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第12章 北の砦
24 後片付け2
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「こっちじゃこっち」
「ここまで」
「この幅で上に」
「代わりにここからここまで下に」
えっとここをここまで上げながら、ここをこれくらい下げて……
「次はこっちな」
「その次はこっちも」
「ま、待って、今順番に回るから」
私が一箇所の作業に集中してる間に、あちこちのドワーフさんたちから次から次へと声がかかる。そんなに一斉に言われても、一度に一箇所づつしかできないんだけど。
今、私たちがなにをしてるかと言いますと。
とうとう砦の奥の鉱山に入ってお仕事してます。
ドワーフさんたち、いつの間にかドラゴンさんたちから私を使って鉱山の中を掃除するように言いつかったらしい。彼ら曰く、私の土魔法なら充分にそれが可能なのだと言う。
「こっちはもっと上だなぁ」
「あ、そこまで?」
目の前で飛び上がってハンマーで壁に線を引いたドワーフさんにもう一度確認して作業を進める。他にもそこここからドワーフさんたちが試すようにハンマーで壁や床を打つ音がカキンカキンと響いてた。
「あゆみ少し休んだらどうだ」
「まだまだ平気だよ? 折角だしもう少し終わらせちゃいたいかな」
オークの死体を片付けてる黒猫君たちとは只今ちょっと別行動中。代わりにバッカスとヴィクさんが私に付き合ってくれてる。自分で分担決めたくせに、黒猫君は最後まで私をバッカスに渡したがらず、話こそしなかったもののずっと心配そうに私を見てた。さっきはなんか視線逸らしたクセに。
代わりに今はバッカスがちょくちょく心配そうに顔を覗き込んでくるんだけど、ちょっと困っちゃう。
これ、たった一つ私がちゃんと出来るお仕事だし、集中してやることがあるのは実はとてもありがたいのだ。さっき聞いた記憶の話はショックが大き過ぎて、私はまだ向き合いきれない。出来れば他のことで気を紛らわしてたい。
「とは言え、本当にこれいつになったら終わるんだろう?」
薄暗がりに広がる先の見えない坑道内を見回して、私はため息が隠せない。
鉱山の中は思いの外広かった。まあ入り口からして大きかったけどね。
崖にポッカリと空いた入り口の辺りは車二台が並んで走れそうな大きさで、高さも砦の柵と変わらないくらいある。それが奥に向かって緩やかに登ってた。狼人族さんたちが住んでた洞穴とは違って、こちらは中が全部石の壁で出来てて頑丈そう。
でも真ん中の太い一本道からは何本もの細い横道が枝分かれしてた。手に持ってる光魔石のランプじゃあまり遠くまでは見通せないけど、見えた横道はどれも上がってたり下がってたりして直ぐ先が見えなくなってる。そんな坑道の右脇をチョロチョロとなんか黒っぽい水が流れてた。
これが坑道の外、崖の斜面に沿って下の川に流れ出してるみたい。暗いせいもあるけどやけに黒っぽい気がするし、多分これが黒猫君たちが言ってた『重い水』なのかな。
一緒に中に入ったドワーフさんたちは坑道の暗さもなんのその、ぴょんぴょん跳ねつつバラバラにどんどん先に進んでっちゃった。私たちの近くに残ったドンさん曰く、先に中の様子をチェックしてくれたらしい。再度全員戻ってきたところで、私のお仕事が始まったのだ。
ドワーフさんたちに従って中央の坑道から左側、水の流れとは逆の横道の一本に入ると、その道はゆっくりカーブをかきながら下に降りてて、しばらく歩けばポッカリ広がった空間に出た。そこでドワーフさんたちに言われるがままに地面を上げたり下げたり広げたり埋めちゃったり。
要は土木工事要員として便利に使われてます。
この前狼人さんたちの洞穴で大失敗したばかりの私は、最初恐々としながら作業してたんだけど。
ドワーフさんたちの指示は本当に的確で、言われるままに地面を動かす限りどこかが軋む様子さえない。彼ら曰く、地盤がしっかりしてて少しくらい上げ下げしても大丈夫な場所なんだそう。
言われるままに作業してるけど、これ、多分徐々に下に向かって掘り進めてる?
「次はあっちの坑道に移動するよぉ」
「ちょっと待て。あゆみ、その前に少し休憩しなくて大丈夫か?」
ドワーフさんの声に答えつつ、いつの間にか皮袋のお水を持ってきてくれてたヴィクさんがそれを私に渡しながら聞いてくれるけど。
「全然大丈夫だよ。この作業なら多分丸一日やってても全然平気そう」
そう。ドワーフさんたちの指示はやたら細かくて、やってることに神経は使うけど、作業自体はとっても地味で魔力量も大して使ってる気がしない。確かにこれなら魔力が増えちゃうとか大量に使っちゃうってことは先ずなさそう。
そこまで考えて、また消えた記憶のことが一瞬頭を過って。
「あゆみ、それはこっちに」
でも私が深く考え込むよりも早く私が飲み終えた水の袋をヴィクさんが引き取ってくれる。
「じゃ、次いくぞ」
「ありがとバッカス」
そして私が辛くないように抱え直し、ドワーフさんの移動するほうにバッカスがまた歩き出す。
普段飽きっぽくてこんな作業なんて放り出すはずのバッカスが、文句の一つも言わずにずっと付き合ってくれてる。それは多分黒猫君に頼まれただけじゃなくて、私を心配してくれてるんだと思う。その証拠にバッカスまで何度も何度も私を覗き込んでは休めって言ってくる。
二人が代わる代わる声をかけては面倒を見てくれる、こんな至れり尽くせりの状況のお陰で、他のことなんて考えてる暇なく私は作業に没頭できた。
「ここまで」
「この幅で上に」
「代わりにここからここまで下に」
えっとここをここまで上げながら、ここをこれくらい下げて……
「次はこっちな」
「その次はこっちも」
「ま、待って、今順番に回るから」
私が一箇所の作業に集中してる間に、あちこちのドワーフさんたちから次から次へと声がかかる。そんなに一斉に言われても、一度に一箇所づつしかできないんだけど。
今、私たちがなにをしてるかと言いますと。
とうとう砦の奥の鉱山に入ってお仕事してます。
ドワーフさんたち、いつの間にかドラゴンさんたちから私を使って鉱山の中を掃除するように言いつかったらしい。彼ら曰く、私の土魔法なら充分にそれが可能なのだと言う。
「こっちはもっと上だなぁ」
「あ、そこまで?」
目の前で飛び上がってハンマーで壁に線を引いたドワーフさんにもう一度確認して作業を進める。他にもそこここからドワーフさんたちが試すようにハンマーで壁や床を打つ音がカキンカキンと響いてた。
「あゆみ少し休んだらどうだ」
「まだまだ平気だよ? 折角だしもう少し終わらせちゃいたいかな」
オークの死体を片付けてる黒猫君たちとは只今ちょっと別行動中。代わりにバッカスとヴィクさんが私に付き合ってくれてる。自分で分担決めたくせに、黒猫君は最後まで私をバッカスに渡したがらず、話こそしなかったもののずっと心配そうに私を見てた。さっきはなんか視線逸らしたクセに。
代わりに今はバッカスがちょくちょく心配そうに顔を覗き込んでくるんだけど、ちょっと困っちゃう。
これ、たった一つ私がちゃんと出来るお仕事だし、集中してやることがあるのは実はとてもありがたいのだ。さっき聞いた記憶の話はショックが大き過ぎて、私はまだ向き合いきれない。出来れば他のことで気を紛らわしてたい。
「とは言え、本当にこれいつになったら終わるんだろう?」
薄暗がりに広がる先の見えない坑道内を見回して、私はため息が隠せない。
鉱山の中は思いの外広かった。まあ入り口からして大きかったけどね。
崖にポッカリと空いた入り口の辺りは車二台が並んで走れそうな大きさで、高さも砦の柵と変わらないくらいある。それが奥に向かって緩やかに登ってた。狼人族さんたちが住んでた洞穴とは違って、こちらは中が全部石の壁で出来てて頑丈そう。
でも真ん中の太い一本道からは何本もの細い横道が枝分かれしてた。手に持ってる光魔石のランプじゃあまり遠くまでは見通せないけど、見えた横道はどれも上がってたり下がってたりして直ぐ先が見えなくなってる。そんな坑道の右脇をチョロチョロとなんか黒っぽい水が流れてた。
これが坑道の外、崖の斜面に沿って下の川に流れ出してるみたい。暗いせいもあるけどやけに黒っぽい気がするし、多分これが黒猫君たちが言ってた『重い水』なのかな。
一緒に中に入ったドワーフさんたちは坑道の暗さもなんのその、ぴょんぴょん跳ねつつバラバラにどんどん先に進んでっちゃった。私たちの近くに残ったドンさん曰く、先に中の様子をチェックしてくれたらしい。再度全員戻ってきたところで、私のお仕事が始まったのだ。
ドワーフさんたちに従って中央の坑道から左側、水の流れとは逆の横道の一本に入ると、その道はゆっくりカーブをかきながら下に降りてて、しばらく歩けばポッカリ広がった空間に出た。そこでドワーフさんたちに言われるがままに地面を上げたり下げたり広げたり埋めちゃったり。
要は土木工事要員として便利に使われてます。
この前狼人さんたちの洞穴で大失敗したばかりの私は、最初恐々としながら作業してたんだけど。
ドワーフさんたちの指示は本当に的確で、言われるままに地面を動かす限りどこかが軋む様子さえない。彼ら曰く、地盤がしっかりしてて少しくらい上げ下げしても大丈夫な場所なんだそう。
言われるままに作業してるけど、これ、多分徐々に下に向かって掘り進めてる?
「次はあっちの坑道に移動するよぉ」
「ちょっと待て。あゆみ、その前に少し休憩しなくて大丈夫か?」
ドワーフさんの声に答えつつ、いつの間にか皮袋のお水を持ってきてくれてたヴィクさんがそれを私に渡しながら聞いてくれるけど。
「全然大丈夫だよ。この作業なら多分丸一日やってても全然平気そう」
そう。ドワーフさんたちの指示はやたら細かくて、やってることに神経は使うけど、作業自体はとっても地味で魔力量も大して使ってる気がしない。確かにこれなら魔力が増えちゃうとか大量に使っちゃうってことは先ずなさそう。
そこまで考えて、また消えた記憶のことが一瞬頭を過って。
「あゆみ、それはこっちに」
でも私が深く考え込むよりも早く私が飲み終えた水の袋をヴィクさんが引き取ってくれる。
「じゃ、次いくぞ」
「ありがとバッカス」
そして私が辛くないように抱え直し、ドワーフさんの移動するほうにバッカスがまた歩き出す。
普段飽きっぽくてこんな作業なんて放り出すはずのバッカスが、文句の一つも言わずにずっと付き合ってくれてる。それは多分黒猫君に頼まれただけじゃなくて、私を心配してくれてるんだと思う。その証拠にバッカスまで何度も何度も私を覗き込んでは休めって言ってくる。
二人が代わる代わる声をかけては面倒を見てくれる、こんな至れり尽くせりの状況のお陰で、他のことなんて考えてる暇なく私は作業に没頭できた。
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