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第5章 狼人族
4 発見
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アリームさんの工房もピートルさんの工房に負けず劣らず沢山の物が並んでたけど、あちらに比べて格段に綺麗だった。よく考えてみると、ピートルさんの工房は全体に煤けてたんだな。
「こちらです」
そう言ってアリームさんが見せてくれたのは……4本の足がついた大きな箱だった。
「アリーム、なんか木の削りカスかなにか軽いもんないか?」
黒猫君の質問にアリームさんが部屋の端から木くずの詰まった箱を持ってきてくれる。
「ちょっと外に出てやってみるぞ」
そう言って黒猫君はアリームさんに箱を庭まで出してもらう。
「テリース、こっちに来てここから軽い風魔法を送ってみてくれ。アリーム、あんたはその木くずを上から入れてみてくれ」
黒猫君に頷いて、アリームさんが木くずを箱の上の片側に開いた落とし口からちょっとずつ入れ始めた。すぐにテリースさんが箱の横に開いた穴から風を送る。するとひらひらの薄い木くずだけがちょっとずつ前面に開かれた口から零れだした。
「まあ、大体大丈夫だな。あとは麦の重さ次第だ。ああ、アリームここの所に傾斜をつけておいてくれ」
そう言って尻尾で示したのは、さっき木くずが落ちてきた出口のところ。確かに外に落ちた物より中にたまっちゃったもののほうが多いみたい。
「あとこの風の吹き込み口を囲って、長さを調節できるようにしとくといいと思うよ」
やっと用途が分かって私もちょっと言ってみる。アリームさんが頷いて近くのお弟子さんを呼んでいた。
「これも変更が終わったらあとは農村で試すしかないな」
「この程度の変更なら明日には終わりますよ、明日一緒に行きましょう」
「いいのかそんな約束勝手にして。おい、テリース?」
「まあ、仕方ありませんね」
テリースさんが肩をすくめてる。
「お、俺も手伝いに来よう。この大きさの道具では一人では運べまい」
トーマスさんがお手伝いしてくれるらしい。
「それは助かります」
ついでにと言ってテリースさんが私に風魔法の発動を試させてくれた。またもや左手を合わせて信号を送ってもらう。前回同様、手のひらに小さなつむじ風を発生させるまでは簡単に自分一人でも出来たのに、魔力を乗せようとすると不完全燃焼のポスッが出た。
私よっぽど不器用なのかな?
「あゆみさん、自分の系統外の魔法が出せるだけでも大したものなんですよ、これは喜ぶべきです」
落ち込む私にテリースさんが慰めの言葉をかけてくれた。後ろでトーマスさんも大きく頷いてる。
そっか、私の系統は確か雷、火と水だったっけ。あとで水も試してみたいな。
こうして私達は帰途に着こうとしたのだが。
最後に中庭に散乱した木くずをみんなと一緒に片付けてた私の目に、そこに置かれてた大きなものが目についた。布を被せられたそれはどうも最近できたばかりのガラクタらしく、まだ他のガラクタに埋まってない。
気になったのは、その周りがちょっと焦げてるところ。
「あのピートルさん、これなんですか?」
指さしながら聞くとピートルさんがちょっと複雑そうな表情で答えてくれた。
「ああ、それが俺たちの怪我の凶元だ」
そう言って近づいて行って布を取り外してくれる。中から現れたのはどでかいタンクのような物と、そこから鉄のチューブでつながった機械、そして車輪。
これって……
「中央からの注文なんだが、ナンシーの奴らが自分たちの手に余るもんだからってこっちに押し付けて来たんだ。『蒸気機関』とかいうらしい」
私の横まで来た黒猫君も顔をこわばらせた。
「今『中央からの注文』って言ったか?」
「ああ。懸賞付きで回ってきた注文だったが、ナンシーで作れる奴がいなくてこっちまで話が回ってきたんだ。ほら、ここはウイスキー作ってるから、こういうタンクを作る技術があるって知られてるしな」
そう言ってピートルさんがタンクをコンコンと叩く。
「だがタンクからこちらに空気を送り込んだあとが悪い。どうやっても注文されたような動きが出せない」
「そうなんです。僕も一緒にこの部分から先を作ってるんですが」
そういってアリームさんが車輪の方を指さした。
「なぜここを木にしようとしたんだ?」
黒猫君が尻尾で示したのは機械の部分と車輪をつなぐ辺り。
「ああ、構造上その辺りは柔軟性が必要なんだよ。稼働率が高いから細くした鉄じゃすぐに折れちまう。前回太めの鉄で作った時はいくら圧を上げても動かなくて逆に爆発した」
「え、まさかそのケガって……」
「ああ、その時のやつだ。だから今回はその部分を木に変えたんだが、今度は蒸気で木が歪んでこの通り」
暫くガラクタの辺りを見て回っていた黒猫君がちょっと息を吐いて呟いた。
「……あんたらの作ってる鉄じゃ多分無理だ」
「どういうことだ?」
「鉄がもろすぎるんだよ。どうせこの機械部分が破裂したんだろ」
言われてみれば機械部分の上のパイプが繋がった辺りが一部破損していた。
「いまあんたらが使っている鉄じゃ多分無理なんだ」
黒猫君の言葉にピートルさんが憮然として答える。
「なんでお前にそんなことが分かる」
「見て来たからさ」
そう言ってピートルさんに向き直る。
「これは俺たちの知っている技術だ。だから俺は動いてるところを見たことがあるのさ」
ピートルさんを見上げる黒猫君の目が日を照り返してきらりと光った。
「こちらです」
そう言ってアリームさんが見せてくれたのは……4本の足がついた大きな箱だった。
「アリーム、なんか木の削りカスかなにか軽いもんないか?」
黒猫君の質問にアリームさんが部屋の端から木くずの詰まった箱を持ってきてくれる。
「ちょっと外に出てやってみるぞ」
そう言って黒猫君はアリームさんに箱を庭まで出してもらう。
「テリース、こっちに来てここから軽い風魔法を送ってみてくれ。アリーム、あんたはその木くずを上から入れてみてくれ」
黒猫君に頷いて、アリームさんが木くずを箱の上の片側に開いた落とし口からちょっとずつ入れ始めた。すぐにテリースさんが箱の横に開いた穴から風を送る。するとひらひらの薄い木くずだけがちょっとずつ前面に開かれた口から零れだした。
「まあ、大体大丈夫だな。あとは麦の重さ次第だ。ああ、アリームここの所に傾斜をつけておいてくれ」
そう言って尻尾で示したのは、さっき木くずが落ちてきた出口のところ。確かに外に落ちた物より中にたまっちゃったもののほうが多いみたい。
「あとこの風の吹き込み口を囲って、長さを調節できるようにしとくといいと思うよ」
やっと用途が分かって私もちょっと言ってみる。アリームさんが頷いて近くのお弟子さんを呼んでいた。
「これも変更が終わったらあとは農村で試すしかないな」
「この程度の変更なら明日には終わりますよ、明日一緒に行きましょう」
「いいのかそんな約束勝手にして。おい、テリース?」
「まあ、仕方ありませんね」
テリースさんが肩をすくめてる。
「お、俺も手伝いに来よう。この大きさの道具では一人では運べまい」
トーマスさんがお手伝いしてくれるらしい。
「それは助かります」
ついでにと言ってテリースさんが私に風魔法の発動を試させてくれた。またもや左手を合わせて信号を送ってもらう。前回同様、手のひらに小さなつむじ風を発生させるまでは簡単に自分一人でも出来たのに、魔力を乗せようとすると不完全燃焼のポスッが出た。
私よっぽど不器用なのかな?
「あゆみさん、自分の系統外の魔法が出せるだけでも大したものなんですよ、これは喜ぶべきです」
落ち込む私にテリースさんが慰めの言葉をかけてくれた。後ろでトーマスさんも大きく頷いてる。
そっか、私の系統は確か雷、火と水だったっけ。あとで水も試してみたいな。
こうして私達は帰途に着こうとしたのだが。
最後に中庭に散乱した木くずをみんなと一緒に片付けてた私の目に、そこに置かれてた大きなものが目についた。布を被せられたそれはどうも最近できたばかりのガラクタらしく、まだ他のガラクタに埋まってない。
気になったのは、その周りがちょっと焦げてるところ。
「あのピートルさん、これなんですか?」
指さしながら聞くとピートルさんがちょっと複雑そうな表情で答えてくれた。
「ああ、それが俺たちの怪我の凶元だ」
そう言って近づいて行って布を取り外してくれる。中から現れたのはどでかいタンクのような物と、そこから鉄のチューブでつながった機械、そして車輪。
これって……
「中央からの注文なんだが、ナンシーの奴らが自分たちの手に余るもんだからってこっちに押し付けて来たんだ。『蒸気機関』とかいうらしい」
私の横まで来た黒猫君も顔をこわばらせた。
「今『中央からの注文』って言ったか?」
「ああ。懸賞付きで回ってきた注文だったが、ナンシーで作れる奴がいなくてこっちまで話が回ってきたんだ。ほら、ここはウイスキー作ってるから、こういうタンクを作る技術があるって知られてるしな」
そう言ってピートルさんがタンクをコンコンと叩く。
「だがタンクからこちらに空気を送り込んだあとが悪い。どうやっても注文されたような動きが出せない」
「そうなんです。僕も一緒にこの部分から先を作ってるんですが」
そういってアリームさんが車輪の方を指さした。
「なぜここを木にしようとしたんだ?」
黒猫君が尻尾で示したのは機械の部分と車輪をつなぐ辺り。
「ああ、構造上その辺りは柔軟性が必要なんだよ。稼働率が高いから細くした鉄じゃすぐに折れちまう。前回太めの鉄で作った時はいくら圧を上げても動かなくて逆に爆発した」
「え、まさかそのケガって……」
「ああ、その時のやつだ。だから今回はその部分を木に変えたんだが、今度は蒸気で木が歪んでこの通り」
暫くガラクタの辺りを見て回っていた黒猫君がちょっと息を吐いて呟いた。
「……あんたらの作ってる鉄じゃ多分無理だ」
「どういうことだ?」
「鉄がもろすぎるんだよ。どうせこの機械部分が破裂したんだろ」
言われてみれば機械部分の上のパイプが繋がった辺りが一部破損していた。
「いまあんたらが使っている鉄じゃ多分無理なんだ」
黒猫君の言葉にピートルさんが憮然として答える。
「なんでお前にそんなことが分かる」
「見て来たからさ」
そう言ってピートルさんに向き直る。
「これは俺たちの知っている技術だ。だから俺は動いてるところを見たことがあるのさ」
ピートルさんを見上げる黒猫君の目が日を照り返してきらりと光った。
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