斎藤先輩はSらしい

こみあ

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とうとう三月が来て・・・

80話 いつもと違う景色

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 卒業式のあと、私は一人図書室に向かった。
 式のあと、そこで会いたいと先輩に前もって言われてたのだ。

 こんな日だから図書室には他に誰もいない。クラスメートにでも捕まっているのか、先輩もまだ来ていなかった。

 誰もいない図書室で、私はなんとなく先輩がいつも座っていたあの席に座ってみる。
 そこから見るいつもと違う景色に、心がざわざわと波立った。

 先輩がいつも勉強していた机に突っ伏してみる。
 もう先輩がここに座る姿を見ることも出来ないんだ。
 そう思うとまた涙が滲んできた。

 こんなこと言ってるのけど、先輩とは昨日も普通に会ってる。
 勉強前にホワイトデーのお返しも貰ってしまった。可愛らしいショートブレッドの大缶で、すでに幾つか減っている。
 普通のクッキーより重量があって、食べると口の中で溶けるバターと砂糖の甘味が幸せにしてくれる逸品だ。

 私の生徒手帳に書かれていた予定はこれで全部──「卒業式でサヨウナラ」の最後の一行をのぞいては。

「これで、終わってしまうのかな」

 結局今日まで私と先輩は、今日の予定については触れないできた。
 なんとなく、今更触れるのもおかしい気がして、気恥ずかしくて。

 ……違う。
 また私は逃げちゃったのかもしれない。それで終わりって言われるのが怖くて。

「そんなに名残惜しそうに机に抱きつくことないでしょ」

 突然、先輩の声がクツクツ笑いとともに頭上から降ってきた。
 慌てて顔を上げると、卒業生の小さなブーケを胸元に刺した先輩が私のすぐ隣に立ってた。
 私が気づかないうちに図書室に入ってきてたみたい。

 そのまま私の頭をポンポンと叩いて、先輩が椅子を引いて私と向きあうように座った。

「目が腫れ上がってるよ。そんなに泣くようなスピーチはしてないとおもうんだけど」

 そう言って、ちょっと困った顔でハンカチを手渡してくれる。

 目が晴れ上がってるのは知ってた。
 ここに来る前に顔は洗ったけど、腫れは簡単には引いてくれない。こんなに腫れるって知ってたらここまで泣かなかったのに。
 渡されたハンカチは水で濡らされてて、目に当てると冷っとして気持ちいい。

「ありがとうございます」

 お陰で少しだけ気持ちも落ち着いて、やっとまともに顔を上げた私をみて、先輩が真面目な顔になって話しを始めた。
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