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第五話 恩返し【ツェリ】
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「みつけた」
山の麓を切り開いて作られた小さな村にその人間は暮らしていた。とても懐かしい、十年ぶりぐらいだろうか。成長して人の姿に変身できるようなった私は、あの時助けてもらった男の子へと恩返しをするためにやってきたのだ。
私の与えた不死鳥の加護は、今もその少年いや、もう青年と呼ぶ年齢になっているのか。とにかく、私だけがわかる目印となっている。
村で畑を持てない青年は狩りで生計を立てており、両親も早くに亡くなっているようで村の入り口近くに建つ家で一人静かに暮らしていた。
「あ、あのー、すみません。あの時助けて頂いた……いえ、間違えました。道に迷ってしまい困っております。どうか一晩だけでも泊めて頂けないでしょうか」
ちなみに、不死鳥であることは内緒だ。なぜなら人間の世界にとって不死鳥は魔物と呼ばれる野蛮で頭の悪い生き物とされているからだ。私が魔物だと知られたら、きっと恩返しができなくなってしまうのです。
「道に迷った? このような山の中でそれは大変だったでしょう。どうぞお上がりください。すぐに湯を用意しましょう」
「ありがとうございます」
相変わらず優しい人だ。こんな見ず知らずの者をすぐに迎えいれてくれるのだから。
「美しい方、あなたのお名前は?」
う、美しい方だなんて照れてしまいます。人間の美的感覚などわからないのですが、この青年にとって私が美しいというのであれば、番として一緒に暮らしながら恩返しをするのもいいかもしれません。
時を数千年、いや数万年単位で生きる不死鳥にとって、数十年の時などあっという間の出来事。人間の寿命というのはとても短いものだと聞きます。それぐらいであれば恩返しの時間に費やしてもいいでしょう。何より、あの時の温かさは忘れられないぐらい優しいものでしたから。
「私の名前はツェリ・クレーン。ツェリでも、おつうでも好きなように呼んでくださいまし」
「おつう? と、とりあえず、ツェリと呼ぼうかな。僕の名前はアルトリオです。この村で狩人をしています。ツェリは何でこんな場所に?」
「そ、それが、気がついたらこの山にいまして……」
どうしよう、特に深く考えていなかった。
「気がついたら……。記憶がないということなのでしょうか。わかりました。明日にでも村長へ相談しましょう。その身なりや美しさですから、ひょっとしたら高貴な出の方かもしれません」
勝手に勘違いしてくれているので、そのまま記憶喪失の方向でいこうと思います。それにしてもこの身なりもよくなかったのでしょうか。人の世界のことをもう少し勉強しなくてはなりませんね。
それにしても、また美しいと言われてしまいました。なんというかあまり悪い気はしません。というか、心がポカポカと温かくなる感じがします。
それからアルトリオは私のために温かい鍋を用意してくれ、布団まで与えてくれました。
さて、お話という情報収集を続けた結果、わかったことがあります。
まず、アルトリオには番がいないということ。話をする限り特にこれといって気になる女性もいなそうです。これは大事なことです。番がいるのに美少女な不死鳥がアルトリオの周りをうろちょろしていたらきっと村での外聞もよくありません。
自分は下級村人だから、そういうのはちょっと難しいんじゃないかな、などと言ってました。何でしょう下級村人って。よくわかりませんが、私の力で上級村人にしてしまいましょう。とりあえずの目標が出来ましたね。
次に、アルトリオは狩人という職についているらしく、村人のために魔物の肉をとってくるのが仕事だということ。いくら不死鳥の加護があるとはいえ、これはちょっと危険です。山には多くの魔物がいるので、これは私にもお手伝いできる余地がありそうです。迷惑にならない程度に魔物を狩ってきましょう。
うん。ちょっと話をしただけでも、かなり恩返しができそうです。
問題があるとすれば、どうやってこの村に、いや、アルトリオの家に潜り込むかということですね。アルトリオは美しいとは言ってくれますが、私に色仕掛けができるほどの成長期はまだ訪れていません。
そうなると、周りから番認定されるように持っていくしかありません。
作戦としては、不本意ながらアルトリオの優しさにつけ込み一緒に住み続ける。追い出されない程度に役に立つところを見せておく必要があるでしょう。
炎を操る不死鳥にとって料理はお手のもの。まずは基本に乗っ取り胃袋から掴むことにしましょうか。
あとは、住んでいく内に隣近所の村人と仲良くなり、番アピールをしながら外堀を埋めていきます。肉食系炎女子の本領をみせる時が来たようですね。
それからよくわかりませんが、この村では村人に階級制度があるようなので、村長の奥様とは特に親しくしておいた方がアルトリオのためにもなるはずです。
第一段階としてはこれぐらいでよいでしょうか。
山の麓を切り開いて作られた小さな村にその人間は暮らしていた。とても懐かしい、十年ぶりぐらいだろうか。成長して人の姿に変身できるようなった私は、あの時助けてもらった男の子へと恩返しをするためにやってきたのだ。
私の与えた不死鳥の加護は、今もその少年いや、もう青年と呼ぶ年齢になっているのか。とにかく、私だけがわかる目印となっている。
村で畑を持てない青年は狩りで生計を立てており、両親も早くに亡くなっているようで村の入り口近くに建つ家で一人静かに暮らしていた。
「あ、あのー、すみません。あの時助けて頂いた……いえ、間違えました。道に迷ってしまい困っております。どうか一晩だけでも泊めて頂けないでしょうか」
ちなみに、不死鳥であることは内緒だ。なぜなら人間の世界にとって不死鳥は魔物と呼ばれる野蛮で頭の悪い生き物とされているからだ。私が魔物だと知られたら、きっと恩返しができなくなってしまうのです。
「道に迷った? このような山の中でそれは大変だったでしょう。どうぞお上がりください。すぐに湯を用意しましょう」
「ありがとうございます」
相変わらず優しい人だ。こんな見ず知らずの者をすぐに迎えいれてくれるのだから。
「美しい方、あなたのお名前は?」
う、美しい方だなんて照れてしまいます。人間の美的感覚などわからないのですが、この青年にとって私が美しいというのであれば、番として一緒に暮らしながら恩返しをするのもいいかもしれません。
時を数千年、いや数万年単位で生きる不死鳥にとって、数十年の時などあっという間の出来事。人間の寿命というのはとても短いものだと聞きます。それぐらいであれば恩返しの時間に費やしてもいいでしょう。何より、あの時の温かさは忘れられないぐらい優しいものでしたから。
「私の名前はツェリ・クレーン。ツェリでも、おつうでも好きなように呼んでくださいまし」
「おつう? と、とりあえず、ツェリと呼ぼうかな。僕の名前はアルトリオです。この村で狩人をしています。ツェリは何でこんな場所に?」
「そ、それが、気がついたらこの山にいまして……」
どうしよう、特に深く考えていなかった。
「気がついたら……。記憶がないということなのでしょうか。わかりました。明日にでも村長へ相談しましょう。その身なりや美しさですから、ひょっとしたら高貴な出の方かもしれません」
勝手に勘違いしてくれているので、そのまま記憶喪失の方向でいこうと思います。それにしてもこの身なりもよくなかったのでしょうか。人の世界のことをもう少し勉強しなくてはなりませんね。
それにしても、また美しいと言われてしまいました。なんというかあまり悪い気はしません。というか、心がポカポカと温かくなる感じがします。
それからアルトリオは私のために温かい鍋を用意してくれ、布団まで与えてくれました。
さて、お話という情報収集を続けた結果、わかったことがあります。
まず、アルトリオには番がいないということ。話をする限り特にこれといって気になる女性もいなそうです。これは大事なことです。番がいるのに美少女な不死鳥がアルトリオの周りをうろちょろしていたらきっと村での外聞もよくありません。
自分は下級村人だから、そういうのはちょっと難しいんじゃないかな、などと言ってました。何でしょう下級村人って。よくわかりませんが、私の力で上級村人にしてしまいましょう。とりあえずの目標が出来ましたね。
次に、アルトリオは狩人という職についているらしく、村人のために魔物の肉をとってくるのが仕事だということ。いくら不死鳥の加護があるとはいえ、これはちょっと危険です。山には多くの魔物がいるので、これは私にもお手伝いできる余地がありそうです。迷惑にならない程度に魔物を狩ってきましょう。
うん。ちょっと話をしただけでも、かなり恩返しができそうです。
問題があるとすれば、どうやってこの村に、いや、アルトリオの家に潜り込むかということですね。アルトリオは美しいとは言ってくれますが、私に色仕掛けができるほどの成長期はまだ訪れていません。
そうなると、周りから番認定されるように持っていくしかありません。
作戦としては、不本意ながらアルトリオの優しさにつけ込み一緒に住み続ける。追い出されない程度に役に立つところを見せておく必要があるでしょう。
炎を操る不死鳥にとって料理はお手のもの。まずは基本に乗っ取り胃袋から掴むことにしましょうか。
あとは、住んでいく内に隣近所の村人と仲良くなり、番アピールをしながら外堀を埋めていきます。肉食系炎女子の本領をみせる時が来たようですね。
それからよくわかりませんが、この村では村人に階級制度があるようなので、村長の奥様とは特に親しくしておいた方がアルトリオのためにもなるはずです。
第一段階としてはこれぐらいでよいでしょうか。
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