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第8章 ナンシー
39 裏の菜園
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「これで一仕事終わりだな。じゃあ街に戻るぞ」
話し合いを終わらせて森に消えていくバッカスを見送った黒猫君がそういって私を抱え上げて走り出した。
うん。さっきの山道のとんでもない経験のおかげで単にスピードが上がる程度なら全然平気だと思える自分が悲しい。
あ、そういえばあれはお仕置き案件じゃないかな?
うーん、でもお願いしたのは私だし、大体もう黒猫君電撃魔法できるから効かないのかな?
行き同様、門のところから兵舎までは姿を見られないよう兵士用の塀の横に作り付けられた通路を抜けていく。ちょうどその出口に当たる辺りが兵舎の裏の新しい菜園予定地だった。見れば今朝黒猫君や私を囲んで冗談をいっていた新兵さんたちが畑作りを手伝ってくれてる。
「みなさん、お手伝い本当にありがとうございます」
私が黒猫君の腕の中からお礼を叫ぶとみなさんが顔を上げてこちらを見た。
「これくらい練兵場の惨状に比べればどうってことありませんよ」
「ああ、一体何が起きたのか半日で草ぼうぼうになっちまって新兵は午後いっぱい全員で草むしりだったからなぁ」
「俺農家の出だから慣れてるけどそれでもきつかった」
うわわわ、それ間違いなく私のせいだ!
「す、すみません私がやらかしてしまったせいで皆さんに多大なご迷惑をおかけしちゃって」
「なんであゆみさんが謝るんですか」
「そうですよ、あんな事があゆみさんの失敗一つで起きるわけないじゃないですか」
「そうそう、なんかたまたまキーロン殿下の魔法が暴走したとか」
「ああ、キーロン殿下の生魔法は凄いからな。俺、目の前で草の芽が出るのを見せていただいたことあるぞ」
「ああ、俺もだ」
「ああ、そういえばネロ殿、今更こんな所に野菜の屑なんて蒔いてどうするんですか? 芽が出る頃には寒くなりますよ?」
「…………」
「あ、あの。あれ本当に私のせいですから。本当にごめんなさい」
いたたまれなくて何度も頭を下げて謝る私を抱えたまま、黒猫君が無言で畑のすぐ横まで近づいてそこに立っている兵士さんに尋ねた。
「……もうクズ野菜は埋めたんだな」
「はい。芽の出そうなジャガイモの皮や切り落としがこっち半分、こっち半分は適当に……って誰だよ芽の出たジャガイモそのっま植えたやつは……おわっ!?」
返事をしていた新平さんが驚いてたたらを踏みながら畑からこちらに転げ出て来た。
ああ。うん。
私頑張ってって思った。頑張って育ってって。畑見ながら。
だってこれ、みんなの食料だし。
すぐ食べさせてあげたいし。
でも初めてその効果の程を目の当たりにした感想は……黒猫君と二人揃って「どんだけだよ」だった。
「うほおっ!? こんなのありかよ」
「これ、ま、ほう、か!?」
「あ、あゆみさん、あなたまさかほんとに……?」
見るみうちに私達の目の前でいくつもの芽がニョキニョキ伸びだした。種類も違えば大きさも違う目が畑の全面びっしりと埋め尽くす。
そこからは早回しの映像よろしく茎が伸びて葉が茂りだし、蕾がついたと思ったら直ぐに花が咲いて、ツルが好き勝手そこら中に伸びて生き物のように地面を這い回る。
そのうち実がなって、地面がなんかボコボコいって。
うわ、芋が地表まで溢れ出てきた。
「……お前、どんだけパワー漏らしてんだよ」
「えっと、今回は特別ちょっと気合入れちゃったかな? みんなの夕食って考えてて」
呆然と畑を見つめる黒猫君と私。それをまた見つめる周りの新兵の皆さん。
「と、とりあえずこれで夕食はバッチリだね」
「……ああ、多分兵舎全員の夕食賄えるくらいバッチリだな」
「じゃ、じゃあ皆さん、引き続き収穫までよろしくお願いします」
顔の引きつっている新兵の皆さんを後ろに私と黒猫君は逃げる様に部屋へと向かった。
「ということだからみんなが食べ物のことで肩身の狭い思いをする必要はないんだからね」
「姉ちゃん、今度は全く違う意味で俺ら悪目立ちするんじゃないかそれ?」
「こ、細かいことは気にしちゃだめだよ」
私の説明を聞いたビーノ君が呆れ返ってる。
話を聞いて廊下の窓から外を見に行ってきたヴィクさんがまだ信じられないという顔でこっちを見てる。
ヴィクさんは畑の手配をしてから子供たちをお昼に連れて行ってそのまま部屋で一緒にいてくれたのだそうだ。なんのかんのでヴィクさん、もしかして子供好き?
またも黒猫君にみんなのベッドにおろしてもらって子供たちに囲まれながら話してるんだけど。
なんだろう、こうして囲まれてること自体がすごく幸せで。
私、変なのだろうか?
でもいつかあった我が家の犬猫に囲まれておばあちゃんに見守られていた頃を思い出した。
「お姉ちゃん、泣いてる?」
「涙」
「え? うそ、泣いてないよ。ちょっと目が痒かっただけ」
そういってごまかしながら私は目元を拭った。
本当だ。涙が出ちゃってる。
なんか最近よく泣くなぁ、私。
「それより今のうちにお風呂行きたいな。黒猫君、お風呂ってこの時間借り出せると思う?」
まだ夕方で兵士の皆さんはお仕事中のはず。誤魔化すように話題を振ったけど今のうちにこの子たちをお風呂に入れたいのは本当だ。
「聞いてきてやってもいいがな、お前はどうやって行く気だ?」
そこでヴィクさんを見上げた。
「ヴィクさん、申し訳ないんですけどちょっとお手伝いをお願いしてもいいですか?」
「え? 私か? か、構わないが」
なんかヴィクさんがちょっと照れてる。そのせいか言葉遣いが一気にフランクな物に変わった。
多分ここで子供たちと遊んでくれていたせいもあるのかな?
「それじゃあお願いします。ビーノ君は後で黒猫君が入れてあげてね。あとどうにかこの子たちの着替えを手に入れたいんだけど」
「ああ、それだったら私に任せてくれないか? 君たちは支給された生地をまだ使ってないだろう。それで取りあえずの着替えを作ってあとは明日街で古着を少し買ってこよう」
「ヴィクさんお仕事はいいの?」
「ああ、非番だから問題ない。ちょっと待っててくれ」
そういって部屋を出て行ってしまったヴィクさんはすぐに手に下げられる小さな箱を片手に戻ってきた。
ああ、あれ多分お裁縫箱だ。
私達の戸棚から生地を引き出してきたヴィクさんは手際よくそれを広げてミッチちゃんとダニエラちゃんに当ててそのまま裁断していく。それをすでに糸の通してあった針で一気にザクザク縫い始める。みるみるうちに私のと同じような簡単な部屋着が3着出来上がった。
ビーノ君のはちょっと短めで同様に作ってある。男の子は膝が見えてもいいわけだ。
そのまま端切れで簡単なベルトと紐パンのように横で結ぶ形の下着まで人数分作ってしまう。
「よし出来た。子供なら十分このまま外にも出れる。まだ生地にノリがついてるから端のかがりは後でやろう」
「ヴィクさん見た目に反して女子力あるんですねぇ」
「あ? ああ、家族が多かったからな。あゆみ殿も必要なものがあったら請け負うぞ。色も変えたければ染色に出せばいい。まあ大人の物は料金を頂くが」
「ええ? そんな事お願いできるんですか!? すごい。そっかここでは買うだけじゃなくて作ってもらうって手があるんだ」
「それでキールの奴あんなに生地くれてたんだな」
黒猫君も納得がいったと頷いてる。
「では準備も整ったし僭越ながらあゆみ殿を連れて風呂に行きましょうか」
さっきヴィクさんが裁縫道具取りに行っている間にちょろっと出て行って黒猫君がお風呂を予約して来てくれていた。ヴィクさんに促された私達は石鹸他色々持ってガヤガヤとみんなでお風呂に向かった。
話し合いを終わらせて森に消えていくバッカスを見送った黒猫君がそういって私を抱え上げて走り出した。
うん。さっきの山道のとんでもない経験のおかげで単にスピードが上がる程度なら全然平気だと思える自分が悲しい。
あ、そういえばあれはお仕置き案件じゃないかな?
うーん、でもお願いしたのは私だし、大体もう黒猫君電撃魔法できるから効かないのかな?
行き同様、門のところから兵舎までは姿を見られないよう兵士用の塀の横に作り付けられた通路を抜けていく。ちょうどその出口に当たる辺りが兵舎の裏の新しい菜園予定地だった。見れば今朝黒猫君や私を囲んで冗談をいっていた新兵さんたちが畑作りを手伝ってくれてる。
「みなさん、お手伝い本当にありがとうございます」
私が黒猫君の腕の中からお礼を叫ぶとみなさんが顔を上げてこちらを見た。
「これくらい練兵場の惨状に比べればどうってことありませんよ」
「ああ、一体何が起きたのか半日で草ぼうぼうになっちまって新兵は午後いっぱい全員で草むしりだったからなぁ」
「俺農家の出だから慣れてるけどそれでもきつかった」
うわわわ、それ間違いなく私のせいだ!
「す、すみません私がやらかしてしまったせいで皆さんに多大なご迷惑をおかけしちゃって」
「なんであゆみさんが謝るんですか」
「そうですよ、あんな事があゆみさんの失敗一つで起きるわけないじゃないですか」
「そうそう、なんかたまたまキーロン殿下の魔法が暴走したとか」
「ああ、キーロン殿下の生魔法は凄いからな。俺、目の前で草の芽が出るのを見せていただいたことあるぞ」
「ああ、俺もだ」
「ああ、そういえばネロ殿、今更こんな所に野菜の屑なんて蒔いてどうするんですか? 芽が出る頃には寒くなりますよ?」
「…………」
「あ、あの。あれ本当に私のせいですから。本当にごめんなさい」
いたたまれなくて何度も頭を下げて謝る私を抱えたまま、黒猫君が無言で畑のすぐ横まで近づいてそこに立っている兵士さんに尋ねた。
「……もうクズ野菜は埋めたんだな」
「はい。芽の出そうなジャガイモの皮や切り落としがこっち半分、こっち半分は適当に……って誰だよ芽の出たジャガイモそのっま植えたやつは……おわっ!?」
返事をしていた新平さんが驚いてたたらを踏みながら畑からこちらに転げ出て来た。
ああ。うん。
私頑張ってって思った。頑張って育ってって。畑見ながら。
だってこれ、みんなの食料だし。
すぐ食べさせてあげたいし。
でも初めてその効果の程を目の当たりにした感想は……黒猫君と二人揃って「どんだけだよ」だった。
「うほおっ!? こんなのありかよ」
「これ、ま、ほう、か!?」
「あ、あゆみさん、あなたまさかほんとに……?」
見るみうちに私達の目の前でいくつもの芽がニョキニョキ伸びだした。種類も違えば大きさも違う目が畑の全面びっしりと埋め尽くす。
そこからは早回しの映像よろしく茎が伸びて葉が茂りだし、蕾がついたと思ったら直ぐに花が咲いて、ツルが好き勝手そこら中に伸びて生き物のように地面を這い回る。
そのうち実がなって、地面がなんかボコボコいって。
うわ、芋が地表まで溢れ出てきた。
「……お前、どんだけパワー漏らしてんだよ」
「えっと、今回は特別ちょっと気合入れちゃったかな? みんなの夕食って考えてて」
呆然と畑を見つめる黒猫君と私。それをまた見つめる周りの新兵の皆さん。
「と、とりあえずこれで夕食はバッチリだね」
「……ああ、多分兵舎全員の夕食賄えるくらいバッチリだな」
「じゃ、じゃあ皆さん、引き続き収穫までよろしくお願いします」
顔の引きつっている新兵の皆さんを後ろに私と黒猫君は逃げる様に部屋へと向かった。
「ということだからみんなが食べ物のことで肩身の狭い思いをする必要はないんだからね」
「姉ちゃん、今度は全く違う意味で俺ら悪目立ちするんじゃないかそれ?」
「こ、細かいことは気にしちゃだめだよ」
私の説明を聞いたビーノ君が呆れ返ってる。
話を聞いて廊下の窓から外を見に行ってきたヴィクさんがまだ信じられないという顔でこっちを見てる。
ヴィクさんは畑の手配をしてから子供たちをお昼に連れて行ってそのまま部屋で一緒にいてくれたのだそうだ。なんのかんのでヴィクさん、もしかして子供好き?
またも黒猫君にみんなのベッドにおろしてもらって子供たちに囲まれながら話してるんだけど。
なんだろう、こうして囲まれてること自体がすごく幸せで。
私、変なのだろうか?
でもいつかあった我が家の犬猫に囲まれておばあちゃんに見守られていた頃を思い出した。
「お姉ちゃん、泣いてる?」
「涙」
「え? うそ、泣いてないよ。ちょっと目が痒かっただけ」
そういってごまかしながら私は目元を拭った。
本当だ。涙が出ちゃってる。
なんか最近よく泣くなぁ、私。
「それより今のうちにお風呂行きたいな。黒猫君、お風呂ってこの時間借り出せると思う?」
まだ夕方で兵士の皆さんはお仕事中のはず。誤魔化すように話題を振ったけど今のうちにこの子たちをお風呂に入れたいのは本当だ。
「聞いてきてやってもいいがな、お前はどうやって行く気だ?」
そこでヴィクさんを見上げた。
「ヴィクさん、申し訳ないんですけどちょっとお手伝いをお願いしてもいいですか?」
「え? 私か? か、構わないが」
なんかヴィクさんがちょっと照れてる。そのせいか言葉遣いが一気にフランクな物に変わった。
多分ここで子供たちと遊んでくれていたせいもあるのかな?
「それじゃあお願いします。ビーノ君は後で黒猫君が入れてあげてね。あとどうにかこの子たちの着替えを手に入れたいんだけど」
「ああ、それだったら私に任せてくれないか? 君たちは支給された生地をまだ使ってないだろう。それで取りあえずの着替えを作ってあとは明日街で古着を少し買ってこよう」
「ヴィクさんお仕事はいいの?」
「ああ、非番だから問題ない。ちょっと待っててくれ」
そういって部屋を出て行ってしまったヴィクさんはすぐに手に下げられる小さな箱を片手に戻ってきた。
ああ、あれ多分お裁縫箱だ。
私達の戸棚から生地を引き出してきたヴィクさんは手際よくそれを広げてミッチちゃんとダニエラちゃんに当ててそのまま裁断していく。それをすでに糸の通してあった針で一気にザクザク縫い始める。みるみるうちに私のと同じような簡単な部屋着が3着出来上がった。
ビーノ君のはちょっと短めで同様に作ってある。男の子は膝が見えてもいいわけだ。
そのまま端切れで簡単なベルトと紐パンのように横で結ぶ形の下着まで人数分作ってしまう。
「よし出来た。子供なら十分このまま外にも出れる。まだ生地にノリがついてるから端のかがりは後でやろう」
「ヴィクさん見た目に反して女子力あるんですねぇ」
「あ? ああ、家族が多かったからな。あゆみ殿も必要なものがあったら請け負うぞ。色も変えたければ染色に出せばいい。まあ大人の物は料金を頂くが」
「ええ? そんな事お願いできるんですか!? すごい。そっかここでは買うだけじゃなくて作ってもらうって手があるんだ」
「それでキールの奴あんなに生地くれてたんだな」
黒猫君も納得がいったと頷いてる。
「では準備も整ったし僭越ながらあゆみ殿を連れて風呂に行きましょうか」
さっきヴィクさんが裁縫道具取りに行っている間にちょろっと出て行って黒猫君がお風呂を予約して来てくれていた。ヴィクさんに促された私達は石鹸他色々持ってガヤガヤとみんなでお風呂に向かった。
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