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短編 山口さんと私の中途半端な関係 中

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 前回お泊りセットもなく2日も滞在した私は今回はちゃんと最低限の着替えと洗面道具は持ってきている。

「先に風呂に入りたいか?」
「大丈夫です、先に入ってから来たので」
「それは残念だ」
「え?」
「一緒に入ることもできるんだがな」
「……それはハードル高すぎです」

 洗面所を借りて着替えと洗面を終える。
 元々化粧は薄いので簡単お手入れだ。
 お風呂一緒って入れるものなの?
 いや、今からすることのほうがもっとすごいのかな?
 ぽや~っとそんなことを考えているのは今の状況が余りに恥ずかしくて。

 部屋に行くと入れ替わりに山口さんが洗面にたつ。
 山口さんのパジャマ姿は先週見ている。
 でもやっぱりなんか不思議だ。
 パジャマの山口さんはなんか全然おじさんに見えないのだ。
 若く見える山口さんはいつもより男性っぽくてちょっと逃げだしたくなる。
 ベッドに先に入っていた私はそのままベッドに来る山口さんに気になっていたことを聞いてみる。

「先週私先に寝ちゃたんで気づきませんでしたけど山口さん寝る前にちゃんとメガネ取ったんですか?」

 山口さんの顔がピクリと引きつった。
 あれ?

「君が寝たら外すから心配するな」
「え? でも外して寝ないとフレームが歪むんじゃぁ……」
「形状記憶だから大丈夫だ」
「そういうことじゃなくて寝づらくありませんか?」
「問題ない」
「…………もしかして私にメガネ外した所見られたくない?」
「そ、そんなことはない」
「じゃあ、外してください」
「嫌だ」

 嫌だって……言われれば見たくなるのが普通だけど。

「……地雷ですか?」
「……そうだな」
「じゃあ諦めます」

 お互いまだ超えられないものが多いのだ。
 無理はするまい。
 山口さんはちょっと思案してから電気を消して布団に入ってくる。

「……このまま明かりを点けないなら外してもいいぞ」
「なんか山口さんの方が乙女チックですよね」
「……じゃあ先週みたいに電気を付けたまま全てを僕にさらす方が好みか?」
「ず、ズルい、あれは鬼畜な山口さんのせいでそれどころじゃなくなって……」
「悪かった」

 山口さんがゆっくり抱き締めてくれる。

「僕も余裕がなかった。最後はあんなことになっちまったし」
「それは忘れましょうよ、出来ちゃったら出来ちゃったで私達別に困ること何もないんですから」

 そうなのだ。
 結婚も決めてしまったし、お互いいい年だし、住むところも仕事もあるし。

「そういう問題だけじゃなくてだな。まあいい、それは今夜ゆっくり取り返すから」

 なんのことだろう?

「とにかく今日は道具はなしだ」
「は、はい」

 私だって別にどうしても道具を使って欲しい訳じゃない。
 単純に興味があっただけだ。
 私的には『山口さんに触られる』と言うことの方が緊張はするが気持ちいいのだ。
 それに今日の私には目標がある。
 今日はちゃんとしっかり意識を持ったまま最後までするのだ。
 前回は山口さんの鬼畜で途中から意識朦朧としててちゃんと思い出せないことがいっぱいある。
 初体験だったのに痛みは確かに少なかったけどなんかすごいことになっちゃっていた気がする。
 そのせいか今日も山口さんに触られる度に予想以上に身体が反応してしまう。
 恥ずかしいけど既にさっき下着を変えてきたのだ。
 勝負下着なんて言わないけど一番のお気に入りは見られるより前に見せられない状態になり退散しました。
 そんなこと関係なしに山口さんがさっと眼鏡を外して枕元のテーブルに置く。
 電気は点いていないけど外から差し込む光で私の横で肩肘ついて私を見ている山口さんの顔が薄っすらと見える。

「……山口さん、眼鏡がないとオジサマに見えませんね」
「……だから嫌なんだ」
「そうですね。普段はかけててください。って言うか、私がいない所で外さないで欲しい」
「……?」
「でないと山口さん、若い子達に襲われちゃいそう……」
「……彩音ちゃんも襲いたくなる?」

 流し目でそんなことを言わないで!
 本当に襲いかかりたくなるから!

「山口さんの色気に参りました……」
「結構嬉しいのかな? 彩音ちゃんにそう言われるのは」

 そう言って私の髪に指を差し込む。
 その指が私の首の後ろを撫でる。

「んっ……」
「くすぐったい? それとも気持ちいい?」
「……両方」
「ここだと素直だね」

 山口さんのしなやかな指が私の首筋をゆっくりと撫でまわす。
 暗闇の中の山口さんのシルエットの中で山口さんの目だけがはっきりと私に向いていることが感じられる。

「……彩音ちゃんの声が聞きたい」
「あっ……」

 山口さんはそう言って私の首の後ろを撫であげる。
 
「不思議だね。僕は余りアニメとか見ないしドラマとかでも女性の声に性的な物も特に感じないのに、彩音ちゃんの声は可愛いと思う」

 そんなことを面と向かって言われるのはすごく恥ずかしい。
 恥ずかしいけど嬉しい。
 山口さんは結構なんでも口にしてくれる。
 多分私の不安を分かってくれているんだと思う。

「この暗さだったら顔が近づいても大丈夫?」
「……大丈夫…だと思う」

 ゆっくりと山口さんの顔が近付いてくる。
 頬に……山口さんの頬が当たった。

「どう?」
「だ、大丈夫…だけど…山口さんは?」
「彩音ちゃん、普段から香水使わないよね。シャンプーと彩音ちゃんの匂いしかしない」
「香水の匂いが駄目なの?」
「……特にね」

 そういうことはちゃんと言っておいて欲しい。
 私だって香水を使うこともあるんだし。
 危ない危ない。

「でも山口さんコロン付けてますよね?」
「いや? ああ、アフターシェーブのせいかな?」

 アフターシェーブって匂い残るんだ。
 お父さんの匂いもじゃあアフターシェーブだったのかな?

「この距離にも慣れたのかな。もう怖くない?」
「ん……怖くはないんですけど、山口さんの声が近くて……色っぽくて……ちょっとじゃなくドキドキします」
「色っぽいねぇ……言われたことないし嬉しいのやらどうやら。じゃあこっちは?」

 そう言って山口さんの手がパジャマのボタンを外しはじめる。
 ええ、もちろんノーブラです。
 それなりの覚悟は出来てます!
 でもそんな覚悟は山口さんがパジャマを中途半端に脱がして胸に手を伸ばし両手を私のささやかな乳房に添えた所で泡になって消えました。
 やっぱりブラしてくれば良かった……これってない胸が強調されて見た目がかなり痛い。
 なんとか隠そうと腕を前に回そうとすると山口さんに掴まれてしまう。

「彩音ちゃん、どうせ暗いからよく見えないよ。安心して」

 そう言いながらもなぜ私の両腕を押さえつけるんでしょうか?

「や、山口さん、これじゃあ手が動かせない……」
「『手のやり場に困る』んでしょ? じゃあしっかり動けなくしてあげるよ」

 や、言ったけど、確かに言ったけど、あれはあんな恥ずかしいこと山口さんがするからで……ってそっか、もっと恥ずかしいことするんですよね……

「片手で押さえ続けるのはもったいないな」
「も、もったいないって?」
「両手で彩音ちゃんを触れない」
「……もう、隠さないので自由にして。山口さんに掴まりたい……」

 え? あれ?
 なんで手首を押さえる山口さんの手にもっと力が入っちゃってる?

「なんかこのまま動けなくしたくなってきた」
「え? なんで?」
「彩音ちゃんが可愛いこと言うから」

 私の反論はそのまま山口さんの唇に塞がれた。
 手を押さえつけられたまま奪うようなキスをされる。
 私が目を瞑る間も与えずに私の頭を片手で抱え込んで自分の舌を押し付けるように何度も奥まで挿しこまれる。
 その深くまで潜り込んでくる山口さんの舌の感触はなぜか先週山口さんに入れられた時のことを彷彿とさせる。
 その思いつきだけでまた下着が濡れてきてしまうのが自分でもわかって私はちょっと眉をひそめた。
 折角下着を変えたけど意味がなかったよ。
 普段感情をあまり見せない山口さんの目が感情を顕にしてすぐ近くで光ってる。
 恐怖も嫌悪も現れなかった。
 甘い痺れと山口さんの私を見る目が私を欲しいと言ってくれていることへの喜び。
 二次元とはもちろん違うけど、どちらが上とか下とか比べられない。

 山口さんの鋭い目が好きだ。
 山口さんの薄い唇が好きだ。
 山口さんのぎゅっと寄せられる眉が好きだ。

 私はもがいて山口さんの手を振りほどき、山口さんの頭を抱えこむ。
 この感情はなんだろう。
 もうこの頭を抱え込んで誰にも渡したくない。
 すごく強い感情なのにそれがすごく嬉しい。
 私の突然の行動に山口さんの目がちょっと戸惑いを見せたけど、直ぐに私の頭を同じように抱え込んでキスの続きを始める。
 そうしてしばらく二人でお互いを奪い合うようなキスを続けた。
 最後に軽く唇を合わせるだけのキスをした時、山口さんがちょっと顔を離して眩しそうに私を見るのが見えた。

「彩音ちゃん。今更だけど僕は多分君が好きだ」
「え?」
「別に君にも好きになって欲しいって訳じゃなくて。単に君を好きだと感じたことを伝えたかった」

 どうしよう、一瞬で身体が燃え上がったみたいに熱くなった。
 全身に鳥肌が立ってる。
 漫画みたいに体から湯気が立ちそう。

「山口さん、もう一回言って」
「……君が好きだ」

 もうクラクラして目が回ってくる。

 キスは気持ちいい。
 おもちゃも気持ちいい。
 セックスはとっても気持ちいい。
 だけどこれは。
 これはすごく嬉しくて幸せでしかも全身が燃え上がるほど気持ちいい!

 山口さんにも分けてあげたい。
 この気持ちを分けてあげたい。

 でも。

 多分今じゃない。
 私は山口さんがくれたから返したいんじゃない。
 ちゃんと山口さんが私からだと分かってくれる時に返そう。
 そう決心して、私は言葉の代わりに自分からキスを返した。
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