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2章 新しい風
26 新しい波 ― 1 ―
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浴場は最後にきちんと水を抜いておいてくれていたお陰で結構綺麗なままだった。
虫も湧いてないし苔も付いていない。
日本の檜のお風呂って言うのも捨て難いけど掃除を考えると石造りって楽でいいね。
「ふぅっ! 終わったぁ!」
私は磨き上げた風呂を見渡して達成感に上がり気味の気分のままキッチンに戻ってお茶を煎れる。
いいねぇ、いつでも美味しいお茶が飲めるよ。
再度ピピンさんに感謝感謝だ。
私が美味しくお茶を頂いていると二階で人の気配がする。
あ! 師匠帰ってきた!
そう思っているとアーロンが二階を歩き回る音がして、暫くするとガヤガヤと人の声が近づいて来る。
「師匠、おかえりなさい!」
元気良く声をかけるとアーロンが少し戸惑った顔でこちらを見て話し出す。
「あ、ああ。ゴホン。今日から数人使用人が入る事になった」
そう言うアーロンの横には真っ黒の執事服を着こなす30代半ばの目元に色気のある男性が立っている。
ピピンさん!?
思っていたよりも年若くカッコイイ執事さんにビックリした。
「あ、初めまして。いつも色々送ってくださってありがとうございます。ピピンさんですよね?」
私の挨拶に一瞬目を剥いた執事服の男性はジロリとアーロンに目線を向けて、直ぐに笑顔で顔色を覆い隠しながら返答してくれる。
「お初にお目にかかります。タイラーと申します」
ピピンさんは執事らしく優雅にお辞儀をする。
え? ピピンさんじゃなかったよ! 人違いだ!
「あ、あの、すみませんてっきりピピンさんだと思いこんでいて。タイラーさん、どうぞよろしくお願いします」
そう言って私は頭を下げ直した。
するとタイラーさんはキリリと目線でアーロンを睨ねめつけてこちらに向き直る。
「お嬢様、お嬢様はどちらでピピン様のお名前をお聞きになられたのでしょうか?」
「はい?」
非常に間の抜けた声が漏れた。
お、お嬢様? ピピン様?
色々突っ込みたいけど……
「あの、えっと、師匠からいつもご飯や食料を送ってくださる師匠の召使の様な方とお聞きしてメッシーさんとお呼びしていたんですが今朝やっと師匠がお名前を教えて下さったんです」
「……」
「……」
タイラーさんとアーロンが何か目線で喧嘩してるみたい。火花が見えそうだよ。
後ろからクスクスと笑う女性の声が聞こえてくる。
するとスッとタイラーさんが横に避けて後ろに立っていた3人の女性を前に出す。
「ああ、申し遅れました。こちらの2人が今後お二人の身の周りのお手伝いをする事になります」
タイラーさんがそう言うと2人のメイド服を着込んだ女性がそれぞれ頭を下げる。
「エリーです。よろしくお願いいたします」
「マイアです。よろしくお願いいたします」
二人共30過ぎの落ち着いた女性で、二人ともお揃いのグレーのロングドレスに白い腰下のエプロンを付け、髪をシニヨンにまとめ上げて白いリボンで止めている。
二人そろって慎ましい微笑みを浮かべながら挨拶してくれた。
「そしてこちらが今後厨房を中心にお使えする者です」
「ブリジットと言います。よろしくお願いいたします」
ブリジットさんは恰幅のいい女性で他の二人よりも少し年上らしい。
「こちらこそよろしくお願いいたします」
私は慌てて頭を下げる。
するとタイラーさんがスッと前に一歩出て話し始めた。
「お嬢様。一つよろしいでしょうか?」
「は、はい」
「お嬢様はアーロン様が後継人を引き受けられたアーロン様の初めてのお弟子様です。こちらで働くものは皆アーロン様はもとよりアエリア様にもお使え致します。どうぞ使用人としてお扱いくださいませ」
私はどうしていいのか戸惑ってアーロンに目線を送るとアーロンがぶっきらぼうにつぶやいた。
「徐々に慣れればいい」
その一言でタイラーさんはまた軽く頭を下げて後ろに一歩下がる。
「それでは一旦夕食に致しましょう」
「はい!」
元気よく返事をして水を汲みに行こうとする私の首根っこをアーロンが掴んだ。
「待て。お前は手を出さなくていい」
そう言って私をエリーと名乗ったメイドさんに引き渡す。
「コイツの準備を頼む」
「畏かしこまりました」
私は良く分からないままエリーさんの後ろについてキッチンを後にした。
二階に上がるとエリーさんは私の部屋に備え付けられたワードローブを開いて幾つかのドレスを引き出した。
「お嬢様、この季節ならばこの辺りが宜しいかと思いますが如何でしょう?」
そう言って私を振り返る。
「え?」
何を言われているのか一瞬分からない。
「お夕食のお召し物をお選びいただきたいのですが?」
「そ、そんな、知らない方の洋服をお借りするわけにはいきません」
そう言ってお断りをしようとするとエリーさんも驚いた顔でこちらを見返す。
「こちらは全てアーロン様がお嬢様の為にあつらえられたお洋服ですよ」
そう言ってちょっと困ったように首をかしげる。
ちょっと待って!
エリーさんの肩越しに見えたワードローブの中は様々な洋服が隙間なく詰まっていた。
アーロンは確かにここが私の部屋だって言ってたけど、まさかワードローブの中までずっしり色々詰まってるなんて思っても見なかった。
そっか、今朝の服はここから出してきたのか。
「タイラー様から簡単には伺っていましたが色々と誤解がある様ですね」
そう言ってエリーさんは手に持っていた服の中から一番大人しいピンクグレーの柔らかそうなドレスを選び、それを片手に私に歩み寄った。
「先ずはお召替えを済ませましょう。落ち着いて夕食を取られれば詳しいお話も出来ますでしょう」
そう言ってエリーさんは手早く私の身支度を整えだした。
虫も湧いてないし苔も付いていない。
日本の檜のお風呂って言うのも捨て難いけど掃除を考えると石造りって楽でいいね。
「ふぅっ! 終わったぁ!」
私は磨き上げた風呂を見渡して達成感に上がり気味の気分のままキッチンに戻ってお茶を煎れる。
いいねぇ、いつでも美味しいお茶が飲めるよ。
再度ピピンさんに感謝感謝だ。
私が美味しくお茶を頂いていると二階で人の気配がする。
あ! 師匠帰ってきた!
そう思っているとアーロンが二階を歩き回る音がして、暫くするとガヤガヤと人の声が近づいて来る。
「師匠、おかえりなさい!」
元気良く声をかけるとアーロンが少し戸惑った顔でこちらを見て話し出す。
「あ、ああ。ゴホン。今日から数人使用人が入る事になった」
そう言うアーロンの横には真っ黒の執事服を着こなす30代半ばの目元に色気のある男性が立っている。
ピピンさん!?
思っていたよりも年若くカッコイイ執事さんにビックリした。
「あ、初めまして。いつも色々送ってくださってありがとうございます。ピピンさんですよね?」
私の挨拶に一瞬目を剥いた執事服の男性はジロリとアーロンに目線を向けて、直ぐに笑顔で顔色を覆い隠しながら返答してくれる。
「お初にお目にかかります。タイラーと申します」
ピピンさんは執事らしく優雅にお辞儀をする。
え? ピピンさんじゃなかったよ! 人違いだ!
「あ、あの、すみませんてっきりピピンさんだと思いこんでいて。タイラーさん、どうぞよろしくお願いします」
そう言って私は頭を下げ直した。
するとタイラーさんはキリリと目線でアーロンを睨ねめつけてこちらに向き直る。
「お嬢様、お嬢様はどちらでピピン様のお名前をお聞きになられたのでしょうか?」
「はい?」
非常に間の抜けた声が漏れた。
お、お嬢様? ピピン様?
色々突っ込みたいけど……
「あの、えっと、師匠からいつもご飯や食料を送ってくださる師匠の召使の様な方とお聞きしてメッシーさんとお呼びしていたんですが今朝やっと師匠がお名前を教えて下さったんです」
「……」
「……」
タイラーさんとアーロンが何か目線で喧嘩してるみたい。火花が見えそうだよ。
後ろからクスクスと笑う女性の声が聞こえてくる。
するとスッとタイラーさんが横に避けて後ろに立っていた3人の女性を前に出す。
「ああ、申し遅れました。こちらの2人が今後お二人の身の周りのお手伝いをする事になります」
タイラーさんがそう言うと2人のメイド服を着込んだ女性がそれぞれ頭を下げる。
「エリーです。よろしくお願いいたします」
「マイアです。よろしくお願いいたします」
二人共30過ぎの落ち着いた女性で、二人ともお揃いのグレーのロングドレスに白い腰下のエプロンを付け、髪をシニヨンにまとめ上げて白いリボンで止めている。
二人そろって慎ましい微笑みを浮かべながら挨拶してくれた。
「そしてこちらが今後厨房を中心にお使えする者です」
「ブリジットと言います。よろしくお願いいたします」
ブリジットさんは恰幅のいい女性で他の二人よりも少し年上らしい。
「こちらこそよろしくお願いいたします」
私は慌てて頭を下げる。
するとタイラーさんがスッと前に一歩出て話し始めた。
「お嬢様。一つよろしいでしょうか?」
「は、はい」
「お嬢様はアーロン様が後継人を引き受けられたアーロン様の初めてのお弟子様です。こちらで働くものは皆アーロン様はもとよりアエリア様にもお使え致します。どうぞ使用人としてお扱いくださいませ」
私はどうしていいのか戸惑ってアーロンに目線を送るとアーロンがぶっきらぼうにつぶやいた。
「徐々に慣れればいい」
その一言でタイラーさんはまた軽く頭を下げて後ろに一歩下がる。
「それでは一旦夕食に致しましょう」
「はい!」
元気よく返事をして水を汲みに行こうとする私の首根っこをアーロンが掴んだ。
「待て。お前は手を出さなくていい」
そう言って私をエリーと名乗ったメイドさんに引き渡す。
「コイツの準備を頼む」
「畏かしこまりました」
私は良く分からないままエリーさんの後ろについてキッチンを後にした。
二階に上がるとエリーさんは私の部屋に備え付けられたワードローブを開いて幾つかのドレスを引き出した。
「お嬢様、この季節ならばこの辺りが宜しいかと思いますが如何でしょう?」
そう言って私を振り返る。
「え?」
何を言われているのか一瞬分からない。
「お夕食のお召し物をお選びいただきたいのですが?」
「そ、そんな、知らない方の洋服をお借りするわけにはいきません」
そう言ってお断りをしようとするとエリーさんも驚いた顔でこちらを見返す。
「こちらは全てアーロン様がお嬢様の為にあつらえられたお洋服ですよ」
そう言ってちょっと困ったように首をかしげる。
ちょっと待って!
エリーさんの肩越しに見えたワードローブの中は様々な洋服が隙間なく詰まっていた。
アーロンは確かにここが私の部屋だって言ってたけど、まさかワードローブの中までずっしり色々詰まってるなんて思っても見なかった。
そっか、今朝の服はここから出してきたのか。
「タイラー様から簡単には伺っていましたが色々と誤解がある様ですね」
そう言ってエリーさんは手に持っていた服の中から一番大人しいピンクグレーの柔らかそうなドレスを選び、それを片手に私に歩み寄った。
「先ずはお召替えを済ませましょう。落ち着いて夕食を取られれば詳しいお話も出来ますでしょう」
そう言ってエリーさんは手早く私の身支度を整えだした。
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