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第3章 始動
6 昼食
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黒猫君の指導の下、私たちは手早くお昼ご飯を作った。
調理は……本当に簡単だった。
昨日汲み置きしてあった水をピートルさんが鍋に移す。それに塩だけ入れて沸かしてる間に、ボールにミルクをカップ一杯だけ、ちぎったパン、そしてすりおろしたにんにくを入れて混ぜとく。
皮を剥いたジャガイモは、今日は角砂糖よりちょっと大きいぶつ切り。それを先に鍋に入れて、ジャガイモが煮えてきた所でさっきボールに混ぜてた物を投入。
それだけ。
「味見して塩を足してくれ」
ああ、猫舌だもんね。
私は言われた通り、味見してみる。
美味しい!
いや、そんなすごく絶品とかじゃないんだけど、ここしばらくこういうコクのある物を全く食べてなかったからすごく美味しい。
横で味見する私の顔色を注意深く観察してたピートルさんが、たまらず私の手から木のスプーンをぶんどって自分でも味見する。
「……これが昼飯か?」
「なんか文句あるのか?」
「あるわけないだろ! 昼からこんな贅沢なもん食っていいのかって言ってんだよ」
あ。これ贅沢なスープだったんだ。
「そうだな。このままじゃ毎日は無理かもな」
そう言って黒猫君が金の瞳を光らせながら、器用に口をニヤーっとイジワルな笑みに歪ませた。
「まあ、努力次第ではもっと出るかもしれないぞ」
ピートルさんが食いつくような眼差しで黒猫君の小さな猫の顔を見つめる。
「その話は夕飯作る時にでもしようや。ピートル、悪いが俺たちはまだ兵舎で話し合いが続くんだ。その間また料理を手伝ってくれるか?」
無論ピートルさんは二つ返事で承諾してくれた。
食堂に集まった皆さんが自分たちの皿を見て固まった。そのまま誰も手を付けない。あ、今日は昨日より一人多い。
「あのー、冷める前にどうぞ食べ始めてください」
私がおずおずと声を掛けると、グワっと音がしそうな勢いで一斉に全員が私を見た。
「これは俺たちの最後の晩餐か?」
「とうとうここもつぶれるのか?」
「もう駄目だったのか?」
「明日から俺たちどこへ行けばいいんだ?」
「…………」
一斉に話しかけられて、すごい勢いで迫られて、つい私は黒猫君の後ろに隠れてしまった。
「安心しろ、それは単なるお前らの昼飯だ」
「そんな馬鹿なことあるか」
「そうだ、これミルクだぞ」
「なんかそれ以外にパンみたいのも浮いてるし」
「騙されるかよ」
「…………」
さっきっからピートルさんが一人で真っ赤になって黙ってる。
はは、さっき黒猫君に口止めされて言うに言えないけど言いたくて仕方ないんだ。
それを見ていた黒猫君がわざとらしくピートルさんに話しかける。
「聞いたかピートル、誰も俺らを信じたくないんだってさ。じゃあ俺たちで全部食っちまうか。どうせ夕食だってまた作るんだ」
突然話を振られたピートルさんが真っ赤だった顔を余計赤くして呻くようにして答える。
「お前ら、これ、本当にただの昼飯だぞ。……しかも、あゆみたちは夕食ももう準備し始めてる」
そう、スープが煮え切るまで実は夕食の下ごしらえを始めてたのだ。
「俺も手伝ってるから俺だけ少し多いだろ。これからも手伝ったら多くくれるんだとさ」
ピートルさんの言葉に全員がすごい真剣な顔でピートルさんと黒猫君を交互に見比べている。
「ほ、本当なのか?」
「本当にまだ食い物があるのか?」
「これ食っちまってもいいんだな?」
「……俺手伝いを約束しててよかった」
バッと残りの3人がアリームさんを振り返った。アリームさんは昨日もう一人お手伝いを約束してくれた人だ。
「俺たちは……」
「いけませんよ。皆さんはまだ調理が手伝えるほど健康になってらっしゃいませんから」
ぴしゃりとテリースさんが言い放った。
全員しばらくまた目の前のスープを見ていたが、それぞれ恐る恐る手を付ける。
部屋が静まり返った。
スプーンでスープを掬う音と、スープを啜る小さな音だけが部屋に響く。
また嗚咽が聞こえた。誰かすごく感動しやすい人がいるみたい。
そのまま無言で昼食を終えると、部屋のみんなの顔が昨日とは比べものにならないくらい緩み切ってた。
「ごちそーさまでした」
私がそう言うと、全員揃っていれば不思議そうな顔でこちらを振り返る。
え?
「あゆみ、どうもここにはその挨拶がないみたいだな」
「あゆみさん、今のはなんですか?」
「え? ごちそうさまでした、ってこれ、ご飯が終わった時に食べた物とか、作ってくれた人に感謝を込めて言う言葉なんです」
テリースさんが大きく目を見開く。
「いい言葉ですね。それではあゆみさん、ごちそうさまでした」
「「「「ごちそうさまでした」」」」
部屋のそこここから『ごちそうさまでした』を頂いた。
あ、なんかすごく嬉しいかも。
「おそまつさんでした」
黒猫君が偉そうに答えた。
あ、因みにポテトの皮を入れた壺を覗き込んだ黒猫君、「出来てるぞ!? なんで一日で完成してるんだ!??」っとしきりに首を捻りながら、ピートルさんにそれを濾して麦の粉と混ぜておくようにお願いしてた。
私が朝挽いた粉が無駄にならなかったんだからいいと思うんだけどね。
調理は……本当に簡単だった。
昨日汲み置きしてあった水をピートルさんが鍋に移す。それに塩だけ入れて沸かしてる間に、ボールにミルクをカップ一杯だけ、ちぎったパン、そしてすりおろしたにんにくを入れて混ぜとく。
皮を剥いたジャガイモは、今日は角砂糖よりちょっと大きいぶつ切り。それを先に鍋に入れて、ジャガイモが煮えてきた所でさっきボールに混ぜてた物を投入。
それだけ。
「味見して塩を足してくれ」
ああ、猫舌だもんね。
私は言われた通り、味見してみる。
美味しい!
いや、そんなすごく絶品とかじゃないんだけど、ここしばらくこういうコクのある物を全く食べてなかったからすごく美味しい。
横で味見する私の顔色を注意深く観察してたピートルさんが、たまらず私の手から木のスプーンをぶんどって自分でも味見する。
「……これが昼飯か?」
「なんか文句あるのか?」
「あるわけないだろ! 昼からこんな贅沢なもん食っていいのかって言ってんだよ」
あ。これ贅沢なスープだったんだ。
「そうだな。このままじゃ毎日は無理かもな」
そう言って黒猫君が金の瞳を光らせながら、器用に口をニヤーっとイジワルな笑みに歪ませた。
「まあ、努力次第ではもっと出るかもしれないぞ」
ピートルさんが食いつくような眼差しで黒猫君の小さな猫の顔を見つめる。
「その話は夕飯作る時にでもしようや。ピートル、悪いが俺たちはまだ兵舎で話し合いが続くんだ。その間また料理を手伝ってくれるか?」
無論ピートルさんは二つ返事で承諾してくれた。
食堂に集まった皆さんが自分たちの皿を見て固まった。そのまま誰も手を付けない。あ、今日は昨日より一人多い。
「あのー、冷める前にどうぞ食べ始めてください」
私がおずおずと声を掛けると、グワっと音がしそうな勢いで一斉に全員が私を見た。
「これは俺たちの最後の晩餐か?」
「とうとうここもつぶれるのか?」
「もう駄目だったのか?」
「明日から俺たちどこへ行けばいいんだ?」
「…………」
一斉に話しかけられて、すごい勢いで迫られて、つい私は黒猫君の後ろに隠れてしまった。
「安心しろ、それは単なるお前らの昼飯だ」
「そんな馬鹿なことあるか」
「そうだ、これミルクだぞ」
「なんかそれ以外にパンみたいのも浮いてるし」
「騙されるかよ」
「…………」
さっきっからピートルさんが一人で真っ赤になって黙ってる。
はは、さっき黒猫君に口止めされて言うに言えないけど言いたくて仕方ないんだ。
それを見ていた黒猫君がわざとらしくピートルさんに話しかける。
「聞いたかピートル、誰も俺らを信じたくないんだってさ。じゃあ俺たちで全部食っちまうか。どうせ夕食だってまた作るんだ」
突然話を振られたピートルさんが真っ赤だった顔を余計赤くして呻くようにして答える。
「お前ら、これ、本当にただの昼飯だぞ。……しかも、あゆみたちは夕食ももう準備し始めてる」
そう、スープが煮え切るまで実は夕食の下ごしらえを始めてたのだ。
「俺も手伝ってるから俺だけ少し多いだろ。これからも手伝ったら多くくれるんだとさ」
ピートルさんの言葉に全員がすごい真剣な顔でピートルさんと黒猫君を交互に見比べている。
「ほ、本当なのか?」
「本当にまだ食い物があるのか?」
「これ食っちまってもいいんだな?」
「……俺手伝いを約束しててよかった」
バッと残りの3人がアリームさんを振り返った。アリームさんは昨日もう一人お手伝いを約束してくれた人だ。
「俺たちは……」
「いけませんよ。皆さんはまだ調理が手伝えるほど健康になってらっしゃいませんから」
ぴしゃりとテリースさんが言い放った。
全員しばらくまた目の前のスープを見ていたが、それぞれ恐る恐る手を付ける。
部屋が静まり返った。
スプーンでスープを掬う音と、スープを啜る小さな音だけが部屋に響く。
また嗚咽が聞こえた。誰かすごく感動しやすい人がいるみたい。
そのまま無言で昼食を終えると、部屋のみんなの顔が昨日とは比べものにならないくらい緩み切ってた。
「ごちそーさまでした」
私がそう言うと、全員揃っていれば不思議そうな顔でこちらを振り返る。
え?
「あゆみ、どうもここにはその挨拶がないみたいだな」
「あゆみさん、今のはなんですか?」
「え? ごちそうさまでした、ってこれ、ご飯が終わった時に食べた物とか、作ってくれた人に感謝を込めて言う言葉なんです」
テリースさんが大きく目を見開く。
「いい言葉ですね。それではあゆみさん、ごちそうさまでした」
「「「「ごちそうさまでした」」」」
部屋のそこここから『ごちそうさまでした』を頂いた。
あ、なんかすごく嬉しいかも。
「おそまつさんでした」
黒猫君が偉そうに答えた。
あ、因みにポテトの皮を入れた壺を覗き込んだ黒猫君、「出来てるぞ!? なんで一日で完成してるんだ!??」っとしきりに首を捻りながら、ピートルさんにそれを濾して麦の粉と混ぜておくようにお願いしてた。
私が朝挽いた粉が無駄にならなかったんだからいいと思うんだけどね。
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