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第12章 北の砦
13 ドワーフ対策2
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「はい……確かにドワーフは一緒にここに住んでましたんで」
タンさんがお姫様だっこで連れてきてくれたのは、痩せこけた小柄なおじさんだった。確か私が昨日魔力を流して意識を取り戻してくれた人の一人。昨日は意識も朦朧としてたのに、今日はしっかり喋れてる。
ちょっとぷるぷる震えてる気がするけど、タンさんに支えられながらもなんとか自分で椅子に座って、出されたお茶を涙ぐんですすってるのを見てほっとした。
因みに他にも元ここの村の出身の人はいたけど、もっと動ける人たちは私が育てちゃった野菜や麦刈りに行っちゃってもういなかったらしい。
みんな働き者だなぁ。
「と言うか……ここはドワーフと一緒に開いた村でしたんで……先々代の村長に聞いた話では……以前はここよりもっと北に住んでいたそうで……それがドワーフ達が新しくこの辺りに鉱山を開くのを機に……ワシらの先祖もここに移ったんだそうで」
「ドワーフが人と住むというのは初めて聞きました」
おじさんが一言喋るたびに、ため息のように息をつぐのを見て、アルディさんがクッションを持ってくるように近くの兵士さんに言いつけながら先を促す。
「ああ、以前は秘密でしたんで」
そう言って、持ってきてもらったクッションを膝とテーブルに乗せてもらい、前に寄りかかるような姿勢になって息がつきやすくなったおじさんは、さっきより少し元気に先を続けた。
「ワシたちの先祖は皆、昔は鉱夫だったんで。もっと北の鉱山で働いてたんですで、鉱山で出くわすドワーフたちはワシらよりよっぽど知識がありましたんで。いつしかワシらのご先祖はドワーフたちが掘り出した鉱石を買うようになったんで。ですで、ここでも鉱山を掘ってたのはドワーフだけで、ワシらはここやもっと北にある鉱山で取れた鉱石を買い取ってナンシーや王都に売ってたんで」
「鉱石を買う? それで元取れるのかよ」
黒猫君が不思議そうに口を挟む。
あ、そうだよね。魔晶石とかめっちゃ高いもんね。
「あで、買うと言っても、基本物々交換でしたんで。あいつら、煙草と塩が好物でして。それに北は木も少ないので木材もよくはけまして」
木と石の物々交換って考えれば……それならありなのかな?
「ですで、中央から兵士様たちが来て、勝手にここの鉱山に入り込んで、ここで石炭が取れると言い出されたんで」
「以前は取れてなかったってことか?」
「ドワーフたちは取っちゃいけねえって言ってたんで。ワシら鉱山のことは全部ドワーフたちに任せてたんで」
黒猫君の問にうんうんと頷きながら、おじさんは少し辛そうに先を続ける。
「元々ここは鉱石の取引が主で、それほど大きな鉱山じゃなかったんで。なのに石炭の鉱床は場所が深いらしくて、兵士様たちがここの山を切り崩してこんなに広げちまったんで。それ始めた頃、ドワーフ共が怯えだして、気付いたらみんないなくなっちまってたんで。それで仕方なくなって、兵士様たちはワシらまで鉱山に入れましたんで。ですがワシらもう、何世代も鉱山なんて入ってませんでしたんで、訳も分からず、言われるままに、掘るしか、なかったんで……だから……」
なんかおじさんの息がすっごく苦しそうになってきて、慌ててアルディさんが近くの兵士さんを呼びつけて、おじさんを空いてる部屋に連れて行くように指示した。
私もついて行って、ベッドに寝かされたおじさんの手をとってほんの少し、魔力を供給してみる。
シモンさんいないし、こんなに疲れるまで話してくれたんだから、これくらい許されるよね?
ほんの数分そうしていただけで、おじさんの顔色がどんどん明るくなってきた。ほうっと息をついて、私を見上げる目に涙が溜まってる。
「巫女様。どうかドワーフを虐めないでやってください、あいつら、本当に可愛い奴らなんで」
ああそっか。おじさんたち、ドワーフさんたちとずっと一緒に暮らしてたんだもんね。そりゃあ気になるよね。
縋るように私の手を掴むおじさんの手は、骨が浮いててまだほんのり冷たくて、やっぱり微妙にぷるぷる震えてる。
「わかりました。頑張ってなんとかします」
おじさんを安心させたくて、おじさんの手をぎゅっと握り直し、私は思わず出来るかどうか分からない安請け合いをしてしまった。
「巫女様、ありがとうで、ありがとうで……」
おじさん、泣きながら寝ちゃった。
それにしてももう、巫女様呼ばわりは当たり前になっちゃいそう。
おじさんを起こさないようにそっと部屋を出ると、なぜか黒猫君とアルディさんが睨み合ってた。
「だからなんで俺一人じゃダメなんだ」
「ネロ君。何度も言いましたが、君少佐ですよ?」
「そんなの肩書きだけだって言ってるだろ」
「そういう訳には行かないんですよ。もうここは百人近い部隊になりましたし、しかも君、キーロン陛下の秘書官でしょう。いい加減この辺はしっかり弁えてください」
あ、黒猫君がブスッと黙っちゃった。それを見て、アルディさんが苦笑いしながら付け足すように言う。
「まあ、相手は小柄とのことですし、好戦的でもないようですから、先ずは少人数で相手の要求を確認がてら偵察してくるのには賛成ですよ」
「あ、私も行きます!」
私がパッと手を上げてそう言うと、黒猫君とアルディさんが同時にこっちを振り向いて、全く同じ顔で「ダメ」って言おうと口を開くのが見て取れて。それを言わせないうちに、私は慌てて言葉を繋いだ。
「えっと、さっきのジョシュさんのお話ではモフっとしてるって言ってましたし、きっと私のゴールデン・フィンガーが役に立つはず!」
あ、アルディさんと黒猫君が揃って残念そうに私を見てる。マズい。
「そ、それに最悪ほら、私の光魔法で目眩しを……」
「ゼッテーやめろ。全滅させてどうする」
あ、うん。そうだよね。目眩し、できないんだよね。なんでだろう。ナンシーでシアンさんと練習してた時はちゃんと出来てたのになぁ。
でも諦める訳にはいかない。だっておじさんに涙ながらに頼まれたんだもん。
私が他の言い訳を探してうんうん唸ってると、アルディさんが仕方なさそうに黒猫君に声をかける。
「正直、この兵舎にあゆみさんを一人で残すのも心配です。シモンもベンももういませんし、バッカスには出来れば君と一緒に行って欲しいですしね。私も自分の仕事でそうそうあゆみさんを見張ってる訳にも行きません」
「それもそうだな」
まって、私いつから二人の間でそんな見張ってなきゃいけない危険物扱いになってるの??
二人で勝手に話進めちゃって私も行けるみたいだけど、なんだろう、なんか納得いかない。
でもそれから約十分後、黒猫君に抱えられ、バッカス、ジョシュさんとタンさんの5人で一緒にドワーフさんに会いに鉱山の裏へと向かう頃には、そんな不満はすっかり頭から抜け落ちていた。
タンさんがお姫様だっこで連れてきてくれたのは、痩せこけた小柄なおじさんだった。確か私が昨日魔力を流して意識を取り戻してくれた人の一人。昨日は意識も朦朧としてたのに、今日はしっかり喋れてる。
ちょっとぷるぷる震えてる気がするけど、タンさんに支えられながらもなんとか自分で椅子に座って、出されたお茶を涙ぐんですすってるのを見てほっとした。
因みに他にも元ここの村の出身の人はいたけど、もっと動ける人たちは私が育てちゃった野菜や麦刈りに行っちゃってもういなかったらしい。
みんな働き者だなぁ。
「と言うか……ここはドワーフと一緒に開いた村でしたんで……先々代の村長に聞いた話では……以前はここよりもっと北に住んでいたそうで……それがドワーフ達が新しくこの辺りに鉱山を開くのを機に……ワシらの先祖もここに移ったんだそうで」
「ドワーフが人と住むというのは初めて聞きました」
おじさんが一言喋るたびに、ため息のように息をつぐのを見て、アルディさんがクッションを持ってくるように近くの兵士さんに言いつけながら先を促す。
「ああ、以前は秘密でしたんで」
そう言って、持ってきてもらったクッションを膝とテーブルに乗せてもらい、前に寄りかかるような姿勢になって息がつきやすくなったおじさんは、さっきより少し元気に先を続けた。
「ワシたちの先祖は皆、昔は鉱夫だったんで。もっと北の鉱山で働いてたんですで、鉱山で出くわすドワーフたちはワシらよりよっぽど知識がありましたんで。いつしかワシらのご先祖はドワーフたちが掘り出した鉱石を買うようになったんで。ですで、ここでも鉱山を掘ってたのはドワーフだけで、ワシらはここやもっと北にある鉱山で取れた鉱石を買い取ってナンシーや王都に売ってたんで」
「鉱石を買う? それで元取れるのかよ」
黒猫君が不思議そうに口を挟む。
あ、そうだよね。魔晶石とかめっちゃ高いもんね。
「あで、買うと言っても、基本物々交換でしたんで。あいつら、煙草と塩が好物でして。それに北は木も少ないので木材もよくはけまして」
木と石の物々交換って考えれば……それならありなのかな?
「ですで、中央から兵士様たちが来て、勝手にここの鉱山に入り込んで、ここで石炭が取れると言い出されたんで」
「以前は取れてなかったってことか?」
「ドワーフたちは取っちゃいけねえって言ってたんで。ワシら鉱山のことは全部ドワーフたちに任せてたんで」
黒猫君の問にうんうんと頷きながら、おじさんは少し辛そうに先を続ける。
「元々ここは鉱石の取引が主で、それほど大きな鉱山じゃなかったんで。なのに石炭の鉱床は場所が深いらしくて、兵士様たちがここの山を切り崩してこんなに広げちまったんで。それ始めた頃、ドワーフ共が怯えだして、気付いたらみんないなくなっちまってたんで。それで仕方なくなって、兵士様たちはワシらまで鉱山に入れましたんで。ですがワシらもう、何世代も鉱山なんて入ってませんでしたんで、訳も分からず、言われるままに、掘るしか、なかったんで……だから……」
なんかおじさんの息がすっごく苦しそうになってきて、慌ててアルディさんが近くの兵士さんを呼びつけて、おじさんを空いてる部屋に連れて行くように指示した。
私もついて行って、ベッドに寝かされたおじさんの手をとってほんの少し、魔力を供給してみる。
シモンさんいないし、こんなに疲れるまで話してくれたんだから、これくらい許されるよね?
ほんの数分そうしていただけで、おじさんの顔色がどんどん明るくなってきた。ほうっと息をついて、私を見上げる目に涙が溜まってる。
「巫女様。どうかドワーフを虐めないでやってください、あいつら、本当に可愛い奴らなんで」
ああそっか。おじさんたち、ドワーフさんたちとずっと一緒に暮らしてたんだもんね。そりゃあ気になるよね。
縋るように私の手を掴むおじさんの手は、骨が浮いててまだほんのり冷たくて、やっぱり微妙にぷるぷる震えてる。
「わかりました。頑張ってなんとかします」
おじさんを安心させたくて、おじさんの手をぎゅっと握り直し、私は思わず出来るかどうか分からない安請け合いをしてしまった。
「巫女様、ありがとうで、ありがとうで……」
おじさん、泣きながら寝ちゃった。
それにしてももう、巫女様呼ばわりは当たり前になっちゃいそう。
おじさんを起こさないようにそっと部屋を出ると、なぜか黒猫君とアルディさんが睨み合ってた。
「だからなんで俺一人じゃダメなんだ」
「ネロ君。何度も言いましたが、君少佐ですよ?」
「そんなの肩書きだけだって言ってるだろ」
「そういう訳には行かないんですよ。もうここは百人近い部隊になりましたし、しかも君、キーロン陛下の秘書官でしょう。いい加減この辺はしっかり弁えてください」
あ、黒猫君がブスッと黙っちゃった。それを見て、アルディさんが苦笑いしながら付け足すように言う。
「まあ、相手は小柄とのことですし、好戦的でもないようですから、先ずは少人数で相手の要求を確認がてら偵察してくるのには賛成ですよ」
「あ、私も行きます!」
私がパッと手を上げてそう言うと、黒猫君とアルディさんが同時にこっちを振り向いて、全く同じ顔で「ダメ」って言おうと口を開くのが見て取れて。それを言わせないうちに、私は慌てて言葉を繋いだ。
「えっと、さっきのジョシュさんのお話ではモフっとしてるって言ってましたし、きっと私のゴールデン・フィンガーが役に立つはず!」
あ、アルディさんと黒猫君が揃って残念そうに私を見てる。マズい。
「そ、それに最悪ほら、私の光魔法で目眩しを……」
「ゼッテーやめろ。全滅させてどうする」
あ、うん。そうだよね。目眩し、できないんだよね。なんでだろう。ナンシーでシアンさんと練習してた時はちゃんと出来てたのになぁ。
でも諦める訳にはいかない。だっておじさんに涙ながらに頼まれたんだもん。
私が他の言い訳を探してうんうん唸ってると、アルディさんが仕方なさそうに黒猫君に声をかける。
「正直、この兵舎にあゆみさんを一人で残すのも心配です。シモンもベンももういませんし、バッカスには出来れば君と一緒に行って欲しいですしね。私も自分の仕事でそうそうあゆみさんを見張ってる訳にも行きません」
「それもそうだな」
まって、私いつから二人の間でそんな見張ってなきゃいけない危険物扱いになってるの??
二人で勝手に話進めちゃって私も行けるみたいだけど、なんだろう、なんか納得いかない。
でもそれから約十分後、黒猫君に抱えられ、バッカス、ジョシュさんとタンさんの5人で一緒にドワーフさんに会いに鉱山の裏へと向かう頃には、そんな不満はすっかり頭から抜け落ちていた。
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