あの時助けて頂いた不死鳥です~人に変身出来るようになったので恩返しに参りました~

つちねこ

文字の大きさ
上 下
11 / 26

第十一話 ツェリの罠仕掛け【アルトリオ】

しおりを挟む
 勘違いされては申し訳ないと、領主様の使いに何度も話をしようと試みるものの、その都度ツェリや村長の奥様に邪魔をされてしまい。

 いつの間にやら、身支度をさせられて翌日の朝には出発するという流れになってしまった。

 村の奥様方はハネムーンなのね? ツェリちゃん、絶対に離れちゃダメよ。とか言って、とても浮ついた噂話に花を咲かせてしまっている。

 ツェリはいつの間にやら村の奥様方と仲良くなってしまったのだなぁと感心してしまった。

「お前さま、私たちはしばらくこの村に戻ってこれないでしょう」

「そうだな。ツェリの策略どおりになってしまったが、オースレーベンへ行きその後にサクラステラに向かうのだろう。戻ってくるのは春になるのではないか……」

 今は冬が訪れる少しだけ前。山の麓の村ではこれから雪が降り積もり、人の出入りは途絶えてしまう。

 そうなると、たとえサクラステラの領主様への説明が終わったとしても春にならないと戻れないのだ。

「冬の間の干し肉は足りてるとは思うけど、もしも何かあったらと思うと心配だな」

「狩人はお前さまだけではございませぬ。そんなに心配なら、ちょっと罠を見て参りましょうか」

「そんなすぐに罠にかかるものか。先日、掛かったばかりだろう」

「そうですね。でも、しばらく村を離れるのであれば罠も解除しておかねばなりませんし、ちょっと見て参りましょう」

「こんな時間にか?」

「ええ」

「わかった。僕も一緒に行こう」

 するとツェリは、あからさまに困った表情をしてからこう言う。

「私の罠仕掛けは、秘密でございます。たとえお前さまの願いであっても見せるわけには参りませぬ」

 使用している罠道具は僕の使っている物。どうやら仕掛け方にツェリ独特の特徴があって、ここまでの成果を上げているということらしい。そんなに変わるものなのだろうか。

 記憶喪失なのに、ここまで罠に関する知識を持っているとは、一体どういうことなのだろうか。

「どうしてもか?」

「どうしてもでございます」

 父からは夜の山はとても危険なので入ってはいけないと言われてきた。いくら身軽なツェリであっても一人で行かせるわけにはいかない。

「わかった。それなら罠を解除するところには近づかないし、後ろを向いていよう」

「むむむ。それはそれで困りましたね。でも、罠は回収しておかねばなりませんし……」

「いいかい、ツェリ。夜の山はとっても危険なんだ。魔物も活発になるし、視界も悪い。足を滑らせたら大変なことになるんだ。仕掛けを覗くようなことは決してしないから、どうか僕を連れて行ってくれ」

「うーん、しょうがないですね。では参りますか」

 ツェリは渋々といった感じの表情で、罠を仕掛けた場所へと向かい山の奥深くへと入っていく。

 山は危険なため、村人は外にはほとんど出ない。たとえ出たとしても道沿いですぐに戻れるところまで。それほどに山に棲む魔物は脅威であり、とても簡単に命を奪うものなのだ。

「ツェリは本当に身軽だな。狩人でもないのに、こんなにもスルスルと山を登っていく」

「お前さま、疲れたらおっしゃってくださいまし。水筒を用意しております」

「ああ、ありがとう。まだ平気だからどんどん進んでおくれ」

 村から三方向を三名の狩人で縄張りを持って狩りをしている。明確にここからここまでと決めている訳ではないのだけど、やはり罠道具などはお互いに秘匿する傾向があり、際どいエリアは不干渉地帯となっている。

 僕が任されている南のエリアは山の起伏が厳しい場所で不人気だ。魔物もあまり多くなく、罠にもなかなか掛かってくれない。

 それでも、僕には小さい頃からたまに抜け出しては川へ魚をとりにいったりする秘密基地のように落ち着く場所でもある。

「お前さま、一つ目の罠の場所に辿り着きました。その場で後ろを向いてくださいまし。いいですか、絶対に振り向いてはいけませんよ」

「ああ、わかってるよ。約束は守る」

 ガサゴソと音が聞こえるのはツェリが罠を解除して、道具をしまっているからなのだろう。何か生き物がいるようなあたたかな気配を感じるがきっと気のせいだろう。

「ダメです、サラマンダーちゃん。怒りますよ」

「サラマンダーちゃん?」

「お、お前さま、振り向いてはいけませんよ。ちゃんと目を瞑っていてくださいまし」

 何か得体の知れない者が目の前を横切ったような感じがした。ほんのりとあたたかくて、でも悪い気配ではない。まるで鍛冶をしている時に集中すると稀に感じる感覚に近いものがある。

「あ、ああ。約束は守るよ」

 それにしても、こんな山の中でなぜ炎のゆらめきを感じたのだろうか。

「お前さま、もう大丈夫ですよ。どうやら、この場所には何も掛かっておりませんでした。次の場所に行ってみましょう」

「そ、そうか。何も掛かっていなかったのか。確かに何か生き物の気配を感じたような気がしたのだが……」

「気のせいでございましょう。さあ、次へ参りますよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

秘密の血判状

アラビアータ
ファンタジー
 此処は架空の帝国。十数年前、この帝国は東の島国ジパングを属国に組み入れた。しかし猛卒に手を焼いた帝国は名目上、属国として彼らを下したが、実情は帝国内にある半独立国家としてジパングを認めるより他に無かった。ジパング側としても帝国に抵抗するよりは配下という名目で干渉を退ける方が都合が良かったのである。それ以来、ジパングは鎖国状態を続け、帝国が十年前に潜入させた隠密ヨーデルは行方知れずのままである。そのヨーデルの仲間達の中に、密かにジパング潜入を試みる者達がいた。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

処理中です...