異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第12章 北の砦

12 ドワーフ対策

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「今朝の偵察でも、ドワーフはまだ鉱山口の上、西寄りの森の中に集結しているとのことです」

 ルディンさんのいる丘へ向う狼姿のアントニーさんと、その背に乗っかったシモンさん、そしていつものリュックを背負ってるのにどことなく背中の煤けて見えるベンさんを見送った私たちは、兵舎二階のテーブルに戻って話し合いを再開してた。
 みんな朝ごはんを終えて、少しばかり贅沢にお茶を頂いてる。これもキールさんが物資送ってくれたおかげだよね。感謝感謝。

「ドワーフってのはどんな奴らなんだ?」

 目の前で湯気を上げてるカップを恨めしそうに睨みながら黒猫君がアルディさんに尋ねると、アルディさんが少し困った顔になった。

「実は我々もあまり知らないんですよ。なんせドワーフは普通、人に姿を見せない種族なので。我々も、北に住む種族というくらいの認識しかありません」

 そう言って苦笑いしながらアルディさんが伝令に来てくれた兵士さんを見る。

「ジョシュ、君が見たままを先ずは報告してください」

 アルディさんに指名された薄水色の髪の兵士さんはテーブルの横に立って、なぜか顔を赤らめて遠い目になり、説明し始めてくれたんだけど。

「は、はい。あー、なんと言いますか。モフッとしてモコッと言うか、ボサっと言うか」

 んんんん?

「こう、かわいいような、怖いような……」
「誰だジョシュを斥候に行かせたやつは」

 テーブルのどっかからからかうような声が飛んできた。
 慌てて隣に立ってたもう一人の兵士さんが、ジョシュって呼ばれた若い兵士さんの脇腹を肘で突くと、コソコソと耳元で何か囁いて、ハッとしたジョシュさんが改めて口を開いた。

「あ、しっ、失礼しました! 身長はおおよそ自分の太腿辺り、それぞれ上等そうな鎧武具を身に着けていました。目についた物ではハンマーのような物や、ノコギリのような歯の付いた剣を携帯していました。森の木陰に十匹……いえ、十人ずつくらいで固まってお座り……じゃなかったしゃがんで待機しているようでした」

 なんか今、軍隊の描写とはかけ離れたものがいくつか混じってた気が……?
 アルディさんも戸惑った様子で聞き返す。

「……ハンマーですか? 近接系でたまに使われますが、また変わった武器ですね」
「それホントにドワーフなのか?」
「間違いありません! 以前幻獣図鑑に書かれていた描写そのものでしたから」
「信用出来るのかよそれ」

 真剣に説明してるジョシュさんにチャチャを入れつつも、まだ黒猫君が恨めしそうにお茶のカップを睨んでた。それを横から手を伸ばして、今までせっせとふーふーしてた私のカップと入れ替えてあげる。
 一瞬真顔でこっちを見た黒猫君、私の置いたお茶のカップを何もなかったように手に取った。でも顔赤いよ黒猫君。

「あのぉ」

 と、テーブルの端の方から別の兵士さんがおずおずと手を上げて声をかけてきた。

「人から聞いた話ですが……ドワーフは以前ここにあった村に住んでいたそうです」
「そうなんですか? 詳しく聞かせてください」

 アルディさんがジョシュさんたちに下がるように言って、今手を上げた人を手招きする。
 ジョシュさんたち、朝ごはんまだだったのか。急いで配膳のほうに走ってった。
 入れ替わりに手招きされた兵士さんが手にしたお茶を大事そうに抱えてこちらに来て、一礼して私たちの前に座る。あ、この兵士さんもアリームさんみたいに褐色の肌だ。結構背が高いのか、座っても視線が少し上。

「そ、そう言われましても、僕も以前ここにいた他の兵士から話を聞いただけで……」
「その兵士は?」

 お亡くなりになったのかな、多分みんなそう思ったと思う。でも彼の言葉は私たちの予想を裏切った。

「中央に帰りました」
「はい? 待ってください。君は確か中央からの派兵でしたね?」

 驚きを滲ませてアルディさんが尋ねると、その兵士さん、ちょっと困った様子で返事を返す。

「は、はい、タン……少尉、王国軍王都本営第7警備隊からの出向です」
「タン少尉、ではその帰還したと言うのはどういうことです?」
「それはその……」

 と、タンさんが気まずそうに口を濁して。意味ありげに私たちの顔を見回したり、足元に視線を泳がしたり。
 タンさん、なにか訴えようとしてるみたい?
 そこでアルディさんがハッとして、室内のみんなに聞こえるよう、はっきりと告げる。

「忘れていました。後にキーロン陛下からの正式な文書が届くと思いますが、この砦に残った兵士は今後全員僕の指揮下に入ります。ジェームズは昨日正式に罷免しました。暫定、僕が総隊長、ディーン中佐が副隊長、ヨーク支部2隊、ナンシー支部1隊、中央1隊の4隊編成になります。中央出向の者は希望によりナンシー支部への転入も考慮します。今後、軍則及び秘匿義務はキーロン新国王指揮下の近衛隊のものを過去に遡って・・・・・・適応します。……これで話せますか?」

 どうやらアルディさんの長ったらしい呪文みたいのが効いたらしく、タンさんが目に見えてホッとした様子で口を開いた。

「ありがとうございます、アルディ隊長。えっと僕たちがこの砦に到着した時点で、ここには既に中央からの先行隊が入っていました」
「先行隊ですか……それは初耳ですね」

 アルディさんが片眉を上げてそう言えば、黒猫君もすすってたお茶を置いて聞き返す。

「待て、今『砦に到着』って言ったか? ここはお前らが自分たちで建てたんじゃないのか?」
「いいえ、僕たちがここに到着した時点で、ここは既に今とさほど変わらない様子でした」

 タンさんが少し困惑気味に返事を返す。
 あれ? でも誰かここの砦って連れて来られた農民さんたちが建てたって言ってなかったっけ。誰だっけ?

「確か櫓と兵舎、それに農民の居住区だけは数回建増ししましたが、あとは全て先行の中央部隊の仕事です。先行隊は隊長と数人以外は主に王都本営の技工兵と工作兵だったかと。あと平民も結構いましたが、ここの先住民と王都の大工のようでした。多分彼らが砦の準備をしていたのだと思います。その大半は僕たちと入れ代わりで王都に帰還しました」
「昨日、ジェームズは到着した農民がここを建てたと証言してましたが?」

 あ、そうだ、昨日黒猫君がジェームズさんから聞いたって教えてくれたんだった。
 アルディさんの疑問に、タンさんが言いにくそうに返事を返す。

「ああ、それは多分、ジェームズ……元大佐がナンシー北部からの第二陣で遅れて到着したからでしょう。第一陣到着後、すぐに中央部隊は帰還しましたから。僕たちの到着前からいたここの住人と大工は残りましたし、第一陣が彼らと一緒に砦の整備や農民の住居の建増しをやってたので、それを見て勘違いしたのではないかと。ジェームズはその、あまり外を出歩きませんでしたから」

 ジェームズさんの名前を出しながらタンさんが嫌そうに顔をしかめた。タンさんもジェームズさんが好きじゃなかったのかな。

「今『第ニ陣』と言いましたか? 一度に移動したんじゃなかったんですか」

 アルディさんが続けて尋ねると、タンさんがまた補足してくれる。

「あ、はい。農民の移動は全部で四回に分けて行いましたので。僕は第一陣と第四陣を担当しました」

 アルディさんと黒猫君が顔を見合わせてる。

「これは残留兵からの詳しい聞き取りが必要そうですね」
「ああ、やっぱ当事者に聞かねえと色々話がズレてるな。あいつマジで使えねえ」

 黒猫君とアルディさんがブツブツと小声でジェームズさんの文句言ってる。
 会話が一旦途切れて、手の中のお茶をちびちびすすってたタンさんに、アルディさんが一息置いてまた尋ねる。

「では君が聞いたドワーフの話をもう少し詳しく話してください」
「それ程ないんですが、僕たちが到着した時、まだドワーフが残していった採掘道具が残ってまして、先行隊の鍛冶師がとても自分たちじゃ直せないと言ってたんです。あ、多分元々ここの村に住んでた者のほうが詳しいかと」

 そう言って、はたと気がついた様子で「今呼びに行ってきます」と一言、タンさんはお茶のカップをそっとテーブルに置いて、素早く席を立って駆け出していく。
 タンさん、滅茶苦茶行動素早いな。なんか説明も分かりやすかったし。
 と、横でアルディさんが「ジェームズよりよっぽど使えますね」とボソリとこぼして、黒猫君が無言で頷いてた。
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