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Ⅳ 眠る魔女
vi 折れてしまえばいい
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「うっ! ぐっ! っっ!」
下半身丸出しのまま床をゴロゴロと転がった不埒者が、そのまま痛みに丸くなってうめき声を繰り返す。
どうやら吹っ飛ばされたときに大事な部分を床に叩きつけ、自重で思いっきり潰したようだ。
「俺の大切なアズレイアに手を出そうってふてぶてしい奴はどこのどいつだ!?」
部屋にドスの利いた声が響き渡る。
思わずビクリと頭を上げた不埒者が、自分を突き飛ばした相手を探してキョロキョロと周りを見回した。
「ぶ、無礼な、この僕に、なにを、お前、ぼ、僕を、殴ったのか!?」
乱暴に扱われることに慣れていないのか、男の悲鳴のような叫び声は甲高く卑屈に響く。
それを意に介さず、男を見下ろしたカルロスが軍靴の先でその粗末に縮こまった一物を蹴り飛ばした。
「なんならその小汚い棒っきれを真っ二つに切り落としてやってもいいぞ。いや、させろ」
カルロスの恫喝を聞いた男が一気に青ざめ、恐怖に顔を引きつらせながら後ずさりする。
「ヒッ、や、やめろ! お、お前、そんなこと、したら、お前なんて! ぐふぉお!」
「おら、地獄に落ちて後悔してこい!」
呻く男の背に、続けざまにカルロスの怒声が響く。
「ぐ、ふぇ!」
怒声と男の喚きに紛れて、物理的な破壊音も聞こえだした。
「うるさい……わよ……」
いくら深い眠りにつかされていたアズレイアでも、流石にこれだけ騒げば目が覚める。
「や、やめろ、やめてくれ、いや、ぎゃ!」
「黙れ! その汚い口でわめくな! 耳が腐る!」
すぐ横で繰り広げられる二人の罵りあいに、徐々に朦朧としていた意識も覚醒していく。
「ちょっと……なにやってるのよ、誰よ私の部屋で勝手に……」
ふらつく頭を押さえつつ、暗闇に聞こえる声のほうへと顔を向け、そこで初めて自分のあられもない姿に気がついたアズレイア。
「ヒッ!」
慌てて探すも、さっきまで着ていたはずのローブがどこにも見当たらない。下着もない。
小さく呻いて手近に見つけたブランケットをひっつかんだアズレイアが、慌ててそれを体に巻き付ける。
「アズレイア、無事か?」
不埒者の腹にトドメの一発を入れたところでやっとアズレイアの声を聞きつけたカルロスが、急いでベッドに駆け寄って……こようとするのを、今度はアズレイアが脚を突っ張って押し返した。
「ちょ、カルロス、あんたもこっち来ないで!」
ブランケットは巻き付けたが、その下はまだ裸のままだ。
いや、ローブだって薄い生地一枚で、下には下着しかつけていないわけだが、彼女がローブに寄せる信頼は他のものと比べ物にならない。
心もとなさからアズレイアが力いっぱい蹴りを飛ばしているのだが、その程度で止まるカルロスではない。
アズレイアの片脚を器用に避け、もう一方の足を片手で掴んで、勢い余ってアズレイアの上に覆いかぶさってくる。
「いや、待って、お願い!」
結果、片足と一緒にブランケットまで持ち上げられて、今にも中が見えそうで焦るアズレイア。
だがカルロスにはそれを気にするような余裕はない。
ただ震える手でアズレイアの頬にそっと触れ、そして顔をジッと見つめながら再度尋ねた。
「俺、間に合ったか? 大丈夫?」
まるで触れたら壊れるとでも言うように、カルロスの指先がおずおずと頬に添えられている。
繊細なガラス細工にするように、震える指でそっと頬を撫でながら、真っすぐに覗き込んでくるカルロス。
その真摯な眼差しを見るうちに、彼がただ純粋にアズレイアを心配してくれていたことが伝わってきた。
頭はまだハッキリしない。
ハッキリはしないながら、幾らアズレイアが鈍感でも、最後までされてしまったかどうかくらいは流石に分かる。
動きの鈍い頭を振りつつも、どうにか手を振ってカルロスに無事を告げる。
「大丈夫。何もされてないとは言えないけど、最低限合格」
アズレイアの返答に、カルロスがベッドのすぐ横にへなへなとしゃがみこんだ。
「よかったぁ」
暗闇に見えるそんなカルロスの様子に、アズレイアの胸が小さく傷む。
「あっちは? どうなったの?」
「伸びた。まずはお前の身支度が終わってから問い詰める」
安心させるようにアズレイアの頭をくしゃりとひと撫でしたカルロスが、名残惜しそうにアズレイアの上からて立ち上がる。
そして吹っ切るように頭を振って、部屋の明かりを灯しに壁際へと向かった。
☆ ☆ ☆
「ああこれ、トレルダルんとこのチビじゃねえか」
明かりをつけた途端、転がる男の顔を見たカルロスが大きなため息とともにがっくりと肩を落とす。
床で伸びていたのは、思いのほか見目のいい若い男だった。
顔は結構整っている。
肩にかかるくらいの金髪は艶やかで、貴人らしく美しく整えられていた。服装も見るからに金がかかっていて、それだけでも出自の良さが見て取れる。
ただ、今置かれている彼の現状が、そのすべてをすっかり台無しにしていた。
白目をむいたまま半開きの唇から舌を垂らし、下半身丸出しで気絶して、全てをさらけ出してだらしなく伸びている。
これでは、元の見目のよさは今の惨めさに拍車をかけるだけだ。
その股間でやけに赤く折れ曲がったイチモツが目にとまり、アズレイアが慌てて目をそらす。
「さては家令を抱き込みやがったな」
そんなアズレイアの様子になど気づかずに、カルロスが手近な荷物の紐を取って、まだ目を覚まさぬ男を後ろ手に拘束していく。
流石は門番だけあって、その手際は素早い。
そんな様子をぽかんと見入っていたアズレイアに、カルロスが問いかける。
「お前、今日来た家令になにかされなかったか?」
その問に、一瞬家令に彼の実証結果を話すか迷ったのを思い出したアズレイアが微妙な顔で返答する。
「別に。普通に話して納品を終わらせただけよ。なんで?」
その一瞬の間をどう取ったのか、カルロスが訝しげにアズレイアを振り向いた。
「いくら何でも、服まで脱がされて目が覚めないのはおかしいだろう」
言われてみればその通りだ。
だが普段から寝付きのいいアズレイアとしては、あまり実感がない。
反応の薄いアズレイアを諦めて、カルロスが家の中を物色しながら問いかけた。
「なあ、今日の荷物におかしなものはなかったか?」
「別にこれと言っては……」
ないと言おうとして、ふと思い出す。
「ああ、差し入れの肉のパンばさみありがとう。美味しかったわ──」
忘れないうちにお礼を言わねば。
そんな軽い気持ちで口にしたアズレイアを、カルロスが険しい顔で遮った。
「待て、俺は今日そんなもの差し入れしていないぞ」
「え? 冗談はよして」
驚いて聞き返すアズレイアに、真剣な顔のまま、カルロスが横にかぶりを振る。
「……って冗談じゃ、ないの、ね」
そんなカルロスの様子から、それがただの事実だと思い知った。
それを理解してぞっとする。
じゃあ一体誰があれを置いたのよ?
「よく思い出せ、なにかおかしいところはなかったのか?」
カルロスの真剣な様子に気圧されて、アズレイアもなんとか午後のやり取りを思い出そうとした。
「そういえば、今日のは少し変わったスパイスの味がした気が……」
今思い出したというようにアズレイアがポンと手を叩くのを見て、カルロスががっくりと肩を落とす。
だがすぐにテーブルに残っていた包装袋を見つけ、匂いを嗅いだ。
「多分眠り薬だな、お前の好物のパンばさみに盛られたんだろう」
言われてみればそうかも知れない。
確かに、ふいに来たあの眠さは異常だったかも?
入れられていたのが眠り薬程度でよかった……いや本当に良かったのか?
いまいち危機感の足りないアズレイアの反応に、カルロスが思わずため息をつく。
今これ以上アズレイアを責めても仕方ない。
そう分かっているのに、ついいらぬ苦言が口をつく。
「なあ、お前も一応王城の研究員なんだから、解毒の護符くらい使ってないのか?」
カルロスの至極もっともな問いかけにに、アズレイアがぐっと言葉に詰まって俯いた。
「……のよ」
アズレイアが消え入りそうな小さな声で答えるも、無論カルロスには聞き取れない。
「ああ?」
包装袋を処分したカルロスが、アズレイアに向き直って聞き返す。
「使っちゃったのよ! 全部」
真顔で尋ねたカルロスに、アズレイアが顔を真っ赤にして怒鳴り返した。
「だって検証実験にどうしても必要だったのに、ちょうど手持ちが切れちゃって」
「お前……」
王城の研究員には一定数の護符が支給されている。
だが、今回支払いに追われていたアズレイアは、間に合わせにそれを使い込んだのだ。
王城の研究員としてはあんまりなその返答に、カルロスが呆れかえって見返した。
そこでふと思いつき、腰を屈めてアズレイアの顔を覗き込んで言う。
「それ、俺に媚薬でも盛られて押し倒されたらどうするつもりだよ」
カルロスは冗談で言っているだけだ。
そう分かっていて、だけど今その手の話題に敏感になっていたアズレイアは、返事もできずに口をパクパクさせた。
そんな初心な反応を目にしたカルロスの目が、途端、妖しく輝きだす。
すっと彼の手が伸びてきて、今にもアズレイアの頬に触れそうになり、思わず後ずさりしたアズレイアが慌てて叫ぶ。
「う、うるさいわ」
「うるさいな」
と、アズレイアの声に重なるようにもう一つ、聞き覚えのない男の声が部屋に響いた。
すぐに身構えたカルロスが、剣を片手に振り返る。
カルロスの反応のよさに感心しつつ。
今一瞬、二人の間に流れた甘ったるい空気に、いっそ逃げ出したいと切実に願っていたアズレイアはホッと胸を撫でおろしたのだった。
下半身丸出しのまま床をゴロゴロと転がった不埒者が、そのまま痛みに丸くなってうめき声を繰り返す。
どうやら吹っ飛ばされたときに大事な部分を床に叩きつけ、自重で思いっきり潰したようだ。
「俺の大切なアズレイアに手を出そうってふてぶてしい奴はどこのどいつだ!?」
部屋にドスの利いた声が響き渡る。
思わずビクリと頭を上げた不埒者が、自分を突き飛ばした相手を探してキョロキョロと周りを見回した。
「ぶ、無礼な、この僕に、なにを、お前、ぼ、僕を、殴ったのか!?」
乱暴に扱われることに慣れていないのか、男の悲鳴のような叫び声は甲高く卑屈に響く。
それを意に介さず、男を見下ろしたカルロスが軍靴の先でその粗末に縮こまった一物を蹴り飛ばした。
「なんならその小汚い棒っきれを真っ二つに切り落としてやってもいいぞ。いや、させろ」
カルロスの恫喝を聞いた男が一気に青ざめ、恐怖に顔を引きつらせながら後ずさりする。
「ヒッ、や、やめろ! お、お前、そんなこと、したら、お前なんて! ぐふぉお!」
「おら、地獄に落ちて後悔してこい!」
呻く男の背に、続けざまにカルロスの怒声が響く。
「ぐ、ふぇ!」
怒声と男の喚きに紛れて、物理的な破壊音も聞こえだした。
「うるさい……わよ……」
いくら深い眠りにつかされていたアズレイアでも、流石にこれだけ騒げば目が覚める。
「や、やめろ、やめてくれ、いや、ぎゃ!」
「黙れ! その汚い口でわめくな! 耳が腐る!」
すぐ横で繰り広げられる二人の罵りあいに、徐々に朦朧としていた意識も覚醒していく。
「ちょっと……なにやってるのよ、誰よ私の部屋で勝手に……」
ふらつく頭を押さえつつ、暗闇に聞こえる声のほうへと顔を向け、そこで初めて自分のあられもない姿に気がついたアズレイア。
「ヒッ!」
慌てて探すも、さっきまで着ていたはずのローブがどこにも見当たらない。下着もない。
小さく呻いて手近に見つけたブランケットをひっつかんだアズレイアが、慌ててそれを体に巻き付ける。
「アズレイア、無事か?」
不埒者の腹にトドメの一発を入れたところでやっとアズレイアの声を聞きつけたカルロスが、急いでベッドに駆け寄って……こようとするのを、今度はアズレイアが脚を突っ張って押し返した。
「ちょ、カルロス、あんたもこっち来ないで!」
ブランケットは巻き付けたが、その下はまだ裸のままだ。
いや、ローブだって薄い生地一枚で、下には下着しかつけていないわけだが、彼女がローブに寄せる信頼は他のものと比べ物にならない。
心もとなさからアズレイアが力いっぱい蹴りを飛ばしているのだが、その程度で止まるカルロスではない。
アズレイアの片脚を器用に避け、もう一方の足を片手で掴んで、勢い余ってアズレイアの上に覆いかぶさってくる。
「いや、待って、お願い!」
結果、片足と一緒にブランケットまで持ち上げられて、今にも中が見えそうで焦るアズレイア。
だがカルロスにはそれを気にするような余裕はない。
ただ震える手でアズレイアの頬にそっと触れ、そして顔をジッと見つめながら再度尋ねた。
「俺、間に合ったか? 大丈夫?」
まるで触れたら壊れるとでも言うように、カルロスの指先がおずおずと頬に添えられている。
繊細なガラス細工にするように、震える指でそっと頬を撫でながら、真っすぐに覗き込んでくるカルロス。
その真摯な眼差しを見るうちに、彼がただ純粋にアズレイアを心配してくれていたことが伝わってきた。
頭はまだハッキリしない。
ハッキリはしないながら、幾らアズレイアが鈍感でも、最後までされてしまったかどうかくらいは流石に分かる。
動きの鈍い頭を振りつつも、どうにか手を振ってカルロスに無事を告げる。
「大丈夫。何もされてないとは言えないけど、最低限合格」
アズレイアの返答に、カルロスがベッドのすぐ横にへなへなとしゃがみこんだ。
「よかったぁ」
暗闇に見えるそんなカルロスの様子に、アズレイアの胸が小さく傷む。
「あっちは? どうなったの?」
「伸びた。まずはお前の身支度が終わってから問い詰める」
安心させるようにアズレイアの頭をくしゃりとひと撫でしたカルロスが、名残惜しそうにアズレイアの上からて立ち上がる。
そして吹っ切るように頭を振って、部屋の明かりを灯しに壁際へと向かった。
☆ ☆ ☆
「ああこれ、トレルダルんとこのチビじゃねえか」
明かりをつけた途端、転がる男の顔を見たカルロスが大きなため息とともにがっくりと肩を落とす。
床で伸びていたのは、思いのほか見目のいい若い男だった。
顔は結構整っている。
肩にかかるくらいの金髪は艶やかで、貴人らしく美しく整えられていた。服装も見るからに金がかかっていて、それだけでも出自の良さが見て取れる。
ただ、今置かれている彼の現状が、そのすべてをすっかり台無しにしていた。
白目をむいたまま半開きの唇から舌を垂らし、下半身丸出しで気絶して、全てをさらけ出してだらしなく伸びている。
これでは、元の見目のよさは今の惨めさに拍車をかけるだけだ。
その股間でやけに赤く折れ曲がったイチモツが目にとまり、アズレイアが慌てて目をそらす。
「さては家令を抱き込みやがったな」
そんなアズレイアの様子になど気づかずに、カルロスが手近な荷物の紐を取って、まだ目を覚まさぬ男を後ろ手に拘束していく。
流石は門番だけあって、その手際は素早い。
そんな様子をぽかんと見入っていたアズレイアに、カルロスが問いかける。
「お前、今日来た家令になにかされなかったか?」
その問に、一瞬家令に彼の実証結果を話すか迷ったのを思い出したアズレイアが微妙な顔で返答する。
「別に。普通に話して納品を終わらせただけよ。なんで?」
その一瞬の間をどう取ったのか、カルロスが訝しげにアズレイアを振り向いた。
「いくら何でも、服まで脱がされて目が覚めないのはおかしいだろう」
言われてみればその通りだ。
だが普段から寝付きのいいアズレイアとしては、あまり実感がない。
反応の薄いアズレイアを諦めて、カルロスが家の中を物色しながら問いかけた。
「なあ、今日の荷物におかしなものはなかったか?」
「別にこれと言っては……」
ないと言おうとして、ふと思い出す。
「ああ、差し入れの肉のパンばさみありがとう。美味しかったわ──」
忘れないうちにお礼を言わねば。
そんな軽い気持ちで口にしたアズレイアを、カルロスが険しい顔で遮った。
「待て、俺は今日そんなもの差し入れしていないぞ」
「え? 冗談はよして」
驚いて聞き返すアズレイアに、真剣な顔のまま、カルロスが横にかぶりを振る。
「……って冗談じゃ、ないの、ね」
そんなカルロスの様子から、それがただの事実だと思い知った。
それを理解してぞっとする。
じゃあ一体誰があれを置いたのよ?
「よく思い出せ、なにかおかしいところはなかったのか?」
カルロスの真剣な様子に気圧されて、アズレイアもなんとか午後のやり取りを思い出そうとした。
「そういえば、今日のは少し変わったスパイスの味がした気が……」
今思い出したというようにアズレイアがポンと手を叩くのを見て、カルロスががっくりと肩を落とす。
だがすぐにテーブルに残っていた包装袋を見つけ、匂いを嗅いだ。
「多分眠り薬だな、お前の好物のパンばさみに盛られたんだろう」
言われてみればそうかも知れない。
確かに、ふいに来たあの眠さは異常だったかも?
入れられていたのが眠り薬程度でよかった……いや本当に良かったのか?
いまいち危機感の足りないアズレイアの反応に、カルロスが思わずため息をつく。
今これ以上アズレイアを責めても仕方ない。
そう分かっているのに、ついいらぬ苦言が口をつく。
「なあ、お前も一応王城の研究員なんだから、解毒の護符くらい使ってないのか?」
カルロスの至極もっともな問いかけにに、アズレイアがぐっと言葉に詰まって俯いた。
「……のよ」
アズレイアが消え入りそうな小さな声で答えるも、無論カルロスには聞き取れない。
「ああ?」
包装袋を処分したカルロスが、アズレイアに向き直って聞き返す。
「使っちゃったのよ! 全部」
真顔で尋ねたカルロスに、アズレイアが顔を真っ赤にして怒鳴り返した。
「だって検証実験にどうしても必要だったのに、ちょうど手持ちが切れちゃって」
「お前……」
王城の研究員には一定数の護符が支給されている。
だが、今回支払いに追われていたアズレイアは、間に合わせにそれを使い込んだのだ。
王城の研究員としてはあんまりなその返答に、カルロスが呆れかえって見返した。
そこでふと思いつき、腰を屈めてアズレイアの顔を覗き込んで言う。
「それ、俺に媚薬でも盛られて押し倒されたらどうするつもりだよ」
カルロスは冗談で言っているだけだ。
そう分かっていて、だけど今その手の話題に敏感になっていたアズレイアは、返事もできずに口をパクパクさせた。
そんな初心な反応を目にしたカルロスの目が、途端、妖しく輝きだす。
すっと彼の手が伸びてきて、今にもアズレイアの頬に触れそうになり、思わず後ずさりしたアズレイアが慌てて叫ぶ。
「う、うるさいわ」
「うるさいな」
と、アズレイアの声に重なるようにもう一つ、聞き覚えのない男の声が部屋に響いた。
すぐに身構えたカルロスが、剣を片手に振り返る。
カルロスの反応のよさに感心しつつ。
今一瞬、二人の間に流れた甘ったるい空気に、いっそ逃げ出したいと切実に願っていたアズレイアはホッと胸を撫でおろしたのだった。
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