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第8章 ナンシー
14 買い物と地図
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そこからは服屋と靴屋、雑貨屋を見て廻った。
服屋で私の下着選びの間待たされてる黒猫君はそれはもう本当に居心地悪そうだった。
でも買った物を持って歩けない私は黒猫君無しではどうにもならない。
お店の人が「ご主人も奥様に何か選ばれますか」と聞いてきた来た時には黒猫君真っ赤になって首振ってた。
大変申し訳ない、ごめんね。
ただ、農村で貰ってきたのに比べたら断然肌触りの良い新しい下着はお値段もすごかった。
下着上下がそれぞれ銀貨1枚! 私の今までの日給だ。
勿論下着以外も色々売ってたんだけど、正直他はとても手が出なかった。だって普通のシャツ一枚で銀貨5枚とかするんだもん。
靴は更に高くてこちらは全て銀貨10枚から。
二人して頭を振って店から出てくるとビーノ君が後で市場で見ればいいという。どうやら市場では使い古しが売っているらしい。
「これ、キールさんの支度金で新品の下着と靴は絶対無理だったね」
「ああ、多分中古品で買うことを見越してだろうな」
「うん。でも下着だけは……古着は避けたい」
「これは俺も流石に新しいのがいいな」
二人でうなずき合ってしまった。
雑貨屋で櫛を見つけた。けど。やっぱり高い。1つ銀貨1枚。これは今回はちょっと断念。
口紅や化粧品は一式簡単なもののセットがあったので色も何もなく取り敢えずそちらを買っておく事にした。こちらも銀貨1枚。
だって櫛は人に借りられるけど化粧品は使った分減っちゃうから借りにくい。
それからヴィクさんにお返しするために小さなポプリの入った袋を私の分と2つ購入。こちらは比較的安くて1つ大銅貨を40枚。
この辺りでやっとこっちのお買い物の金銭感覚が分かってきた。
「あと買わなけりゃならないものは無いか?」
「本! 本が見たい!」
私の叫びにビーノ君が怪しい物でも見る目でこちらを見てる。
「本なんてよっぽどの金持ちしか手がでねぇぜ。こんな薄っぺらいのでも金貨がいるんだから」
「そ、それはきつい!」
「だけど地図はどうしても欲しいな」
「そんなの写せばいいじゃん」
ビーノ君の言葉に首を傾げてしまう。
「写すってどこで?」
「ほら、街の真ん中には案内所があるからあそこで安く書き写させてくれるんだよ。もし二人とも書くのが下手なら写し屋に頼めばいいし。大抵案内所の中で商売してるから」
「それは面白いな、行ってみよう」
案内所は南通りのほぼ最北端、正に街の中心に近い所にあった。内塀のすぐ目の前の角。結構オシャレな建物で、中には沢山の人が集まってた。
黒猫君と案内所の方に入ってカウンターのお姉さんにお願いして地図を貸してもらう。貸し出しに大銅貨10枚とられた。
黒猫君曰く、私の手書きなら十分だそうなので、その場で小売してた紙とインクも買って自分で書き写す。買った紙はキールさんに貰ったものほど白く無いけど凄く丈夫そうな出来だった。
「この紙凄く硬いね」
「馬鹿、これは紙じゃなくて舐めした羊皮紙だ」
「え、だってこれすごく薄いよ?」
「ここの技術が良いんだろうな」
「でも何で紙にしないんだろう?」
「それだけ紙の方が高価なんだろう」
そんな事を話しながら簡単に端折って地図を書き写す。街の名前は大して入って無くて、ナンシーの他にはヨーク、中央政府、それにバースが南側にある。北東から私たちの居た『ウイスキーの街』を掠めて西に流れるのがフォーレス川。南の方には大きな川はないらしい。細い川が数本流れてる。
私が地図を書き写してる間に黒猫君が色々見て回ってる。どうやらこの街の商売や宿の案内もしているらしい。ひっきりなしに受付のお姉さんに人が集まって話し込んでる。
私が作業を終えたので黒猫君が地図をお姉さんに返すと大銅貨5枚が返ってきた。どうやら半分は保障金だったらしい。汚す人が多いのかな。
黒猫君にまたも抱えられて案内所を出ると目の前の建物が目に入った。丁度反対側の角になるんだけどそこも何か偉そうな建物が立ってる。
「ねえビーノ君、あっちの建物は何?」
「あれか? あれは魔術安全管理局だよ」
「え?」
「魔術安全管理局。魔法を使う者の安全と規則を司るんだってさ」
「……なんか日本の行政にありそうな名前」
「流石に魔術は無いな」
ぼそりと黒猫君が私の呟きに答えてくれる。
……今気づいた。私黒猫君のこのタイミング、凄く好きかもしれない。
「あそこで人が並んでるのは何で?」
私が指さす先にはその建物の横に何か長い行列ができていた。
「ああ、あれは魔術試験の順番待ち。あれは俺たちもたまに小遣い稼ぎに代行で並んでるから知ってる」
「い、今魔術試験って言った?」
「ああ? うん。え? 姉ちゃんまさか魔法使えんのに受けた事ねぇの?」
「……ない。受けるべき?」
「何言ってるんだよ、受けなきゃマズいだろ。下手したら掴まるよ」
私は黒猫君と二人で見つめ合ってしまった。
どうして誰も言ってくれないんだこんな大切な事!
「ちょっと行ってくる」
「あ、まって兄ちゃん、姉ちゃん、無理だって。魔術試験は順番待ちが長いんだよ。まずは申し込みして、それから1週間は待たされるから」
「1週間……黒猫君、間に合うよね?」
「……たぶんな。キール達にも後で相談しよう」
取り合えず黒猫君と2人で中に入って見る事にした。
予約用のカウンターにも既に結構な列が出来ていて結局10分程待たされる。待った末にたどり着いたカウンターのお兄さんはとっても不愛想だった。
「予約なら1人大銅貨20枚。あんたらの予約は10日後以降だ。当日は朝8つの鐘から受付開始。12の鐘までに外に並ぶ事。この木片に名前書いて」
言われるままに二人で名前を書いた。黒猫君は基本魔法全くできないけどそれでも魔力があるならまずは試験を受けろと言い渡されてしまった。
お兄さんは私たちが名前を書いた木片を受け取ると、バチンと何か大きなギロチンみたいな道具でそれぞれ二つに割ってしまう。その片方をそれぞれ私たちに返してくれた。
「当日必ずそれを持ってくる事。無くしたら予約やり直し。次!」
それだけ言って私達は追い払われた。これで試験の申し込みは終わりらしい。
黒猫君に連れられてビーノ君の待っている建物の外に出ると私達に合流したビーノ君が内塀の所の門を指さして声を上げた。
「あ、領主の所の馬車が出て来るぞ。今日は何かあるみたいだ」
言われてそちらをみて見れば黒塗りの美しい馬車が今まさに私たちの前を通り過ぎる所だった。
でも私も黒猫君もその窓の中の人影に目を向いてしまう。
「キールさん……」
「そりゃそうか。もうプリンスだもんな」
私たちの言葉にハッと顔を上げてビーノ君が顔を輝かせた。
「あれが噂のキーロン皇太子!? 俺初めてみた!」
「そんなに噂になってるの?」
「当たり前だろ。隊長やってる時からファンは多かったし、まあ、俺らはヤバいから顔を見れるような所には決して近づかなかったけど街でもずっと前から噂はされてたんだ」
「そっか」
「それにこのままいけば即位も直ぐだろ」
「はぁぁぁあっぶっ??!!」
私はつい素っ頓狂な声をあげて黒猫君に口を塞がれた。
あ、あのね黒猫君。確かにこれが一番手っ取り早い口の塞ぎ方なのは分かるけどさ、胸に抱き込んで押さえつけるの止めて。色々恥ずかしいから。
って言う声も出せない。
もごもごと赤くなりながら黒猫君に歯向かって動いてる私の事なんて綺麗さっぱり無視して黒猫君がビーノ君に問いかける。
「それはどういう事だ? 即位の準備がもう始まってるのか?」
黒猫君の質問に何故かビーノ君はちょっと怖い顔になって周りを見回した。
「姉ちゃんはともかく、兄ちゃん、もう少し気を付けろよ。こんな所でそんな話はしちゃまずいだろ」
「マズいのか?」
「当たり前だろ」
いや、黒猫君、君マジでそれ気道塞いでるから。
騒いだ私も悪かったと思うけどそんなしっかり抱きしめながら完全に口と鼻塞いだら──
「あ、悪い」
ぐったりし始めた私にやっと気づいた黒猫君は小さく息をついて私の口を塞いでる手を離しながら宣言する。
「……昼にしよう。どっか個室に入れるところ知ってるか?」
「いいけど高けぇよ?」
「ま、お前の情報料だ」
「そういう事なら任せとけ」
途端ビーノ君は嬉しそうに顔を緩めて胸を張って歩き出した。
服屋で私の下着選びの間待たされてる黒猫君はそれはもう本当に居心地悪そうだった。
でも買った物を持って歩けない私は黒猫君無しではどうにもならない。
お店の人が「ご主人も奥様に何か選ばれますか」と聞いてきた来た時には黒猫君真っ赤になって首振ってた。
大変申し訳ない、ごめんね。
ただ、農村で貰ってきたのに比べたら断然肌触りの良い新しい下着はお値段もすごかった。
下着上下がそれぞれ銀貨1枚! 私の今までの日給だ。
勿論下着以外も色々売ってたんだけど、正直他はとても手が出なかった。だって普通のシャツ一枚で銀貨5枚とかするんだもん。
靴は更に高くてこちらは全て銀貨10枚から。
二人して頭を振って店から出てくるとビーノ君が後で市場で見ればいいという。どうやら市場では使い古しが売っているらしい。
「これ、キールさんの支度金で新品の下着と靴は絶対無理だったね」
「ああ、多分中古品で買うことを見越してだろうな」
「うん。でも下着だけは……古着は避けたい」
「これは俺も流石に新しいのがいいな」
二人でうなずき合ってしまった。
雑貨屋で櫛を見つけた。けど。やっぱり高い。1つ銀貨1枚。これは今回はちょっと断念。
口紅や化粧品は一式簡単なもののセットがあったので色も何もなく取り敢えずそちらを買っておく事にした。こちらも銀貨1枚。
だって櫛は人に借りられるけど化粧品は使った分減っちゃうから借りにくい。
それからヴィクさんにお返しするために小さなポプリの入った袋を私の分と2つ購入。こちらは比較的安くて1つ大銅貨を40枚。
この辺りでやっとこっちのお買い物の金銭感覚が分かってきた。
「あと買わなけりゃならないものは無いか?」
「本! 本が見たい!」
私の叫びにビーノ君が怪しい物でも見る目でこちらを見てる。
「本なんてよっぽどの金持ちしか手がでねぇぜ。こんな薄っぺらいのでも金貨がいるんだから」
「そ、それはきつい!」
「だけど地図はどうしても欲しいな」
「そんなの写せばいいじゃん」
ビーノ君の言葉に首を傾げてしまう。
「写すってどこで?」
「ほら、街の真ん中には案内所があるからあそこで安く書き写させてくれるんだよ。もし二人とも書くのが下手なら写し屋に頼めばいいし。大抵案内所の中で商売してるから」
「それは面白いな、行ってみよう」
案内所は南通りのほぼ最北端、正に街の中心に近い所にあった。内塀のすぐ目の前の角。結構オシャレな建物で、中には沢山の人が集まってた。
黒猫君と案内所の方に入ってカウンターのお姉さんにお願いして地図を貸してもらう。貸し出しに大銅貨10枚とられた。
黒猫君曰く、私の手書きなら十分だそうなので、その場で小売してた紙とインクも買って自分で書き写す。買った紙はキールさんに貰ったものほど白く無いけど凄く丈夫そうな出来だった。
「この紙凄く硬いね」
「馬鹿、これは紙じゃなくて舐めした羊皮紙だ」
「え、だってこれすごく薄いよ?」
「ここの技術が良いんだろうな」
「でも何で紙にしないんだろう?」
「それだけ紙の方が高価なんだろう」
そんな事を話しながら簡単に端折って地図を書き写す。街の名前は大して入って無くて、ナンシーの他にはヨーク、中央政府、それにバースが南側にある。北東から私たちの居た『ウイスキーの街』を掠めて西に流れるのがフォーレス川。南の方には大きな川はないらしい。細い川が数本流れてる。
私が地図を書き写してる間に黒猫君が色々見て回ってる。どうやらこの街の商売や宿の案内もしているらしい。ひっきりなしに受付のお姉さんに人が集まって話し込んでる。
私が作業を終えたので黒猫君が地図をお姉さんに返すと大銅貨5枚が返ってきた。どうやら半分は保障金だったらしい。汚す人が多いのかな。
黒猫君にまたも抱えられて案内所を出ると目の前の建物が目に入った。丁度反対側の角になるんだけどそこも何か偉そうな建物が立ってる。
「ねえビーノ君、あっちの建物は何?」
「あれか? あれは魔術安全管理局だよ」
「え?」
「魔術安全管理局。魔法を使う者の安全と規則を司るんだってさ」
「……なんか日本の行政にありそうな名前」
「流石に魔術は無いな」
ぼそりと黒猫君が私の呟きに答えてくれる。
……今気づいた。私黒猫君のこのタイミング、凄く好きかもしれない。
「あそこで人が並んでるのは何で?」
私が指さす先にはその建物の横に何か長い行列ができていた。
「ああ、あれは魔術試験の順番待ち。あれは俺たちもたまに小遣い稼ぎに代行で並んでるから知ってる」
「い、今魔術試験って言った?」
「ああ? うん。え? 姉ちゃんまさか魔法使えんのに受けた事ねぇの?」
「……ない。受けるべき?」
「何言ってるんだよ、受けなきゃマズいだろ。下手したら掴まるよ」
私は黒猫君と二人で見つめ合ってしまった。
どうして誰も言ってくれないんだこんな大切な事!
「ちょっと行ってくる」
「あ、まって兄ちゃん、姉ちゃん、無理だって。魔術試験は順番待ちが長いんだよ。まずは申し込みして、それから1週間は待たされるから」
「1週間……黒猫君、間に合うよね?」
「……たぶんな。キール達にも後で相談しよう」
取り合えず黒猫君と2人で中に入って見る事にした。
予約用のカウンターにも既に結構な列が出来ていて結局10分程待たされる。待った末にたどり着いたカウンターのお兄さんはとっても不愛想だった。
「予約なら1人大銅貨20枚。あんたらの予約は10日後以降だ。当日は朝8つの鐘から受付開始。12の鐘までに外に並ぶ事。この木片に名前書いて」
言われるままに二人で名前を書いた。黒猫君は基本魔法全くできないけどそれでも魔力があるならまずは試験を受けろと言い渡されてしまった。
お兄さんは私たちが名前を書いた木片を受け取ると、バチンと何か大きなギロチンみたいな道具でそれぞれ二つに割ってしまう。その片方をそれぞれ私たちに返してくれた。
「当日必ずそれを持ってくる事。無くしたら予約やり直し。次!」
それだけ言って私達は追い払われた。これで試験の申し込みは終わりらしい。
黒猫君に連れられてビーノ君の待っている建物の外に出ると私達に合流したビーノ君が内塀の所の門を指さして声を上げた。
「あ、領主の所の馬車が出て来るぞ。今日は何かあるみたいだ」
言われてそちらをみて見れば黒塗りの美しい馬車が今まさに私たちの前を通り過ぎる所だった。
でも私も黒猫君もその窓の中の人影に目を向いてしまう。
「キールさん……」
「そりゃそうか。もうプリンスだもんな」
私たちの言葉にハッと顔を上げてビーノ君が顔を輝かせた。
「あれが噂のキーロン皇太子!? 俺初めてみた!」
「そんなに噂になってるの?」
「当たり前だろ。隊長やってる時からファンは多かったし、まあ、俺らはヤバいから顔を見れるような所には決して近づかなかったけど街でもずっと前から噂はされてたんだ」
「そっか」
「それにこのままいけば即位も直ぐだろ」
「はぁぁぁあっぶっ??!!」
私はつい素っ頓狂な声をあげて黒猫君に口を塞がれた。
あ、あのね黒猫君。確かにこれが一番手っ取り早い口の塞ぎ方なのは分かるけどさ、胸に抱き込んで押さえつけるの止めて。色々恥ずかしいから。
って言う声も出せない。
もごもごと赤くなりながら黒猫君に歯向かって動いてる私の事なんて綺麗さっぱり無視して黒猫君がビーノ君に問いかける。
「それはどういう事だ? 即位の準備がもう始まってるのか?」
黒猫君の質問に何故かビーノ君はちょっと怖い顔になって周りを見回した。
「姉ちゃんはともかく、兄ちゃん、もう少し気を付けろよ。こんな所でそんな話はしちゃまずいだろ」
「マズいのか?」
「当たり前だろ」
いや、黒猫君、君マジでそれ気道塞いでるから。
騒いだ私も悪かったと思うけどそんなしっかり抱きしめながら完全に口と鼻塞いだら──
「あ、悪い」
ぐったりし始めた私にやっと気づいた黒猫君は小さく息をついて私の口を塞いでる手を離しながら宣言する。
「……昼にしよう。どっか個室に入れるところ知ってるか?」
「いいけど高けぇよ?」
「ま、お前の情報料だ」
「そういう事なら任せとけ」
途端ビーノ君は嬉しそうに顔を緩めて胸を張って歩き出した。
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