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Ⅶ 魔女の決意
i 頑固な兵士
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あれからカルロスは毎日塔に通ってくる。
とは言っても、正直以前とそれほど変わらない。
塔には来るが、手は出さない……。
いや、いたずら程度には出すのだが、一向にアズレイアを抱こうとしない。
「もういい加減抱けばいいじゃない」
もういい加減、抱かれたい。
実はそう思うアズレイアだが、カルロスの返答はいつも同じだ。
「嫌だ」
まず、とにかくはっきりと拒絶する。
「俺の欲望がそんな生易しいもんだと思うか?」
そしてムッスリとした顔で、アズレイアにイタズラを繰り返しながら、それでも平然とのたまう。
「乾くんだよ、俺の中が。お前を求めすぎて。もう一度抱けばもうお前を手放せなくなる」
達するアズレイアの顔を覗き込んでは辛そうにするくせに、それでもカルロスは頑なに言う。
「だから抱かない。お前が俺の求婚に頷くまではな」
……全く持って偏屈で頑なな男だ。
ほら、今日もやってきた。
塔の外からカルロスの足音が近づいてくる。
それが聞き取れるようになってしまった自分は、色々と重症だとも思う。
「アズレイア、今日の荷物持ってきたぞ」
そう言って塔に勝手に入ってきたカルロスは、きれいに積み上げられた素材に新しいそれを追加していく。
最近では在庫管理は主にカルロスがしてくれている。
アズレイアのずぼらな積み上げはもう許されない。
「そう言えばハリスがお前にも謝りたいとさ」
「ハリスってもう一人の門番の人?」
「ああ。この前ここにレイモンドが来ちまっただろう。あの日、本来は誰もここに入れるなって言いおいてあったんだ。だがちょうど当直が終わって引き継ぎしてる間に交代のやつが通しちまったらしい」
ああ確かに、チャールズの一件があったばかりだもの、カルロスも注意するわよね。
そうは思うものの、すこし理不尽な気もする。
高位貴族を前に、それを制止するのは普通にムリだ。
しかも引き継ぎ中だったのなら仕方がない。
「気にしないでって伝えて。レイモンドのことは、結局は私自身が引き当てた運なんだし」
そう言ってしまってから少し後悔する。
これではまるでレイモンドとのことがすべて自分の運だけで起きた事故みたいではないか。
アズレイアは自分がしてきた選択を運のせいにする気はない。たとえそれがレイモンドとの経緯であろうと、彼女にとって、全ては自分が選んだ結末なのだ。
そんなことを胸の片隅で感じ、眉を寄せたアズレイアを、カルロスが引き寄せて上向かせる。
「じゃあお前が引き当てた中じゃ俺が一番だろう」
その言い方はズルい。
カルロスが過去にくれた数々の支援を知ってしまった今、アズレイアには否定する要素が一つもない。
嬉しさと恥ずかしさが駆け上がり、アズレイアの頬が一気に熱くなる。
その反応を、カルロスがたまらなく愛おしそうに見下ろしてくる。
「否定はしないわ。それよりここでいつまでもサボってて大丈夫なの?」
「ああ、そのことなんだがな」
アズレイアが居心地悪そうに話題を変えると、一瞬面倒そうに首を鳴らしたカルロスが、残念そうにアズレイアを見た。
「俺はこれからしばらく、近衛隊長の職に戻るための準備でなかなかこれなくなる。塔の番は心配するな。必ず信用のおける者を代わりに寄こす」
やけに重要とばかりに主張するが、正直なぜカルロスにそんなに心配されるのか、アズレイアには分からない。
今までの人生で、アズレイアにちょっかいを出そうとした人間は、訳ありだったレイモンド、論文目当てだったチャールズ、そしてこのカルロスだけだ。
正しく自分自身に興味を持ってくれたのは、このカルロスただ一人。
今更そこまで心配しなくても、こんな『塔の魔女』に興味を持つ変わり者などそうそういない。
「お前、いま自分なら大丈夫とか思っただろう」
心の内を見透かしたかのようにカルロスが言い当てる。
驚いたアズレイアの顔を見て、カルロスが深いため息をついた。
「アズレイア、お前はお前が思う以上にいい女だし、色んなやつが狙ってる。俺が近衛隊に戻るのも、お前を守る後ろ盾をしっかりしたいというのが理由の一つだ。だから頼む。俺が準備を終えるまで、あまり無茶はしないでくれ」
「無茶なんて、この塔に引きこもってる私に何もできないわよ」
「そう、だな」
そう言って、全く信用していない顔でカルロスが笑った。
とは言っても、正直以前とそれほど変わらない。
塔には来るが、手は出さない……。
いや、いたずら程度には出すのだが、一向にアズレイアを抱こうとしない。
「もういい加減抱けばいいじゃない」
もういい加減、抱かれたい。
実はそう思うアズレイアだが、カルロスの返答はいつも同じだ。
「嫌だ」
まず、とにかくはっきりと拒絶する。
「俺の欲望がそんな生易しいもんだと思うか?」
そしてムッスリとした顔で、アズレイアにイタズラを繰り返しながら、それでも平然とのたまう。
「乾くんだよ、俺の中が。お前を求めすぎて。もう一度抱けばもうお前を手放せなくなる」
達するアズレイアの顔を覗き込んでは辛そうにするくせに、それでもカルロスは頑なに言う。
「だから抱かない。お前が俺の求婚に頷くまではな」
……全く持って偏屈で頑なな男だ。
ほら、今日もやってきた。
塔の外からカルロスの足音が近づいてくる。
それが聞き取れるようになってしまった自分は、色々と重症だとも思う。
「アズレイア、今日の荷物持ってきたぞ」
そう言って塔に勝手に入ってきたカルロスは、きれいに積み上げられた素材に新しいそれを追加していく。
最近では在庫管理は主にカルロスがしてくれている。
アズレイアのずぼらな積み上げはもう許されない。
「そう言えばハリスがお前にも謝りたいとさ」
「ハリスってもう一人の門番の人?」
「ああ。この前ここにレイモンドが来ちまっただろう。あの日、本来は誰もここに入れるなって言いおいてあったんだ。だがちょうど当直が終わって引き継ぎしてる間に交代のやつが通しちまったらしい」
ああ確かに、チャールズの一件があったばかりだもの、カルロスも注意するわよね。
そうは思うものの、すこし理不尽な気もする。
高位貴族を前に、それを制止するのは普通にムリだ。
しかも引き継ぎ中だったのなら仕方がない。
「気にしないでって伝えて。レイモンドのことは、結局は私自身が引き当てた運なんだし」
そう言ってしまってから少し後悔する。
これではまるでレイモンドとのことがすべて自分の運だけで起きた事故みたいではないか。
アズレイアは自分がしてきた選択を運のせいにする気はない。たとえそれがレイモンドとの経緯であろうと、彼女にとって、全ては自分が選んだ結末なのだ。
そんなことを胸の片隅で感じ、眉を寄せたアズレイアを、カルロスが引き寄せて上向かせる。
「じゃあお前が引き当てた中じゃ俺が一番だろう」
その言い方はズルい。
カルロスが過去にくれた数々の支援を知ってしまった今、アズレイアには否定する要素が一つもない。
嬉しさと恥ずかしさが駆け上がり、アズレイアの頬が一気に熱くなる。
その反応を、カルロスがたまらなく愛おしそうに見下ろしてくる。
「否定はしないわ。それよりここでいつまでもサボってて大丈夫なの?」
「ああ、そのことなんだがな」
アズレイアが居心地悪そうに話題を変えると、一瞬面倒そうに首を鳴らしたカルロスが、残念そうにアズレイアを見た。
「俺はこれからしばらく、近衛隊長の職に戻るための準備でなかなかこれなくなる。塔の番は心配するな。必ず信用のおける者を代わりに寄こす」
やけに重要とばかりに主張するが、正直なぜカルロスにそんなに心配されるのか、アズレイアには分からない。
今までの人生で、アズレイアにちょっかいを出そうとした人間は、訳ありだったレイモンド、論文目当てだったチャールズ、そしてこのカルロスだけだ。
正しく自分自身に興味を持ってくれたのは、このカルロスただ一人。
今更そこまで心配しなくても、こんな『塔の魔女』に興味を持つ変わり者などそうそういない。
「お前、いま自分なら大丈夫とか思っただろう」
心の内を見透かしたかのようにカルロスが言い当てる。
驚いたアズレイアの顔を見て、カルロスが深いため息をついた。
「アズレイア、お前はお前が思う以上にいい女だし、色んなやつが狙ってる。俺が近衛隊に戻るのも、お前を守る後ろ盾をしっかりしたいというのが理由の一つだ。だから頼む。俺が準備を終えるまで、あまり無茶はしないでくれ」
「無茶なんて、この塔に引きこもってる私に何もできないわよ」
「そう、だな」
そう言って、全く信用していない顔でカルロスが笑った。
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