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第10章 エルフの試練
6 解析
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お話し合いはそれで一段落して私は黒猫君に抱えられアルディさんと一緒に一度兵舎の方に顔を出すためにお城を出た。
一週間ぶりの兵舎はほとんど何も変わってない。あ、でも確かに途中の綿は全部綺麗に片付いていた。
そのままアルディさんと別れて研究所に行くとピートルさんが既にこっちに来て作業に参加してた。
「おう、嬢ちゃん。早かったな」
「ピートルさんもう作業はじめてるんですか。皆さんお久しぶりです」
「あゆみさん良かった~! やっと来てくださって。頼まれていた解析が進んだので一度お見せしたかったんです」
「あゆみさん、シアンさんどうにかしてください! 勝手に出入りしてるから早く許可を頂きたくて──」
「置いて行かれた溜め石がもう底を突きそうなんです。あゆみさんにぜび是非また魔力貯蔵をしてもらいたく──」
「飛行物体Cがもう少しで──」
扉を開いて挨拶した途端、部屋中からわらわらと研究員が集まってきて口々に色々話し始める。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください、一度にそんなに言われても聞ききれない」
「おい、まずは全員座ったらどうだ」
焦って私が手を振ると黒猫君が私をかばいながら迫ってくる研究員を押し返しテーブルを指し示して座るように促した。座るって言っても部屋の中央に置かれた大きめのテーブルは物であふれかえってる。椅子も人数分はあるけど幾つかは人の代わりに物が乗っかっちゃってる。それを黒猫君に言われて皆がぞろぞろと片付け始めた。
やっと全員が座って最低限お互いの顔が見える程度テーブルも片付けた所でアリームさんがヤカンでお茶を持ってきてくれた。
「はいこれ回して」
私がここで研究してた時と一緒でアリームさんが素焼きのカップにお茶を注いでは順繰りにそれをまわしていく。
あー、落ち着く。やっぱりお茶はこうやって飲んだほうがくつろげるよね。
全員にお茶が回った所でピートルさんが口火を切った。
「嬢ちゃんがここを出る前に依頼してたあの司教服の解析はある程度終わったようだぞ」
ピートルさんに促されて若い研究所員が立ち上がった。
「実はあの後すぐシアンさんがこちらにいらっしゃいました」
話し始めた研究員は最初こそオドオドしてたけどすぐに要点に集中し始める。
「僕たちだけではあの司教服の裏の回路も結界石もどこから手を付けていいのか分からなかったんですが彼女が起点となる部分を教えて下さり、おかげで回路の開始部分と終端部分、襟元の魔晶石との結合部分を分けて解析を進めることが出来ました。結界石に関してはシアンさんがあゆみさんが戻られてから直接ご教授くださるそうです」
「え、シアンさん、もうここに来てたんですか」
緊張しながら報告してくれた青年が座り私が驚いた声を上げるとアリームさんがかぶせるように口をはさむ。
「ああ、困ったことにきちゃってたんだ。司教服と結界石がここに保管されてるって聞いたらしい。どうにも僕たちでは対応しきれないよ、あんな人」
そういうアリームさんの困り切った顔を見ればシアンさんのここでの様子も少し予想が出来た。でもそれでも回路の研究が始められたのは素晴らしい。
「回路自体はそれほど時間を掛けずに書きだせると思うんですがこれだけ細く柔軟な伝導体を作り出すのは僕たちでは無理ですよ」
それは分かってる。分かってるけどね。
「別に同じものを同じように作ることを目指してるわけじゃないから大丈夫です」
喋りながら今まで書き留め終えた分の紙の束を手渡されて順繰りに目を通していく。やっぱりね。
「この司教服に使われてる技術はまだ私たちには理解できません。でも折角そんな過去の知識の詰まった資料が手に入ったんですから出来る限り書き留めて解析していくところから始めるしかないと思うんです。書いてるうちに利用方法が出てくるかもしれません」
そう。見たところやっぱり電子回路っぽいんだけど正直言ってここまでくると大学でちょっと齧った程度の私の知識じゃ全部解析するのは不可能だ。もしかすると過去の転移者の中にはもっと専門的な知識を持った人がいたのかもしれない。
でもどんな技術だってちゃんと読み取れればまねをする事くらいは出来るかもしれない。例え今すぐに使えなくてもいつか役に立つ可能性があるならやっぱり記録しておいた方がいいよね。
「それからな。神殿の方の解析はシアンに止められたそうだ」
資料に目を通してる私にピートルさんがまた先を続ける。今度は別の研究員が立ち上がって説明し始めた。
「はい。神殿の中は知識がない人間が下手にいじると危険なので触らない方がいいそうです。あゆみさんには解析を指示されていたので食い下がったんですがエルフが入り口に立って出入りを制限し始めました」
「え、そうなんですか? まあそれも仕方ないのかな。あそこに閉じ込められちゃう人がもし出ちゃっても困るし。じゃあそっちは手を引きましょう」
私の返事に二人が頷いてピートルさんが次の話題に移った。
「モーターの小型化に必要な細い銅線や鉄芯作りの為の道具も今回ウイスキーの街から俺の道具を色々持ってきたからこれから試す予定だ。それと嬢ちゃんに頼まれた代物な。あっちから持ってきた鉄串とアリームの手作業で取り合えず作ってみたが見てもらえるか」
そう言って出してきてくれたのは大きな木枠にいくつもの玉が串刺しになって連なった物。
「あゆみお前そろばん作らせたのかよ!」
「え、だって本当につらかったんだよ、あの書類仕事。暗算だってあれだけやり続けるともう自信なくなってくるし」
ピートルさんが作ってくれたのは大きなそろばんだった。長い方の一辺が私の腕の長さ程ある。作りやすいサイズでってお願いしたらこうなっちゃった。やっぱり小さく作るのは難しいのかな。
「どうだ嬢ちゃん、これで使えるか?」
「ええ、これで充分役に立ちます。早速明日お城の計算してる人たちに使ってみてもらいましょう。黒猫君が持てるように袋に入れてください」
「今度は荷物持ちかよ」
「ごめんね、私じゃ運べないから」
「別にいいけどな。それ使いこなせる奴いるのか?」
「使ってもらう。だって今までは人材が足りないから見直しも出来なかったけどこれさえあれば暗算できない人も戦力になるんだよ。そしたら時間かかってでも誰かが全部計算チェックできるでしょ」
私はため息を付きながら続けた。
「正直言ってあれだけ一日中計算し続けてるときっとどこかで少しぐらい間違えてるとおもうんだよね。だから検算は絶対したかったの」
これが学校の試験とかそんなんならまだしも街の収支とか国の収支でそうそう計算間違いがあったら大変だし。そんな事を考えてるとピートルさんが興味津々に私に尋ねる。
「嬢ちゃん、これが計算に使えるのは今聞いてたから分かったがどうやって使うんだ?」
「これですか、えっとですね──」
私は簡単に使い方を説明する。今回作ってもらったのはひと串に10玉ついてる物。最初っから5玉は暗算が全く出来ない人には難しいと思ったから。その串が10本ついてるから10桁分まで計算できるようになってる。非常に単純な足し算引き算がほとんどだからこれで十分役に立つのだ。
15分も私が説明したら部屋にいる人たちはほぼ全員3桁くらいの計算は間違いなく出来るようになった。それをみたピートルさんが唸る。
「嬢ちゃん、またやってくれたな」
「え?」
「困ったことに、これは間違いなく売れる。売りたい」
珍しくピートルさんが興奮気味に私に詰め寄る。
「お前さんだってこれがどれほど便利か分かってたから作らせたんだろう。こんなもん商家なら間違いなくどこでも欲しがるぞ」
「あー、そっか。そうでしょうね」
私の言葉に黒猫君がまたも呆れた顔で私を見る。
「お前何にも考えてなかったのかよ」
「考えてたよ、出来れば普及させたいって。だってだって、人手が死ぬほど欲しいんだもん!」
そう、これは切実だ。あの計算地獄から脱出するためなら多少こんな技術がこの世界中に出回ったって私は全然かまわない。
黒猫君は黒猫君で私の横で「これ出していいのか? 問題ねーよな?」って自問自答してる。それを横目に私はピートルさんに小型化をお願いしてみる。
「あ、あとこの球ももう少し平べったくして指で動かしやすくお願いします。それとですね──」
私はついでに5玉のほうもお願いしておく。
「お前さっきこっちは教えるのが難しいって言ってなかったか?」
「うん、でもね、絶対便利なんだよ覚えちゃえば。多分パット君ならすぐ覚えると思うんだよね」
「ああ、そんな気はするな」
「だからここにいる間、時間のある時に使い方を紙に書いてあっちに送ってもらおうと思って」
「ま、喜ぶだろうな。だったらビーノにも作ってやれ。あいつ実は暗算出来るぞ」
「え? そうなの!?」
「字はまだ読めねーがパットに教わってた。すぐ使い物になる様になるな、あいつ」
凄い。ビーノ君がパット君を手伝ってくれると凄くありがたい。
それからしばらくピートルさん達とそろばんのサイズや費用と販路なんかを相談して結局私がキールさんに研究所の名前で売り出す進言をする事になった。
「そんでさっき最後に飛行物体Cとか言ってんのが聞こえた気がするんだが」
これで話が終わったかと思った瞬間、黒猫君がボソリと言った。皆黒猫君が目に入ってなかったから言っちゃったけど怒られるの分かってるから今は言わなかったのに。
「えー、えっとね。ほら黒猫君が椅子が付いてた方が良かったって言ってたでしょ。だからさ、ほら、試してみようかって」
視線をさまよわせながら私が説明すると黒猫君がじろりと私たちを睨んだ。
「……安全装置は?」
「も、もちろん付けました!」
「……だったらエルロンとラダーは付けとけ。エレベーターはまあなくても何とかなるだろ」
え?
「飛行機の部位の名前だ。エルロンは飛行機の進行方向を左右にずらすのに必要だ。それにラダーがつかないと横滑りする。エレベータとフラップがあると失速しにくくなるんだけどな。まあそこはモーターの出力を調節できるようにする方が楽だろ」
黒猫君が私たちの驚く顔を見て説明してくれた。てっきり黒猫君にメチャクチャ怒られると思ってたからちょっとびっくり。
「何で黒猫君がそんな事知ってるの!?」
「あれ? 前に言わなかったか? 俺セスナは運転してたから」
「え? え? 黒猫君、パイロットなの?」
私の反応に黒猫君がガリガリ頭を掻きながら説明してくれる。
「あんまり詳しく言いたくねーけど某国のライセンスは持ってる」
「凄い……」
「細かいことは聞くな。マズいから」
マズいんだ。まあどの道ここじゃライセンスも何もないけど。
その後しばらく黒猫君はそれぞれの役割やどんな動きをさせる必要があるのかを皆に説明してた。その間に私はそこにあるだけ全ての溜め石に魔力を入れ続ける。
こんだけ入れ続けても私の魔力、全然減った気がしないんだけど。私の魔力、本当にきりがあるのだろうか。
一週間ぶりの兵舎はほとんど何も変わってない。あ、でも確かに途中の綿は全部綺麗に片付いていた。
そのままアルディさんと別れて研究所に行くとピートルさんが既にこっちに来て作業に参加してた。
「おう、嬢ちゃん。早かったな」
「ピートルさんもう作業はじめてるんですか。皆さんお久しぶりです」
「あゆみさん良かった~! やっと来てくださって。頼まれていた解析が進んだので一度お見せしたかったんです」
「あゆみさん、シアンさんどうにかしてください! 勝手に出入りしてるから早く許可を頂きたくて──」
「置いて行かれた溜め石がもう底を突きそうなんです。あゆみさんにぜび是非また魔力貯蔵をしてもらいたく──」
「飛行物体Cがもう少しで──」
扉を開いて挨拶した途端、部屋中からわらわらと研究員が集まってきて口々に色々話し始める。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください、一度にそんなに言われても聞ききれない」
「おい、まずは全員座ったらどうだ」
焦って私が手を振ると黒猫君が私をかばいながら迫ってくる研究員を押し返しテーブルを指し示して座るように促した。座るって言っても部屋の中央に置かれた大きめのテーブルは物であふれかえってる。椅子も人数分はあるけど幾つかは人の代わりに物が乗っかっちゃってる。それを黒猫君に言われて皆がぞろぞろと片付け始めた。
やっと全員が座って最低限お互いの顔が見える程度テーブルも片付けた所でアリームさんがヤカンでお茶を持ってきてくれた。
「はいこれ回して」
私がここで研究してた時と一緒でアリームさんが素焼きのカップにお茶を注いでは順繰りにそれをまわしていく。
あー、落ち着く。やっぱりお茶はこうやって飲んだほうがくつろげるよね。
全員にお茶が回った所でピートルさんが口火を切った。
「嬢ちゃんがここを出る前に依頼してたあの司教服の解析はある程度終わったようだぞ」
ピートルさんに促されて若い研究所員が立ち上がった。
「実はあの後すぐシアンさんがこちらにいらっしゃいました」
話し始めた研究員は最初こそオドオドしてたけどすぐに要点に集中し始める。
「僕たちだけではあの司教服の裏の回路も結界石もどこから手を付けていいのか分からなかったんですが彼女が起点となる部分を教えて下さり、おかげで回路の開始部分と終端部分、襟元の魔晶石との結合部分を分けて解析を進めることが出来ました。結界石に関してはシアンさんがあゆみさんが戻られてから直接ご教授くださるそうです」
「え、シアンさん、もうここに来てたんですか」
緊張しながら報告してくれた青年が座り私が驚いた声を上げるとアリームさんがかぶせるように口をはさむ。
「ああ、困ったことにきちゃってたんだ。司教服と結界石がここに保管されてるって聞いたらしい。どうにも僕たちでは対応しきれないよ、あんな人」
そういうアリームさんの困り切った顔を見ればシアンさんのここでの様子も少し予想が出来た。でもそれでも回路の研究が始められたのは素晴らしい。
「回路自体はそれほど時間を掛けずに書きだせると思うんですがこれだけ細く柔軟な伝導体を作り出すのは僕たちでは無理ですよ」
それは分かってる。分かってるけどね。
「別に同じものを同じように作ることを目指してるわけじゃないから大丈夫です」
喋りながら今まで書き留め終えた分の紙の束を手渡されて順繰りに目を通していく。やっぱりね。
「この司教服に使われてる技術はまだ私たちには理解できません。でも折角そんな過去の知識の詰まった資料が手に入ったんですから出来る限り書き留めて解析していくところから始めるしかないと思うんです。書いてるうちに利用方法が出てくるかもしれません」
そう。見たところやっぱり電子回路っぽいんだけど正直言ってここまでくると大学でちょっと齧った程度の私の知識じゃ全部解析するのは不可能だ。もしかすると過去の転移者の中にはもっと専門的な知識を持った人がいたのかもしれない。
でもどんな技術だってちゃんと読み取れればまねをする事くらいは出来るかもしれない。例え今すぐに使えなくてもいつか役に立つ可能性があるならやっぱり記録しておいた方がいいよね。
「それからな。神殿の方の解析はシアンに止められたそうだ」
資料に目を通してる私にピートルさんがまた先を続ける。今度は別の研究員が立ち上がって説明し始めた。
「はい。神殿の中は知識がない人間が下手にいじると危険なので触らない方がいいそうです。あゆみさんには解析を指示されていたので食い下がったんですがエルフが入り口に立って出入りを制限し始めました」
「え、そうなんですか? まあそれも仕方ないのかな。あそこに閉じ込められちゃう人がもし出ちゃっても困るし。じゃあそっちは手を引きましょう」
私の返事に二人が頷いてピートルさんが次の話題に移った。
「モーターの小型化に必要な細い銅線や鉄芯作りの為の道具も今回ウイスキーの街から俺の道具を色々持ってきたからこれから試す予定だ。それと嬢ちゃんに頼まれた代物な。あっちから持ってきた鉄串とアリームの手作業で取り合えず作ってみたが見てもらえるか」
そう言って出してきてくれたのは大きな木枠にいくつもの玉が串刺しになって連なった物。
「あゆみお前そろばん作らせたのかよ!」
「え、だって本当につらかったんだよ、あの書類仕事。暗算だってあれだけやり続けるともう自信なくなってくるし」
ピートルさんが作ってくれたのは大きなそろばんだった。長い方の一辺が私の腕の長さ程ある。作りやすいサイズでってお願いしたらこうなっちゃった。やっぱり小さく作るのは難しいのかな。
「どうだ嬢ちゃん、これで使えるか?」
「ええ、これで充分役に立ちます。早速明日お城の計算してる人たちに使ってみてもらいましょう。黒猫君が持てるように袋に入れてください」
「今度は荷物持ちかよ」
「ごめんね、私じゃ運べないから」
「別にいいけどな。それ使いこなせる奴いるのか?」
「使ってもらう。だって今までは人材が足りないから見直しも出来なかったけどこれさえあれば暗算できない人も戦力になるんだよ。そしたら時間かかってでも誰かが全部計算チェックできるでしょ」
私はため息を付きながら続けた。
「正直言ってあれだけ一日中計算し続けてるときっとどこかで少しぐらい間違えてるとおもうんだよね。だから検算は絶対したかったの」
これが学校の試験とかそんなんならまだしも街の収支とか国の収支でそうそう計算間違いがあったら大変だし。そんな事を考えてるとピートルさんが興味津々に私に尋ねる。
「嬢ちゃん、これが計算に使えるのは今聞いてたから分かったがどうやって使うんだ?」
「これですか、えっとですね──」
私は簡単に使い方を説明する。今回作ってもらったのはひと串に10玉ついてる物。最初っから5玉は暗算が全く出来ない人には難しいと思ったから。その串が10本ついてるから10桁分まで計算できるようになってる。非常に単純な足し算引き算がほとんどだからこれで十分役に立つのだ。
15分も私が説明したら部屋にいる人たちはほぼ全員3桁くらいの計算は間違いなく出来るようになった。それをみたピートルさんが唸る。
「嬢ちゃん、またやってくれたな」
「え?」
「困ったことに、これは間違いなく売れる。売りたい」
珍しくピートルさんが興奮気味に私に詰め寄る。
「お前さんだってこれがどれほど便利か分かってたから作らせたんだろう。こんなもん商家なら間違いなくどこでも欲しがるぞ」
「あー、そっか。そうでしょうね」
私の言葉に黒猫君がまたも呆れた顔で私を見る。
「お前何にも考えてなかったのかよ」
「考えてたよ、出来れば普及させたいって。だってだって、人手が死ぬほど欲しいんだもん!」
そう、これは切実だ。あの計算地獄から脱出するためなら多少こんな技術がこの世界中に出回ったって私は全然かまわない。
黒猫君は黒猫君で私の横で「これ出していいのか? 問題ねーよな?」って自問自答してる。それを横目に私はピートルさんに小型化をお願いしてみる。
「あ、あとこの球ももう少し平べったくして指で動かしやすくお願いします。それとですね──」
私はついでに5玉のほうもお願いしておく。
「お前さっきこっちは教えるのが難しいって言ってなかったか?」
「うん、でもね、絶対便利なんだよ覚えちゃえば。多分パット君ならすぐ覚えると思うんだよね」
「ああ、そんな気はするな」
「だからここにいる間、時間のある時に使い方を紙に書いてあっちに送ってもらおうと思って」
「ま、喜ぶだろうな。だったらビーノにも作ってやれ。あいつ実は暗算出来るぞ」
「え? そうなの!?」
「字はまだ読めねーがパットに教わってた。すぐ使い物になる様になるな、あいつ」
凄い。ビーノ君がパット君を手伝ってくれると凄くありがたい。
それからしばらくピートルさん達とそろばんのサイズや費用と販路なんかを相談して結局私がキールさんに研究所の名前で売り出す進言をする事になった。
「そんでさっき最後に飛行物体Cとか言ってんのが聞こえた気がするんだが」
これで話が終わったかと思った瞬間、黒猫君がボソリと言った。皆黒猫君が目に入ってなかったから言っちゃったけど怒られるの分かってるから今は言わなかったのに。
「えー、えっとね。ほら黒猫君が椅子が付いてた方が良かったって言ってたでしょ。だからさ、ほら、試してみようかって」
視線をさまよわせながら私が説明すると黒猫君がじろりと私たちを睨んだ。
「……安全装置は?」
「も、もちろん付けました!」
「……だったらエルロンとラダーは付けとけ。エレベーターはまあなくても何とかなるだろ」
え?
「飛行機の部位の名前だ。エルロンは飛行機の進行方向を左右にずらすのに必要だ。それにラダーがつかないと横滑りする。エレベータとフラップがあると失速しにくくなるんだけどな。まあそこはモーターの出力を調節できるようにする方が楽だろ」
黒猫君が私たちの驚く顔を見て説明してくれた。てっきり黒猫君にメチャクチャ怒られると思ってたからちょっとびっくり。
「何で黒猫君がそんな事知ってるの!?」
「あれ? 前に言わなかったか? 俺セスナは運転してたから」
「え? え? 黒猫君、パイロットなの?」
私の反応に黒猫君がガリガリ頭を掻きながら説明してくれる。
「あんまり詳しく言いたくねーけど某国のライセンスは持ってる」
「凄い……」
「細かいことは聞くな。マズいから」
マズいんだ。まあどの道ここじゃライセンスも何もないけど。
その後しばらく黒猫君はそれぞれの役割やどんな動きをさせる必要があるのかを皆に説明してた。その間に私はそこにあるだけ全ての溜め石に魔力を入れ続ける。
こんだけ入れ続けても私の魔力、全然減った気がしないんだけど。私の魔力、本当にきりがあるのだろうか。
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