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第13章 ヨークとナンシーと
18 真夜中の騒乱2
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「あゆみ起きろ!」
テーブルいっぱいに広げられたケーキの山に夢中で齧りついてる最中、突然黒猫君の緊迫した声がボワンっと耳に響いてきた。
途端、世界が暗くなって、素晴らしい夢から悲しい現実へと引き戻される。
「く……ろねこ……くん……?」
腕をひかれ、文句を言おうと思って初めて自分が真っ暗な幌馬車の中で寝ていたことを思い出した。
寝ぼけ眼をこすりつつ、目前の黒猫君の肩越しに外の暗闇が目に入ったすぐ次の瞬間。
右前方からまっすぐ空に向かって真っ白い閃光が立ちあがる。
「あれは──」
あれは知ってる。
あれは、以前私が作った光魔石の『包弾(小)』の更に改良版、『照明弾』!
なーんて言っても、実は同じ『包弾(小)』を長い縄で括って、ヨーヨーの用にぐるぐる回して上に投げ上げるだけの仕組みなんだけど。
昨日の密会の中で、タカシ君が輸送中に襲撃される可能性を教えてくれたので、もしものためにテリースさんがそれを持たされたのは私も見てた。
テリースさんがあれを投げあげたってことは、本当に襲撃が起きちゃったってことで……!
「襲撃? どこ? 誰?」
知ってたのと実際に起きたのじゃ話が全然ちがう。
っていうか「来るかも」って言われたからって本当にくるなんて思わないじゃん!
寝起きで空回りする思考と、閃光に照らされて眩んだ私の目に、突如周りの惨状が飛び込んだ。
「あ、待ってあそこ! 誰か地面に倒れてる!」
照明弾の光に照らされて、昨日焚き火をしていたあたりでごちゃっとなってる人たちが見えた。
地面に倒れてるのはあれ多分、今日ずっと荷馬車の護衛してくれてた傭兵さん!?
あとは見覚えのない人たちがいっぱい、剣を持って暴れてて。
残りの傭兵さんたちが応戦してるけど、数人がもう、私達のほうへ近寄ってきてて──。
「お前は伏せてろ!」
思わず黒猫君の横から身を乗り出そうとして、叫んだ黒猫君に思いっきり頭を押さえつけられた。
それでも地面に落ちた閃光弾のうす明かりの中、なんとか覗くように外を見れば、あの優しいおじいさんたちが私たちの馬車を囲むように襲撃者の剣に身を晒してて──。
「そっち! チビのじいさん避けろ!」
「チビとはひどいのぅ、ほいっ!」
「右、痩せすぎのじいさん来てるぞ!」
「はっ、じじいは痩せてるもんじゃ」
それでなんで馬車の上から黒猫君がおじいさんたちに指示出して応戦手伝ってるの!?
黒猫君に言われるまま、おじいさんたちが代わるがわる襲ってくる襲撃者を魔法で威嚇しつつ、手に持ったこん棒で振り下ろされる剣を右に左にいなしてる!
おじいさんたちが使ってるのは、見るからに普通のどこにでもある木のこん棒。なのに、どうなってるのか、鋭い剣を受け流しても全然折れないし切れてもいない。
それどころか、おじいさんたちは皆片手でこん棒を扱いながら、反対の手からポンポン小さな火球を飛ばしてる。
黒猫君の火魔法と比べたら決して大きな火球じゃないんだけど、そのタイミングが絶妙で、襲撃者の人たちは間合いを図り損ねて何度も後退させられてた。
それでも火の玉を避けながら、とうとう数人こっちに突っ込んできて──
危ない!
──そう叫びそうになったその時、赤く輝く何かが私たちの頭上をヒューンと飛びさっていく。
思わずそれを追いかけるように見上げてたら、次の瞬間、頭上がパッと明るくなって幌馬車の幌が溶けるように燃えだした。
「ィッ──!」
それを見た私の悲鳴が悲鳴になるよりも早く、黒猫君が私を横抱きにして、きれいな跳躍で幌馬車から飛び降りる。
「動くなといっただろうっ!」
「燃えてんだよ、よく見ろ──っ!」
枷と鎖をガチャガチャガチャンと盛大に鳴り響かせて着地した私たちに、すぐ横のおじいさんが鋭く叫び、それに黒猫君がまた叫び返して。
── カッキーーーーン!
二人の声をかき消すように、信じられないほど近くで鉄と鉄がかち合う甲高い音が私の耳をつんざいていく。
今まさに、私たち三人の前に打ち下ろされた剣を、黒猫くんの短剣が跳ね上げたのだ。
「それでも、だっ!」
飛んできた火球を避けようとして、前に飛び出そうとした私たちを、今度は横から伸びた別のおじいさんの腕が引き戻す。
「ぐぉ、何すんだっ…うおっ!」
慌ててよろめいた黒猫君と、腕に抱かれた私の今いた場所を、キラリと輝く剣先が切り裂いていった。
「!!!」
私が改めて悲鳴をあげようと吸った息が、こんどは突如目前を覆った黒い壁に遮られた。
それは大きなローブの背中で、その背中にぶつかった黒猫くんが後ろに突き飛ばされ、私は黒猫君ごと後ろの地面にゴロンと転がって──
「お、おじいさん!」
──それは一瞬の出来事のはずなのに、まるでスローモーションのようにゆっくりと進んでいく。
私達を突き飛ばした黒いローブの背中から、何か銀色のものが突然生えて、そしてすぐに引っ込んで。
その大きな体が、私の目前で、ゆっくり、ゆっくりと地面に崩れ落ちていった。
黒のローブが、黒よりもまだ黒く染まっていくのがなぜなのかどうしても理解できない。
だから黒猫君の腕の中の私は、信じられない思いでその光景をただジッと見つめてしまった。
脳裏に響く自分の声が、それが染み出す血飛沫のせいだと囁く。
すると地面に倒れ付したおじいさんの体が、以前矢を受けて倒れたときの黒猫君の姿に重なって見えた。
目前の様子と、その意味が脳内で繋がって、正しく意味を理解した途端。
鋭い怒りが迸り、恐怖が渦を巻いて私を飲み込んだ。
「ぅううわああああああ────っ!!」
自分の叫び声に耳鳴りがする中。
抗うことも忘れ、振り切れた感情の濁流に飲み込まれた私は、ただその衝動に突き動かされ、加減なしで、思いっきり、力いっぱい魔力を垂れ流した──。
テーブルいっぱいに広げられたケーキの山に夢中で齧りついてる最中、突然黒猫君の緊迫した声がボワンっと耳に響いてきた。
途端、世界が暗くなって、素晴らしい夢から悲しい現実へと引き戻される。
「く……ろねこ……くん……?」
腕をひかれ、文句を言おうと思って初めて自分が真っ暗な幌馬車の中で寝ていたことを思い出した。
寝ぼけ眼をこすりつつ、目前の黒猫君の肩越しに外の暗闇が目に入ったすぐ次の瞬間。
右前方からまっすぐ空に向かって真っ白い閃光が立ちあがる。
「あれは──」
あれは知ってる。
あれは、以前私が作った光魔石の『包弾(小)』の更に改良版、『照明弾』!
なーんて言っても、実は同じ『包弾(小)』を長い縄で括って、ヨーヨーの用にぐるぐる回して上に投げ上げるだけの仕組みなんだけど。
昨日の密会の中で、タカシ君が輸送中に襲撃される可能性を教えてくれたので、もしものためにテリースさんがそれを持たされたのは私も見てた。
テリースさんがあれを投げあげたってことは、本当に襲撃が起きちゃったってことで……!
「襲撃? どこ? 誰?」
知ってたのと実際に起きたのじゃ話が全然ちがう。
っていうか「来るかも」って言われたからって本当にくるなんて思わないじゃん!
寝起きで空回りする思考と、閃光に照らされて眩んだ私の目に、突如周りの惨状が飛び込んだ。
「あ、待ってあそこ! 誰か地面に倒れてる!」
照明弾の光に照らされて、昨日焚き火をしていたあたりでごちゃっとなってる人たちが見えた。
地面に倒れてるのはあれ多分、今日ずっと荷馬車の護衛してくれてた傭兵さん!?
あとは見覚えのない人たちがいっぱい、剣を持って暴れてて。
残りの傭兵さんたちが応戦してるけど、数人がもう、私達のほうへ近寄ってきてて──。
「お前は伏せてろ!」
思わず黒猫君の横から身を乗り出そうとして、叫んだ黒猫君に思いっきり頭を押さえつけられた。
それでも地面に落ちた閃光弾のうす明かりの中、なんとか覗くように外を見れば、あの優しいおじいさんたちが私たちの馬車を囲むように襲撃者の剣に身を晒してて──。
「そっち! チビのじいさん避けろ!」
「チビとはひどいのぅ、ほいっ!」
「右、痩せすぎのじいさん来てるぞ!」
「はっ、じじいは痩せてるもんじゃ」
それでなんで馬車の上から黒猫君がおじいさんたちに指示出して応戦手伝ってるの!?
黒猫君に言われるまま、おじいさんたちが代わるがわる襲ってくる襲撃者を魔法で威嚇しつつ、手に持ったこん棒で振り下ろされる剣を右に左にいなしてる!
おじいさんたちが使ってるのは、見るからに普通のどこにでもある木のこん棒。なのに、どうなってるのか、鋭い剣を受け流しても全然折れないし切れてもいない。
それどころか、おじいさんたちは皆片手でこん棒を扱いながら、反対の手からポンポン小さな火球を飛ばしてる。
黒猫君の火魔法と比べたら決して大きな火球じゃないんだけど、そのタイミングが絶妙で、襲撃者の人たちは間合いを図り損ねて何度も後退させられてた。
それでも火の玉を避けながら、とうとう数人こっちに突っ込んできて──
危ない!
──そう叫びそうになったその時、赤く輝く何かが私たちの頭上をヒューンと飛びさっていく。
思わずそれを追いかけるように見上げてたら、次の瞬間、頭上がパッと明るくなって幌馬車の幌が溶けるように燃えだした。
「ィッ──!」
それを見た私の悲鳴が悲鳴になるよりも早く、黒猫君が私を横抱きにして、きれいな跳躍で幌馬車から飛び降りる。
「動くなといっただろうっ!」
「燃えてんだよ、よく見ろ──っ!」
枷と鎖をガチャガチャガチャンと盛大に鳴り響かせて着地した私たちに、すぐ横のおじいさんが鋭く叫び、それに黒猫君がまた叫び返して。
── カッキーーーーン!
二人の声をかき消すように、信じられないほど近くで鉄と鉄がかち合う甲高い音が私の耳をつんざいていく。
今まさに、私たち三人の前に打ち下ろされた剣を、黒猫くんの短剣が跳ね上げたのだ。
「それでも、だっ!」
飛んできた火球を避けようとして、前に飛び出そうとした私たちを、今度は横から伸びた別のおじいさんの腕が引き戻す。
「ぐぉ、何すんだっ…うおっ!」
慌ててよろめいた黒猫君と、腕に抱かれた私の今いた場所を、キラリと輝く剣先が切り裂いていった。
「!!!」
私が改めて悲鳴をあげようと吸った息が、こんどは突如目前を覆った黒い壁に遮られた。
それは大きなローブの背中で、その背中にぶつかった黒猫くんが後ろに突き飛ばされ、私は黒猫君ごと後ろの地面にゴロンと転がって──
「お、おじいさん!」
──それは一瞬の出来事のはずなのに、まるでスローモーションのようにゆっくりと進んでいく。
私達を突き飛ばした黒いローブの背中から、何か銀色のものが突然生えて、そしてすぐに引っ込んで。
その大きな体が、私の目前で、ゆっくり、ゆっくりと地面に崩れ落ちていった。
黒のローブが、黒よりもまだ黒く染まっていくのがなぜなのかどうしても理解できない。
だから黒猫君の腕の中の私は、信じられない思いでその光景をただジッと見つめてしまった。
脳裏に響く自分の声が、それが染み出す血飛沫のせいだと囁く。
すると地面に倒れ付したおじいさんの体が、以前矢を受けて倒れたときの黒猫君の姿に重なって見えた。
目前の様子と、その意味が脳内で繋がって、正しく意味を理解した途端。
鋭い怒りが迸り、恐怖が渦を巻いて私を飲み込んだ。
「ぅううわああああああ────っ!!」
自分の叫び声に耳鳴りがする中。
抗うことも忘れ、振り切れた感情の濁流に飲み込まれた私は、ただその衝動に突き動かされ、加減なしで、思いっきり、力いっぱい魔力を垂れ流した──。
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