斎藤先輩はSらしい

こみあ

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一月と二月はあっという間

77話 このあとどうする?

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「このあとどうする?」
「私はこのまま新年会に行く予定」

 甘酒を啜りながらエッちゃんが尋ねると、アッコちゃんが即答した。

 お参りをしっかり済ませた私たちは、境内の大欅おおけやきの前で甘酒を頂きながら輪になって立ち話してる。
 今日は特に冷えこんでいて、甘酒の湯気に混じって白い息を吐きつつも、それでもすぐに帰りたいとは誰も言わなかった。

「それって例の新年会?」

 いつもよりドレスアップしてると思ったら、どうやらアッコちゃんはこのまま新年会に行くらしい。確か婚約者さんに会える貴重な機会だったはず。そう思って尋ねたのが顔に出てたのか、アッコちゃんが苦笑いして答えてくれる。

「今年は婚約者フィアンセ殿は来ないらしいわよ。噂では他に恋人が出来たみたい。この婚約もそろそろ解消時かもね」

 そこでアッコちゃんがチラリと先輩の方を見てる。
 あれ、もしかしてアッコちゃん先輩に相談してたのかな。

「アッコちゃんはそれでいいの?」
「だって親が決めていただけですもの。多分すぐに他の候補者が決まるわ」

 そう答えたアッコちゃんは清々しいほど無関心で、少し疲れたその顔がとても大人びて見えた。
 ちょっと空いた会話の間にエッちゃんが口を開いた。

「私とスッチーもこのあとバスケ部の新年会予定」

 その声にスッチーが小さく頷いてから付け足す。

「その前に大量の買い出しがあるけどね」

 それを聞いてエッちゃんが嫌そうに顔をしかめた。
 先輩はどうだろうと顔を上げると、やはりこちらを見てた先輩が、少し困ったように私に答える。

「実は僕も今日はこのあと実家の挨拶回りがあるんだけど。市川さん、一緒に来てみる?」

 そう尋ねた先輩を、アッコちゃんがちょっと驚いた顔で見てる。
 それが少し気になったけど、私も先輩に頭を下げる。

「お誘い嬉しいですけど、今日はこのあと家族で親戚の家に挨拶に行くそうです」

 それを聞いた先輩が少しホッとしてるように見えたので、気軽に付いていくって言わなくてよかったと思ってしまった。
 先輩のご実家にはまだ行ったことないけど、なんかクリスマスに見聞きしたことからご挨拶にいく覚悟が全然ない。

「でも家までは送るから一緒に帰ろう」

 そう言って、先輩が飲み終わったカップを持って屋台に返しに向かう。私たちもそれぞれ飲み終わり、同じように屋台へ向かった。


 帰り道、先輩はどこか気がかりな様子でチラチラと私を見る。
 
「どうかしましたか?」

 私が尋ねると、立ち止まった先輩が数秒言いよどみ、ちょっと困った様子で口を開く。

「須藤くんは、市川さんのこと、塔子って呼ぶんだね」

 ボソリとそう言った先輩が、悩むように空中を睨んでから、私にチラリと視線を落とす。

「僕も塔子って呼んでいい?」

 流し目しながら真っ赤な顔で聞いてきた。
 先輩の熱が感染ったみたいに、一気に私の顔にも血がのぼってくる。
 それを見た先輩が、恥ずかしそうに視線を前に向ける。

「……はい」

 外された視線を追うように、私も視線を前に向けて答えた。
 返事をして、それからもう一度考えて。
 再び先輩に向き直って。

「……私も裕也先輩って呼んでいいですか?」
「もちろん」

 即答してこちらを見た先輩は、だけど今度は顔を逸らさない。
 そこで、気のせいじゃなく赤く染まった先輩の顔がゆっくりと私に近づいてきて。

 あ、もしかしてこれ……

 そう思って私が目をつぶろうとした時。

「ああ、塔子おかえりなさい」

 突然声がして、振り向くとそこにはお父さんと手を繋いで歩いてきたお母さん。
 角を曲がって来たお母さんたちがどこまで見てたか知らないけど、慌てて私も先輩も飛び退いた。

「あ、ごめんなさい、じゃましちゃったかしら。斎藤くん明けましておめでとう。今年も塔子をよろしくおねがいします」
「あ、明けましておめでとうございます。こちらこそ今年もよろしくおねがいします」

 それを見たお母さんが挨拶しながらニヤニヤ笑いを浮かべてる。隣でこちらを見るお父さんまで困った笑顔を浮かべてた。

 お父さんとも新年の挨拶を交わした先輩は「じゃあ僕は今日はここで」とお母さんたちに告げて、でも困った様子で私を見て小声で呟く。

「また学校でね、塔子さん」

 そう言って、先輩は少し足早にそのまま駅へと向かった。

 振り返らない先輩の耳が、遠目にも赤く染まってるのが見えた。
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