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第12章 北の砦
6 砦の兵舎
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「あゆみ……お前……」
夕暮れ頃私を迎えにきた黒猫君が言葉を失った。
フフフ、見るがいい私の力作を!
「だってほら、また兵士さんたちの鎧使わせてもらうの悪いし」
最初にやってみた椅子の出来に自信をつけた私がさっきっから一生懸命作ってた傑作、大っきなかまど。ついでにテーブルやピクニックベンチやらキッチン丸々作ってみました。
あの最初に住んでた砦にあったやつを模して作ったんだけど、自分なりにもかなり良くできたと思う。
だけどそれを前にした黒猫君がなぜか呆れた顔でため息をつく。
「砦の中が片づいた。中にはしっかり作りつけのかまどもある。どうやったのか知らねえが、それ多分使わねえ」
「え、えーーーー!」
そ、そんなぁ、折角半日かけて作ったのに!
「あゆみさん……それ全部、土魔法で作ったんですか?」
黒猫君のつれない返しに私ががっかりして肩を落とすと、黒猫君と一緒に迎えにきたバッカスたちの後ろからシモンさんが顔を出して驚いた様子で私を見る。ああ、いつの間にかバッカスたちも帰ってきてたんだ。
「え、はい、シアンさんに折角習ったから頑張ったんですけど」
シモンさんなら私の努力を理解してくれるはず!
そう思って返事をした私にシモンさんがなんともすまなそうに顔をゆがめた。
「あゆみさん、こんな普通の土で大きなものを作られても、雨が降ったら崩れますよ?」
「え、ええええ……じゃあこれ全部無駄……?」
「そうなりますね……。ただ、それにしても器用に作られましたねぇ。何か元にしたものがあったんですか?」
「はい、以前他の砦で見かけたものを元に作りました」
がっくり気落ちしつつ返事を返すと、シモンさんが何やら考え込んじゃった。
結局皆で取ったお芋とお野菜、バッカスたちの狩の成果とそれになぜか黒猫君が麦を刈り取らせて、全部を馬車に積んで砦に向かった。
馬車に乗せた大量の食料品の効果か、兵士さん達が皆陽気におしゃべりしながらついてくる。
「あゆみ殿が巫女様というのは本当だな!」
「ああ、豊穣の巫女様だ」
「いや、それを言ったらバッカス殿の狩の成果も凄い」
「ええ、付き合う俺らは地獄ですが」
「ああ、しかもあゆみ殿の知己というだけでそれを俺たちにも分けてくれるっていうんだ」
「ありがてぇな」
先頭をいく馬車に乗せられた私は、漏れ聞こえてくるそんな話がこそばゆくて後ろが見れない。横を歩いてるバッカスはなんか複雑そう。
「あれ、ベンさんは?」
そう言えばバッカスたちと一緒に出てったのに、ベンさんだけまだ見てない。それに気づいて尋ねると、バッカスが頭をかきながら返事してくれる。
「途中までは一緒だったんだが、俺らが南に向かいだしたところであっちは西に行っちまった」
「……もしかしてオーク牧場を見にいってくれたんでしょうかね」
「ああ、そういやまだ確認しに行ってなかったな」
アルディさんと黒猫君が思い出したように話してる。そう言えばオーク牧場なんてあったんだっけ。
「まあ昨日の様子からして、ベン独りならどうとでも出来るんだろ」
確かに。
そんな話をしてるうちに馬車が砦の門に差し掛かる。砦の向かいに積み上げられた土塊が一部崩されて、いくつもの小さな盛り土が並んでるのは多分、砦で亡くなった兵士さんたちのお墓なのかな。それまで騒がしかった皆が急にシュンっと静かになっちゃった。
今回は前に到着しただけで当たり前のように落とし門が上がってく。馬車に揺られながら、とうとう私も砦の中に入れてもらえた。
潜った砦の門は、下から見上げると槍みたいに尖った太い木の柱が繋がって出来てて、落ちてきたらどうしようとちょっと不安になる。
砦の中はとってもゴチャゴチャしてた。なんとなくウイスキーの街に初めて入った時を思い出してたせいか、あの時見た煤けた町並み以上に何も整備されてない様子に不安でドキドキしてしまう。
門の右側は大きな建物が繋がって建ってた。黒猫君がそこが兵舎だって教えてくれる。
左右には木で組まれた櫓が建ってて、右側の櫓は兵舎の建物の上に突き出してた。兵舎はログハウスのように丸太で組まれてて、一階には窓らしきものは見当たらない。そのせいかなんか凄く怖い感じがする。
門の内側はあちこちに土塊の山が出来てた。草一本生えてないむき出しの地面は門の外と変わらないくらいガタガタで、街のように整備されてるとは言い難い。
目の前の一番大きな土塊の小山の向こう側に一つ、そして左奥にももう一つ大きな建物が建ってるのが見える。そしてその全ての向こう側には切り落とされ、むき出しになった崖がそそり立ってて、その真ん中にぽっかりと口を開いてる暗い洞穴がなんか薄気味悪い。
そんな景色を横目に馬車は兵舎の入り口で停まった。黒猫君がさっさと私を拾い上げ、ディーンさんたちに向き直る。
「夕食の準備は後援の連中に任せても大丈夫か?」
「問題ありません。ネロ殿は先ほど見られたマークの部屋を使われるのでいいんでしょうか?」
「ああ。どの道、まだなんか残ってねえか調べなきゃなんねーし」
「分かりました」
黒猫君と会話を続けながらディーンさんが馬車の荷下ろしをしてる兵士さんの一人に声を掛けて一緒に兵舎の中へと歩き出す。
「では僕とディーン中佐にもその近くの部屋を用意できますか?」
「その方が連絡が楽ですな。では我々はニックの部屋を挟んで次のニ部屋を使いましょう」
ディーンさんがそう言うと、横に並んでた別の兵士さんがその意を汲んですぐに駆けていく。ディーンさんは中に立ってた兵士さんにも一言二言掛けて、私たちを先導して兵舎に入った。
兵舎の中は窓がないせいで薄暗い。ところどころに光魔石のランプが吊るされてるからなんとか見えるけど、これじゃみんな目が悪くなりそう。
でも入り口から射しこむ明かりで、かまどやら水場やらが見えるから多分ここが炊事場みたい。奥には何か別の部屋が続いてるようだけど、ここからはよく見えない。
入り口脇の階段を黒猫君に抱えられて一緒に上がると、途端視界が開けた。そのまま階段はもう一回上まで伸びてる。二階の踊り場はそのまま少し広い部屋になってて、真ん中に置かれた机の上には大きめの光魔石のランプが煌々と輝いてる。扉もない部屋がそれを囲うようにいくつも並んでて、その間を行き来しながら数人の兵士さんが忙しそうに働いてた。
働いてる、っていうかもしかしてお掃除してる?
「上の掃除はどうなりましたか?」
「先に終わってます。残りは農民の宿舎の片付けをしてます」
ディーンさんが部屋の兵士さんの一人に声を掛けると、はきはきとした答えが返ってくる。
「我々の部屋はもう一つ上です。東側は見張り部屋、西が我々の部屋、北と南は他の兵士が使います。あゆみさんは本当にネロ殿と一緒で大丈夫ですか?」
「え、あ、はい。ふ、夫婦ですので……」
返事をしたけど一気に顔に血がのぼった。自分から夫婦宣言したの、もしかして初めてかもしれない。見やると黒猫君もちょっと赤くなってる。そんな私たちの様子にディーンさんがコホンと咳一つしながら視線を逸し、アルディさんはやってられないってふうに肩をすくめた。
「そ、そのですな余りに沢山の兵士が一度に死亡したため、清潔なシーツも数がありませんで、今兵士どもが洗濯もしていますが間に合うか……」
話をそらすようにディーンさんが早口に続けると、黒猫君が片手を上げて返事を返す。
「ああ、なら俺たちがあとで風魔法で乾かすの手伝うぞ」
「それは助かります……ではこちらの部屋がもとマークの部屋になります。アルディ大佐、我々はあの二つの部屋です」
あれ、ディーンさんがアルディさんを今度は大佐って呼び出してる。うーん、軍のこういうのはよく分からないけど、どうやらアルディさんがなんだか全体のトップに収まった感じ?
「オッケー。じゃああゆみにも話があるし、あとで下で落ち合うぞ」
「分かりました。僕は部屋を確認したら先に下の様子を見にいってます」
「では下で」
ディーンさんは場所だけ説明して下に降りていく。アルディさんもすぐに自分の部屋に入っちゃった。黒猫君も同様に私を抱えたまま、あてがわれた部屋に入って扉を閉めた。
夕暮れ頃私を迎えにきた黒猫君が言葉を失った。
フフフ、見るがいい私の力作を!
「だってほら、また兵士さんたちの鎧使わせてもらうの悪いし」
最初にやってみた椅子の出来に自信をつけた私がさっきっから一生懸命作ってた傑作、大っきなかまど。ついでにテーブルやピクニックベンチやらキッチン丸々作ってみました。
あの最初に住んでた砦にあったやつを模して作ったんだけど、自分なりにもかなり良くできたと思う。
だけどそれを前にした黒猫君がなぜか呆れた顔でため息をつく。
「砦の中が片づいた。中にはしっかり作りつけのかまどもある。どうやったのか知らねえが、それ多分使わねえ」
「え、えーーーー!」
そ、そんなぁ、折角半日かけて作ったのに!
「あゆみさん……それ全部、土魔法で作ったんですか?」
黒猫君のつれない返しに私ががっかりして肩を落とすと、黒猫君と一緒に迎えにきたバッカスたちの後ろからシモンさんが顔を出して驚いた様子で私を見る。ああ、いつの間にかバッカスたちも帰ってきてたんだ。
「え、はい、シアンさんに折角習ったから頑張ったんですけど」
シモンさんなら私の努力を理解してくれるはず!
そう思って返事をした私にシモンさんがなんともすまなそうに顔をゆがめた。
「あゆみさん、こんな普通の土で大きなものを作られても、雨が降ったら崩れますよ?」
「え、ええええ……じゃあこれ全部無駄……?」
「そうなりますね……。ただ、それにしても器用に作られましたねぇ。何か元にしたものがあったんですか?」
「はい、以前他の砦で見かけたものを元に作りました」
がっくり気落ちしつつ返事を返すと、シモンさんが何やら考え込んじゃった。
結局皆で取ったお芋とお野菜、バッカスたちの狩の成果とそれになぜか黒猫君が麦を刈り取らせて、全部を馬車に積んで砦に向かった。
馬車に乗せた大量の食料品の効果か、兵士さん達が皆陽気におしゃべりしながらついてくる。
「あゆみ殿が巫女様というのは本当だな!」
「ああ、豊穣の巫女様だ」
「いや、それを言ったらバッカス殿の狩の成果も凄い」
「ええ、付き合う俺らは地獄ですが」
「ああ、しかもあゆみ殿の知己というだけでそれを俺たちにも分けてくれるっていうんだ」
「ありがてぇな」
先頭をいく馬車に乗せられた私は、漏れ聞こえてくるそんな話がこそばゆくて後ろが見れない。横を歩いてるバッカスはなんか複雑そう。
「あれ、ベンさんは?」
そう言えばバッカスたちと一緒に出てったのに、ベンさんだけまだ見てない。それに気づいて尋ねると、バッカスが頭をかきながら返事してくれる。
「途中までは一緒だったんだが、俺らが南に向かいだしたところであっちは西に行っちまった」
「……もしかしてオーク牧場を見にいってくれたんでしょうかね」
「ああ、そういやまだ確認しに行ってなかったな」
アルディさんと黒猫君が思い出したように話してる。そう言えばオーク牧場なんてあったんだっけ。
「まあ昨日の様子からして、ベン独りならどうとでも出来るんだろ」
確かに。
そんな話をしてるうちに馬車が砦の門に差し掛かる。砦の向かいに積み上げられた土塊が一部崩されて、いくつもの小さな盛り土が並んでるのは多分、砦で亡くなった兵士さんたちのお墓なのかな。それまで騒がしかった皆が急にシュンっと静かになっちゃった。
今回は前に到着しただけで当たり前のように落とし門が上がってく。馬車に揺られながら、とうとう私も砦の中に入れてもらえた。
潜った砦の門は、下から見上げると槍みたいに尖った太い木の柱が繋がって出来てて、落ちてきたらどうしようとちょっと不安になる。
砦の中はとってもゴチャゴチャしてた。なんとなくウイスキーの街に初めて入った時を思い出してたせいか、あの時見た煤けた町並み以上に何も整備されてない様子に不安でドキドキしてしまう。
門の右側は大きな建物が繋がって建ってた。黒猫君がそこが兵舎だって教えてくれる。
左右には木で組まれた櫓が建ってて、右側の櫓は兵舎の建物の上に突き出してた。兵舎はログハウスのように丸太で組まれてて、一階には窓らしきものは見当たらない。そのせいかなんか凄く怖い感じがする。
門の内側はあちこちに土塊の山が出来てた。草一本生えてないむき出しの地面は門の外と変わらないくらいガタガタで、街のように整備されてるとは言い難い。
目の前の一番大きな土塊の小山の向こう側に一つ、そして左奥にももう一つ大きな建物が建ってるのが見える。そしてその全ての向こう側には切り落とされ、むき出しになった崖がそそり立ってて、その真ん中にぽっかりと口を開いてる暗い洞穴がなんか薄気味悪い。
そんな景色を横目に馬車は兵舎の入り口で停まった。黒猫君がさっさと私を拾い上げ、ディーンさんたちに向き直る。
「夕食の準備は後援の連中に任せても大丈夫か?」
「問題ありません。ネロ殿は先ほど見られたマークの部屋を使われるのでいいんでしょうか?」
「ああ。どの道、まだなんか残ってねえか調べなきゃなんねーし」
「分かりました」
黒猫君と会話を続けながらディーンさんが馬車の荷下ろしをしてる兵士さんの一人に声を掛けて一緒に兵舎の中へと歩き出す。
「では僕とディーン中佐にもその近くの部屋を用意できますか?」
「その方が連絡が楽ですな。では我々はニックの部屋を挟んで次のニ部屋を使いましょう」
ディーンさんがそう言うと、横に並んでた別の兵士さんがその意を汲んですぐに駆けていく。ディーンさんは中に立ってた兵士さんにも一言二言掛けて、私たちを先導して兵舎に入った。
兵舎の中は窓がないせいで薄暗い。ところどころに光魔石のランプが吊るされてるからなんとか見えるけど、これじゃみんな目が悪くなりそう。
でも入り口から射しこむ明かりで、かまどやら水場やらが見えるから多分ここが炊事場みたい。奥には何か別の部屋が続いてるようだけど、ここからはよく見えない。
入り口脇の階段を黒猫君に抱えられて一緒に上がると、途端視界が開けた。そのまま階段はもう一回上まで伸びてる。二階の踊り場はそのまま少し広い部屋になってて、真ん中に置かれた机の上には大きめの光魔石のランプが煌々と輝いてる。扉もない部屋がそれを囲うようにいくつも並んでて、その間を行き来しながら数人の兵士さんが忙しそうに働いてた。
働いてる、っていうかもしかしてお掃除してる?
「上の掃除はどうなりましたか?」
「先に終わってます。残りは農民の宿舎の片付けをしてます」
ディーンさんが部屋の兵士さんの一人に声を掛けると、はきはきとした答えが返ってくる。
「我々の部屋はもう一つ上です。東側は見張り部屋、西が我々の部屋、北と南は他の兵士が使います。あゆみさんは本当にネロ殿と一緒で大丈夫ですか?」
「え、あ、はい。ふ、夫婦ですので……」
返事をしたけど一気に顔に血がのぼった。自分から夫婦宣言したの、もしかして初めてかもしれない。見やると黒猫君もちょっと赤くなってる。そんな私たちの様子にディーンさんがコホンと咳一つしながら視線を逸し、アルディさんはやってられないってふうに肩をすくめた。
「そ、そのですな余りに沢山の兵士が一度に死亡したため、清潔なシーツも数がありませんで、今兵士どもが洗濯もしていますが間に合うか……」
話をそらすようにディーンさんが早口に続けると、黒猫君が片手を上げて返事を返す。
「ああ、なら俺たちがあとで風魔法で乾かすの手伝うぞ」
「それは助かります……ではこちらの部屋がもとマークの部屋になります。アルディ大佐、我々はあの二つの部屋です」
あれ、ディーンさんがアルディさんを今度は大佐って呼び出してる。うーん、軍のこういうのはよく分からないけど、どうやらアルディさんがなんだか全体のトップに収まった感じ?
「オッケー。じゃああゆみにも話があるし、あとで下で落ち合うぞ」
「分かりました。僕は部屋を確認したら先に下の様子を見にいってます」
「では下で」
ディーンさんは場所だけ説明して下に降りていく。アルディさんもすぐに自分の部屋に入っちゃった。黒猫君も同様に私を抱えたまま、あてがわれた部屋に入って扉を閉めた。
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