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1章 思い出は幻の中に

閑話 ピピンの日記3

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△の月×#の日

酷い夜だった。

昨日あの後すぐにアーロン様から結晶石に吹き込んだ緊急報告が飛んできた。
追いかける様にアーノルドからも伝令が届いた。

アーロン様からの緊急報告がアーノルドの要請を無視するように言っているのでそちらはすぐに破棄した。

報告を聞いて胃痛と頭痛が目まいに変わった。
海竜が上げ潮に乗って入り込んだという。
即座にフレイバーンの強襲を警戒せずにはいられない。

あの国は元々が情勢不安定であり、元々3つの独立した王国が共同統治を始めた所から始まった連邦王国なのだが、最近北部の党首国と他の2国の間で争いが絶えないらしい。
こちらから送っている密偵もかなりの数がその争いに巻き込まれて行方不明となっている。

我が国が接しているのはその中でも一番面積は大きいが特産物が少ない南部王国だ。
独立の噂まで聞こえてきている。

水路を引いて以来いやがおうにも政治的な折衝が増えていたのだが、ここにきてこの騒動は下手をしたら開戦の切っ掛けになりかねない。
そうでなくても我が国は小国の上政治的にも西の隣国に大きく影響を受ける立場にあって武力を表立って使えないのだ。

ここはアーロン様に委ねるしかないがかといって寝れるもんじゃない。
アーロン様の指示通り王都騎士団と近衛騎士隊付属の騎兵隊を合わせて騎兵隊のみで送り出し、じりじりとしながらアーロン様の報告を待っているにもかかわらず、最終的に報告が入ってきたのは今日の明け方だった。

正直言ってまずほっとした。
どうやら事は大きくならずに穏便に終わったようだ。
アーノルドが提出した合同演習の収支はマイナスになってはいたが、売れ残った海竜の肉の一部は王宮・王城内の食料として買取る形にして赤字を補てんしておく。
部隊が飲み切ってしまった酒代に関してはきっちりアーロン様の、いやアーノルドが管理する魔道騎士団の予算から出してもらっておいた。

アーロン様が最後にちょっと気になる事を伝えてきた。
どうやらアーロン様でさえ『上等』と思われるような女を充てがわれたという。

通常いくら高位の軍人でも、高々軍人程度にあてがわれるのは現地で調達した売春婦だ。
それをアーロン様が見ただけで『上等』と言うからにはよほど見目良く立ち居振る舞いも洗練された者だったのだろう。何か裏があるのではないかと勘繰りたくもなる。

そこで思い出した様にアーロン様がアエリア様の食事の話を始める。

待て待て待て。
何故この人は俺がアエリア様の面倒を見ると思っているんだ?
この人に他人の面倒を見る様な事を期待した俺が馬鹿だったのだろうか?

何のかんので周りにいる人間を見捨てないアーロン様は、それでいて決して人に執着をしない。
個人的感情を持って関りをつないでいるのはいい意味でも悪い意味でもよっぽど長い付き合いの者だけだ。
例えば俺の様に……
面倒な相手と思えばすぐに手を引いて姿を消す。

だが、今回、アエリア様に関してだけはどうしてもご自分で面倒を見たいらしい。
それならそれで、いい加減保護者としての自覚を持って頂きたい。
言うべき事はこの際はっきり言わせて頂いた。

とは言え、今すぐアーロン様がどうにかできる事ではなかろうし、それ以前にこのままではアエリア様が餓死されてしまいかねない。

アエリア様、お気の毒に。

タイラーも既に旧辺境伯邸に送り出そうと一通りの食料及び厨房器具を準備していると言っている。
タイラーと二人で目ぼしい者にはすでに声を掛けていつでも旧辺境伯邸に使用人を送り出せるようこちらも準備は整えた。

アエリア様の為にも明日あたり何としてもアーロン様を説得せねばならないだろう。


────────
作者より:
21話以降、R18版とは話がずれ始めるので書き下ろしに時間がかかりそうです。
よって更新を不定期に変更の上、なるべく週末に出すようにしたいと思います。
明日も残りの書きダメを吐き出すつもりですのでよろしくお願いします。
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