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第5章 狼人族

閑話: あゆみ、愚痴る

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 私実は結構本気で怒ってた。

 まず誰も来てくれなかったことに。
 そりゃね。私は確かにこの状況を結構楽しんでましたよ。
 狼人族の皆さんも付き合ってみれば結構いい人たちだったし。
 森の中には街に無かった甘いものが結構あって嬉しかったし。
 朝っぱらから私を揺り起こす人も誰もいなかったし。

 でもさ。
 一応それでも待ってたんですよ。
 そりゃあれだけ一緒に頑張ってきたんだもん。
 もう少し気にしてくれてるって思うじゃない。
 しかも一応これでも施政官の端くれですよ? 私。

 にも拘らず。
 一週間経っても誰も来てくれなかった。
 別に無理して助けて欲しかったて訳じゃないけどさ。
 せめて連絡を取る努力をするとかさ。電話は無いから大声で叫んでくれるとかさ。
 なんでもいいから私を忘れてないって意思表示くらい欲しかったわけですよ。
 それが結局無しの粒で最後は葬送曲。

 まあ、切れましたね。
 しかもちょっと悪戯心でバッカスに話を持ち掛ければ今までの状況がボロボロバッカスの口から洩れて来るじゃないですか。
 その最たるのが決闘。
 人が増えた? 私達が袋詰めにされてた? 死体が出て来た?
 馬鹿じゃなかろうか。
 そんなんで何で簡単に乗せられて喧嘩しちゃうのさ。
 交渉に来たって言っておいて黒猫君たちも何で我慢できない訳?

 バッカスたちだって悪い。そう言う時こそやってないってのを態度で示せばいいのに。
 それを当てつけみたいに私を攫ってきちゃったし。
 しかもこの決闘、勝ったからってどっちも得る物なんて何にもなかったはずだ。
  きっかけだけの為にやるはずだった決闘がいつの間にか目的になっちゃってる。
 何でそんなに戦いたいんだ、あんた達は?

 全く。そんなんだからお互い殺さなくていい人を殺して、死ななくていい人たちが死んだんだよ。
 どちらも素直に話し合いすればそれでいいのに何でみんなそんな簡単な事が出来ないかな。
 そんなにみんなして物事をややこしくしたいんだったら。
 いっそ一度とことんまで私に振り回されてみろって思っちゃったんだよね。
 うん。結果ぶんぶん振り回した。

 何のかんので私一番黒猫君に腹が立ってた。
 どうしてなんてわかんない。分かんないけどキレてた。
 だから取り合えずメイン・ターゲットは黒猫君。
 黒猫君が嫌がりそうな事片っ端から考えてみた。
 なんか人型になった途端格好つけてる黒猫君に絶対恥ずかしい思いしてもらおうって決めた。
 それでも私の死んだふりに騙されて駆け寄ってきて涙とか流しちゃったの見た時はさすがにちょっとやり過ぎたかなって思ったんだけど。
 でもそこは心を鬼にしてちゃんと最後までやりきった。

 黒猫君やっぱり猫の習性が人間のそれと混じっちゃってる。
 指を出されれば見つめないではいられないし、スッと動かせば追わずにはいられない。
 本人今一つ分かってなかったみたいだけどね。
 まそれまでやって私も何とか留飲を下げましたよ。
 ここらへんで許しとかないともう切りないしね。
 ま、後はこれからも狼人族とキールさんの間でお話し合いがちゃんと進んでくれればもう文句なし。

 あ、因みに黒猫君、後でしっかりもう一度謝ってくれましたけどね。


「……それであゆみさん、それを俺にいってどうするつもりなんだ?」
「いえ、トーマスさんくらいにしか愚痴れなかったんですよ。当事者たちにこんな事言えないし。でもやっぱりこのまま溜め込むのも健康に良くないし。トーマスさんだと安心してお話しできるんです。聞いてくださってありがとうございました。これでやっと胸の中に詰まってたモヤモヤが晴れました!」

 あゆみさんはスッキリした顔でもう一度俺に頭を下げて軽い足取りで厨房を出て行った。
 後に残された俺は。

 ああ……俺、厨房お悩み相談室でも始めるか。
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