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短編 君のお話2
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「洋介さん、どうしてこんなにいっぱい並んでるの?」
お風呂から上がって洋介さんはビール、私は麦茶の入ったグラスを片手にソファーに腰かけてるんだけど。私たちの目の前にはいくつものパンフレットが並んでる。
「ドイツ、ギリシャ、イタリア、スペイン、タイ、こっちはニューカレドニア、コスタリカってどこでしたっけ?」
「こっちにヨーロッパ一周と北欧一周もあったぞ」
これ全部旅行のパンフレット。帰り道東京駅の乗り換えの時に全部拾ってきちゃったのだそうだ。
「今回の件で嫌って程分かった。いける時に行かないと僕たちは一生新婚旅行には行けそうにない」
うん、それは私も分かってる。今回洋介さんが出張に出ちゃう前までは来月どっかに行こうって言ってたけど、もう月末も近いし来月は11月だし、あっという間に今年が終わっていっちゃう。
でも。
「洋介さん、これ全部期間が長いですよ」
「それなんだよな」
私たちの有給は結構使ってしまってた。結婚前にも使ってたし、結婚式でも使った。そしてその後も。
「陽子の結婚式が響きますね」
「ダンとな」
そう。今年私たちを追いかける様に陽子とダンさんが結婚した。
夏に来日していたダンさんは私たちが行けない人だらけの場所を案内してくれた陽子にほれ込んで猛アッタックの末、先月結婚しちゃったのだ。ダンさんの都合で結婚式がアメリカだったのでお呼ばれした私たちはまたもやカリフォルニアに飛んで二人を祝福してきたけど。
「もうあれが新婚旅行でもいいんじゃないですか?」
「だめだ。あれも違う!」
洋介さん、なぜかまだやけにこだわっちゃってるんだよね。
「でもこれ全部時間的にもきついですし私こんな遠くまで行くのちょっと……」
海外旅行はやっぱりちょっと気が引ける。どこで混雑に会うか分からないし。
私はこうやって二人でいられればそれでいいのだ。
「あ、そうだ洋介さん、私凄いんですよ」
新婚旅行で思い出した。
「商店街の買い物でこんな物頂いちゃいました」
そう言って自分のトートバッグの中から薄い封筒を引き出した。封筒の中から出てきたのは2枚の薄いチケット。
「見て見て。ディ〇ニーランドのペアチケット」
「お、凄いな。当てたのか?」
「肉屋のえっちゃんが沢山引換券くれたんですよ。いつもお肉買ってくれるお礼だからって言って」
「えっちゃん?」
「ほら、商店街のお肉屋さんの息子さん。来年大学卒業予定で忙しいのにいつもお父さんのお手伝いで売り場にいるんですよ。いつも愛想がよくてご機嫌でおまけも沢山してくれてすっごくいい子なんです。この前もから揚げおまけに付けてくれて」
「彩音、指輪してるよね?」
「え?」
「結婚指輪」
「もちろんしてますよ。どうしたんですか突然」
「いや、ならいい」
おかしな洋介さんはほっといて話を続ける。
「でも私たち二人じゃやっぱり無理でしょうか」
ジッと洋介さんを見上げる。
私も洋介さんも人ごみ嫌いだし。ロスで行ったときはツアーだったし基本混んでる乗り物には全く乗らなかったし。別にうらやましいわけじゃないけど新しいパレードもやってるし。
「行くか?」
「行けますか?」
「こっからだとまた2時間コースかな」
「もうそれは慣れました。外も涼しくなりましたし早朝に出ればもう少し楽かも」
「そうだな」
「で、ですね。ホテルで一泊したらもっとゆっくりできると思うんですよ」
「…………」
「ついでに海にでも行って温泉とか浸かってもいいかなって」
「…………」
「それって素敵に新婚旅行っぽいって思いませんか?」
「……本気?」
洋介さんの目がちょっと困ってる。でもだってね……
「洋介さん、私洋介さんとゆっくり一緒にいられる方が嬉しいんです。飛行機の時間とかホテルまでの移動時間とかそういうの勿体ないなって。フィアットで行けばずっと二人でいられるし」
「そうか。……そうだな」
私の顔を覗き込んで私の真意を探る様にしばらくこちらを見てた洋介さんがこてって首を傾げて眼鏡の向こうの瞳が優しく微笑んだ。そのしぐさが可愛らしくて。
「洋介さんが好きな物でお弁当作りますね。お休み取ってゆっくりしてきましょう」
「わかった。じゃあ、このチケット預かってもいい? あといつ行けるか日にち合わせて有給取らないとな」
こうやって私の言葉を真剣に聞いてくれる洋介さんが凄く好き。
お互いに色々難しい所のある私たちが出会えたのはこうやってお互いを大切にする為なのかもしれない。そう思えるのが嬉しい。
甘々な雰囲気はそのまま続いて。
土曜日の夜は洋介さんに何度も揺らされながら甘く甘く更けていった。
それから3週間後の週末。出張から帰ってきた洋介さんは順調に執筆も終わらせ仕事も追いついてきてるみたいだけど忙しいのは目に見えてたので週末以外は私も遠慮した。
でもね、その代わりに。
今週末は新婚旅行だ!
水曜日から3日有給を取って週末までお出かけするのだ。
コースは洋介さんまかせ。でもディ〇ニーランドだけは確定。
火曜の夕方は早く帰らせてもらって昨日沢山作ったお弁当を車に積もうとして。
「あの洋介さん。何でひざ掛けが必要なんですか?」
「ああ。この車、暖房も今一つ効かないんだよ」
「じゃあ、こっちのポリタンクは?」
「この前みたいにエンジン上がっちゃったら困るから」
「これなんですか?」
「携帯用トイレ。渋滞にハマったら困るだろう」
「ひっ! そんなの絶対使いませんよ!」
「そんな事言ってられない時だってあるかもしれない」
洋介さんなんでこんなに慎重になっちゃってるんだ?
「あのディ〇ニーランド行くんですよね?」
「ああ」
「その後どこに行くんですか?」
「秘密」
なんか洋介さんがウキウキと支度を続けてるのを横目で見ながら私はそこはかとなく長い旅になりそうな予感を感じてた。
--- ・ ---
「洋介さん、ここどこですか?」
「長野」
「あの、長野のどこ?」
「んー、多分この辺」
そう言って洋介さんが地図を指さす。指さした先は等高線しかないんですが。
「ここ山ですよね」
「そうみたいだな」
「えっと暫く標識見てませんが」
「しばらく山道だからな」
「え! あれ吊り橋ですよ、渡るんですか? 渡れるんですか?」
「他に道ないだろ」
そう言って洋介さんがそのままグングン進んで行ってしまう。私はぎゅっと目を瞑った。
ディ〇ニーランド楽しかったな。
あれが私の最後の思い出になるのか。
なんて考えてしまうほどその吊り橋は細かった。
あれ車で通って本当に良かったの?
ディ〇ニーランドを丸一日堪能した私はもう後はホテルに行くだけだと思ってた。
園内は洋介さんが手配してくれてたらしくファストパスを使って列に殆ど並ばないで乗り物を乗りまくれた。おかげで何の不安もなく生まれて初めて有名なアトラクションを堪能できた。
夜も夕食は並ぶと聞いてたから覚悟してたのに、洋介さんが人気のないレストランに連れて行ってくれた。
誰もいない園の端っこの扉から入るとそこは別世界だった。
ここ本当にディ〇ニーランドなの?って程何かが違う。
一階のレセプションは落ち着いた真紅の壁紙に暖炉なんかもあってまるで本当に外国のお宅にお邪魔したような気分だった。そこで荷物を預けて狭い階段を上がると二階の少し明かりを落とした部屋に案内されて。窓際の席に座った私たち以外他にお客様は誰もいなかった。
「よ、洋介さん、ここ凄く高いんじゃ? しかも貸し切りって事ないですよね?」
焦って質問してしまった私に洋介さんが耳打ちしてくれた。
「取引先の重役の方にここの会員の方がいてね。君の話をしたら譲ってくれたんだ。会員制だから予約した人しか来ないし今日は平日だからたまたま他にお客様がいないんだろうな」
貸し切りではないみたいだけどこんな所、緊張しちゃうよ。
なんて思ってたのもお食事が始まるまで。
出された夕食はどれも凄く美味しかった。丁寧な接客で綺麗な盛り付けのフレンチが次々と運ばれてきた。
そして一番のサプライズは。
「ほら彩音、始まるよ」
「うそ……」
これは無理だと思ってた。
私も洋介さんも人ごみ嫌いだし、暗い中でそういう場所に近づくのはご遠慮したいし。でも陽子から話は聞いてたから見たくないっていえばウソだった。
遠くから音楽が流れてきて。人垣が見えて。
そのエレクトリカルパレードが窓の少し先で流れていくのだ。
もちろん目の前で見えるわけじゃないけどここが2階だから全体が見渡せて、暗い園内をキラキラと光るパレードが練り歩くのが良く見えた。
「洋介さん、凄い……」
洋介さんがすぐ隣にいて。
締めくくりに花火までお城をバックに目の前で上がって。
っと。
そんな本当にロマンティックな夜だったのだ。
それが一転ただ今迷走中。
「洋介さん、そろそろ3時間程車乗ってるんですけど」
「もうすぐ着く」
「それ1時間前も言いましたよね」
「大丈夫だ」
「洋介さん、正直に言ってください。道に迷ってますよね」
「そんなことはない。もうすぐだ」
1時間くらい前に曲がった道が絶対おかしかった。地図ではここだって洋介さん言ってたけど。
大体もうカーナビなしでこんな所まで来てる時点で厳しいよ。しかも携帯は圏外になって久しい。グー〇ルさんもネットがなければ役立たず。
「ねえ洋介さん。戻りませんか?」
「なんで? もうすぐだって」
「戻ってさっきの道を確認しませんか?」
「もうすぐ本道に抜けるから大丈夫。ちょっと近道しただけだ」
「近道は余計に1時間かかったりしません」
そう言ってるうちに前方に露天掘りの何かが見えてきた。道は真っすぐそこに向かってる。
「…………」
「戻りましょう、ね?」
「……戻るか」
あああああ。やっと納得してくれた。
それから同じ道を戻るつもりが何故かまた違う所に出てGPSと携帯が繋がるまでに1時間。
フィアットこそ止まらなかったものの危うくガソリンが尽きるギリギリで私たちは目的の街に着けたのだった。
お風呂から上がって洋介さんはビール、私は麦茶の入ったグラスを片手にソファーに腰かけてるんだけど。私たちの目の前にはいくつものパンフレットが並んでる。
「ドイツ、ギリシャ、イタリア、スペイン、タイ、こっちはニューカレドニア、コスタリカってどこでしたっけ?」
「こっちにヨーロッパ一周と北欧一周もあったぞ」
これ全部旅行のパンフレット。帰り道東京駅の乗り換えの時に全部拾ってきちゃったのだそうだ。
「今回の件で嫌って程分かった。いける時に行かないと僕たちは一生新婚旅行には行けそうにない」
うん、それは私も分かってる。今回洋介さんが出張に出ちゃう前までは来月どっかに行こうって言ってたけど、もう月末も近いし来月は11月だし、あっという間に今年が終わっていっちゃう。
でも。
「洋介さん、これ全部期間が長いですよ」
「それなんだよな」
私たちの有給は結構使ってしまってた。結婚前にも使ってたし、結婚式でも使った。そしてその後も。
「陽子の結婚式が響きますね」
「ダンとな」
そう。今年私たちを追いかける様に陽子とダンさんが結婚した。
夏に来日していたダンさんは私たちが行けない人だらけの場所を案内してくれた陽子にほれ込んで猛アッタックの末、先月結婚しちゃったのだ。ダンさんの都合で結婚式がアメリカだったのでお呼ばれした私たちはまたもやカリフォルニアに飛んで二人を祝福してきたけど。
「もうあれが新婚旅行でもいいんじゃないですか?」
「だめだ。あれも違う!」
洋介さん、なぜかまだやけにこだわっちゃってるんだよね。
「でもこれ全部時間的にもきついですし私こんな遠くまで行くのちょっと……」
海外旅行はやっぱりちょっと気が引ける。どこで混雑に会うか分からないし。
私はこうやって二人でいられればそれでいいのだ。
「あ、そうだ洋介さん、私凄いんですよ」
新婚旅行で思い出した。
「商店街の買い物でこんな物頂いちゃいました」
そう言って自分のトートバッグの中から薄い封筒を引き出した。封筒の中から出てきたのは2枚の薄いチケット。
「見て見て。ディ〇ニーランドのペアチケット」
「お、凄いな。当てたのか?」
「肉屋のえっちゃんが沢山引換券くれたんですよ。いつもお肉買ってくれるお礼だからって言って」
「えっちゃん?」
「ほら、商店街のお肉屋さんの息子さん。来年大学卒業予定で忙しいのにいつもお父さんのお手伝いで売り場にいるんですよ。いつも愛想がよくてご機嫌でおまけも沢山してくれてすっごくいい子なんです。この前もから揚げおまけに付けてくれて」
「彩音、指輪してるよね?」
「え?」
「結婚指輪」
「もちろんしてますよ。どうしたんですか突然」
「いや、ならいい」
おかしな洋介さんはほっといて話を続ける。
「でも私たち二人じゃやっぱり無理でしょうか」
ジッと洋介さんを見上げる。
私も洋介さんも人ごみ嫌いだし。ロスで行ったときはツアーだったし基本混んでる乗り物には全く乗らなかったし。別にうらやましいわけじゃないけど新しいパレードもやってるし。
「行くか?」
「行けますか?」
「こっからだとまた2時間コースかな」
「もうそれは慣れました。外も涼しくなりましたし早朝に出ればもう少し楽かも」
「そうだな」
「で、ですね。ホテルで一泊したらもっとゆっくりできると思うんですよ」
「…………」
「ついでに海にでも行って温泉とか浸かってもいいかなって」
「…………」
「それって素敵に新婚旅行っぽいって思いませんか?」
「……本気?」
洋介さんの目がちょっと困ってる。でもだってね……
「洋介さん、私洋介さんとゆっくり一緒にいられる方が嬉しいんです。飛行機の時間とかホテルまでの移動時間とかそういうの勿体ないなって。フィアットで行けばずっと二人でいられるし」
「そうか。……そうだな」
私の顔を覗き込んで私の真意を探る様にしばらくこちらを見てた洋介さんがこてって首を傾げて眼鏡の向こうの瞳が優しく微笑んだ。そのしぐさが可愛らしくて。
「洋介さんが好きな物でお弁当作りますね。お休み取ってゆっくりしてきましょう」
「わかった。じゃあ、このチケット預かってもいい? あといつ行けるか日にち合わせて有給取らないとな」
こうやって私の言葉を真剣に聞いてくれる洋介さんが凄く好き。
お互いに色々難しい所のある私たちが出会えたのはこうやってお互いを大切にする為なのかもしれない。そう思えるのが嬉しい。
甘々な雰囲気はそのまま続いて。
土曜日の夜は洋介さんに何度も揺らされながら甘く甘く更けていった。
それから3週間後の週末。出張から帰ってきた洋介さんは順調に執筆も終わらせ仕事も追いついてきてるみたいだけど忙しいのは目に見えてたので週末以外は私も遠慮した。
でもね、その代わりに。
今週末は新婚旅行だ!
水曜日から3日有給を取って週末までお出かけするのだ。
コースは洋介さんまかせ。でもディ〇ニーランドだけは確定。
火曜の夕方は早く帰らせてもらって昨日沢山作ったお弁当を車に積もうとして。
「あの洋介さん。何でひざ掛けが必要なんですか?」
「ああ。この車、暖房も今一つ効かないんだよ」
「じゃあ、こっちのポリタンクは?」
「この前みたいにエンジン上がっちゃったら困るから」
「これなんですか?」
「携帯用トイレ。渋滞にハマったら困るだろう」
「ひっ! そんなの絶対使いませんよ!」
「そんな事言ってられない時だってあるかもしれない」
洋介さんなんでこんなに慎重になっちゃってるんだ?
「あのディ〇ニーランド行くんですよね?」
「ああ」
「その後どこに行くんですか?」
「秘密」
なんか洋介さんがウキウキと支度を続けてるのを横目で見ながら私はそこはかとなく長い旅になりそうな予感を感じてた。
--- ・ ---
「洋介さん、ここどこですか?」
「長野」
「あの、長野のどこ?」
「んー、多分この辺」
そう言って洋介さんが地図を指さす。指さした先は等高線しかないんですが。
「ここ山ですよね」
「そうみたいだな」
「えっと暫く標識見てませんが」
「しばらく山道だからな」
「え! あれ吊り橋ですよ、渡るんですか? 渡れるんですか?」
「他に道ないだろ」
そう言って洋介さんがそのままグングン進んで行ってしまう。私はぎゅっと目を瞑った。
ディ〇ニーランド楽しかったな。
あれが私の最後の思い出になるのか。
なんて考えてしまうほどその吊り橋は細かった。
あれ車で通って本当に良かったの?
ディ〇ニーランドを丸一日堪能した私はもう後はホテルに行くだけだと思ってた。
園内は洋介さんが手配してくれてたらしくファストパスを使って列に殆ど並ばないで乗り物を乗りまくれた。おかげで何の不安もなく生まれて初めて有名なアトラクションを堪能できた。
夜も夕食は並ぶと聞いてたから覚悟してたのに、洋介さんが人気のないレストランに連れて行ってくれた。
誰もいない園の端っこの扉から入るとそこは別世界だった。
ここ本当にディ〇ニーランドなの?って程何かが違う。
一階のレセプションは落ち着いた真紅の壁紙に暖炉なんかもあってまるで本当に外国のお宅にお邪魔したような気分だった。そこで荷物を預けて狭い階段を上がると二階の少し明かりを落とした部屋に案内されて。窓際の席に座った私たち以外他にお客様は誰もいなかった。
「よ、洋介さん、ここ凄く高いんじゃ? しかも貸し切りって事ないですよね?」
焦って質問してしまった私に洋介さんが耳打ちしてくれた。
「取引先の重役の方にここの会員の方がいてね。君の話をしたら譲ってくれたんだ。会員制だから予約した人しか来ないし今日は平日だからたまたま他にお客様がいないんだろうな」
貸し切りではないみたいだけどこんな所、緊張しちゃうよ。
なんて思ってたのもお食事が始まるまで。
出された夕食はどれも凄く美味しかった。丁寧な接客で綺麗な盛り付けのフレンチが次々と運ばれてきた。
そして一番のサプライズは。
「ほら彩音、始まるよ」
「うそ……」
これは無理だと思ってた。
私も洋介さんも人ごみ嫌いだし、暗い中でそういう場所に近づくのはご遠慮したいし。でも陽子から話は聞いてたから見たくないっていえばウソだった。
遠くから音楽が流れてきて。人垣が見えて。
そのエレクトリカルパレードが窓の少し先で流れていくのだ。
もちろん目の前で見えるわけじゃないけどここが2階だから全体が見渡せて、暗い園内をキラキラと光るパレードが練り歩くのが良く見えた。
「洋介さん、凄い……」
洋介さんがすぐ隣にいて。
締めくくりに花火までお城をバックに目の前で上がって。
っと。
そんな本当にロマンティックな夜だったのだ。
それが一転ただ今迷走中。
「洋介さん、そろそろ3時間程車乗ってるんですけど」
「もうすぐ着く」
「それ1時間前も言いましたよね」
「大丈夫だ」
「洋介さん、正直に言ってください。道に迷ってますよね」
「そんなことはない。もうすぐだ」
1時間くらい前に曲がった道が絶対おかしかった。地図ではここだって洋介さん言ってたけど。
大体もうカーナビなしでこんな所まで来てる時点で厳しいよ。しかも携帯は圏外になって久しい。グー〇ルさんもネットがなければ役立たず。
「ねえ洋介さん。戻りませんか?」
「なんで? もうすぐだって」
「戻ってさっきの道を確認しませんか?」
「もうすぐ本道に抜けるから大丈夫。ちょっと近道しただけだ」
「近道は余計に1時間かかったりしません」
そう言ってるうちに前方に露天掘りの何かが見えてきた。道は真っすぐそこに向かってる。
「…………」
「戻りましょう、ね?」
「……戻るか」
あああああ。やっと納得してくれた。
それから同じ道を戻るつもりが何故かまた違う所に出てGPSと携帯が繋がるまでに1時間。
フィアットこそ止まらなかったものの危うくガソリンが尽きるギリギリで私たちは目的の街に着けたのだった。
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