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第七話 狩り【ツェリ】

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 私は山の様子を見るためにアルトリオに内緒で狩場に来ています。

 ここはアルトリオの狩場で、他の狩人とバッティングしないようにエリア分けされているそうです。

 つまり、この狩場にアルトリオが入らなければ私はここで自由に行動できるということ。

 私が姿を現すと、すぐにサラマンダーちゃんが近寄ってきました。

「サラマンダーちゃん、アルトリオが一緒の時は姿を現してはいけませんよ」

 うんうん、わかっているよと頷くサラマンダーちゃん。とても可愛らしいです。

「それで、獲物はちゃんと仕留めてくれたのでしょうか?」

 胸を張りやってやったぜと言わんばかりの勇ましい表情でついて来いと歩き始めます。どうやら、無事に獲物を仕留めてくれたようです。

「さすがはサラマンダーちゃんです。弱らせて、ちゃんと罠に繋げてくれたのですね。グッジョブですよ」

 プギープギーと鳴きながら逃げようとするワイルドボアでしたが、私が近寄ると全てを諦めたかのように観念します。

 魔物としての格の違いを悟ったのでしょう。魔物は本能的に自分と相手の強さを比較しその差を理解するといいます。ワイルドボアにしてはなかなか賢い方じゃないでしょうか。

 もちろん、差がわかっていても攻撃に転じる頭の悪い魔物や、無理だとわかっていても戦いに身を投じる魔物もおります。

「このワイルドボアは理解しているのですね。自らの命が終わろうとしていることを。せめて苦しまずに逝かせてあげましょう」

 ワイルドボアの心臓を一突きで仕留めると、すぐに血抜きをしていきます。興奮した魔物の血は熱く内臓を傷め腐敗も進みやすいのです。また、何より血が残っていると臭みが酷い肉になってしまうので美味しくありません。

 大きな血管を貫き、すぐに熱い血を抜いていきます。近くに川が流れていれば冷やせるのですが、この場所は川から遠いのでしょうがありません。

「サラマンダーちゃん、村の近くまで運ぶのを手伝ってもらえますか」

 うんうんと、お安い御用だと頷くサラマンダーちゃん。そんなことよりも私と話がしたいみたいです。血が抜き終わるまでまだまだ時間がかかりますし、周辺の状況をいろいろ聞いてみたいと思います。

「やはり、この辺りには魔物は少ないのですね」

 山の麓近くになると魔物の数は減っていく。もちろん、村の狩人が魔物を狩っているからというのもあるのですけど、この辺りは山の頂上ほど魔物が過ごしやすい魔素が多いからでしょう。

 私も魔物なので魔素は必要なのですが、人の姿に変身することでその必要がなくなります。

 魔素は魔物としての身体を維持するのに必要という認識ですが、強い魔物ほど必要とする魔素が大きくなります。そういうことなので、村の近くには大型の強い魔物は寄りつかないのです。

「村としてはよいのでしょうけど、狩人としては厳しいですよね。しかしながら、狩場に大きな危険が無いというのは私も安心です。それに、魔物はサラマンダーちゃんがとってきてくれますからね」

 ご褒美に炎の塊をあげると後足をぴょんぴょんと跳ねさせながらその長い舌で絡めとっていきます。サラマンダーちゃんご満悦です。

 ワイルドボアを狩った場所はここから少しだけ離れた場所のようです。それなりの群れで行動しているようですが、麓の村に近づく気配はないそうです。

「サラマンダーちゃん、他の狩場でもたまに罠にワイルドボアを掛けてあげてもいいですよ。小さいやつは優先してそちらに。そうですね、十回に一度ぐらいでいいでしょう」

 あまり狩りすぎても村の狩人と要らぬ揉め事を生むとも限りません。適度に狩らせて、アルトリオだけが突出して成果を出しているという状況が好ましいのです。

「サラマンダーちゃん、もしも村に大型の魔物が近づくような場合があったらやっちゃってください。ご褒美も上乗せしますので他のサラマンダーちゃんとも共有しておいてくださいね」

 小首を傾げながら、ご褒美という言葉に遅れながら両手をあげて喜びを表現してくれます。

「ん? それはルール違反だからダメですよ。あくまでも、自然に近づいてきた場合のみです」

 ご褒美のために山頂近くの大型種を誘導してきてもいい? と聞いてきたのでそれはダメだと伝えました。さすがにアルトリオの罠で仕留められるレベルを超えてしまいます。

 大型種もさすがに魔素の薄い麓まで誘導しても来ることはないと思いますが、サラマンダーちゃんがやる気を出したら可能性がなくもない気がします。そういうのはやめてもらいましょう。

「さて、そろそろ血抜きも終わりました。村の近くまでワイルドボアを運びますよ」

 村の近くまで運べば、アルトリオを呼んで一緒に運べば完了です。

 今日もアルトリオ上級村人への道を一歩進んだ気がしますね。
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