異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

文字の大きさ
上 下
248 / 406
第9章 ウイスキーの街

25 傀儡考察

しおりを挟む
「そろそろ本題に入るぞ」

 それまで黙って様子を見ていたキールが声をかけた。

「昨日の経緯は大体アルディとレネから説明してもらった。あゆみもネロも休ましてやりたいがその前に今回の件でどうしても確認しなきゃならない事がある」
「傀儡の事か?」
「ああ。先ずはルーシーという娘がいつどこで傀儡になったのかだが」

 そう言ってキールがレネを見るとレネが頷いて話しだした。

「ルーシーは昨年の夏、流行り病にかかって死にかけたことがあるんです。その時に数ヶ月『連邦』でお世話になりました」
「レネには『連邦』が死者を傀儡の魔術で操ってる可能性があることは説明した。ルーシーの場合、そこで肉体はもう死亡してた可能性が高いな」

 キールが後を引き取った。俺は頷いて補足した。

「今更だが俺が最初に会った時にはルーシーの身体はもう死んでたと思う。今考えれば心音を聞いた覚えがねーんだよ。まあ気にかけてなかったから確信はねーけどな」
「じゃあその時点でルーシーの意識は?」
「私が話してたルーシーちゃんと首絞めてたのは絶対別人だと思います。あの時点では本人だったはず」

 キールの問いかけに今度はあゆみが辛そうに口をはさんだ。それにキールが小さく頷き俺が補足した。

「俺も同意見だ。乗っ取られた後のルーシーは顔つきからしてまるっきり違ってた」
「じゃあいつ入れ替わったんだと思う?」

 そこだ。俺はため息を付いてキールを見返す。

「なあキール、俺たちの知ってる『傀儡』についてちょっと一度整理してみようぜ。今までに俺たちが見た『傀儡』はこの街の外でヨークの髭ジジイとその従者、沼トロールと『連邦』の兵士、元ナンシー公と大臣たち、それにあそこの不憫なガキども、それだけだな」

 キールとアルディが頷いた。

「その中であの不憫なガキどもだけは間違いなく教会がやった別もんだ。死体は腐り始めてたし本人の意識もまるっきり残っちゃいなかった」
「ああ、確かにな」
「残りの奴らの中で、昨日のルーシーの中身とあの沼トロールの中身だったのがとにかく偉そうだった」

 俺の指摘にアルディが苦笑する。

「ルーシーの方は見ませんでしたが沼トロールの方は偉そうと言えば確かに偉そうでしたね」
「昨日のルーシーを乗っ取った奴も偉そうだったよ」

 突然レネが顔と不釣り合いな男の声音で怒りを滲ませながら付け足した。

「そんでもってどいつもこいつもとち狂った事言ってたな。ヨークの連中は踊らされて送られてきた感じだったしナンシー公は完全に妄想に執着してた。残りの兵士や大臣は全くの無反応だったし既に意識が死んでたんじゃねーかと思う」
「良く考えるとネロ君だけがほとんど全て見てますね」
「元ナンシー公がハビアと対決した時どんなだったかも後で確認した方が良さそうだな」

 アルディとキールが興味深そうに食いついてきた。

「ここまでの内容から俺も幾つかの推測を立ててみた。まず傀儡の魔術は死んだ人間の身体を操れる。これは皆同意するよな?」
「ああ」

 あゆみを含め全員が頷き返しキールが代表して答えた。

「次に死んだ身体には元の意識を残したり残さなかったり出来るらしい」
「それも同意しよう」
「意識のねーやつは殆ど自動制御みたいに細かいコントロールはしてなかったよな。こっちは意識があるのと同様後から乗っ取れるかは分からねえ」
「それだと教会の時の子どもたちと似ているな」
「ああ、教会のは一時に一人だったが連邦のは大量に来るがな」

 俺もそれぞれの様子を思い出しながら確認する。

「そんで次のは予想だが傀儡の魔術の支配下にある意識は誰かがある程度コントロールできる」
「それはルーシーや元ナンシー公がずっと操られてたって事か?」
「ああ。もしルーシーがあの手紙を書いたんだったらかなりのコントロールが出来ると考えていいと思う。ナンシー公の場合は考え方までかなり影響されてる様子だったしな」
「確かに。だがその時点で乗っ取られてた可能性はないか?」
「乗っ取ってるならもっと手早い方法がある気がする。っていうかこの術を掛けてる奴は本人のモノマネが出来るほど器用じゃないんじゃねーのか?」
「確かに昨日のルーシーを乗っ取っていた者は短絡的な思考の持ち主のようだったしね」

 またもレネが男言葉で苦々しそうに自分の意見を差しはさんだ。こいつ、怒るとこっちが素で出るのか。

「後多分本人が昨日言ってたように、一度乗っ取ると元の意識は死亡するんだろ。だから乗っ取りは一度しか出来ねーんじゃねえか? それにコントロールはあの時の『連邦』の兵士達みたいに大量に出来るみたいだが一度に乗っ取れるのは一人っぽい。多分そっちには制限があるんじゃねーのかって気がする」
「そうかもしれないがこっちは確信が持てんから保留だな。間違ってた時のリスクが高すぎる」
「確かにな」

 キールの言う事には一理ある。俺もそれを肝に銘じて先に進んだ。

「でこれが最後だけどな。ルーシーと沼トロールを乗っ取った奴が『影の王』って呼ばれてる奴の気がする」
「……確証はないけど僕もそう思うよ」
「僕もそんな気がしてます」

 誰も確証はもてないのにアルディとレネが同意してくれた。

「ここまでの推測を合わせるとだな。影の王ってやつが傀儡の魔術を使えて、手を付けた死体をキープしてあっていつでも俺たちを襲ってくる準備がある……てスゲー嫌なシナリオになる」
「…………」

 部屋が静まり返っちまった。それぞれがその最悪なシナリオに声が出ない中、あゆみがぼそりと付け加えた。

「それってここにもルーシーちゃん以外に傀儡が混じってるかも知れないって事だよね」

 多分全員が同じことを考えていただろう。いや、キールはだからこそこの話を今しなければならないと持ち出したんだろうな。
 そう思ってみればキールが静かに口を開いた。

「昨日の事件の後、ここの娼婦は全員それぞれの部屋で軟禁させてもらった。部屋の前には兵士を付けて見張らせている」

 やはりキールは昨日俺に確認を取った時点で確信してたのだろう。レネの顔が暗いのもその結果を理解しての事だ。

「悪いがテリースとネロでそれぞれの部屋をまわって生存を確認してほしい。アルディはこいつらに兵を付けて傀儡と化してる物は……速やかに処分しろ」
「そ、そんな! だって心は生きてるんですよ? ルーシーちゃんの時みたいに……」
「あゆみさん、それは……」

 レネがあゆみを止めようとするがあゆみは口を閉じない。

「黒猫君、なんか方法があるはずだよね? だってまだ生きてるんだよ? 処分って、処分って!」

 あゆみの為、なんてことじゃなく俺だって気分が悪いのは同じだ。そしてそれはここにいる奴全員同じだろう。
 俺はちょっと考えてからあゆみを抱きあげて膝に乗せ、あゆみが驚いて口を閉ざしたところでキールに尋ねた。

「なあキール。いつかお前が俺を救ってくれた時にやった奴。あれ精魂転移だっけ?」
「なんだ唐突に」
「この傀儡の魔術ってなんか似てねえか?」
「はあ?」
「身体がすでに死んでるって事と同じ本人の体だってことを除けばこれってあれに近い気がする」

 俺の言葉をしばらく思案していたキールが最後にゆっくりと頷いた。

「……確かにな。だがあれだって身体が生きてなきゃ絶対出来ないぞ」
「ああ、だからこの魔術使ってる奴は死んだ、または死ぬ直前の身体をあゆみの足みたいに時間停止して入れ物にしちまってんじゃねえか?」
「面白いアイディアだな。だが通常精魂転移は相手を操る事は出来ないしそれじゃあやっぱり対象は死んでる事になる」
「まあな。原理はよく分かんねーが俺はそんなもんに感じたって事だ。死んでることには変わりねえが魂はきっちり入ってるって事だろ。じゃあ問題は『連邦』にコントロールされたり乗っ取られるって事と一度乗っ取られたら抜けるときに死んじまうって事だ。逆に言えばコントロールされたり乗っ取られない限り死なないし問題はない」
「ちょっと待て、今なんか幾つか無理があった気がするぞ」
「いいから聞けよ。キール、お前が言う通りこれが失敗すりゃ生きてようが死んでようが処分するしかねえんだろ。だったら少しくらい試したって変わんねえ」

 俺の言葉には悲しくも俺たちの現状がしっかりと表現されていたらしく、もう誰も文句は言わなかった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...