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第12章 北の砦
5 後援支援
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あれから黒猫君は私をアルディさんと後援の兵士さんたちに預けて、ディーンさんとニックさんと一緒に半分くらいの兵士さんたちを連れて砦へ行っちゃった。なんかアルディさんが黒猫君と話があるって言って二人で内緒話してたので私はその間にカーティスさんに改めてご挨拶しておく。
「一昨日はお世話になりました」
「いや、こちらこそ」
なんともやりにくそうにカーティスさんが敬語を使うのが申し訳なくて言ってみる。
「あの、カーティスさん。今更女神だとかいうのを否定するのも面倒ですけど、私自身は別に取り立てて何も出来ませんし、魔法もノーコンでこれからもご迷惑おかけすると思うので今まで通りにしてもらえると嬉しんですが」
私の言葉にカーティスさんがヒョイッと片眉を上げて「そうか?」と結構簡単に納得してくれた。
「正直、そう言って頂けると助かる」
「はい」
良かった。だってカーティスさんにはもう散々怒鳴られてたから、今更敬語だと本当にむずがゆい。黒猫君は元々そのほうがいいみたいだし。
カーティスさんはどうやら黒猫君たちと一緒に砦で再度死体の検分をするらしく、結局黒猫君たちといっちゃった。
あの後、ジェームズさんはアルディさんと黒猫君、それにディーンさん合意の上で大佐から罷免された。しっかり数人の兵士さんの見張り付きで拘束されてたけど、ジェームズさん、分かってるのか分かってないのか、文句も言わずに受け入れてた。
アルディさんと本営に向かおうとしたら、バッカスたちが寄ってきた。
「俺たちは森へ行ってくるぞ」
「え?」
「どうせ俺たちは肉しか食わねえし、お前らも肉、欲しいだろ?」
「欲しい! 欲しい!」
茹でたお芋は美味しかったけどお肉もあればもっといい!
「じゃああゆみ、悪いがアントニーの足を診てもらえるか?」
あ、そっか。忘れてた。って言うか最初から私が治してればアントニーさん昨日も自分で走れたのに!
「ご、ごめんなさい、今診るね」
私が慌てて近寄ると、アントニーさんが無言で頭を下げる。
これだ、アントニーさん大人しくて自分で痛がってくれないからすっかり忘れちゃってたんだ。うう、申し訳ない。
アントニーさんの怪我はどうやら骨までは問題なかったみたいで、普通に内傷治療魔法を掛けただけで普通に動けるようになってた。
「あゆみさん、本来はそう言う治療はしてはいけませんよ」
私が治療を始めると、いつの間にかシモンさんが寄ってきて渋い顔で私を見てた。
「今あゆみさんがそうやって治療されても、もし骨に何か異常があった場合、本人がそれを自覚できる保証はないんです。まあ、狼人族ならば人間よりは自分の身体の状態に敏いですから大丈夫でしょうが」
あ、そっか。だからシモンさんはいつも治療魔法を渋るんだ。別にケチだからって訳じゃなかったんだね。
「大体、あと数日で治る怪我にそんなに魔力を使うのも勿体ないですよ」
あ、あれ? シモンさんやっぱりケチでもあるかもしれない。
「ありがとう、ございます」
そんなシモンさんの様子など気にする様子もなく、私が治療を終えるとアントニーさんが低い声でお礼を言ってくれた。でも、今シモンさんが言った忠告が気になって思わずバッカスに声をかける。
「バッカス、アントニーさんに無理はさせないでね」
「大丈夫だ。ああそれから、昨日もかなり南のほうまでいかねえと食い物になる獲物がいなかったから帰りは多分遅くなる」
「分かった、気を付けてね」
私が送り出そうとすると、ベンさんが横から口を挟む。
「ああ待ってくれ。俺もちょっと残ったオークどもの様子を見てきたいから途中まで一緒に行くぞ。悪いが、嬢ちゃん、あんた一人でも大丈夫か?」
「僕が一緒ですから問題ありませんよ。ついでに僕の隊の者を二人付けます」
「ま、またですか!」
私が答えるより早くアルディさんが頷きながら返事してくれた。
前回もバッカスと狩に連れてかれてた兵士さんがギョッとした顔でアルディさんに向き直る。申し訳ないけど今食料は多いにこしたことはないし、頑張ってきてもらいたい。
一瞬私が反対すると思ったのかこちらに顔を向けた兵士さん達が、私のエールを送る眼差しにがっくりと肩を落としてすごすごとバッカスについていく。
スッと影がよぎり、声もなくバッカスの背中にシモンさんが勝手に乗っかってっちゃった。あれバッカス多分また気づいてないのかな?
「じゃあ僕たちも本営を片づけて食料を確保しましょう」
久しぶりにアルディさんに抱えられた私は、今までのやり取りを目を丸くして聞いてた後援の兵士さんたちと一緒にその場を後にした。
アルディさんたちは早速本営にわずかに残った装備や何やら片付け始めた。ディーンさんの隊の人たちも、中央から来た人たちも、どうやら皆アルディさんの指揮に従ってるみたい。
その間に私はと言えば。後援支援の兵士さんたち15人ほどを連れだって畑と向き合ってます。
いや、思ってた以上に勝手に育っててびっくり。
昨日はオークに踏み固められて真っ平だった本営の奥の辺り一帯がこんもりと小山のように茂ってる。昨日は見えてなかったけど、麦もお米も混じってるよね、これ。
でも今麦は挽けないし、お米ももみ殻から外すのは難しそう。そう考えると、なんのかんのいって洗って茹でれば食べられるお芋ってすごいよね。
「こ、これは……」
野太い声が後ろから聞こえてきて、えっと思って振り返ると、後援支援の皆さんが、揃いもそろって顔を引きつらせつつ、今も成長しながら葉を揺らしてる畑をポカーンと口を開けて見渡してた。
ああああ。これ、間違いなく呆れられちゃってる!
「で、では皆さん! ご飯のために頑張ってお芋掘ってくださいね」
口を開けたまま無言でこちらを凝視してた兵士さんたちに早口にそう言いおいて、私はそそくさとアルディさんのいるほうへ退散する事にした。
「アルディさん、何かお手伝いしましょうか?」
「いえ、あゆみさんじゃ荷物を運ぶのは無理ですよ」
うーん、確かに無理かな。
「あゆみさんはどうぞそちらで休んでてください」
そうは言われても、皆さん忙しそうに働いてるのに一人だけ何もしてないのはなんか心苦しい。それに、休んでろと言われても椅子一つないし。
椅子か……そう言えばまだあれ試してなかったよね?
お手伝いすることも出来ない私は、昨日皆でご飯作ったテントの辺りに戻って、ちょっと別のことを試してみることにした。
折角シアンさんに教わって、黒猫君にも教えてあげるって言ったのに断られた土魔法。私は結構好きなんだけどなこれ。
魔力が流れ出すと地面がウニウニ言って、手を使わなくても思ってる通りに盛り上がったり沈んだり。ただ、土の量は変わらないから一部上がってくるとその周りが下がっちゃう。それを上手くバランスしながら魔力を調節し続ける。
こうなるとオークに削られて地面が剥きだしにされてるのが丁度いい。
5分もせずに、腰掛のような椅子が出来上がった。恐る恐る座ってみるけど崩れない。
おおお、これなら色々作れる!
それから黒猫君たちが返ってくるまでたっぷり半日、後援の兵士さんたちが尽きることのないお芋や野菜を収穫し続けてくれるのを横目に、私はその場でゴソゴソと独り作業を続けた。
「一昨日はお世話になりました」
「いや、こちらこそ」
なんともやりにくそうにカーティスさんが敬語を使うのが申し訳なくて言ってみる。
「あの、カーティスさん。今更女神だとかいうのを否定するのも面倒ですけど、私自身は別に取り立てて何も出来ませんし、魔法もノーコンでこれからもご迷惑おかけすると思うので今まで通りにしてもらえると嬉しんですが」
私の言葉にカーティスさんがヒョイッと片眉を上げて「そうか?」と結構簡単に納得してくれた。
「正直、そう言って頂けると助かる」
「はい」
良かった。だってカーティスさんにはもう散々怒鳴られてたから、今更敬語だと本当にむずがゆい。黒猫君は元々そのほうがいいみたいだし。
カーティスさんはどうやら黒猫君たちと一緒に砦で再度死体の検分をするらしく、結局黒猫君たちといっちゃった。
あの後、ジェームズさんはアルディさんと黒猫君、それにディーンさん合意の上で大佐から罷免された。しっかり数人の兵士さんの見張り付きで拘束されてたけど、ジェームズさん、分かってるのか分かってないのか、文句も言わずに受け入れてた。
アルディさんと本営に向かおうとしたら、バッカスたちが寄ってきた。
「俺たちは森へ行ってくるぞ」
「え?」
「どうせ俺たちは肉しか食わねえし、お前らも肉、欲しいだろ?」
「欲しい! 欲しい!」
茹でたお芋は美味しかったけどお肉もあればもっといい!
「じゃああゆみ、悪いがアントニーの足を診てもらえるか?」
あ、そっか。忘れてた。って言うか最初から私が治してればアントニーさん昨日も自分で走れたのに!
「ご、ごめんなさい、今診るね」
私が慌てて近寄ると、アントニーさんが無言で頭を下げる。
これだ、アントニーさん大人しくて自分で痛がってくれないからすっかり忘れちゃってたんだ。うう、申し訳ない。
アントニーさんの怪我はどうやら骨までは問題なかったみたいで、普通に内傷治療魔法を掛けただけで普通に動けるようになってた。
「あゆみさん、本来はそう言う治療はしてはいけませんよ」
私が治療を始めると、いつの間にかシモンさんが寄ってきて渋い顔で私を見てた。
「今あゆみさんがそうやって治療されても、もし骨に何か異常があった場合、本人がそれを自覚できる保証はないんです。まあ、狼人族ならば人間よりは自分の身体の状態に敏いですから大丈夫でしょうが」
あ、そっか。だからシモンさんはいつも治療魔法を渋るんだ。別にケチだからって訳じゃなかったんだね。
「大体、あと数日で治る怪我にそんなに魔力を使うのも勿体ないですよ」
あ、あれ? シモンさんやっぱりケチでもあるかもしれない。
「ありがとう、ございます」
そんなシモンさんの様子など気にする様子もなく、私が治療を終えるとアントニーさんが低い声でお礼を言ってくれた。でも、今シモンさんが言った忠告が気になって思わずバッカスに声をかける。
「バッカス、アントニーさんに無理はさせないでね」
「大丈夫だ。ああそれから、昨日もかなり南のほうまでいかねえと食い物になる獲物がいなかったから帰りは多分遅くなる」
「分かった、気を付けてね」
私が送り出そうとすると、ベンさんが横から口を挟む。
「ああ待ってくれ。俺もちょっと残ったオークどもの様子を見てきたいから途中まで一緒に行くぞ。悪いが、嬢ちゃん、あんた一人でも大丈夫か?」
「僕が一緒ですから問題ありませんよ。ついでに僕の隊の者を二人付けます」
「ま、またですか!」
私が答えるより早くアルディさんが頷きながら返事してくれた。
前回もバッカスと狩に連れてかれてた兵士さんがギョッとした顔でアルディさんに向き直る。申し訳ないけど今食料は多いにこしたことはないし、頑張ってきてもらいたい。
一瞬私が反対すると思ったのかこちらに顔を向けた兵士さん達が、私のエールを送る眼差しにがっくりと肩を落としてすごすごとバッカスについていく。
スッと影がよぎり、声もなくバッカスの背中にシモンさんが勝手に乗っかってっちゃった。あれバッカス多分また気づいてないのかな?
「じゃあ僕たちも本営を片づけて食料を確保しましょう」
久しぶりにアルディさんに抱えられた私は、今までのやり取りを目を丸くして聞いてた後援の兵士さんたちと一緒にその場を後にした。
アルディさんたちは早速本営にわずかに残った装備や何やら片付け始めた。ディーンさんの隊の人たちも、中央から来た人たちも、どうやら皆アルディさんの指揮に従ってるみたい。
その間に私はと言えば。後援支援の兵士さんたち15人ほどを連れだって畑と向き合ってます。
いや、思ってた以上に勝手に育っててびっくり。
昨日はオークに踏み固められて真っ平だった本営の奥の辺り一帯がこんもりと小山のように茂ってる。昨日は見えてなかったけど、麦もお米も混じってるよね、これ。
でも今麦は挽けないし、お米ももみ殻から外すのは難しそう。そう考えると、なんのかんのいって洗って茹でれば食べられるお芋ってすごいよね。
「こ、これは……」
野太い声が後ろから聞こえてきて、えっと思って振り返ると、後援支援の皆さんが、揃いもそろって顔を引きつらせつつ、今も成長しながら葉を揺らしてる畑をポカーンと口を開けて見渡してた。
ああああ。これ、間違いなく呆れられちゃってる!
「で、では皆さん! ご飯のために頑張ってお芋掘ってくださいね」
口を開けたまま無言でこちらを凝視してた兵士さんたちに早口にそう言いおいて、私はそそくさとアルディさんのいるほうへ退散する事にした。
「アルディさん、何かお手伝いしましょうか?」
「いえ、あゆみさんじゃ荷物を運ぶのは無理ですよ」
うーん、確かに無理かな。
「あゆみさんはどうぞそちらで休んでてください」
そうは言われても、皆さん忙しそうに働いてるのに一人だけ何もしてないのはなんか心苦しい。それに、休んでろと言われても椅子一つないし。
椅子か……そう言えばまだあれ試してなかったよね?
お手伝いすることも出来ない私は、昨日皆でご飯作ったテントの辺りに戻って、ちょっと別のことを試してみることにした。
折角シアンさんに教わって、黒猫君にも教えてあげるって言ったのに断られた土魔法。私は結構好きなんだけどなこれ。
魔力が流れ出すと地面がウニウニ言って、手を使わなくても思ってる通りに盛り上がったり沈んだり。ただ、土の量は変わらないから一部上がってくるとその周りが下がっちゃう。それを上手くバランスしながら魔力を調節し続ける。
こうなるとオークに削られて地面が剥きだしにされてるのが丁度いい。
5分もせずに、腰掛のような椅子が出来上がった。恐る恐る座ってみるけど崩れない。
おおお、これなら色々作れる!
それから黒猫君たちが返ってくるまでたっぷり半日、後援の兵士さんたちが尽きることのないお芋や野菜を収穫し続けてくれるのを横目に、私はその場でゴソゴソと独り作業を続けた。
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