異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

文字の大きさ
上 下
12 / 406
第1章 始まり

12 ネロ

しおりを挟む
 私のテリースさん看病生活が始まった。
 と言うと、なんだかすごく働いているみたいだけど全然お役に立てていない。なんせ、いくら杖を突いて歩き回れるようになったとは言え、まだまだ出来ることは限られてる。片手じゃ水も運べないし、食事も持ってこれない。出来るのなんてタオルを持ってくるぐらいだ。
 お着替えを手伝いましょうかと言う私の善意は、思いっきり顔をひきつらせたテリースさんにお断りされた。

「あの、私本当に役立たずですね」
「いいんですよ。キールは私が傷をおして動き回らないように貴方を付けてくれただけですから」

 やっぱりそういうことなのだろうか。それにしてもタオルくらい黒猫君でも持ってこれる。
 それどころか。

「おい、下の兵士が薬を渡してくれってさ」
「ありがとうございますネロ君」

 あ。また先越された。
 黒猫君は敏捷に階段を上り下りして、好き勝手にここを歩き回ってるみたい。下の兵士さん達とも結構色々話しているらしいし。
 兵士さんたちは気安く黒猫君に用事を頼む。私じゃなくて。
 黒猫君はあっという間に皆の間に入り込んでる。
 私が黒猫君と呼ぶのを聞いていたキールさん達が、黒猫君を『ネロ』と呼び始めた。

 「イタリア語かよ」って黒猫君が言ってたけど、なんで君がイタリア語だってわかるのさ。
 そう尋ねたら「お前大学行ってたんだろう?」って返された。

 悔しいぃぃぃ。

 因みに黒猫君は高校中退だったそうだ。
 「何やらかしたの?」という私の質問は「もう関係ねーだろ」と軽くかわされてしまった。
 そうなんだよね。大学出ていようが高校中退だろうが、こっちでなんとかやっていく上ではなんの意味もない。

 テリースさんが自分で言ってたように、テリースさんの傷は順調に治っていった。
 テリースさんが包帯を自分で替えてる所を見てみれば、矢の刺さってた傷は中から肉が盛り上がって塞がってて、すでに皮膚の表面の色が違う程度であまり分からなくなってきていた。

「凄いですね。ここの医療レベルってめちゃ高」
「そうですね、外傷には強いんですが。病には弱いですね」
「あ、伝染病とか?」
「まあ、無論それもどうにもできませんが、例えば頭痛ですとか腹痛ですとか。痛みは止められても、そういう体内の問題自体に効果のある魔術がありませんので服薬が主ですね」

 そっか。じゃあ病気にはならないように気を付けよう。

「じゃあこの黒猫君が持ってきた薬って……」
「それは私の持病の薬です。もともと血が薄いんですよ。それを補うための薬です」

 それって貧血ってことかな。

「じゃあ、ほうれん草とかいっぱい食べなきゃですね」
「ほうれん草ですか?」
「え? ええ。だって血が薄いんですよね」
「馬鹿、それは鉄分が足りない時だ。赤血球が足りない場合は豚や鳥肉、それに貝類だな」
「え? そうなの?」
「そうなんですか?」

 テリースさんと声が重なってしまった。

「まてお前らどっちも知らないのか?」

 黒猫君が猫の分際で小ばかにした声を上げる。

「私は医療関係者として薬学も少しは学びましたが、そのようなお話は聞いたことがありませんね」
「そうか。じゃあこれもこっちで生きていく何かの伝手にはなりそうだな」
「そうですね。ところでネロ君、今後の予定はもう決まりましたか?」
「ああ、ここをなるべく早く抜け出して生活を始めたいな」

 え? なにそれ? 聞いてないよ?

「あゆみさんにはまだ話していなかったんですか?」
「……ああ。ここ暫くそれどころじゃなかったろ」
「そうですね」

 二人でチロリとこっちを見る。

「黒猫君、どういうことか説明してくれるかな?」

 二人の意味ありげな視線に不安になって黒猫君に訪ねた。
 するとテリースさんのベッドに座ってる黒猫君は、何事もないかのように猫の手を舐めつつ返事を返す。

「どうもこうも大したことじゃない。お前もキールの話を聞いただろう?」
「あの王都に行くってやつ?」

 あ、目を細めて顔洗い出した。

「ああ。あの時キールは言葉を濁してたが、過去にもこちらに来て生き残った者が居なかったわけじゃないそうだ」
「え? そうなの?!」
「はい。すでにネロ君には説明しましたが幾つかお話が残っています。確か最後の生存者は250年程前ですね」

 私の驚きを他所に黒猫君は身繕いに余念がない。

「ところがだ。生き残りのその後については話が聞かれないそうだ」
「ええ。良くお話では王宮で幸せに暮らしました、となるのですが」
「うわ、それなんか怪しい」
「俺もそう思った。それでだ。キールは一応国に雇われている関係上こういう話を直接俺達には出来ない。だから、わざわざテリースを通して、ここが落ち着く前に自分たちの居場所を作っちまえって伝えてきた」

 あれ。キールさんもまたお人好しな。

 やっと顔を洗い終わった黒猫君は、すっと背中を伸ばして座り直し、私の反応を確認するようにこちらに視線をよこす。

「でもそんなこと出来るのかな」
「出来るも出来ないも、なんとかしないとな。残念ながら今のところ俺じゃ生計の立てようもない。お前になんとかもう少し動けるようになってもらわないと」

 ふと見ると黒猫君が俯いてる。

「黒猫君、でもなんか今のところ君のほうが一歩リードって感じ? 私と違ってこの世界にも結構馴染んできてるみたいだし」

 なんとなく黒猫君が落ち込んでるような気がして慌てて言ったけど、事実すぎて今度は私のほうが落ち込みそう。

「お二人とも充分に馴染まれてきていると思いますよ。さて、あゆみさん、貴方の足のお話をしましょう」

 二人まとめて当たり前のようにそう言って、テリースさんがにっこりと笑った。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...