斎藤先輩はSらしい

こみあ

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十二月はクリスマスで大変

72話 和也兄さん

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 突然リビングに静けさが戻り、流れ続けていたクリスマスソングがやけに大きく聞こえだした。
 いたたまれず顔をあげると、先輩のお母様と目があった。

 なじられる? それとも怒鳴られる?

 一瞬そんな不安が胸を過ったけど、当の先輩のお母様は私を見て、なぜか眉尻を下げて諦めたように微笑んだ。

 あれ?
 もしかして、お母様はこうなることを知ってたのだろうか?

 そんなことを考えてた私は、突然先輩に強く手を握られて、驚いてそちらを振り返る。
 見れば先輩のほうがどこか泣きそうな顔で俊樹さんが消えた扉を睨んでた。
 
 そんな先輩の顔がゆっくりと歪み、無理やりな笑顔を貼り付けると、それを先輩のお母様に向けて掠れた声で告げる。

「母さん。頼まれたから今日は市川さんと来たけど、こういう話で呼び出すのは頼むからこれで最後にしてくれ」

 私の手を握りながら私に視線も合わせずに「そろそろ帰ろう」と先輩が呟く。
 慌てて荷物をまとめ、挨拶も早々に先輩は私を連れてアパートをあとにした。



「裕也待って」

 駅に向かう途中、私たちを追いかけて和也さんが走ってきた。

「これ、母さんから二人に持っていってくれって」

 息の上がった和也さんが、紙袋を二つ私たちに差し出して「母さんのクリスマスプディング、懐かしいだろ」っと先輩の肩を叩く。

「分かってると思うけど、あれでも母さんは一生懸命裕也に嫌われないように頑張ってるんだ。それだけは理解してやってくれ」

 やっと息を落ち着かせた和也さんが静かにそう告げたけど、先輩は否定も肯定もせずにじっと手の中の紙袋を見つめてる。

 やがて、暗い顔に綺麗な笑顔を浮かべ和也さんに向けると、平坦な声で告げた。

「メリークリスマス、和也兄さん」

 それだけで、終わりだというように背を向けて、振り返りもせずに歩きだす。
 そんな先輩の背中を少し悲しげに見送る和也さんに、私も軽く会釈して慌てて先輩のあとを追いかけた。
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