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第8章 ナンシー
21 副隊長
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「さて何か君達の様子が変わった気がするのは下手に突っ込まないほうがいいのかな」
ニヤニヤしながらこちらを見るキールさんを睨みつけて黒猫君が話し始める。
「余計なお世話だ。今日は色々話したい事もあるんだからとっとと始めよう」
ここはキールさんの兵舎内の執務室。
今朝も黒猫君に連れられて新兵訓練に行ってきた。
昨夜はお風呂の後バタンと倒れてそのまま昏倒するように寝ちゃったお陰で今朝はスッキリ目が覚めた。昨日はあんなに行くのが面倒だった新兵訓練だけど今朝はラッパの音より先に気持ちよく目が覚めて黒猫君に喜んでついていった。
だって訓練中の黒猫君、実は凄くカッコいい。
最初はアルディさんがあんまり遠慮なく切りまくるから見てるだけで胃が痛くなってたけど、そのうちにアルディさんの技術が凄いのも分かってきて。しかも黒猫君、あっという間にまたそれについていっちゃうし。
黒猫君の身体、とても人間の物とは思えない程しなやかで野性的で、見てるとドキドキしてきてしまう。いつの間にやら剣も自然に扱っちゃってるし黒猫君の身体能力って凄すぎる。
あれって猫の身体だからなのかな? それとも元々?
無事朝練を済ませると着替える暇もなくアルディさんに捕まった、アルディさんに連れられて直接この執務室に顔を出した私たちは勧められるまま、キールさんの目の前の椅子に陣取った。アルディさんもキールさんの後ろに移って、さあお話し合いを始めようとしたその時ノックの音が部屋に響いた。
「呼び出しがあったって聞いて来ましたが?」
「ああ。入れ」
誰だろうと扉を見ると、そこにはキラキラした人が立っていた。
えー。本当にキラキラしてる。
サラッサラの金髪を肩口で巻いて、式典でもないのに式典用の制服着て。そこに何か宝石付きのキラキラのサーベル下げて。切れ長のアイス・ブルーの瞳、スッと通った鼻筋、華やかなピンクの唇をニコッと広げたその間に白く輝く歯並びのいい事。
あ、こういえば分かる通り、凄いキラキラ王子様系美男子なんだけど完全に私の好みから外れてる。
初めてお会いする人だし挨拶しなきゃと思って立ち上がろうとすると。キラリと目を輝かせたその兵士さんは音もたてずにスッと私の横に歩み寄り、立ち上がろうとする私の腕にすかさず片手を添えながら私を覗き込むようにして語りだした。
「おお、何てことだ。僕としたことがこんな儚く可憐な小鳥の存在を今まで知らなかったなんて。その今にも崩れ落ちそうな姿はまるで繊細な銀細工のようだ。ああ、君を見る僕のこの胸のときめきはもう恋に間違いない。一瞬で僕のハートを射とめた可愛い小鳥さん、どうぞ僕のエスコートをお許しください」
「やめろエミール、あゆみはそこのネロの嫁だ」
キールさんの言葉と黒猫君が素早く立ち上がって私を隠すように抱き寄せるのが同時だった。
く、黒猫君。君のとっさの行動に関してはやっぱり一度ゆっくり話し合いたい。
「それは大変な失礼を。ですが貴方のその可憐さは一人の男の腕に委ねるべきじゃありません。現にそこに居るだけで僕の心を掴んで離さない罪作りな方。貴方に一瞬で心を射止められた愚かな僕の行動をどうぞ笑ってお許しください」
キールさんの言葉に一瞬その綺麗な片眉を上げたキラキラ王子さんは悪びれもせず優雅に頭を下げ芝居がかった一礼をしてみせる。
でも私はと言えば。今の聞いてるだけで鳥肌が立っちゃった。
いや、甘いマスクだし、キラッキラのいい男だしこういう事言われるのって多分嬉しい人は嬉しいんだろうけど。私、こういう押しの強い人は本当に気後れして駄目だ。
私の顔、間違いなく引きつってると思うのにこのキラキラ王子さん、一礼したまますっと私の手を引いてすごくナチュラルにそこに口づけしようとしてる!
「おいこのキザ野郎、悪いがあゆみがお前のその胡散臭い笑いにひきつけ起こしそうになってるからあまり近寄るな」
素早くその人の手を叩き落とした黒猫君が私の代わりに凄くはっきりひどい事を言った。私もまだそこまではいってなかったのに。私達のやり取りを見ていたキールさんは大きなため息とともに次の言葉を吐き出す。
「それが一昨日話してたバカだ」
「隊長……いえキーロン皇太子。それはあんまりな紹介ではありませんか。それでは私の可愛い小鳥が誤解してしまいます」
「誤解も何も事実だろ。俺の代理を請け負っておいて女の所に夜這いに行って捕まる様なバカはバカ以外の呼び名なんか必要ない。しかも俺が直々に領主に掛け合って牢から出してやればその足でまた女の所に消えやがって」
うわ、それは確かにバカだ。しかもこの人まだ私の事を小鳥呼ばわりし続けるのか。
私の向けたジト目にすごく心外そうな顔つきでキラキラ王子さんが切り返す。
「失礼な。あれは先日ご迷惑をお掛けしたレイモンド家のお嬢様にお詫びとお礼の気持ちを添えたバラをお届けしただけ。なんせ僕は今回お嬢様の思いがけない機転で一命をとりとめたのですから」
「ついでに馬鹿な夜這いで捕まったって新しい経歴付きでな」
「それは浮名を流す者の宿命であり勲章であり……」
いつまでも続きそうなキラキラ王子さんの話をキールさんがうるさそうにぶった切る。
「もういい。こいつはエミール。アルディの兄だ。これでも一応俺の片腕であり有能な副隊長だ。今回の人事変更で弟に抜かれて隊長になりそこなってるがな」
「別に僕は職務や地位なんか全く気にしませんよ。僕の周りを彩って下さる社交界の花の数に比べれば肩につく房の数など気にするのも馬鹿らしい」
そう言ってフッとキザに笑い飛ばすこのエミールという人はどうやら呆れかえるほどにキッパリスッパリ女ったらしらしい。それにしてもアルディさんとは似ても似つかない。性格もそうだけど見た目も。髪の色は兄弟でもこんなに違うのかってくらい違うし、顔立ちもアルディさんが可愛い系ならエミールさんは艶やか系。こっちの兄弟ってこういう物なのかな?
「それで? 報告は?」
でも声音を厳しくしたキールさんの一言でエミールさんのそれまでの甘い雰囲気は霧散し、心無しスッと姿勢よく直立になり突然はきはきと報告を始めた。
「やはり領主の思惑で人を北に動かしたのは確かな様です。そちらのお二人の経歴に探りを入れてきてのはどうも別人のようですが。他にもここ最近教会から多数の積み荷が領主の館に運び込まれた事実が確認されました。その後調理場の者の休憩が減って食事も減らされましたから生きた荷物だった可能性が大です」
「……お前は。本当に仕事だけさせておけば最高に有能なんだがな」
エミールさんの突然の変わり身に私は目を疑ってしまう。
い、今のは何?
それを聞いたキールさんはため息一つ、手を振って私達に椅子に座る様に指示した。黒猫君はよっぽど気がかりなのか私と席を入れ替わってエミールさんと私の間に座った。しかも私の椅子を自分のすぐ横に引っ張ってしっかり私の腕掴んでる。
うーん、これは喜ぶべき?
「ネロ、気を付けろ。こいつのこのギャップに落ちる女は結構多いぞ」
私の腕を掴んでる黒猫君に気づいたキールさんがそう言って黒猫君にニヤリと笑って見せた。
それを聞いた黒猫君が私の腕を掴む手に余計力を入れた気がするのは私の気のせい……じゃなさそうだね。
ニヤニヤしながらこちらを見るキールさんを睨みつけて黒猫君が話し始める。
「余計なお世話だ。今日は色々話したい事もあるんだからとっとと始めよう」
ここはキールさんの兵舎内の執務室。
今朝も黒猫君に連れられて新兵訓練に行ってきた。
昨夜はお風呂の後バタンと倒れてそのまま昏倒するように寝ちゃったお陰で今朝はスッキリ目が覚めた。昨日はあんなに行くのが面倒だった新兵訓練だけど今朝はラッパの音より先に気持ちよく目が覚めて黒猫君に喜んでついていった。
だって訓練中の黒猫君、実は凄くカッコいい。
最初はアルディさんがあんまり遠慮なく切りまくるから見てるだけで胃が痛くなってたけど、そのうちにアルディさんの技術が凄いのも分かってきて。しかも黒猫君、あっという間にまたそれについていっちゃうし。
黒猫君の身体、とても人間の物とは思えない程しなやかで野性的で、見てるとドキドキしてきてしまう。いつの間にやら剣も自然に扱っちゃってるし黒猫君の身体能力って凄すぎる。
あれって猫の身体だからなのかな? それとも元々?
無事朝練を済ませると着替える暇もなくアルディさんに捕まった、アルディさんに連れられて直接この執務室に顔を出した私たちは勧められるまま、キールさんの目の前の椅子に陣取った。アルディさんもキールさんの後ろに移って、さあお話し合いを始めようとしたその時ノックの音が部屋に響いた。
「呼び出しがあったって聞いて来ましたが?」
「ああ。入れ」
誰だろうと扉を見ると、そこにはキラキラした人が立っていた。
えー。本当にキラキラしてる。
サラッサラの金髪を肩口で巻いて、式典でもないのに式典用の制服着て。そこに何か宝石付きのキラキラのサーベル下げて。切れ長のアイス・ブルーの瞳、スッと通った鼻筋、華やかなピンクの唇をニコッと広げたその間に白く輝く歯並びのいい事。
あ、こういえば分かる通り、凄いキラキラ王子様系美男子なんだけど完全に私の好みから外れてる。
初めてお会いする人だし挨拶しなきゃと思って立ち上がろうとすると。キラリと目を輝かせたその兵士さんは音もたてずにスッと私の横に歩み寄り、立ち上がろうとする私の腕にすかさず片手を添えながら私を覗き込むようにして語りだした。
「おお、何てことだ。僕としたことがこんな儚く可憐な小鳥の存在を今まで知らなかったなんて。その今にも崩れ落ちそうな姿はまるで繊細な銀細工のようだ。ああ、君を見る僕のこの胸のときめきはもう恋に間違いない。一瞬で僕のハートを射とめた可愛い小鳥さん、どうぞ僕のエスコートをお許しください」
「やめろエミール、あゆみはそこのネロの嫁だ」
キールさんの言葉と黒猫君が素早く立ち上がって私を隠すように抱き寄せるのが同時だった。
く、黒猫君。君のとっさの行動に関してはやっぱり一度ゆっくり話し合いたい。
「それは大変な失礼を。ですが貴方のその可憐さは一人の男の腕に委ねるべきじゃありません。現にそこに居るだけで僕の心を掴んで離さない罪作りな方。貴方に一瞬で心を射止められた愚かな僕の行動をどうぞ笑ってお許しください」
キールさんの言葉に一瞬その綺麗な片眉を上げたキラキラ王子さんは悪びれもせず優雅に頭を下げ芝居がかった一礼をしてみせる。
でも私はと言えば。今の聞いてるだけで鳥肌が立っちゃった。
いや、甘いマスクだし、キラッキラのいい男だしこういう事言われるのって多分嬉しい人は嬉しいんだろうけど。私、こういう押しの強い人は本当に気後れして駄目だ。
私の顔、間違いなく引きつってると思うのにこのキラキラ王子さん、一礼したまますっと私の手を引いてすごくナチュラルにそこに口づけしようとしてる!
「おいこのキザ野郎、悪いがあゆみがお前のその胡散臭い笑いにひきつけ起こしそうになってるからあまり近寄るな」
素早くその人の手を叩き落とした黒猫君が私の代わりに凄くはっきりひどい事を言った。私もまだそこまではいってなかったのに。私達のやり取りを見ていたキールさんは大きなため息とともに次の言葉を吐き出す。
「それが一昨日話してたバカだ」
「隊長……いえキーロン皇太子。それはあんまりな紹介ではありませんか。それでは私の可愛い小鳥が誤解してしまいます」
「誤解も何も事実だろ。俺の代理を請け負っておいて女の所に夜這いに行って捕まる様なバカはバカ以外の呼び名なんか必要ない。しかも俺が直々に領主に掛け合って牢から出してやればその足でまた女の所に消えやがって」
うわ、それは確かにバカだ。しかもこの人まだ私の事を小鳥呼ばわりし続けるのか。
私の向けたジト目にすごく心外そうな顔つきでキラキラ王子さんが切り返す。
「失礼な。あれは先日ご迷惑をお掛けしたレイモンド家のお嬢様にお詫びとお礼の気持ちを添えたバラをお届けしただけ。なんせ僕は今回お嬢様の思いがけない機転で一命をとりとめたのですから」
「ついでに馬鹿な夜這いで捕まったって新しい経歴付きでな」
「それは浮名を流す者の宿命であり勲章であり……」
いつまでも続きそうなキラキラ王子さんの話をキールさんがうるさそうにぶった切る。
「もういい。こいつはエミール。アルディの兄だ。これでも一応俺の片腕であり有能な副隊長だ。今回の人事変更で弟に抜かれて隊長になりそこなってるがな」
「別に僕は職務や地位なんか全く気にしませんよ。僕の周りを彩って下さる社交界の花の数に比べれば肩につく房の数など気にするのも馬鹿らしい」
そう言ってフッとキザに笑い飛ばすこのエミールという人はどうやら呆れかえるほどにキッパリスッパリ女ったらしらしい。それにしてもアルディさんとは似ても似つかない。性格もそうだけど見た目も。髪の色は兄弟でもこんなに違うのかってくらい違うし、顔立ちもアルディさんが可愛い系ならエミールさんは艶やか系。こっちの兄弟ってこういう物なのかな?
「それで? 報告は?」
でも声音を厳しくしたキールさんの一言でエミールさんのそれまでの甘い雰囲気は霧散し、心無しスッと姿勢よく直立になり突然はきはきと報告を始めた。
「やはり領主の思惑で人を北に動かしたのは確かな様です。そちらのお二人の経歴に探りを入れてきてのはどうも別人のようですが。他にもここ最近教会から多数の積み荷が領主の館に運び込まれた事実が確認されました。その後調理場の者の休憩が減って食事も減らされましたから生きた荷物だった可能性が大です」
「……お前は。本当に仕事だけさせておけば最高に有能なんだがな」
エミールさんの突然の変わり身に私は目を疑ってしまう。
い、今のは何?
それを聞いたキールさんはため息一つ、手を振って私達に椅子に座る様に指示した。黒猫君はよっぽど気がかりなのか私と席を入れ替わってエミールさんと私の間に座った。しかも私の椅子を自分のすぐ横に引っ張ってしっかり私の腕掴んでる。
うーん、これは喜ぶべき?
「ネロ、気を付けろ。こいつのこのギャップに落ちる女は結構多いぞ」
私の腕を掴んでる黒猫君に気づいたキールさんがそう言って黒猫君にニヤリと笑って見せた。
それを聞いた黒猫君が私の腕を掴む手に余計力を入れた気がするのは私の気のせい……じゃなさそうだね。
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