異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第10章 エルフの試練

11 面倒ごとの気配

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 マーティンたちとの話し合いが終わり大体の方向が決まったところでイアンが明日ここに寄こす人間の手配をしに新政府庁舎に先に戻って行った。こっからは俺たちとシモンの話し合いだがイアンがいても仕方ない。
 結局、役所部とハローワークの出張所はこの飲み屋を改装する事にした。今までもこの二人がここで街の人間の対応をしてきたからそれが一番都合がいいらしい。
 あゆみが「じゃあ冒険者ギルドとか呼べばいいのに」なんて言い出した。どうやら『役所部』って名称が気に入らないらしい。
 俺の知ってる小説でも出てきたしこいつの知ってるマンガやゲームなんかの中でもそんな名称を使ってたらしいが俺にしてみりゃ訳わかんなかった。ここには冒険者らしき奴らは誰もいねーしギルドは商工業協同組合として別にあるってキールが前に話してた。そんな訳の分からん名称でここの連中を混乱させてもいい事はねーだろ。こういうのは分かりやすいのが一番いい。
 イアンが店を出ていくと入れ替わりにバッカスがアントニーと数人の獣人、それになせかアルディまで引き連れてやってきた。

「あ、バッカスおはよう、アントニーさんアルディさんもおはようございます」
「おい、わざわざ領城まで行ってここだって聞いたぞ。来るなら来るって言っとけよ」

 あゆみの暢気な挨拶に手を振りながらバッカスがちょっと不機嫌そうにそう文句をつけるのを手招きして同じテーブルに呼びながら謝っとく。

「悪い、イアンのおっちゃんに朝っぱらからそのまま連行されてきたんだ。そっちはどうしたんだ?」
「アルディに頼まれて朝からちょっと北の森に視察に行ってたんだよ」

 そう言いながら俺たちの座ってるテーブルに来た面々が二手に分かれて話し出す。バッカスが連れ立ってた獣人たちはどうやらマーティンたちに報告してるようだ。

「北の森?」
「ええ、実はこの後向かう予定の北の農村から数日前数頭のオークがうろついているのを見たと報告が来てたんです」
「マズいのか?」

 俺が尋ねるとアルディが少し眉を寄せて答える。

「規模によりますね。オークはこの辺を含む北部を大きく周回しながら周期的に居住地を動かして獲物を狩っていきますが、その周回の間にどれだけ数が増えたかによって街への被害が違ってきます。小規模であれば一回の遠征で大半を駆逐して追い払えるのですが規模が大きくなってしまっていると対応が数日から1か月近くかかってしまいます」
「マズいんじゃないかそれ。で、規模は確認できたのかよ」

 俺が二人を交互に見比べながら問うと二人してうーんと唸りながら顔を見合わせてる。

「それが確かに数頭森の端に見る事が出来たのですがまるではぐれの様にそれ以外が見当たらないんです」
「俺もこいつらと森の中を軽く走り回って見てきたがその数頭以外まるっきり姿が見えねえ」

 そう言いながらバッカスが頭をかいてる。

「周期的に言ってもそろそろやってきてもおかしくないはずなんですが……」

 アルディはアルディで戸惑いながらそう答えた。

「じゃあ当面問題ないって考えていいのか?」
「ええ、その数頭はそのまま移動するようですし今の所見逃しました。そうしないと今度はツチ豚モドキが数を減らしすぎてしまいますので。念のためこれからも定期的に兵舎から人を送って北の農村に駐在させるつもりです」

 ツチ豚モドキって言うとここに来た頃串焼きで食ったあれか。結構美味かったし安く手に入る食材って意味では減らすわけにはいかねえもんな。

「いいんじゃねーの、それで」

 なんかあまりいい感じはしねーが今どうにか出来る話じゃないと見切りをつけて俺はそう答えた。アルディも頷いて、「それでは一旦キーロン陛下のほうに戻ります」とだけ言いおいて店を出ていった。

「バッカスお前らはどうする?」

 出ていくアルディの背を少し鬱々とした気分で見送りながらバッカスに問いかけるとアントニー共々同じテーブルに着きながら答えた。

「俺たちはお前らと一緒にいたほうがいいだろ、領城に獣人の俺たちが二人だけで行ったって仕方ねーだろうしな」

 確かにそうだ。あゆみがまたなんか言いたそうにしてるが事実は事実だ。今まであった偏見がたかが一週間やそこらで簡単に変わるとは思えない。特に領城みたいな場所じゃあこいつらだけ残されたら迷惑だろう。まあ、後で俺たちが一緒に戻りゃいい事だ。
 バッカス達が連れ立ってた獣人たちが報告を終え、俺たちにまで頭を下げて店を出ていった所でさっきっからやけに落ち着かない様子でこちらを窺っていたシモンがもう待ちきれねえって様子で尋ねてきた。

「他にここでのご用事がないようでしたら場所をうつしたいのですが」

 チラチラとマーティンたちの顔色を窺いながらシモンがそういう。なんかいい予感がしねえ。

「なんだ、この二人にも言えない話なのか?」
「いえ、そういう事では……ただシアンも庄屋のほうであなた方をお待ちしてますから」
「シアンさんが目覚められたんですよね。でもなんで庄屋にいらっしゃるんですか?」

 あゆみがもっともなことを聞くとシモンがより言いにくそうに続けた。

「それもあちらに着いてからお二人にご相談したいんです……」

 さっきっからやたら歯切れの悪いシモンの様子からして厄介ごとの気配しかしない。

「それならご一緒します、私もシアンさんにお会いしたいし」

 出来る限り巻き込まれたくねー。俺がそう思った矢先にあゆみが嬉しそうに答えちまった。

「おい、ちょっと待てあゆみ。マーティン、あんたらのほうはもういいのか?」

 俺はあゆみを制止してマーティン達に向き直って確認する。いや出来ればなんか見つけてここに居座って時間潰してー。そんな俺の希望も空しく二人が快活に答えやがる。

「ああ、台帳さえ本当にすぐ記録が始まるならこっちは何とかなるだろうし獣人も領主の所で預かりになるなら安心だ、だろゴーティ?」
「ええ、お二人にお任せ出来るんでしたらそれに越したことはございません」

 そこで俺はハッと思い出して今度はバッカスに向き直った。

「ああ。そう言えばバッカス、後で細かい話はするがキーロンがお前らにいくつか頼みごとをしたいらしい。代わりにあの湖の周りの整備と家の建築のほうはここの街から人を出せるって言ってたぞ」

 未だにキーロンとわだかまりの残るバッカスの事だ、文句でも言いだしてくれりゃめっけもの。俺がこいつらを説得するために領城に連れていくって言えば流石にシモンも諦めるだろ。一日ありゃせめてどんなごたごたが待ってんのか周りから聞き出せる。そんな俺の気も知らないでバッカスが嬉しそうに答えだした。

「おお、そうか。そいつは助かる。ガッツの親方が結構頑張っちゃくれてるがあそこの人間だけじゃ女連中が戻ってくるまでに全部の家が建つのは難しいって言われてたんだ」
「なんだよお前ら自分たちで建てるんじゃねーのか?」

 俺が少し驚いて聞き返すとバッカスが頭を掻く。

「最初はそのつもりだったんだがな。あの砦で人間の建てたもんに住んでみたら思いの外居心地良かったんだ。それでガッツの親方たちが水車小屋作る時に手伝いの代わりに一家建てさせたらこれが良くできててな。結局全員頼むことにした。代わりに木材を切り出したり運んだりして返してるがなんせ俺たちは力仕事は手伝えても細けぇ作業は役に立たない。結局親方んとこの人間しか建てる方は出来ねーんだよ」

 思いのほかバッカスが嬉しそうにそう答えるとあゆみが横からバッカスをつついて小声で話し始めた。内緒話ししてるつもりらしいが俺の耳にはきっちり聞こえてる。どうやら俺たちの家がどうなってるか確認してるらしい。結局これも言い逃れの理由にはならねーか。
 仕方なく俺はマーティン達にいくつか明日の注意点だけ残してあゆみを抱えて立ち上がった。
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