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Ⅱ ぼっち魔女
iii ぼっちに逆戻り
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あれから一週間。
カルロスとは一度も顔をあわせていない。
そりゃそうだ。
あんな邪険に結婚の申込みを断ったのだから仕方ないわよね。
そう思うも、気持ちが落ち込むのはどうすることもできない。
しかも、顔こそ合わさぬが、それでも毎日荷物は届けられている。
いつも気づけば、扉の前にキチンと纏めて置かれていた。
どこまでも律儀な門番である。
「…………」
黙々と淫紋を描きながらも、アズレイアの思考は何度となく同じことを繰り返し反芻しつづける。
カルロスったら、一体何を考えてるのかしら。
突然、結婚の申込みとか。
「相手は私よ。『魔女の塔』のぼっちずぼら魔女よ」
自分で言っていて泣けてくる。
アズレイアは決して美人ではない。
若くもない。
ずぼらでだらしなく、好きな魔術の研究以外、本当に何もしてないし、したくない。
化粧なんて、カルロスの前では一度だってしたことがないはずだ。
服は年がら年中この黒いローブ一着だけ。
よだれ垂らして居眠りしてる間に、勝手に荷物だけ置いていってくれたこともあったじゃないか。
こんな私を相手に、け、結婚って。
絶対おかしい。
なんか裏がある。
そう、きっとあのときと同じよ──。
思わず古い記憶が蘇り、慌てて頭を振って意識を手元の淫紋に集中させる。
それでもしばらくすれば、また考えずにはいられない。
「なんでこんなことになっちゃったんだろう……」
ため息とともに、アズレイアの口から本音が溢れた。
あの日。
間違ってカルロスに淫紋を刻んでしまった日。
正直に言えば、アズレイアは案外嬉しかったのだ。
この五年でただ一人、アズレイアが繰り返し顔を合わせてきたのがカルロスだ。
むろん男女の仲なんて想像したこともなかったけれど、時間があれば楽しくムダ話できるくらいの仲にはなっていたつもりだった。
そんなカルロスが、自分にどうやら好意を持ってくれたらしい。
それは決して気分の悪いものではなかった。
淫紋に浮かされての言葉とはいえ、私に情熱と欲望を滾らせてあんなこと、してきたんだし。
少しくらいは、付き合ってやってもいい。
本気で塔に監禁されるなら、それはそれで構わない。
いっそこの前のように、思考が崩壊するほどの快楽が続くなら。
そうなればもう、こんなに色々考えずに生きていけるのかしら──。
自暴自棄のようで、反面、淡い期待のような。
そんな夢想を繰り返しながら、アズレイアはカルロスの訪れを待っていたのだ。
それなのに。
「結婚なんていらないのに」
妙齢の女性とは思えぬ本音が、アズレイアの口からこぼれていく。
「もう、二度とごめんよ」
そう呟いたアズレイアの言葉は、必要以上に実感がこもっている。
なぜならアズレイアは、一度、結婚していた。
いや、したと信じていた……。
便宜上の事実婚。
……結婚詐欺と言えなくもない。
金も地位も後ろ盾もないアズレイアに、まさかそんなことが起きるとは思ってもみなかったのだが。
それでも悲しいかな、アズレイアはそんな最悪な経験を引き当ててしまっていた。
それが、アズレイアがこの塔に引きこもっている、もう一つの理由である。
この塔は王城の一番奥に位置している。
だからこの塔から街に出るには、一旦王城を抜けなければならない。
そして、件のお相手は、今も王城でのうのうと働いている……。
王城になんて顔をだして、会いたくもないその相手に偶然ばったり出くわしたくなど絶対にない。
うへぇ。
あんな男の顔、もう思い出したくもないわ。
昔の婚約者殿の秀麗な顔が脳裏をよぎり、アズレイアがわざとらしく吐きそうなフリをする。
いや、フリだけではなく、実際その頃の自分を思い出すと胃がせりあがってきて、今にも本気で吐きそうだ。
一体、あの頃の私は、なにを考えてあんな男を愛してると思ったのだろう……。
恋なんて幻だ。
しかも大抵、想いは一方通行で相手は自分と同じ方向なんて見ていない。
期待なんてした途端、裏切りが始まるんだ……。
ここまでくると、もうただの被害妄想かもしれない。
だが彼女の過去を思えば、それは仕方もないことだった。
カルロスとは一度も顔をあわせていない。
そりゃそうだ。
あんな邪険に結婚の申込みを断ったのだから仕方ないわよね。
そう思うも、気持ちが落ち込むのはどうすることもできない。
しかも、顔こそ合わさぬが、それでも毎日荷物は届けられている。
いつも気づけば、扉の前にキチンと纏めて置かれていた。
どこまでも律儀な門番である。
「…………」
黙々と淫紋を描きながらも、アズレイアの思考は何度となく同じことを繰り返し反芻しつづける。
カルロスったら、一体何を考えてるのかしら。
突然、結婚の申込みとか。
「相手は私よ。『魔女の塔』のぼっちずぼら魔女よ」
自分で言っていて泣けてくる。
アズレイアは決して美人ではない。
若くもない。
ずぼらでだらしなく、好きな魔術の研究以外、本当に何もしてないし、したくない。
化粧なんて、カルロスの前では一度だってしたことがないはずだ。
服は年がら年中この黒いローブ一着だけ。
よだれ垂らして居眠りしてる間に、勝手に荷物だけ置いていってくれたこともあったじゃないか。
こんな私を相手に、け、結婚って。
絶対おかしい。
なんか裏がある。
そう、きっとあのときと同じよ──。
思わず古い記憶が蘇り、慌てて頭を振って意識を手元の淫紋に集中させる。
それでもしばらくすれば、また考えずにはいられない。
「なんでこんなことになっちゃったんだろう……」
ため息とともに、アズレイアの口から本音が溢れた。
あの日。
間違ってカルロスに淫紋を刻んでしまった日。
正直に言えば、アズレイアは案外嬉しかったのだ。
この五年でただ一人、アズレイアが繰り返し顔を合わせてきたのがカルロスだ。
むろん男女の仲なんて想像したこともなかったけれど、時間があれば楽しくムダ話できるくらいの仲にはなっていたつもりだった。
そんなカルロスが、自分にどうやら好意を持ってくれたらしい。
それは決して気分の悪いものではなかった。
淫紋に浮かされての言葉とはいえ、私に情熱と欲望を滾らせてあんなこと、してきたんだし。
少しくらいは、付き合ってやってもいい。
本気で塔に監禁されるなら、それはそれで構わない。
いっそこの前のように、思考が崩壊するほどの快楽が続くなら。
そうなればもう、こんなに色々考えずに生きていけるのかしら──。
自暴自棄のようで、反面、淡い期待のような。
そんな夢想を繰り返しながら、アズレイアはカルロスの訪れを待っていたのだ。
それなのに。
「結婚なんていらないのに」
妙齢の女性とは思えぬ本音が、アズレイアの口からこぼれていく。
「もう、二度とごめんよ」
そう呟いたアズレイアの言葉は、必要以上に実感がこもっている。
なぜならアズレイアは、一度、結婚していた。
いや、したと信じていた……。
便宜上の事実婚。
……結婚詐欺と言えなくもない。
金も地位も後ろ盾もないアズレイアに、まさかそんなことが起きるとは思ってもみなかったのだが。
それでも悲しいかな、アズレイアはそんな最悪な経験を引き当ててしまっていた。
それが、アズレイアがこの塔に引きこもっている、もう一つの理由である。
この塔は王城の一番奥に位置している。
だからこの塔から街に出るには、一旦王城を抜けなければならない。
そして、件のお相手は、今も王城でのうのうと働いている……。
王城になんて顔をだして、会いたくもないその相手に偶然ばったり出くわしたくなど絶対にない。
うへぇ。
あんな男の顔、もう思い出したくもないわ。
昔の婚約者殿の秀麗な顔が脳裏をよぎり、アズレイアがわざとらしく吐きそうなフリをする。
いや、フリだけではなく、実際その頃の自分を思い出すと胃がせりあがってきて、今にも本気で吐きそうだ。
一体、あの頃の私は、なにを考えてあんな男を愛してると思ったのだろう……。
恋なんて幻だ。
しかも大抵、想いは一方通行で相手は自分と同じ方向なんて見ていない。
期待なんてした途端、裏切りが始まるんだ……。
ここまでくると、もうただの被害妄想かもしれない。
だが彼女の過去を思えば、それは仕方もないことだった。
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