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第10章 エルフの試練
17 褒賞
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「これはどういうことだ?」
一瞬誰もが言葉に詰まったが、俺はすぐにそいつらに微かな見覚えを感じてシモンとシアンを睨みつけた。
「こいつら、あの時ニコイチにされてた子供たちじゃねーのか?」
俺がそう尋ねるとあゆみがハッとして子供たちを見直す。キール他全員がやはり驚愕の顔を浮かべた。
「よくお分かりになりましたね、その通りです」
そう言ってシアンが振り返ると子供たちが少しオドオドとシアンの顔色を窺う。
「皆様がナンシーを発たれてからすぐこの子たちに変化が始まりました。多分あゆみさんの魔力の影響でしょうね。この通り、ちょうどネロ君のような人の姿を取った獣人の姿に変化し始めたのです」
「え? 私のせいですか?」
「いいえ、あゆみさんのおかげです」
少し不安そうにあゆみがそう言うとシアンが首を横に振りながら訂正した。
「領城で彼らを保護した当初はまだ教会による無茶な再生魔術のせいで身体の不調を訴える者が多くいたそうですが、あゆみさんの固有魔法のおかげで我々が引き合わせられた時にはすっかり回復していました。あの後、外縁の者たちにしても獣人たちにしても直ぐには子供たちを受け入れられないだろうという事で一時的に我々エルフがお預かりしたのです。ところが日が経つにつれ変化が進み、この通り皆ネロ様によく似た人化に落ち着きました」
説明をしながらシアンが一番手近にいた一人の頭を愛おしげに撫でている。
「私が目覚めてすぐ外縁の者たちが押しかけてきて騒動になり、この子たちを置き去りにする訳にもいかずここに一緒に連れてきたのですが……」
そこでシアンが一旦言葉を切って先程の農村の娘に目をやると娘が代わってその先を続けた。
「彼らは猫神様と巫女様に連なる眷属の皆さまですもの、出来る限りのことをさせて頂きます」
そう言って俺とあゆみに頭を下げる。
「この通り、この子たちはここの皆にお二人の眷属として崇められてしまって。その彼らを保護していた私たちごとすっかり面倒を見て下さっているの──」
「お待ちください大叔母様。それだけではないでしょう!」
シアンが綺麗に纏めようとしたところにテリースが待ったをかけた。
「確かに農村の者たちがこの子供たちを崇拝し始めたのは事実ですが、それもこれも大叔母様たちがネロ君やあゆみさんを『猫神様と巫女様』としてしっかり定着させてしまったからだそうじゃないですか」
「はぁああ!?」
「ええええ?」
テリースの言葉にギョッとしてシアンとシモンを見ると二人が少しバツの悪そうな顔で視線を逸らした。
「べ、別に何も間違ったことは言っていませんよ。単にこの子供たちはあゆみさんの能力のおかげでこのような姿になれたと──」
「あゆみさんの『巫女』の力で『猫神様のような姿に』ですか?」
シアンが語尾を誤魔化そうとするのをすかさずテリースが突っ込んだ。
「大体ここの人間がぼた餅と呼ばれるお菓子をお二人にお持ちしたそうですが、あゆみさんとネロさんはそれがおかしいとは思わなかったのですか?」
「ああ?」
「お二人はそのぼた餅を作るのにどのくらいの時間がかかるとお思いですか?」
「あ……!」
テリースの言わんとする事がさっぱり分からない俺を横目にあゆみが合点がいったと手を打った。
「どういうことだあゆみ?」
「黒猫君でも餡子は作った事ないのかな? あれってすっごく時間かかるんだよ。特にあれこし餡だったし。おばあちゃんが作ってたから詳しくは知らないけど一日仕事だったはず」
「って事はなんだ、俺たちがここに来るのを見越して朝から準備させてたってことか?」
別にその事自体は何も悪い事なんてねーんだが、なんかそれまでシアンとシモンが説明してきた事情の流れとは確実に齟齬がある。そう思って改めてシモンを見るとやっぱりスッと視線を外された。
「ええ。それに我々がここに到着した時もすでに夕食の準備をしてると言ってましたよね」
「ああ確かに。じゃあ俺たちがここに来るのも織り込み済みか」
今度はキールが呆れた声で相槌を打つ。
「お爺様も大叔母様も確かに何も悪いことはしていないかも知れませんが、全てを都合よく片付けるための周到な準備は怠ってませんでしたね」
視線を泳がす二人をテリースが追い詰めるように続けた。
「最初からこの子たちを『猫神様と巫女様』の使徒だと農村の者に説明してこの屋敷に上がり込み、このお二人が喜ぶからと和食の仕込みを押し付けたのではありませんか? 大方あゆみさんとネロさんをこちらの和食を餌にして自分たちになびかせるつもりだったのでしょう。大量の和食の準備など、仕込みを始められたのもここ数日前のことではありませんよね。違いますか、そこのお嬢さん」
そう言ってテリースが部屋にまだ残っていた農村の娘に尋ねると邪気のないほほ笑みを浮かべた娘が快活に返事を返す。
「もちろん、猫神様と巫女様は私たちの救世主ですからお二人がいつお戻りになられてもいいようにと村人総出で心を込め時間をかけて準備させていただきました。シアン様とシモン様がお力になれる方法をすぐに教えてくださって本当に助かりました」
娘の言葉にシモンとシアンが少し居心地悪そうにこちらを見返した。
「えっと待って下さい、でも結局テリースさんも言われた通りお二人とも何も悪い事はされてませんよね? この子たちの面倒をみて下さってここにも連れて来てくれて。私たちを祭り上げちゃってるのはちょっと行き過ぎですけど悪く言ってたわけじゃないし。それに、和食作ってくれてるんですし。和食!」
あ、ダメだこいつまともに話し聞く気がねーな。
どうやらあゆみの頭は全てすっ飛ばして和食に行っちまってるらしい。
まあ俺もその気持ちが分からねー訳じゃねーがそんな俺たちをテリースとキールが少しばかり呆れた顔で見てる。
「それにこの家だって元々シアンさんの物だったんですよね──」
「いけませんあゆみさん。それはそのまま受け入れたりしないでください。大叔母様は一度ここを捨ててエルフの里へ戻られてるんですから。そんな何百年も昔の所有権を認めてしまったらこの国の大半は彼らの物になってしまいます」
食べ物に目のくらんでるあゆみの言葉を今度こそテリースがさえぎって訂正した。キールが横で同意するように頷いてテリースを見る。
「テリース。お前がここで仕入れたエルフの状況はそれで全てか?」
シアンとシモンを横目で睨みながらキールがそう尋ねるとテリースが小さく頷いて答える。
「ええ、それでほぼ全てです」
テリースの返事に頷き返したキールはコホンと小さく咳ばらいをして今度は俺たちに向き直った。
「では次にネロ、あゆみ。君たちに確認しておきたいんだがその『和食』とかいうのは君たちにとってそんなに重要な物か?」
キールの質問にあゆみが目を見開いて言葉もなくコクコクと何度も頷いてる。それを見た俺は苦笑いをかみ殺しながらキールに説明した。
「まあ、俺たちにとってはあんたらがパンと肉ナシの生活からそれを取り戻すようなもんだと思ってもらって構わねえ」
シアンやシモンの手前、正直すぎるのはあまりいいとは言えねーが既にあゆみが思いっきり素直に反応しちまってるし、キールが尋ねてくる以上こんな所で誤魔化したって仕方ねえ。
俺がはっきりそう答えるとキールがやはり頷いて返した。
「さてナンシー公。ここで一つ提案したいのだが。この屋敷と元教会の敷地内を俺の秘書官に譲渡する事に同意してくれるか?」
珍しくキールがエミールをナンシー公と呼び、これが正式な交渉であることを言外に示すとエミールが少しだけ目を輝かせて俺を見る。
「対価によりますね。ここまでネロ君と小鳥ちゃんに執着している村の者を無理やり僕の統括に組み込もうとしてもあまりいい結果が出るとは思えません。それより僕としては是非、今後この村で収穫される食料品の販売をナンシーの街だけに限って頂きたい」
「独占販売権ってことか」
俺がそう確認するとエミールが白い歯を輝かせながら笑みを返す。
「ええ。奴隷市の代わりになる商品はいくつあっても困りませんからね。『初代王が求めてやまなかった新しい食材』という売り文句はかなり効果的でしょう」
「まあここで取れる食料をあゆみと俺で全て消費するのは無理だろうしそれは構わねーけど……キール本当にいいのか?」
この土地は決して小さくねーし神殿や庄屋の家も含まれてる。そんな物を俺がもらい受けていいのか、ちょっと戸惑わずにはいられない。そんな俺にキールがニヤリと笑って答えた。
「ネロ忘れたのか、お前の褒賞がまだだっただろ」
「ああ、そんな話もあったっけか」
すっかり忘れてた褒賞の話に俺は眉を上げた。
「これでやっとケリがつけられるな。ここの屋敷はネロに褒賞として与える。それに付随して今後この土地はお前ら二人の役職報酬として受け取っておけ。シアン、お前がこれからもここに住みたいと言うのならばそれはこの二人と交渉するんだな」
「お、おい待て! それって要はこいつらの厄介ごとを全部俺に押し付けたってことか?」
キールの最後の言葉にギョッとして見返せばやはりニヤリと笑ってこちらを見る。
「お前らにとってはそれだけの価値があるんだろう? 頑張ってその外縁の連中の問題も一緒に片付けてやれ」
ぐっと言葉に詰まった。俺達にとって和食には確かにそれだけの価値がある。
ちくしょう、結局キールとシアンたち両方から上手く手玉に取られた気がして俺としてはなんか納得いかねー。
ところがそんな俺の気も知らずにあゆみが俺の横で嬉しそうにほほ笑みながらキールに頭を下げる。
「キールさん、ありがとうございます。これで安心して和食が食べられる! シアンさんもここの皆さんに和食の作り方とかいっぱい伝授してくださるのでしたらいくらいて下さっても全然いいですよ。ねえ、黒猫君?」
「あゆみお前なぁ~」
あゆみ、お前の頭の中は食べる事だけでいっぱいなのか。
そう言ってやりたい、が。
まだ決めかねてる俺の事などお構いなしにあゆみがニコニコと満面の笑みを讃えてシアンと俺を見比べてやがる。シアンとシモンもすっかりあゆみに便乗してニコニコと俺を見やがった。
「ちくしょう、これじゃもう俺が文句付けるような隙ねーじゃねえか」
「だからエルフには気を付けて下さいとご忠告したのですが。まあ、これくらいですめばいいほうですよ」
俺が天井を仰ぎながらボソリと愚痴るとテリースが俺を慰めるようにそう言って力なく笑った。
一瞬誰もが言葉に詰まったが、俺はすぐにそいつらに微かな見覚えを感じてシモンとシアンを睨みつけた。
「こいつら、あの時ニコイチにされてた子供たちじゃねーのか?」
俺がそう尋ねるとあゆみがハッとして子供たちを見直す。キール他全員がやはり驚愕の顔を浮かべた。
「よくお分かりになりましたね、その通りです」
そう言ってシアンが振り返ると子供たちが少しオドオドとシアンの顔色を窺う。
「皆様がナンシーを発たれてからすぐこの子たちに変化が始まりました。多分あゆみさんの魔力の影響でしょうね。この通り、ちょうどネロ君のような人の姿を取った獣人の姿に変化し始めたのです」
「え? 私のせいですか?」
「いいえ、あゆみさんのおかげです」
少し不安そうにあゆみがそう言うとシアンが首を横に振りながら訂正した。
「領城で彼らを保護した当初はまだ教会による無茶な再生魔術のせいで身体の不調を訴える者が多くいたそうですが、あゆみさんの固有魔法のおかげで我々が引き合わせられた時にはすっかり回復していました。あの後、外縁の者たちにしても獣人たちにしても直ぐには子供たちを受け入れられないだろうという事で一時的に我々エルフがお預かりしたのです。ところが日が経つにつれ変化が進み、この通り皆ネロ様によく似た人化に落ち着きました」
説明をしながらシアンが一番手近にいた一人の頭を愛おしげに撫でている。
「私が目覚めてすぐ外縁の者たちが押しかけてきて騒動になり、この子たちを置き去りにする訳にもいかずここに一緒に連れてきたのですが……」
そこでシアンが一旦言葉を切って先程の農村の娘に目をやると娘が代わってその先を続けた。
「彼らは猫神様と巫女様に連なる眷属の皆さまですもの、出来る限りのことをさせて頂きます」
そう言って俺とあゆみに頭を下げる。
「この通り、この子たちはここの皆にお二人の眷属として崇められてしまって。その彼らを保護していた私たちごとすっかり面倒を見て下さっているの──」
「お待ちください大叔母様。それだけではないでしょう!」
シアンが綺麗に纏めようとしたところにテリースが待ったをかけた。
「確かに農村の者たちがこの子供たちを崇拝し始めたのは事実ですが、それもこれも大叔母様たちがネロ君やあゆみさんを『猫神様と巫女様』としてしっかり定着させてしまったからだそうじゃないですか」
「はぁああ!?」
「ええええ?」
テリースの言葉にギョッとしてシアンとシモンを見ると二人が少しバツの悪そうな顔で視線を逸らした。
「べ、別に何も間違ったことは言っていませんよ。単にこの子供たちはあゆみさんの能力のおかげでこのような姿になれたと──」
「あゆみさんの『巫女』の力で『猫神様のような姿に』ですか?」
シアンが語尾を誤魔化そうとするのをすかさずテリースが突っ込んだ。
「大体ここの人間がぼた餅と呼ばれるお菓子をお二人にお持ちしたそうですが、あゆみさんとネロさんはそれがおかしいとは思わなかったのですか?」
「ああ?」
「お二人はそのぼた餅を作るのにどのくらいの時間がかかるとお思いですか?」
「あ……!」
テリースの言わんとする事がさっぱり分からない俺を横目にあゆみが合点がいったと手を打った。
「どういうことだあゆみ?」
「黒猫君でも餡子は作った事ないのかな? あれってすっごく時間かかるんだよ。特にあれこし餡だったし。おばあちゃんが作ってたから詳しくは知らないけど一日仕事だったはず」
「って事はなんだ、俺たちがここに来るのを見越して朝から準備させてたってことか?」
別にその事自体は何も悪い事なんてねーんだが、なんかそれまでシアンとシモンが説明してきた事情の流れとは確実に齟齬がある。そう思って改めてシモンを見るとやっぱりスッと視線を外された。
「ええ。それに我々がここに到着した時もすでに夕食の準備をしてると言ってましたよね」
「ああ確かに。じゃあ俺たちがここに来るのも織り込み済みか」
今度はキールが呆れた声で相槌を打つ。
「お爺様も大叔母様も確かに何も悪いことはしていないかも知れませんが、全てを都合よく片付けるための周到な準備は怠ってませんでしたね」
視線を泳がす二人をテリースが追い詰めるように続けた。
「最初からこの子たちを『猫神様と巫女様』の使徒だと農村の者に説明してこの屋敷に上がり込み、このお二人が喜ぶからと和食の仕込みを押し付けたのではありませんか? 大方あゆみさんとネロさんをこちらの和食を餌にして自分たちになびかせるつもりだったのでしょう。大量の和食の準備など、仕込みを始められたのもここ数日前のことではありませんよね。違いますか、そこのお嬢さん」
そう言ってテリースが部屋にまだ残っていた農村の娘に尋ねると邪気のないほほ笑みを浮かべた娘が快活に返事を返す。
「もちろん、猫神様と巫女様は私たちの救世主ですからお二人がいつお戻りになられてもいいようにと村人総出で心を込め時間をかけて準備させていただきました。シアン様とシモン様がお力になれる方法をすぐに教えてくださって本当に助かりました」
娘の言葉にシモンとシアンが少し居心地悪そうにこちらを見返した。
「えっと待って下さい、でも結局テリースさんも言われた通りお二人とも何も悪い事はされてませんよね? この子たちの面倒をみて下さってここにも連れて来てくれて。私たちを祭り上げちゃってるのはちょっと行き過ぎですけど悪く言ってたわけじゃないし。それに、和食作ってくれてるんですし。和食!」
あ、ダメだこいつまともに話し聞く気がねーな。
どうやらあゆみの頭は全てすっ飛ばして和食に行っちまってるらしい。
まあ俺もその気持ちが分からねー訳じゃねーがそんな俺たちをテリースとキールが少しばかり呆れた顔で見てる。
「それにこの家だって元々シアンさんの物だったんですよね──」
「いけませんあゆみさん。それはそのまま受け入れたりしないでください。大叔母様は一度ここを捨ててエルフの里へ戻られてるんですから。そんな何百年も昔の所有権を認めてしまったらこの国の大半は彼らの物になってしまいます」
食べ物に目のくらんでるあゆみの言葉を今度こそテリースがさえぎって訂正した。キールが横で同意するように頷いてテリースを見る。
「テリース。お前がここで仕入れたエルフの状況はそれで全てか?」
シアンとシモンを横目で睨みながらキールがそう尋ねるとテリースが小さく頷いて答える。
「ええ、それでほぼ全てです」
テリースの返事に頷き返したキールはコホンと小さく咳ばらいをして今度は俺たちに向き直った。
「では次にネロ、あゆみ。君たちに確認しておきたいんだがその『和食』とかいうのは君たちにとってそんなに重要な物か?」
キールの質問にあゆみが目を見開いて言葉もなくコクコクと何度も頷いてる。それを見た俺は苦笑いをかみ殺しながらキールに説明した。
「まあ、俺たちにとってはあんたらがパンと肉ナシの生活からそれを取り戻すようなもんだと思ってもらって構わねえ」
シアンやシモンの手前、正直すぎるのはあまりいいとは言えねーが既にあゆみが思いっきり素直に反応しちまってるし、キールが尋ねてくる以上こんな所で誤魔化したって仕方ねえ。
俺がはっきりそう答えるとキールがやはり頷いて返した。
「さてナンシー公。ここで一つ提案したいのだが。この屋敷と元教会の敷地内を俺の秘書官に譲渡する事に同意してくれるか?」
珍しくキールがエミールをナンシー公と呼び、これが正式な交渉であることを言外に示すとエミールが少しだけ目を輝かせて俺を見る。
「対価によりますね。ここまでネロ君と小鳥ちゃんに執着している村の者を無理やり僕の統括に組み込もうとしてもあまりいい結果が出るとは思えません。それより僕としては是非、今後この村で収穫される食料品の販売をナンシーの街だけに限って頂きたい」
「独占販売権ってことか」
俺がそう確認するとエミールが白い歯を輝かせながら笑みを返す。
「ええ。奴隷市の代わりになる商品はいくつあっても困りませんからね。『初代王が求めてやまなかった新しい食材』という売り文句はかなり効果的でしょう」
「まあここで取れる食料をあゆみと俺で全て消費するのは無理だろうしそれは構わねーけど……キール本当にいいのか?」
この土地は決して小さくねーし神殿や庄屋の家も含まれてる。そんな物を俺がもらい受けていいのか、ちょっと戸惑わずにはいられない。そんな俺にキールがニヤリと笑って答えた。
「ネロ忘れたのか、お前の褒賞がまだだっただろ」
「ああ、そんな話もあったっけか」
すっかり忘れてた褒賞の話に俺は眉を上げた。
「これでやっとケリがつけられるな。ここの屋敷はネロに褒賞として与える。それに付随して今後この土地はお前ら二人の役職報酬として受け取っておけ。シアン、お前がこれからもここに住みたいと言うのならばそれはこの二人と交渉するんだな」
「お、おい待て! それって要はこいつらの厄介ごとを全部俺に押し付けたってことか?」
キールの最後の言葉にギョッとして見返せばやはりニヤリと笑ってこちらを見る。
「お前らにとってはそれだけの価値があるんだろう? 頑張ってその外縁の連中の問題も一緒に片付けてやれ」
ぐっと言葉に詰まった。俺達にとって和食には確かにそれだけの価値がある。
ちくしょう、結局キールとシアンたち両方から上手く手玉に取られた気がして俺としてはなんか納得いかねー。
ところがそんな俺の気も知らずにあゆみが俺の横で嬉しそうにほほ笑みながらキールに頭を下げる。
「キールさん、ありがとうございます。これで安心して和食が食べられる! シアンさんもここの皆さんに和食の作り方とかいっぱい伝授してくださるのでしたらいくらいて下さっても全然いいですよ。ねえ、黒猫君?」
「あゆみお前なぁ~」
あゆみ、お前の頭の中は食べる事だけでいっぱいなのか。
そう言ってやりたい、が。
まだ決めかねてる俺の事などお構いなしにあゆみがニコニコと満面の笑みを讃えてシアンと俺を見比べてやがる。シアンとシモンもすっかりあゆみに便乗してニコニコと俺を見やがった。
「ちくしょう、これじゃもう俺が文句付けるような隙ねーじゃねえか」
「だからエルフには気を付けて下さいとご忠告したのですが。まあ、これくらいですめばいいほうですよ」
俺が天井を仰ぎながらボソリと愚痴るとテリースが俺を慰めるようにそう言って力なく笑った。
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