異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第8章 ナンシー 

86 バッカス達

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「あゆみすまねえ」

 門の所に私たちが着いた途端、バッカスが頭を下げた。

「うちの奴らを締めたらやっぱり何人かがお前らの話を女どもにしてたらしい。女どももまさか女同士で話してるのを来てた医者に拾い聞きされてるとは思わなかったらしい」

 やっぱりその話か。私もそれを気にしなくていいって言おうと思ってたんだけど。私が何か言う前に黒猫君が話し出す。

「バッカス、それはお前がどうにか出来るもんじゃなかったんだから仕方ねえよ。あゆみも言ってたけど結局今の所は何の被害も出てねえしな。だけどそういう事もあるからそろそろみんな呼んで一緒に住んだ方がいいんじゃねえのか?」
「ああ、俺たちもそれを話し合ってた。あの湖あったろう、あの近くの川べりに水車小屋が出来上がるのを待って俺たちの家を作り始めようと思ってる」
「バッカスたちの家ってどんなの?」

 そう言えばずっと砦に住んでたから知らないや。

「家っつってもかなり簡素だな。本来は族長がハーレム作るから大きな家が必要だが俺はその気がねーし」
「なんでだ?」

 なんでだって、黒猫君、なんで君こそハーレム作るのを当たり前に肯定してるの?

「俺ら北の森で多くの女を失ったろう。これで俺が女を独り占めしたら流石にマズい。って言うかもしかしたら俺はもうつがいは作んねーかもな」
「え? なんで?」

 今度は私が聞く番だ。

「あゆみには前に言ったが俺まずそう言うのよく分かんねーし。それだけじゃなくどうも俺は既に普通じゃねえ気がする」
「どういう事だ?」

 そこまで話したバッカスが周りを見まわす。どうも門の所で立ち話出来る話じゃないみたいだ。

「お前ら時間あるか?」
「お二人は綿花摘みと雑草の片付けが終わるまでお忙しいですよ」

 突然アルディさんが横から口を挟んだ。

「もしお二人をどこかに連れ出されたいんでしたらまずはここの片付けをお手伝いされると早いと思いますよ」

 そう言ったアルディさんの綺麗な笑顔がちょっと胡散臭い。

「仕方ねえな」

 でもバッカスはやけに素直に納得して頭を掻きながらゴーティさんの所に手伝いに行った。

「どうしたんだあいつ」
「ちょっと変だよね」

 黒猫君と二人、ちょっと心配になってしまう。

「ほらお二人も作業に戻りましょう」

 なんて考え事を続ける間もなく私はヴィクさんと一緒に再度綿花摘みに、黒猫君はまたもアルディさんと魔術訓練に行ってしまった。

「そんじゃこの二人は夜までには送り届ける」
「バッカスは明日も来ていただけると助かりますよ。ゴーティもまさかあなたからあゆみさんの魔術伝達についてお話が聞けるとは思っていなかったと言ってましたしあなたもまだまだゴーティさんと一緒にあゆみさんの為にお返しをされたいんじゃないんでしょうか?」
「うっ」
「投擲のあとそのままお仲間と一緒に残っていただけると助かりますね」

 どうもアルディさんは人の弱みに付け込むのが上手みたい。バッカスが「また明日」と言いながら見送るアルディさんに無言でうなずいた。



 森に戻るバッカスの後を黒猫君に抱えられて走っていくと狼人族のみんなが一列に並んで待ってた。あれ、ひょっとして。

「ああ、今日お前らが来るかもしれないって言っておいたから『友の会』の奴らが順番決めて待ってたぞ」

 ああ、皆すっごく嬉しそうに真っすぐ私の手をみてる。そんな手ぐすね引いてまってないでよ、みんな。
 黒猫君がバッカスたちと火を起こして私たちの分の夕食の準備をしている間、仕方なく私は短いながらも全員の毛づくろいを始めた。
 みんなちゃんと約束守って定期的に水浴びしてくれてるみたいで毛並みが綺麗だ。そう言ってあげたら立派な木製のブラシを見せてくれた。凄い、私の櫛より豪華だ。

「ねえバッカス、これ何のお肉?」
「ああ、今日は大量に土豚が取れたから土豚祭りだ」

 黒猫君が先に火を入れてくれた私の分のお肉をほおばりながら聞くと生のまま骨から食いちぎってるバッカスが答えてくれた。うわ、よく見たら足がまだ付いてた!

「バッカスせめて骨から外してから食べてって言ったよね?」
「骨にくっついた所が旨いんだよこれは」
「あゆみも骨付きで焼いたの食べてみるか?」
「い、いらない」

 どうやら黒猫君、自分の分は骨についたまま焼いたらしい。

「それでアルディ達抜きで俺たちにしたかった話ってのはなんだ?」

 一通り食事も終わって火の前でくつろぎ始めると黒猫君が早速バッカスに尋ねた。

「あー、ネロ、お前まえにあゆみといると成長魔法でなんか変わっちまうって言ってたよな」
「ああ。なんだ、人化でもしたか?」
「いや、人化はしなかったんだがな。ちょっと見てくれ」

 そう言ってバッカスは左目を隠してた眼帯を外した。

「お前それ……」
「バッカスもしかして見えるの?!」
「ああ」
 
 そう言ってバッカスが左の眼を左右に向けて周りを見回す。

「すごい! 良かったじゃないのバッカス!」

 喜んで叫ぶ私とは裏腹にバッカスの表情が厳しい。

「ああ、見える様になったのはいいんだけどな。見えすぎんだよこれ」
「え?」
「あのな、俺たち狼人族は人間に比べりゃ確かに目がいいよ。結構地平線近くのものまで見えちまう」
「凄いな、俺以上だ」
「え? 黒猫君ももっと見えるの?」
「ん? 言ってなかったか? 暗い所でも結構よく見えるぞ」
「え? 聞いてないよ、それって暗闇でも?」
「ああ、見える時は見える。人間だった頃よりは全然よく見えるな」

 待って、今まで私流石に暗闇では色々気を抜いてしてた気がするんだけど……もしかして見られてた?
 引きつる顔を何とか抑えて私が黙り込むとバッカスが先を続けた。

「あのな、そんなもんじゃねえんだよ。こっからナンシーの城門が見えちまう」
「はあ?」

 黒猫君の素っ頓狂な声にバッカスがため息をつく。

「おかしいだろ、どう考えても。木とか色々途中にあるはずなのに見えちまうんだよ」
「あゆみ、お前何やった?」
「え? 私? し、知らないよ」
「お前しかねーだろこんな事」
「そ、そうかもしれないけどそんなの私も何かした意識ないんだから聞くだけ無駄」

 私の返事を聞いて黒猫君とバッカスが顔を見合わせてため息をついた。

「でな、これもそうだが火魔法の事もある。だから俺が下手に子孫残すのはマズい気がしてきた」
「え? そ、そんな!」

 考えても見なかったバッカスの言葉にガツンと頭を殴られた気がした。
 今まで黒猫君が人型になっちゃったりバッカスが少しばかり大きくなったり、目が見える様になったからってそれがバッカスや黒猫君の生き方に影響を与えるなんて思っても見なかった。違う、影響を与えたとしてもそれがこんな風に悪い方向に向くとは思わなかったんだ。

「バッカス、それ考えすぎだろ」

 ぞっとして言葉の出なかった私とは裏腹に黒猫君が軽い調子で返事を返した。

「まず大体俺たちの身体の変化が遺伝するのかなんて誰にも分かんねえだろ。そんな事言ったら俺猫だしな。しかも遺伝したからって問題が起きるのか本当に分からねえ」

 そう言って黒猫君が私を見る。

「あゆみ、お前気にするか?」

 ジッと私を見つめてそういう黒猫君の真意は分かって、でも恥ずかしくて顔を俯けてしまった。

「き、気にはしないよ。黒猫君の言う通りまだ問題があるとは言えないし、私はなんか大丈夫な気がするから」

 私がそれでもちゃんと返事を返すと黒猫君が嬉しそうにポンポンと私の頭を叩いた。

「ってわけだ」

 それを聞いてたバッカスがちょっと戸惑った顔で聞いてくる。

「じゃあ、結局お前らつがいになったのか?」
「ああ」
「え?」

 ど、どういう意味なのそれは?
 焦る私とは違い黒猫君が凄く優しい目で私を見ながら続けてくれる。

「こいつと一緒にやってくって決めた。こいつも承知してくれた」

 なんで黒猫君はそういう事がスラスラ言えちゃうのかな?
 確かに黒猫君に告白されて、全部受けたよ。でもまだそんな風にはっきりと口に出して答えるのは私には無理だ。
 そんな私の様子を見てバッカスが少し首を傾げる。

「ネロ、お前本当にこいつに意味説明してるのか? なんかあゆみは今一つ分かってない顔してるぞ」
「ああ、大丈夫だ。これからゆっくり説明していくから」
「そうか。……じゃあ俺も少し考えてみるわ」

 バッカスが少し照れた顔で俯きながらぶっきらぼうに黒猫君に答えた。

────
作者より:

近況報告でもお伝えしましたがナンシー編が終わる12月12日(未確定)頃から来年の1月4日まで冬休みを頂きます。その後は1月5日から毎日更新を再開する予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。
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