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2章 新しい風
36 新しい波の行方 ― 2 ―
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「アエリア様、これで今日の実力測定は終了です」
そう言ってスチュワードさんは満足そうにノートを置いた。
「アーロン様がおっしゃっていた通り、事象関連は既に造詣ぞうけいが深くてらっしゃるようですのでこちらで準備した教材で間に合いそうですね」
今日はあれからスチュワードさんと外で基本魔術の測定を行ったり、質問に答えたりと忙しく一日の大半を過ごした。
なんか学生時代に戻れたようで少し心が弾む。
ここは一階の応接室の隣にある来客用の面談室である。
それを今後私の教室として使わせていただくことになった。
今日はまだ古い家具が入っているが、スチュワードさんの移動を目指してこの部屋を改装して頂けるとの事だった。
なんか生徒は私しかいないのに大げさすぎる気がする。
「それではこちらに準備した教材を送る様手配いたしますので今日の授業はここまでと致します」
「スチュワード先生、ありがとうございました」
「はい。次は来週になりますが、それまでご自分で興味がもてそうな教材の本を少し読んでみて下さい」
「わかりました、頑張ります!」
「嬉しいお返事ですね」
私の勢い込んだ返答に優しく微笑みながらスチュワードさんが答えてくれた。
スチュワードさんが退出すると、入れ替わるようにエリーさんが部屋に入ってきた。
「アエリア様、本日アーロン様はスチュワードさんを城に送り届けて向こうで夕食を取られるとの事です。アエリア様の夕食の準備は整っていますがどうなさりますか?」
今日はあれっきりアーロンとまともに話が出来なかった。
がっかりしているのが分かったようで、エリーさんがクスリと笑いながらつづけた。
「アーロン様がいらっしゃらないのにダイニングにお一人では寂しいですわね。お部屋にお持ちしますからそちらで取られますか? 私もお部屋でお話し相手になれますが」
「ありがとうございますエリーさん、そうしてください」
昨日からなんかエリーさんとは気が合うようで是非もっとお話がしたいと思っていたところだった。
ところが自室で夕食を取り始めるとすぐにアーロンが部屋に入ってきた。
「エリー、すまないがアエリアと少し話がしたい」
「かしこまりました。アーロン様はお食事はお済ですか?」
「城で済ませてきた」
「それでは私は下がらせていただきます」
そう言ってエリーさんは出て行ってしまう。
応接セットのソファーでご飯を頂いていた私のすぐ横にアーロンが腰を掛ける。
腰かけたかと思ったら、突然抱きしめられた。
「アエリア」
小さく呟いてそのまま動きを止める。
え? どうしちゃったの?
食事の真っ最中に抱き着かれた私は、手に持ったフォークをどうしたものかと見やる。
フォークの先にはさっき突き刺したカニ味のコロッケが崩れそうになりながらぶら下がっている。
アーロンはどうやらすぐに解放してくれる気はないようだ。
私は諦めて、フォークをテーブルの皿の上に戻した。
「師匠どうしちゃったんですか」
「悪いが暫くこうしていてくれ」
アーロンの声がやけにか細い。心なしか少し震えているような気もする。
アーロンの方が大きいので抱きしめられるというよりはアーロンに包み込まれているような状態だ。
いつもの意地悪さえ出てこないやけに弱々しい抱擁に、なんかちょっとドキドキしてしまう。
アーロンの顔は私の肩を超えて後ろに行っているので顔が見えないのがせめてもの救いだが、アーロンのサラサラの黒髪が頬にあたってくすぐったい。
慣れてくるとアーロンの腕の筋肉や肩にあたるアーロンのあごの形まで敏感に感じ取れてしまう。
後ろに回された腕も回りまわって私の二の腕のあたりに添えられている両手も。
背中にアーロンの吐息がかかっている気さえする。
どんどんと自分の鼓動が早くなって顔に血が上ってくる。
このままだと上せちゃいそう。
アーロンの事をもっと知りたいと昨日思ったのは確かだけど、こんなにじっくりと抱擁されていると変な興味ばかりが先行してしまう。
師匠ってなんかお日様の匂いがする。
多分今日外で何かお仕事してたのかな?
なんか抱擁の力がちょっとづつ強くなってきている気がする……
「師匠?」
「まだもうちょっと」
そう言ってまた腕の力が強まった。
強く抱きしめられるとそれだけで体の力が抜けて眩暈めまいがしてくる。
このままだと私の心臓が爆発するかアーロンに抱きつぶされるかどちらかになりそうだ。
「し、師匠、い、息が苦しい……」
「す、すまない」
アーロンはやっと気づいたようではっとして私を解放してくれる。
私はスパーっと一気に息を吸い込んで肺をいっぱいにして、それから呼吸を整えた。
「師匠、今のは結局何だったんですか?」
「いい、忘れろ」
そうぶっきらぼうに言い放ってアーロンはソファーから立ち上がり部屋を出て行ってしまった。
私は止めるわけにもいかず、ただそれを見送ってしまったのだが。
まさかそれっきりアーロンが一週間も返って来なくなってしまうなんて思いもしなかった。
そう言ってスチュワードさんは満足そうにノートを置いた。
「アーロン様がおっしゃっていた通り、事象関連は既に造詣ぞうけいが深くてらっしゃるようですのでこちらで準備した教材で間に合いそうですね」
今日はあれからスチュワードさんと外で基本魔術の測定を行ったり、質問に答えたりと忙しく一日の大半を過ごした。
なんか学生時代に戻れたようで少し心が弾む。
ここは一階の応接室の隣にある来客用の面談室である。
それを今後私の教室として使わせていただくことになった。
今日はまだ古い家具が入っているが、スチュワードさんの移動を目指してこの部屋を改装して頂けるとの事だった。
なんか生徒は私しかいないのに大げさすぎる気がする。
「それではこちらに準備した教材を送る様手配いたしますので今日の授業はここまでと致します」
「スチュワード先生、ありがとうございました」
「はい。次は来週になりますが、それまでご自分で興味がもてそうな教材の本を少し読んでみて下さい」
「わかりました、頑張ります!」
「嬉しいお返事ですね」
私の勢い込んだ返答に優しく微笑みながらスチュワードさんが答えてくれた。
スチュワードさんが退出すると、入れ替わるようにエリーさんが部屋に入ってきた。
「アエリア様、本日アーロン様はスチュワードさんを城に送り届けて向こうで夕食を取られるとの事です。アエリア様の夕食の準備は整っていますがどうなさりますか?」
今日はあれっきりアーロンとまともに話が出来なかった。
がっかりしているのが分かったようで、エリーさんがクスリと笑いながらつづけた。
「アーロン様がいらっしゃらないのにダイニングにお一人では寂しいですわね。お部屋にお持ちしますからそちらで取られますか? 私もお部屋でお話し相手になれますが」
「ありがとうございますエリーさん、そうしてください」
昨日からなんかエリーさんとは気が合うようで是非もっとお話がしたいと思っていたところだった。
ところが自室で夕食を取り始めるとすぐにアーロンが部屋に入ってきた。
「エリー、すまないがアエリアと少し話がしたい」
「かしこまりました。アーロン様はお食事はお済ですか?」
「城で済ませてきた」
「それでは私は下がらせていただきます」
そう言ってエリーさんは出て行ってしまう。
応接セットのソファーでご飯を頂いていた私のすぐ横にアーロンが腰を掛ける。
腰かけたかと思ったら、突然抱きしめられた。
「アエリア」
小さく呟いてそのまま動きを止める。
え? どうしちゃったの?
食事の真っ最中に抱き着かれた私は、手に持ったフォークをどうしたものかと見やる。
フォークの先にはさっき突き刺したカニ味のコロッケが崩れそうになりながらぶら下がっている。
アーロンはどうやらすぐに解放してくれる気はないようだ。
私は諦めて、フォークをテーブルの皿の上に戻した。
「師匠どうしちゃったんですか」
「悪いが暫くこうしていてくれ」
アーロンの声がやけにか細い。心なしか少し震えているような気もする。
アーロンの方が大きいので抱きしめられるというよりはアーロンに包み込まれているような状態だ。
いつもの意地悪さえ出てこないやけに弱々しい抱擁に、なんかちょっとドキドキしてしまう。
アーロンの顔は私の肩を超えて後ろに行っているので顔が見えないのがせめてもの救いだが、アーロンのサラサラの黒髪が頬にあたってくすぐったい。
慣れてくるとアーロンの腕の筋肉や肩にあたるアーロンのあごの形まで敏感に感じ取れてしまう。
後ろに回された腕も回りまわって私の二の腕のあたりに添えられている両手も。
背中にアーロンの吐息がかかっている気さえする。
どんどんと自分の鼓動が早くなって顔に血が上ってくる。
このままだと上せちゃいそう。
アーロンの事をもっと知りたいと昨日思ったのは確かだけど、こんなにじっくりと抱擁されていると変な興味ばかりが先行してしまう。
師匠ってなんかお日様の匂いがする。
多分今日外で何かお仕事してたのかな?
なんか抱擁の力がちょっとづつ強くなってきている気がする……
「師匠?」
「まだもうちょっと」
そう言ってまた腕の力が強まった。
強く抱きしめられるとそれだけで体の力が抜けて眩暈めまいがしてくる。
このままだと私の心臓が爆発するかアーロンに抱きつぶされるかどちらかになりそうだ。
「し、師匠、い、息が苦しい……」
「す、すまない」
アーロンはやっと気づいたようではっとして私を解放してくれる。
私はスパーっと一気に息を吸い込んで肺をいっぱいにして、それから呼吸を整えた。
「師匠、今のは結局何だったんですか?」
「いい、忘れろ」
そうぶっきらぼうに言い放ってアーロンはソファーから立ち上がり部屋を出て行ってしまった。
私は止めるわけにもいかず、ただそれを見送ってしまったのだが。
まさかそれっきりアーロンが一週間も返って来なくなってしまうなんて思いもしなかった。
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