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2章 新しい風

33 波紋 ― 6 ―

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 粘つく口の中がちょっとジャリジャリ言ってる。

 それが気持ち悪くて目が覚めた。

 目をこすりながら周りを見回すとアーロンがもう起きて部屋の椅子で本を読んでいた。

 あれ? この部屋って椅子なんてあったっけ?

「おはようございます」

 私の挨拶に本から目を上げて、方眉を上げながら返事をくれる。

「あまり早くもないがな。お前はどうやったらそんなに眠れるんだ?」
「別に普通だと思うんですが……」

 私の返事に小さくため息をついてテントの入り口を指さす。

「そこを出てすぐ先に井戸がある。まずは顔を洗ってこい」

 うーん、人知れず先に起きて髪くらい梳かしておきたい、なんていう乙女チックな気持ちが無いわけじゃないけど無理みたい。
 私は言われるままにテントを出て井戸に向かった。

 アーロンの言っていた通り井戸は直ぐに見つかって、くみ上げた水でバシャバシャと顔を洗う。
 あ、手拭いも持ってこなかったっけ。ま、ここは乾燥してるからすぐ乾くしいいか。

「あ、昨日の大食いのねーちゃんだ!」

 突然後ろから上がった子供の声に振り返ると、井戸を囲う柵の向こう側から柵に寄りかかる様にして4人程の子供たちがこっちを指さしてみていた。みんなして『大食い』を連呼してる。

 たのむからやめて~!

 私が真っ赤になって駆け寄ると最初に私を見つけたらしい男の子が私に尋ねて来た。

「ねえちゃん、昨日の綺麗なにーちゃんは一緒じゃないのか?」

 私が大食いでアーロンが綺麗なにーちゃんか。
 事実過ぎて反論が出来ない。

「アーロンの事ならまだテントだよ。呼んできてあげよっか?」
「いーよ、にーちゃんに昨日はありがとって伝えてくれれば。あ、それから……」

 思い出した様にポケットを探ってる男の子は一つの実を見つけてそれを私の手に押し付ける。

「お礼にこれやるって渡しといて」

 すぐに他の子達も「これも!」っと言って同じ丸っこい実をくれた。

「これ何?」
「ねーちゃん、これ知らねーのか? コンカの実だよ。別に食えねーけどこうやって紐通してぶつけあって遊ぶんだ」

 そう言って自分のを見せてくれる。それは大きめの栗の実を丸く太らせたような形で、彼の分には紐が真ん中に穴を空けて通してある

「どうやってそんな風に紐通すの?」
「え? ねえちゃん、自分で紐も通せないんか。しょーがねーな。ちょっと待ってろ」

 そう言って男の子はそれをもって走って行ってしまう。
 残ったのはみんな5歳くらいの小さな子供ばかり。さっきの男の子だって多分10歳にもなってないと思う。
 こんな小さな子たちだけ残してこのまま帰っちゃうわけにも行かないし、仕方なく他の子達とお話する事にした。

「みんなこの辺に住んでるの?」
「うん、すんでる~」
「あそこ~」
「みんあいっしょ」

 そう言って彼らが指さしたのはこのテント村のすぐ入り口辺りにある掘立小屋。

「あれがみんなのおうちなの?お父さんやお母さんもあそこ?」

 私がそう聞くとそれぞれ違う反応が帰ってきた。

「うん、おかーさんラクダあそこ~」
「おかーたん、いない」
「お、おか、おかぁたん……うぇ、うぇ!」

 へ? え?
 一人泣き出しちゃった!

 私は慌ててその子を抱き上げる。

「いーな、マリー。わたしもだっこ!」
「ぼくもー!」

「ねーちゃん、何やったんだ?」

 私がマリーちゃんを抱きかかえながらもう二人に抱き着かれてるとさっきの男の子が紐に下がったさっきの実を片手にこっちを睨んでた。

「良く分かんないの、お家にお父さんとお母さんがいないか聞いたらこのマリーちゃんが泣き出しちゃって」

 私はマリーちゃんを腕に抱えて左右に身体を振ってあやしながらそう答えると彼はすごく馬鹿にした顔で見上げながら答えた。

「ねーちゃん、何考えてんの? 孤児の俺らにそれ聞くって本気?」
「あ、そ、そうか、そそそれはごめんね、私何も考えてなかった」

 孤児だなんて知らなかったけど、ちょっとは考えても良かったはずだ。

「いーよ、ねーちゃんよっぽど恵まれた生活してんだろ?だから知らねぇだけだもんな」

 物わかりの良い男の子がそんな事を言う。ちょっと意地になって言い返してしまう。

「うんうん、私ちゃんと分かるべきだったよ、だって私も孤児なんだから」
「え? ねーちゃんが? じゃあ、あのきれーなにーちゃんは?」
「私の師匠。魔法のお師匠様なの」
「ええ!? ねーちゃん魔法使えるの? 見せてよ!」

 私はちょっと照れながらマリーちゃんを片手で抱えてもう一方の手の指先からチョロチョロと水を出して見せた。

「うわ、なんかちゃちいけどすげー」

 これは褒められてるの? それともけなされてるの?
 でもどうやら私の水魔法は思いのほか受けが良く、さっきまで泣いていたマリーちゃんもいつの間にか泣き止んでジッと見つめていた。

「なぁ、他には何か出来ないの?」

 せっかくなので私はパッパ、パッパと基本魔法を順番に繰り出して見せる。

「すげー!」
「うわぁ!」
「しゅご!」
「ひゃぁー!」

 それぞれみんな楽しんでくれたようなのでこの辺りで止めて置いた。

「そっか。ねーちゃんは孤児でもちゃんと魔法で身を立てたんだな。俺もいつかぜってー強くなって冒険者で身を立てるんだ」
「そうなんだ。坊やの夢は冒険者なんだね」
「ねーちゃんに坊や言われる年じゃねーぞ。俺だってもう9歳なんだ。あと3年で成人できるんだから」
「え? この辺の成人って13歳なの?」
「当たり前だろ」
「うーん、私ももうすぐ成人だけど」
「え? ねーちゃんその成りでもう13歳なのか?」
「違うよ! 私これでももうすぐ16歳なの! 私の居た所では成人は16歳なんだから!」
「嘘つけ、ねーちゃん俺と変わんなくないか?」

 言われてみれば身長だけ見るとあんまり変わらない。

「女の子は小さくて普通なの! ねーちゃんじゃなくてアエリアお姉さまって呼んでよ」
「アエリアねーちゃんか」
「……いいけどね」
「俺はタットン。こっちはメグとポムとマリーはもう知ってんだよな」
「タットン君とポム君にメグちゃんとマリーちゃんね」
「魔法見せてくれたお礼にねーちゃんにもこれやるよ」

 そう言ってタットン君は自分の分のコンカの実を私にくれた。

「え、でもそしたらタットン君のが無くなっちゃうじゃない」
「大丈夫。ほら俺もう一つ持ってるし」

 そう言ってもういっこのポケットからゴソゴソと違うコンカの実の紐付きを引きずり出して振り回す。

「ほらねーちゃんもこうやって持ってやってみな」

 言われるままに私が小さくクルクルと紐に付いた実を垂らしながら回すと、タットン君が自分のコンカの実を勢いよく回しながらぶつけて来た。

「危ない!」
「何やってんだよ。避けちゃだめだろ」

 私は慌てて避けたんだけど、タットン君に怒られてしまう。

「これはこうやってぶつけ合ってどっちが最後まで壊れないか競うんだ」

 そう言ってタットン君は今度はポム君の持っていたコンカの実とぶつけ合いを始めた。
 コンカの実は結構丈夫でお互い強くぶつけ合ってるのになかなか壊れない。

「ほら、ねーちゃんも試してみろよ」

 言われるままに私も実を振りながら二人の間に参加する。
 三人で実をぶつけ合ってると、最初にポム君の実が壊れた。

「へへへ。ややれちゃった。ややれちゃった」

 ポム君は自分の実が壊れたのに大喜びだ。でもその気持ちは分かる。弾けるのが楽しいのだ。

「おい! アエリア! 顔洗うだけにどんだけ時間かけてんだ?」

 テントの方ろからアーロンの声が飛んできて飛び上がってしまった。
 いけない! 私顔を洗いに来てたんだった。

「し、師匠、すみません、今戻ります!」

 大声で返事をして、タットン君に向き直る。
 あ! いい事思い付いた。

 私に悪いと思ったのか、帰ろうとするタットン君たちを両手で掴まえる。

「まって、折角だから師匠にもこの遊び、教えてあげてくれない?」
「え? でもきれーなにーちゃんは大人だろ? 普通大人はこんな遊びしねーぞ?」
「いいの、いいの、ちょっと待ってて」

 そう言って私は師匠の元に飛んで行った。
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