異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第8章 ナンシー 

71 反省会6:ハビア

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「じゃあ、犠牲なんかなかったんじゃねーか」
「何言ってんだよ、見ろこいつの尻尾! 半分毛が落ちてんだろが」

 ハビアさんの話の途中で黒猫君が余計な突っ込み入れると直ぐにバッカスが横に一緒に立ってたハビアさんの尻尾を掴んで皆に見えるようにパタパタしながら後ろから喚いた。
 あ、ホントだ。尻尾の先の方の毛が縮れて短くなっちゃってる。
そ、そっか電撃強過ぎるとああなっちゃうのか。今度から気をつけよう。気のせいか黒猫君の視線が痛い。
 でもすぐにハビアさんがバッカスの手の中から自分の尻尾を引っこ抜いて慌てて言い繕う。

「いいっスよ族長、尻尾くらい」
「尻尾くらいってお前、それ母ちゃんのお気に入りだろうが。それで母ちゃん落としたって言ってたんじゃなかったか」
「え? ハビアさんの母ちゃんて奥さん!?」
「え? 俺が結婚してちゃまずいっスか?」
「いえ、あまり想像がつかなかったので、つい……すいません、続けてください」

 そうだよね、ハビアさん、人間年齢で40歳くらいだもん、結婚しててもおかしくないんだよね。でもただなんかハビアさんの喋り方ってすごく特徴的で。今バッカスの横で膝に手を乗せてしゃがんでるハビアさんこそ、白い長ランとか木刀とかが似合いそうな気がする……



 ──その頃庄屋内・離れ前にて(ハビアの回想)──

 またしても俺っス、ハビアっス。

 ただいま庄屋内・離れ前にて美少年とタイマン中っス。
 俺の対応がちょっと弱気なのは聞き逃して欲しいっス。


「あの聞いてますか? 僕が投降しますから、ここにいる皆を安全に連れ出してくれますかって聞いたんですけど?」
「も、モチロン聞いてたっスよ。そ、そりゃ俺だってそのつもりっスよ。でもちょい待ち、なあ坊ちゃん、あんたそんな簡単に投降しちまっていいんスか?」
「いけませんか?」
「いけないってことはないっスけどね、こっちの予定狂っちまうじゃねーっスか。なんで俺が坊ちゃんを傷つけないって思えるんです?」
「だってヒロシ君の退避を促す叫び声はここまで聞こえてましたし、今もこの通り僕、無事ですから」

 俺を前にこの少年、うろたえもせずつらつらと返事してくるんスよ。こっちの方が逆に焦っちまって。

「え? ああ、まあそうですけどね。そっすか。えじゃあ、坊ちゃんはヒロシの知り合いっスか」
「ええ。ここ2年ほどヒロシ君のお姉さんやお母さんと一緒に暮らしてます」
「じゃ、じゃあ投降じゃなくて退避じゃないっスか。何でそんな黒い服きてるんスか、間違いちまいますよ」
「いえ、僕は教会の者です。ただこちらの教会の行いには思う所がありますので皆さんに協力したいだけですよ」

 キレーな少年は頭もいいらしいっス。なんか俺には分かんねーっスけどこっちに協力してくれるってんならありがたいっス。
 俺がそれでもこっからさてどうしたものかと考えあぐねいてると俺の気も知らないで「みなさーん」と戸の中に戻って人を集め始めちまって。

「ああ、待ってくださいよ。皆さんと逃げるのはいいんスけどね。実は俺らももうこの塀の外をしっかり囲まれちまってですね。多勢に無勢で今んとこ膠着しちまってんスよ」

 早速投降の準備を始めようとするその少年に待ったをかけたんスけど、代わりにこの少年から思いもしない提案されちまったんスよ。

「でしたら僕を人質にしてください」
「へ?」
「人質です。僕は教会の大切な『神子』ですからきっとお役に立ちますよ」
「神子ってなんスか? いや、それよりそんな卑怯な真似できねーっスよ」

 俺が訳わかんなくなって焦って断ってんのにこの少年は俺の方が分かってないって顔で見返してきたんスよ。

「おかしな人だなあ、僕が協力するっていってるんですから全然卑怯じゃないですよ」

 そう言ってすぐにまた離れの扉に戻って「避難しますよー」と暢気な声で避難準備を始めちまったんスよ。その少年の声に引き寄せられるように中から出てくるは出てくるは。
 ガキンチョから年増まで揃いも揃って50人はいたっスよ、あれは。しかも見た事もねー裾を引きずる様な長い服着てんスよ。これを俺にどうしろってんですかね。

「では行きましょう」
「行きましょうってどこへっスか?」
「どこって、そりゃ門の所ですよ。司教様たちがもう集まってるんですよね? じゃあほら、その鋭い爪を僕の喉に押し当ててください」
「ひっ! そんなことしたら少年が死んじゃうっス!」
「だから真似だけですよ、ほら早く!」

 最後はとうとう自分から俺の手を握って自分の首に巻き付けてくれたんスよ、その少年。

「そ、それでどうすりゃいいんスか?」
「そうですね、ここは『この神子を傷つけられたくなかったらそこをどけ!』ってところでしょうか?」
「それ、俺が言うんスか?」
「他に誰がいるんですか?」

 そう言ってわざとらしく周りを見回すんスよ。渋る俺の手を自分の首に押さえつけて歩き出す少年に俺は仕方なく言われるままに少年以下婦女子の皆様を引き連れて族長が暴れてる門に向かったんっス。


「おい! ハビア見損なったぞ! お前何てひでーことしてやがんだ!」

 門のすぐ内側で外を睨み据えていた族長が遠目に近づく俺の姿を見て叫んだんスよ。
 言わんこっちゃない。早速族長の叱咤が飛んできたっス。でも俺、悪くないっスよね?

「ま、待つっス、これには訳があるん……ぐえっス!」

 って俺の言い訳なんて聞かないでガツンと頭にキツイ一発が飛んできたっス。

「待ってください、彼の言う通りです。僕が自分から人質になるって志願したんです。僕を使ってここの婦女子の皆さんを退避させて欲しいって。この人のせいじゃないですから」

 そう少年が庇ってくれたんっスが、ちょっと手遅れでしたっスね。
 俺の頭にはでっかいたんこぶが膨らみ始めてるっスよ。

「本気か? あの連中があんた一人の為に本当に道を開けると思うのか?」

 族長は俺とは違ってスゲー疑い深いっス。
 族長は頭のタンコブをさすってる俺と少年の顔を交互に睨みつけながらそう言って最後に少し怖い片目で少年を見下ろしたんスよ。

「しょ、少年、無理はいけないっすよ」

 俺もちょっと心配になって付け足してみたっス。余計族長の目が怖くなったっス。

「ご心配頂いて恐縮ですが、僕なら絶対大丈夫ですよ。もし僕をお疑いな様でしたらいっそ縛り上げて下さってもいい」
「気に食わねーな。スゲー気に食わねー。俺は女子供を盾にするような真似は嫌いだ」

 まあ、そうっスよね。族長ならそう言うって思ってましたっスよ。
 でもそんな族長を困った子供を見るようなやけに冷めた目で少年は見返してたんス。

「でもそれじゃあここに閉じ込められたままみんなで死を待つんですか? それともさっきみたいに飛び出していくの? 今度こそ死んじゃいますよ」

 その少年の返事はやけに淡々としてて俺、ちょっと気持ち悪かったっス。こう、なんて―のか背中がスーッと寒くなる様な。そんな気がしたっス。
 でもすぐにまたあの綺麗な笑顔を浮かべて少年が外を指さしたっス。

「ああ、でもなんかその必要もなくなったみたいですね。ほら、外からほとんどの司教たちが居なくなりましたよ」

 少年の冷静な指摘に俺と族長が驚いて外を見ればほんとに潮が引くみたいに誰もいなくなってたっス。まあ、何人かは地面に転がったままだったっスけどね。

 そんで残った教会に向かう白服たちをおっかけてった先でネロさん達にやっと会えたってわけっスよ。




「ああ、それでその綺麗な少年は結局どこに行ったんだ?」

 ハビアさんの話が終わったところでキールさんが部屋の中を見回す。

「俺は若い連中に女子供と一緒に塀まで送らせたぞ」

 バッカスがそう言うとバッカスと一緒に来てたもう一人の狼人族のえっとナリさんだったかな? がバッカスに睨まれて「え? 俺ですか?」って自分を指さしてる。

「いやー、そんな覚えてねーですよそんなの。なんせすげえ人数いたんですぜ?」

 キールさんが今度はトーマスさんの方を見て尋ねる。

「おい、トーマス。そっちでも逃げ出した人間の情報は集めたんだろう。それらしき者はいなかったのか?」
「いーえ、見ませんでした。確かに顔立ちの良い子供は結構いましたが、そのくらいの年齢の男子は一人もいませんでした」

 念のためと言ってトーマスさんが一緒に隠れ家を管理してた貧民街の人たちを見回したけどやっぱり誰も見なかったみたいだった。

「ここで一人行方不明か」

 そう言ってキールさんが少しくらい顔で黙り込んだ。
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