道具は僕の使っている物。どうやら仕掛け方にツェリ独特の特徴があって、ここまでの成果を上げているということらしい。そんなに変わるものなのだろうか。
記憶喪失なのに、ここまで罠に関する知識を持っているとは、一体どういうことなのだろうか。
「どうしてもか?」
「どうしてもでございます」
父からは夜の山はとても危険なので入ってはいけないと言われてきた。いくら身軽なツェリであっても一人で行かせるわけにはいかない。
「わかった。それなら罠を解除するところには近づかないし、後ろを向いていよう」
「むむむ。それはそれで困りましたね。でも、罠は回収しておかねばなりませんし……」
「いいかい、ツェリ。夜の山はとっても危険なんだ。魔物も活発になるし、視界も悪い。足を滑らせたら大変なことになるんだ。仕掛けを覗くようなことは決してしないから、どうか僕を連れて行ってくれ」
「うーん、しょうがないですね。では参りますか」
ツェリは渋々といった感じの表情で、罠を仕掛けた場所へと向かい山の奥深くへと入っていく。
山は危険なため、村人は外にはほとんど出ない。たとえ出たとしても道沿いですぐに戻れるところまで。それほどに山に棲む魔物は脅威であり、とても簡単に命を奪うものなのだ。
「ツェリは本当に身軽だな。狩人でもないのに、こんなにもスルスルと山を登っていく」
「お前さま、疲れたらおっしゃってくださいまし。水筒を用意しております」
「ああ、ありがとう。まだ平気だからどんどん進んでおくれ」
村から三方向を三名の狩人で縄張りを持って狩りをしている。明確にここからここまでと決めている訳ではないのだけど、やはり罠道具などはお互いに秘匿する傾向があり、際どいエリアは不干渉地帯となっている。
僕が任されている南のエリアは山の起伏が厳しい場所で不人気だ。魔物もあまり多くなく、罠にもなかなか掛かってくれない。
それでも、僕には小さい頃からたまに抜け出しては川へ魚をとりにいったりする秘密基地のように落ち着く場所でもある。
「お前さま、一つ目の罠の場所に辿り着きました。その場で後ろを向いてくださいまし。いいですか、絶対に振り向いてはいけませんよ」
「ああ、わかってるよ。約束は守る」
ガサゴソと音が聞こえるのはツェリが罠を解除して、道具をしまっているからなのだろう。何か生き物がいるようなあたたかな気配を感じるがきっと気のせいだろう。
「ダメです、サラマンダーちゃん。怒りますよ」
「サラマンダーちゃん?」
「お、お前さま、振り向いてはいけませんよ。ちゃんと目を瞑っていてくださいまし」
何か得体の知れない者が目の前を横切ったような感じがした。ほんのりとあたたかくて、でも悪い気配ではない。まるで鍛冶をしている時に集中すると稀に感じる感覚に近いものがある。
「あ、ああ。約束は守るよ」
それにしても、こんな山の中でなぜ炎のゆらめきを感じたのだろうか。
「お前さま、もう大丈夫ですよ。どうやら、この場所には何も掛かっておりませんでした。次の場所に行ってみましょう」
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