37 / 47
Ⅶ 魔女の決意
ii 呼び出し
しおりを挟む
それから数日の間、カルロスは宣言通り姿を見せなかった。
門には新しく背の高い頑強な兵士、ズースが配属された。
一度カルロスに連れられて塔まで挨拶にも来てくれている。
「ズースです。よろしく頼みます」
そう言ってニコリともしなかったその男は、浅黒い肌に黒い髪、精悍な顔立ちの巨人のような男だった。
身長はアズレイアの二倍はある気がする。
ガッシリとしたその体つきは、確かに間違いなく頼りになりそうだ。
「これからお世話になるわね、よろしく」
見上げながら挨拶したアズレイアに、ズースはしっかりと綺麗な立礼を返してくれた。
あれ以来、高位貴族からの無茶な注文もやんでいる。
とは言え、最後のトレルダル侯爵からの支払いが入ったので、しばらくは研究費に困らずに済みそうだ。
だが、淫紋の仕事がなくなると、途端本業の研究しかやることがなくなる。
その上カルロスも来ないとなると、塔は閑散としてやることも少なく、ほぼ一日中机に向かうことになる。
すっかりカルロスとの時間に慣れていたアズレイアに、これは思いの外堪えていた。
それを気遣ってか、毎日カルロスから肉のパンばさみが届けられる。
「このままじゃ私、次にカルロスに会うときにはまるまる太っちゃってるわ」
アズレイアがそんな文句を垂れはじめた頃。
「すみません、特別な使者が来ているのでちょっと邪魔してもいいですか?」
ズースがアズレイアの塔を尋ねてきた。
扉を開けると、ズースがもう一人の男性とともに扉の前に立っている。
「アズレイア様、すみません。こちらモントレー家の使者の方ですが、アズレイア様に召喚状をお持ちされています」
「召喚状?」
召喚状は基本、高貴な方々が拠無い理由で直接顔をあわせたい時に一方的に送りつけてくるものだ。
無論、アズレイアのような一介の研究員ならばほぼ無条件に出頭するしかない。
ただ、今まで淫紋紙の受注とういう特殊性のある顧客がほとんどだったので、逆に相手方がアズレイアに来られたら困ることが多かった。
事実、アズレイアはこの塔に引きこもって以来、一度も召喚を受けたことがない。
しかも今モントレー家って言わなかっただろうか?
モントレーの家にはアズレイアとゆかりのある男性が三人もいる。
この召喚は、一体そのうち誰からなのだろうか?
戸惑うアズレイアに、その使者として紹介された男性が頭を下げる。
「初めまして、私モントレー家の家令を務めますギルバートと申します」
アズレイアに深々と頭を下げてそう自己紹介した男は、まだ中年と言うには早すぎるくらいの、珍しく年若い家令だった。
これも家によるものか、先だってのジェームズとは違い、仕立ての良い茶のスリーピースにスカーフタイという一風変わった服装だ。
だがその仕草は間違いなく厳しく仕込まれた、大変職人らしい所作だった。
「この度、当家の当主、当代モントレーとその子息、レイモンド様のお二人からアズレイア様に是非季節のご挨拶をさせて頂きたいとのお誘いを持って参りました」
「季節のごあいさつ?」
「特に理由の説明されない召喚状の内容ですよ」
意味の分からぬ言葉にアズレイアが小首をかしげていると、ズースがそっと説明してくれる。
こう見えて、カルロスが探してきてくれただけあってズースは貴族とのやり取りに慣れているらしい。
ということは、これは私をモントレー家に呼び出すためだけの書状ってことね。
そう理解したアズレイアは、ギルバートに尋ねる。
「そのお誘いにはカルロスも出席するのかしら」
「さて、家令とは言え、気まぐれなご家族の出欠までは把握できません」
だが、ギルバートの返答は煙に巻くようなものだった。
これでは本当にどうしていいのか分からない。
迷うアズレイアに、ズースが再び囁く。
「アズレイア様。高位貴族からの召喚に応じないのは、今後問題になるでしょう。残念ながらここはご一緒に行かれるべきかと。隊長にはすぐにこちらから連絡を入れます」
「分かったわ」
アズレイアの決断は早かった。
どうせいつかはこんな日が来る気がしていた。
彼女のような卑しい出の存在は、彼らにすればゴミムシのようなものだろう。
カルロスが困るようなことにだけはしたくない。
となれば、ここは大人しくついていくしかない。
「ではどうぞご一緒に。外に馬車を待たせています」
この塔を出るのはいつぶりだろうか。
ほんの一瞬、無人の塔を振り返り、そしてアズレイアは身一つでギルバートのあとに続いた。
☆ ☆ ☆
塔を去るアズレイアとギルバートを見送り、ズースが門に戻ると、ちょうどハリスが魔バトの準備をしているところだった。
「ああハリス、準備がいいな。今カルロス隊長への伝令を頼もうと思っていたところだ」
そう口にして、ハリスが今二匹の魔バトを用意しているのに気がついた。
「まて、なぜ二匹必要なんだ」
尋ねられたハリスが少し困った顔でズースを見返す。
そして、秘密を打ち明けるようにズースに告げた。
「こちらはアズレイア様の上司の方へ送る分です」
「アズレイア様に上司などいたか?」
「魔術師の副長ですよ。僕の士官時からの恩師です。アズレイア様がこちらの塔に一人派遣されているのを気に掛けられて、常々報告を頼まれているんです」
なんの気なしに応えながら魔バトの準備を進めるハリスに、ズースが驚いて止めに入る。
「待て、魔術師と言ったか?」
「はい、副長のレイモンド様です」
とんでもない。
思わぬところに伏兵がいた。
ズースが思わず叫ぶ。
「馬鹿者! それが先日アズレイア様を襲ったカルロス殿の兄君だ」
「え……」
予想もしていなかったその答えに、ハリスが顔色をなくしてオタオタとしだす。
「そ、そんな……知らなくて、俺、今までいつも連絡を……でもあのレイモンド様に限ってそんな……」
それを放置して、ズースは門に備えられた伝令用の薄い紙にペンを走らせる。
「今はそんな言い訳をしている場合じゃない。すぐにカルロス隊長に連絡を送れ。今俺が通達文を書く」
一人顔色をなくすハリスを横目に、ズースは今聞いたとんでもない話とモントレー家からの呼び出しを書き記して、魔バトの背中にそれを仕込む。
一直線に飛んでいく先はカルロスだ。
どうかカルロス隊長が間に合いますように。
あの二人には、なんとしても幸せになってほしい。
アルバート王子の側近として、そしてカルロスの古い友人として。
王城に向けて青い空を飛びさっていく魔バトを、ズースは祈る気持ちで見守った。
門には新しく背の高い頑強な兵士、ズースが配属された。
一度カルロスに連れられて塔まで挨拶にも来てくれている。
「ズースです。よろしく頼みます」
そう言ってニコリともしなかったその男は、浅黒い肌に黒い髪、精悍な顔立ちの巨人のような男だった。
身長はアズレイアの二倍はある気がする。
ガッシリとしたその体つきは、確かに間違いなく頼りになりそうだ。
「これからお世話になるわね、よろしく」
見上げながら挨拶したアズレイアに、ズースはしっかりと綺麗な立礼を返してくれた。
あれ以来、高位貴族からの無茶な注文もやんでいる。
とは言え、最後のトレルダル侯爵からの支払いが入ったので、しばらくは研究費に困らずに済みそうだ。
だが、淫紋の仕事がなくなると、途端本業の研究しかやることがなくなる。
その上カルロスも来ないとなると、塔は閑散としてやることも少なく、ほぼ一日中机に向かうことになる。
すっかりカルロスとの時間に慣れていたアズレイアに、これは思いの外堪えていた。
それを気遣ってか、毎日カルロスから肉のパンばさみが届けられる。
「このままじゃ私、次にカルロスに会うときにはまるまる太っちゃってるわ」
アズレイアがそんな文句を垂れはじめた頃。
「すみません、特別な使者が来ているのでちょっと邪魔してもいいですか?」
ズースがアズレイアの塔を尋ねてきた。
扉を開けると、ズースがもう一人の男性とともに扉の前に立っている。
「アズレイア様、すみません。こちらモントレー家の使者の方ですが、アズレイア様に召喚状をお持ちされています」
「召喚状?」
召喚状は基本、高貴な方々が拠無い理由で直接顔をあわせたい時に一方的に送りつけてくるものだ。
無論、アズレイアのような一介の研究員ならばほぼ無条件に出頭するしかない。
ただ、今まで淫紋紙の受注とういう特殊性のある顧客がほとんどだったので、逆に相手方がアズレイアに来られたら困ることが多かった。
事実、アズレイアはこの塔に引きこもって以来、一度も召喚を受けたことがない。
しかも今モントレー家って言わなかっただろうか?
モントレーの家にはアズレイアとゆかりのある男性が三人もいる。
この召喚は、一体そのうち誰からなのだろうか?
戸惑うアズレイアに、その使者として紹介された男性が頭を下げる。
「初めまして、私モントレー家の家令を務めますギルバートと申します」
アズレイアに深々と頭を下げてそう自己紹介した男は、まだ中年と言うには早すぎるくらいの、珍しく年若い家令だった。
これも家によるものか、先だってのジェームズとは違い、仕立ての良い茶のスリーピースにスカーフタイという一風変わった服装だ。
だがその仕草は間違いなく厳しく仕込まれた、大変職人らしい所作だった。
「この度、当家の当主、当代モントレーとその子息、レイモンド様のお二人からアズレイア様に是非季節のご挨拶をさせて頂きたいとのお誘いを持って参りました」
「季節のごあいさつ?」
「特に理由の説明されない召喚状の内容ですよ」
意味の分からぬ言葉にアズレイアが小首をかしげていると、ズースがそっと説明してくれる。
こう見えて、カルロスが探してきてくれただけあってズースは貴族とのやり取りに慣れているらしい。
ということは、これは私をモントレー家に呼び出すためだけの書状ってことね。
そう理解したアズレイアは、ギルバートに尋ねる。
「そのお誘いにはカルロスも出席するのかしら」
「さて、家令とは言え、気まぐれなご家族の出欠までは把握できません」
だが、ギルバートの返答は煙に巻くようなものだった。
これでは本当にどうしていいのか分からない。
迷うアズレイアに、ズースが再び囁く。
「アズレイア様。高位貴族からの召喚に応じないのは、今後問題になるでしょう。残念ながらここはご一緒に行かれるべきかと。隊長にはすぐにこちらから連絡を入れます」
「分かったわ」
アズレイアの決断は早かった。
どうせいつかはこんな日が来る気がしていた。
彼女のような卑しい出の存在は、彼らにすればゴミムシのようなものだろう。
カルロスが困るようなことにだけはしたくない。
となれば、ここは大人しくついていくしかない。
「ではどうぞご一緒に。外に馬車を待たせています」
この塔を出るのはいつぶりだろうか。
ほんの一瞬、無人の塔を振り返り、そしてアズレイアは身一つでギルバートのあとに続いた。
☆ ☆ ☆
塔を去るアズレイアとギルバートを見送り、ズースが門に戻ると、ちょうどハリスが魔バトの準備をしているところだった。
「ああハリス、準備がいいな。今カルロス隊長への伝令を頼もうと思っていたところだ」
そう口にして、ハリスが今二匹の魔バトを用意しているのに気がついた。
「まて、なぜ二匹必要なんだ」
尋ねられたハリスが少し困った顔でズースを見返す。
そして、秘密を打ち明けるようにズースに告げた。
「こちらはアズレイア様の上司の方へ送る分です」
「アズレイア様に上司などいたか?」
「魔術師の副長ですよ。僕の士官時からの恩師です。アズレイア様がこちらの塔に一人派遣されているのを気に掛けられて、常々報告を頼まれているんです」
なんの気なしに応えながら魔バトの準備を進めるハリスに、ズースが驚いて止めに入る。
「待て、魔術師と言ったか?」
「はい、副長のレイモンド様です」
とんでもない。
思わぬところに伏兵がいた。
ズースが思わず叫ぶ。
「馬鹿者! それが先日アズレイア様を襲ったカルロス殿の兄君だ」
「え……」
予想もしていなかったその答えに、ハリスが顔色をなくしてオタオタとしだす。
「そ、そんな……知らなくて、俺、今までいつも連絡を……でもあのレイモンド様に限ってそんな……」
それを放置して、ズースは門に備えられた伝令用の薄い紙にペンを走らせる。
「今はそんな言い訳をしている場合じゃない。すぐにカルロス隊長に連絡を送れ。今俺が通達文を書く」
一人顔色をなくすハリスを横目に、ズースは今聞いたとんでもない話とモントレー家からの呼び出しを書き記して、魔バトの背中にそれを仕込む。
一直線に飛んでいく先はカルロスだ。
どうかカルロス隊長が間に合いますように。
あの二人には、なんとしても幸せになってほしい。
アルバート王子の側近として、そしてカルロスの古い友人として。
王城に向けて青い空を飛びさっていく魔バトを、ズースは祈る気持ちで見守った。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
変態騎士ニコラ・モーウェルと愛され娼婦(仕事はさせてもらえない)
砂山一座
恋愛
完璧な騎士、ニコラ・モーウェルは「姫」という存在にただならぬ感情を抱く変態だ。
姫に仕えることを夢見ていたというのに、ニコラは勘違いで娼婦を年季ごと買い取る事になってしまった。娼婦ミアは金額に見合う仕事をしようとするが、ニコラは頑なにそれを拒む。
ミアはなんとかして今夜もニコラの寝台にもぐり込む。
代わりとしてニコラがミアに与える仕事は、どれも何かがおかしい……。
仕事がしたい娼婦と、姫に仕えたい変態とのドタバタラブコメディ。
ムーンライトノベルズにも投稿しております。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる