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1章 思い出は幻の中に

閑話 ピピンの日記1

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〇の月××の日

アーロン様がまた騒動を起こされた。
訓練生を二人病院送りにしてしれっとした顔で俺の執務室に現れた。

話を聞けばアエリア様が絡んでいるらしいと言うのでため息が出た。

この人は。
あれから8年も経つのにまだアエリア様に顔を出しに行っていない。
その癖毎週の報告書がちょっと遅れただけで修道院に文句を送り付けているらしい。

詳しい話を聞けば馬鹿な訓練生がアエリア様の存在を聞きつけて愚かにも王都で売春婦のまねごとをさせようとしていたらしい。
まあ、アーロン様でなくてもキレるのは分かる。
だがそれにしたって訓練場のど真ん中で問題を起こす必要はなかったはずだ。

お陰でそれぞれの騎士団に口止めを回すだけでも一苦労だった。
それにしても第一師団長のアーノルドと第二師団長カールスはどうもアーロン様個人の配下に完全に入っているようだ。
ご本人は全く気付かないようだがアーロン様を慕う兵士は多い。
だがこの二人にアエリア様の事まで知られているというのは少し心配ではあるが。

今後の事も考えてまた新たな規約を作って彼らと契約魔法を交わし直す必要があるかもしれない。

△の月×&の日

アーロン様がとうとうアエリア様に会いに元辺境伯邸に向かった。
といってもあの方の事だから転移で一瞬で消えてしまう。

こっちはアーロン様がアエリア様との面接に使える様に一部屋準備するだけの為に一月も前から辺境警備の者と下町の者に通知を出して向かわせていたというのに。

それでもこれで静かになると一息付いた途端、すぐに結晶石に吹き込んだ命令が飛んできた。

結晶石の声はどうやら心声だったらしく、珍しくアーロン様の焦りと苛立ちがはっきりと聞こえていた。
今すぐ餌付け出来る物をよこせ、と言われてもこっちだって執務中だ。
そんな都合よく準備出来るか!っと思いつつ目線を上げればちょうどタイラーがのお茶を準備している所だった。
仕方がないのでアーロン様が空間魔法で催促するように手を出す上に順番にパッパパッパと手渡して差し上げる。
長年の経験は時間が経っても全然薄れない。
お互い慣れたものだ。

今度こそ静かになったかと思って執務に集中し始めた頃にアーロン様がまた執務室に飛び込んできた。
どうしてこの人は俺の部屋に直接現れる?

合同練習の経過報告に来られたのかと思えば、何を考えているのかアエリア様の食事を準備していなかったという。
またもや仕方なく執務で取り損なった夕食の代わりに準備させていたの夜食をそのまま回すことにした。

「何で俺が怒られるんだ」とブチブチ言っていたアーロン様には悪いが、あんたが拾ってきた子供だ、自分で面倒見ろ!っと叫んでやりたい。

またも辺境伯邸に飛んで行ったアーロン様の手だけが俺の目の前に伸びて来てクイックイッとよこせの合図をしてくる。
切れそうになるのを必死で押さえての夜食を手渡せば机の上に用意してあった安物のワインの代わりにキャビネットからのコレクションの一本が突然消えた。

それでもぐっと堪え、これもアエリア様の為だと我慢する。

これで今度こそ静かになったかと思えば、夜も夜中、やっと執務にキリが付きそうになった所で突然アーロン様の声が執務室にこだました。

心臓が一瞬止まった。

この人は俺を殺す気か!

冬眠前のクマよろしく、俺の執務室の中をぐるぐる歩き回りながらアーロン様のどうでもいい話が始まった。
どうやらアエリア様を怒らせて部屋から逃げられたらしい。
あれだけ餌付けの材料があってどうやったら逃げられるような事になるんだ?

聞けば客室どころかアエリア様の部屋も準備が出来ていないという。
散々使用人を連れていけと俺が忠告しておいたのに、自分で何とでもすると言いはって突っぱねていたこの人は、結局時間切れであの応接室で夜を過ごす気らしい。
一緒にソファーで寝かされるアエリア様の身が心配でならない。

文句を言っていると事もあろうにタイラーを連れていきたいと言い出した。
男色だという事情だけで俺の片腕として裏では法務大臣や外務大臣の仕事までこなしているタイラーを連れていかれてたまるか。
大方アエリア様に虫がつかない様に普通の男性を付か寄らせないつもりなのだろう。
これもあちら側の血脈のなせる業か?

仕方がないのでスチュワードを向かわせる約束をしてしまった。

スチュワードは長年魔道騎士団の筆頭魔術教員として教鞭をとってきたのだが、ここ数年タイラーとの関係をネタに他の教員や下手をすれば生徒からも色々な嫌がらせを受けていたらしい。

冷徹なタイラーと違て元来が大人しく優しい性格の彼には騎士団と言う男所帯での執拗な嫌がらせが積み重なって耐えきれない苦痛となってしまったのだろう。
退役して城での再雇用を願い出て来ていた。

タイラーと距離は離れる事になってしまってもこの機会に一度地方でゆっくり過ごすのは彼にとっても悪い事ではないはずだ。
どうせアーロン様はちょくちょく行き来するのだから帰城も容易たやすかろうし。

それにしてもたった一日でどうやったらここまで問題ごとを持ち込めるんだこの人は。

いっそ執務室を別の場所に移動させられないか明日タイラーと検討してみよう。
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