異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ

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第11章 北の森

8 集落

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「あんたらバカじゃねえのか、なんで俺たちの縄解いてんだって聞いてんだよ」

 縄を解かれた頭首らしき男が地面に胡坐かいて膝に手をつき、不貞腐れてこっちを睨みあげさっきっから文句を言い続けてる。
 兵士たちが縄を解き終わると他の連中もその後ろでそれぞれ胡坐かいたり足を投げ出して疲れた様に座ってこちらの様子を見てる。それでも誰も槍を構えようとはしねーし、逃げ出す気もねえみたいだった。
 俺とアルディは男たちのすぐ目の前に立って、一応見張りもしながら頭首らしき男に話しかけてた。
 その間あゆみはシモンやバッカスたちと一緒に船の際でなんか話し込んでる。まあヴィクも一緒だし大丈夫だろ。

「だからさっきも言ったでしょう、あなたがたを捕まえておいても何もいいことはないんですよ」

 アルディが困ったようにそう繰り返すと男はまだ疑い深そうにこちらを見上げて続ける。

「俺たちが逃げ出したり暴れたりしたらどうする気なんだ?」

 尋ねられたアルディは肩をすくめて軽い調子で答えた。

「どうにも? あなた方が暴れたくらいじゃどうもしませんし、さっきのように取り押さえるだけですよ。いっそ逃げてくれたら喜んでさっさと先に進みますよ……まあ、この水スライムをどうにか出来ればの話ですけどね」

 そう言ってアルディが嫌そうに川を睨む。男もチラリと川を見て顔を歪めてまたすぐに視線をアルディに戻した。

「幾らそいつらがいても漕いでりゃ少しは進むだろ」
「いえ、どうもオールを誰も積まなかったらしんですよね」
「オールを積まなかったって、一体どうやってここまで登ってきたんだ?」

 見上げながらでは話しづらそうな男をみて、アルディも仕方なさそうにその場にしゃがみこむ。
 俺と一瞬視線で会話してから、アルディはわざと気乗りしない様子で男を問いただしはじめた。

「まあ、それは秘密ですよ」

 無論俺もアルディもこいつらには問いただしたいことがいくつかあった。北の鉱山から逃げてきたようだし傀儡らしき話もさっきしてた。
 だがこんだけ警戒してる連中相手に下手に勢い込んで問いただしたら答えることも答えちゃくれねえ。
 相手をリラックスさせようとあれこれ適当に受け流すアルディの意図を理解した俺は黙ってそれを見守ることにした。

「さて、話のついでです。念のためこういうことをするようになった経緯を説明して頂けると、それはそれで助かりますがいかがですか?」

 アルディに軽い調子でそう促された頭首らしき男は、まず俺とアルディの興味なさそうな態度を見て、次に後ろの兵士たちが世間話を始めたのを振り返り、そして川べりであゆみたちが遊んでるのを見て、小さくため息をつきながら森の奥を指さした。

「この先に俺たちの集落がある。ここじゃ話も何もできねえからついてきてくれ」

 これは思っていた以上に譲歩してきたな。アルディも同様に考えたらしく訝し気に男を見返す。

「いいんですか、僕たちをそんな所に連れてったりして」
「今更だな。どの道残りは大した人数もいねえし俺たちが死んでればそれで終わってたんだからな。それにあんたらもここじゃ落ち着かねえだろ」

 そう言って男があゆみたちを再び見た。
 確かにあゆみたちは落ち着きがない。ヴィクが止めてるがあゆみが水面に手を揺らしては覗き込んでる。バッカスたちもそろそろ飽きてきたのか、船を掴んで揺らして遊んでる。
 ……沈められちまうまえに引きはがさないとマズそうだ。

「船をここにおきっぱなしにするのもマズいよな」

 俺は立ち上がって水に手をかざして遊んでたあゆみを拾い上げながらアルディに問いかけた。

「ええ、そこの二人、申し訳ないが僕たちが戻るまで船をよろしく」

 そうアルディが言えば二人の兵士が船の元に戻ってきちんと見張りについた。シモンは森の集落には興味がないらしく、川べりで他の兵士二人と一緒に待機することになった。

「ああ、ちょっと待ってください」

 アルディはそう声を掛けて船に一旦戻り、何やらゴソゴソと荷物をかき回してから一袋の手荷物を作って肩に担ぎ上げる。
 あゆみを抱え上げた俺の後に続いてバッカスとアトニーが立ち上がると、途端、山賊の男たちが槍を持つ手に力を込めて警戒しながらこちらを見た。

「あ、あんたらも来る気か!?」 
「なんだ、俺たちが行っちゃマズいのか?」

 バッカスのドスの効いた問いかけに男が少し引き気味に返事を返す。

「お、俺の知ってる狼人族の連中は、人間の住処になんか来たがらねえぞ」
「そりゃあんたらがよっぽどなんかしたんじゃねえのか?」

 バッカスが斜睨みにしながらそういうと、男は不満そうに鼻を鳴らしながら答えた。

「べ、別に俺たちは何もしてねえ。単にあんた達は人と付き合う気がねえんだと思ってただけだ」

 男が返事を返すとバッカスが睨み返す。どっちも意地になってるのかそのまま睨みあって動かなくなっちまった。

「もういいだろ、こいつらも一緒だ、それがだめなら行くのは止めだ」

 俺が面倒になってそう言いきると、バッカスが馬鹿らしいというように横に唾を吐き捨て肩をすくめた。それを見た男は一瞬眉をひそめたが、それでも立ち上がって森の中に向かって歩き出した。


 森の中は思ったよりは明るかった。南のバッカスたちのいる砦の辺りより背の高い木が多く、高い木の枝の下は間引きでもしたかのように全体に整っていて、うねる根さえ避けていればそこそこ歩きやすい。うっそうと茂る高い枝の下、俺たちは頭首らしき男の後を一列になってついていく。その後ろから残りの山賊の男たちがぞろぞろとついてくる様は、まるで俺たちが連行されてるように見えなくもなかった。
 さっきっから俺たちと話してた頭首らしき男の名はケインと言うそうだ。

「でケイン。あんたらホントよくその村に俺たちを連れてく気になったな」

 俺が何の気なしにそう尋ねると、先頭に立って薄暗い森を歩いていくケインがぼそぼそと答える。

「……あんたらが俺たちに危害を加える気がないのは、まあ分かった。そんであんたらが南から川を遡ってきたのも知ってる」

 ケインが答えながら大きな木の根を飛び越えていく。
 答えるケインの足元を見れば、ボロボロの革袋みたいなものを付けてるだけだった。かなり使い込まれてるようで所々穴が開いてる。
 気になって見回すと、どいつもこいつも足首の辺りまでビッシリと切り傷の後がついているのが目についた。
 そりゃあ、そんなもんだけで森を歩き回ってればそこら中で切れるだろう。
 身なりが汚えのは気づいてたがよく見れば身に着けてるものもかなりボロボロだ。鞣した小さな動物の革を革紐で繋いで作ってるようだが、繋いでる紐が切れたり、元々革が足りてなかったりして素肌が見えちまってる。しかもそこから覗く体つきは締まってるというよりは皆やせ細ってる。

「あんたらが南から来たのなら、俺たちだって少し話を聞いてみたい」

 そう答えたケインも近くで見れば傷の残る頬がげっそりと痩せこけていた。
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