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第二話 村長と鍛冶師【アルトリオ】

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 荷台に大型のワイルドボアを乗せて僕が前を引っ張り、ツェリが後ろから押しながら村へ戻ってくると、村人が大きな歓声でもって迎えてくれる。

「さすがはアルトリオだ!」
「村一番の狩人は違うのう」
「この大きさなら相当な肉がとれそうじゃな」

 僕が仕留めたわけではないので、毎回何とも言えない気持ちになってしまう。しかしながら、村のみんながここまで喜んでくれるのでなるべく気にしないようにしている。

「久し振りの大物です。みなさんもいっぱい食べてください」

 仕留めた魔物はその種類や肉の量によって買取金額が変わる。買取りは村長が行うので、狩りが終わると、村長の家へ向かうのが通例だ。

「何やら騒ぎ声が聞こえると思ったら、やはりアルトリオじゃったか。これはまた大きなワイルドボアじゃな」

「村長、今年は罠の掛かりが良いようです。こちらの買取りをお願いします」

「おお、そうじゃな。この大きさの肉なら銀貨五十枚といったとこじゃろう。牙と毛皮と併せて金貨一枚で買い取ろう」

「金貨一枚ももらえるのですか! ありがとうございます」

 銀貨が百枚で金貨一枚となる。これで何とかこの冬もツェリと二人食べる分は稼げた。まあ、稼いだのはツェリなんだけども。

「街で買い取りすれば、もっと高く売れる。村ではこれが精一杯なのが申し訳ないのう」

「とんでもございません。街へ行くには何日も掛ってしまいますし、私は村の狩人ですから肉は村のみんなで食べてもらいたいのです」

「そうかそうか。それから、聞いてるかも知れんが来年からアルトリオを昇級させることが決まった。これからも、村のために狩りを頼む」

「ああ、ありがとうございます。これからも、頑張ります」

 村長には両親が亡くなってからも、いろいろと助けてもらった。村の力になれるのなら、僕ももっと頑張りたい。

「相変わらずの腕じゃなアルトリオ。わしとしては鍛冶師として育てたいんじゃが、狩人の方が儲かりそうじゃしのう」

 これは、僕の鍛冶の師匠であるドノバンさんだ。どうやら僕には鍛冶の腕があるらしく、お手伝いをしながら学ばせてもらっている。

「鍛冶の技術は罠の道具を揃えるためにも必要ですし、今は両方頑張りたいと思っています」

「そうか、そうか。アルトリオはまだ若い。今はいろいろと学べばよい」

 ドノバンさんはドワーフと呼ばれる種族で、この村には開拓の時からの村人なのだそうだ。独り身で家族もいないため鍛冶の後継者がいない。とはいえ、ドワーフというのは長命な種族で五百年から千年といった長い時を生きるという。まだ百歳にもなっていないドノバンさんが僕が生きている間に引退するようなことは無い気がする。

 ただ、村としても鍛冶師はなくてはならない存在だし、村の鍛冶師はドノバンさんしかいないので僕が鍛冶師になることは喜ばしいことだと思われている。

 問題があるとしたら僕が鍛冶師になると、村の狩人の数が減ってしまうことだろう。

 実際には狩りの主力はツェリなので問題は無いのだけど、村長やドノバンさんはそれを心配している。


 僕が鍛冶の力を見出されたのは割と最近のことなんだけど、僕には小さな頃から得意にしていることがる。

 鍛冶の基本は火力の維持にある。鉄を伸ばすのにもどれぐらい火の強さを維持するかで品質は変わってくる。何度も打ち直しては二流。どれぐらいの火加減を維持できるか、その強弱を見抜く力こそ鍛冶師にとって必要なこと。

「アルトリオには炎を操る加護でもついてるのかもしれんな。わしが長年培ってきた技術をあっさり取得してしまったわい」

 そんな凄い加護が僕にあるのかはわからないけど、確かに火を操ることは得意になっていた。どうすれば火力を上げられるか、抑えられるかが自然とわかってしまう。

 それは僕がまだ小さかった頃、川で魚を焼いていた時に炎の気持ちがわかったというか、炎が何を欲しているのかが理解できてしまったのだ。

 村では農作のための道具、家庭用品。狩猟道具や解体用のナイフなど様々なところで鍛冶が必要とされている。

 鍛冶はまさに村の生命線といえる。こんな小さな村には商人が来ることもない。基本的に自給自足でまかなっていかなければならないので道具に対する愛情というのはとても深い。

 壊れたからすぐに新しいのを買うなんてことはありえないし、もの持ち良く大事に扱われる。

 それでもどうしようもなく、作り直さなければならなくなった時に、その鉄をもってドノバンさんの鍛冶屋にやってくる。

 畑を耕す鍬を、狩りをする道具。肉を捌くナイフや汁を温める鍋を。

 村人にとって鍛冶屋とは大事に使ってきた道具を不死鳥のように甦らせてくれる最後の砦なのだ。

 僕はそんな鍛冶師という職の凄さをドノバンさんから学んでるし、村人から頼りにされて道具を甦らせる仕事というのに誇りを感じている。
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