斎藤先輩はSらしい

とうとう三月が来て・・・

７９話 小雨の降る三月

　そしてあっという間に二月は過ぎ去り、三月も足早に去っていき。
　何事もなく、だけど着実にその日は近づいてきていた。

　少し変わったことといえば、三月になって、卒業式でスピーチをすることになった先輩が午前中から学校に来てるくらい。

　最近の先輩は、放課後以外もカラコンはせずに、だけど髪は結ったままで登校してきてる。
　放課後以外にもそんな先輩を見かけるのがちょっと新鮮だったけど、卒業式に向けて準備が忙しい先輩とは結局放課後まで話す機会はなかった。

　そう言えば、三谷先輩はちゃんとK大学に受かったらしい。
　あれっきり校内で見かけても無視されてる。
　ちょっとモヤモヤしないわけじゃないけど、今更なにを言えるわけでもないので気づいたら会釈する程度で私も関わらないことにした。


　小雨の降る三月の半ば、それはやっぱり私にとって特別な日になってしまった。
　だって裕也先輩が卒業しちゃうのだ。

　在校生として体育館でその様子を見れるのはありがたいけど、始まる前から涙腺が緩んでる。

「今から泣いてたら顔腫れ上がっちゃうよ」
「気持ちは分かるけど、それじゃ先輩の顔も見えないんじゃないの？」

　アッコちゃんとエッちゃんが仕方ないって顔で私の両横から慰めてくれるけど、やっぱり涙は止まらない。

　スピーチをするために壇上に上がった先輩は、やはり髪は結ってるけどカラコンはしてなかった。その姿が眩しすぎて、私はどうしても涙を止められない。

　先輩のスピーチをちゃんと聞かなきゃって思うのに、学校にいる先輩も今日で見収めだと思うと、そしてもしあの予定がまだ有効なら今日で全て終わっちゃうんじゃないかっていう不安とで気持ちが揺れまくってて。

　ハンカチ片手にボロボロ泣きながら、グチャグチャの顔でガン見してたのは間違いなく壇上の先輩にも見られてる。
　それでも私はハンカチを握りしめ、止めどなく溢れてくる涙とともに先輩の姿を目に焼きつけた。