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十二月はクリスマスで大変
69話 沢山食べてね
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遅いお昼と夕食を兼ねたディナーのテーブルには、先輩と先輩のお兄さん、先輩のお母さん、そして遅れて帰ってきた先輩の義理のお父様の俊樹さんが一緒に座ってた。
アッコちゃんに言われて少しちゃんとした格好してきて本当に良かった。
先輩のお母さんはお家でもお化粧をしっかりしてて綺麗だし、お兄さんはなんかファッションモデルみたいな服装で格好いいし、俊樹さんにいたっては、外国の紳士みたいなジャケットとなんか胸ポケットにハンカチーフまで入ってる。
白いレースのかかったテーブルには、幾つもの大皿が並んでて、私の前にはレストランで出てきそうな厚手の陶磁器のお皿と曇り一つない銀食器が並んでた。
テーブルの真ん中には綺麗に飾られた小さなバラのブーケが鎮座してる。これ実は今日、俊樹さんが先輩のお母様に買ってらした花束の一部だったりする。
さり気なくバラの花束を抱えて帰ってらした旦那様に、思わず感嘆の吐息が漏れたのは内緒だ。
「どうぞ遠慮しないで沢山食べてね」
待って、フォーク二つあるけど、これ、どちらから使うんだっけ?
お母様はそう言われるけど、とてもじゃないけどこの状況じゃ緊張でなにも喉を通る気がしない。
さっきからグラスに継がれた水ばかり飲んでる私をチラリと見た先輩が、ちょっとムッとしながら立ち上がって私の皿を取り、大皿からそこに手際よく食べ物を取り分けてくれた。
「市川さんを連れてくるのは言ってあったんだから、もう少し食べやすい夕食にしてくれればいいのに」
お皿にお肉やら野菜やらを配分よくよそいつつ、先輩が不機嫌そうに呟くのを聞いて、思わずヒッと声が出るかと思った。
「自分でやります」
「いいから市川さん。人の家でこんな料理じゃ食べにくくてしかたないでしょ」
立ち上がろうとする私を制して、先輩が既によそわれたお皿を私の前に差し出した。そして不機嫌なままに付け足す。
「食べづらいかもしれないけど、母のローストチキンは美味しいから」
「あらあらあら。裕也でもちゃんと女性に気が使えてるみたいじゃない」
そんな先輩を見ていた先輩のお母様が、目を見開いて驚いたように声をあげた。
「母さん、それは裕也に失礼だよ。こいつは元々気遣いが過ぎるくらいなんだから。あ、俊樹さんありがとうございます」
先輩に続いて立ち上がってた義理のお父様の俊樹さんが、同じく取り分けた皿をお母様とお兄さんにも手渡していく。
その間に先輩は自分の皿にも取り分けて、私に手元が見えるように外側のフォークとナイフを手にとってみせてくれた。
慌ててそれを真似て外側のフォークとナイフを手にとって、私もローストチキンに挑戦する。
表面の黄金色のパリッとした皮にナイフを入れれば、大して力を入れずともその刃が身に沈み込む。一切れ口に入れれば皮と身の間から肉汁が溢れ、独特の甘みのあるソースの味とともに口のなかいっぱいにお肉の旨味が広がった。
最初は緊張して食べられないと思ってたのに、気づけば夢中になってフォークを進めてしまう。
ふと横を見れば、先輩が少しホッとした顔でそんな私を見てるのが目に入った。
「お味はどう?」
「んっ、と、とっても美味しいです!」
問われて慌てて飲み下し、思わず少し声が大きくなる。
それを目撃した先輩のお兄さんがクスクスと笑ってる。
あ、抑えた笑い方が先輩とそっくり!
そのまま何事もなく、ディナーは和やかに進んでいった。
アッコちゃんに言われて少しちゃんとした格好してきて本当に良かった。
先輩のお母さんはお家でもお化粧をしっかりしてて綺麗だし、お兄さんはなんかファッションモデルみたいな服装で格好いいし、俊樹さんにいたっては、外国の紳士みたいなジャケットとなんか胸ポケットにハンカチーフまで入ってる。
白いレースのかかったテーブルには、幾つもの大皿が並んでて、私の前にはレストランで出てきそうな厚手の陶磁器のお皿と曇り一つない銀食器が並んでた。
テーブルの真ん中には綺麗に飾られた小さなバラのブーケが鎮座してる。これ実は今日、俊樹さんが先輩のお母様に買ってらした花束の一部だったりする。
さり気なくバラの花束を抱えて帰ってらした旦那様に、思わず感嘆の吐息が漏れたのは内緒だ。
「どうぞ遠慮しないで沢山食べてね」
待って、フォーク二つあるけど、これ、どちらから使うんだっけ?
お母様はそう言われるけど、とてもじゃないけどこの状況じゃ緊張でなにも喉を通る気がしない。
さっきからグラスに継がれた水ばかり飲んでる私をチラリと見た先輩が、ちょっとムッとしながら立ち上がって私の皿を取り、大皿からそこに手際よく食べ物を取り分けてくれた。
「市川さんを連れてくるのは言ってあったんだから、もう少し食べやすい夕食にしてくれればいいのに」
お皿にお肉やら野菜やらを配分よくよそいつつ、先輩が不機嫌そうに呟くのを聞いて、思わずヒッと声が出るかと思った。
「自分でやります」
「いいから市川さん。人の家でこんな料理じゃ食べにくくてしかたないでしょ」
立ち上がろうとする私を制して、先輩が既によそわれたお皿を私の前に差し出した。そして不機嫌なままに付け足す。
「食べづらいかもしれないけど、母のローストチキンは美味しいから」
「あらあらあら。裕也でもちゃんと女性に気が使えてるみたいじゃない」
そんな先輩を見ていた先輩のお母様が、目を見開いて驚いたように声をあげた。
「母さん、それは裕也に失礼だよ。こいつは元々気遣いが過ぎるくらいなんだから。あ、俊樹さんありがとうございます」
先輩に続いて立ち上がってた義理のお父様の俊樹さんが、同じく取り分けた皿をお母様とお兄さんにも手渡していく。
その間に先輩は自分の皿にも取り分けて、私に手元が見えるように外側のフォークとナイフを手にとってみせてくれた。
慌ててそれを真似て外側のフォークとナイフを手にとって、私もローストチキンに挑戦する。
表面の黄金色のパリッとした皮にナイフを入れれば、大して力を入れずともその刃が身に沈み込む。一切れ口に入れれば皮と身の間から肉汁が溢れ、独特の甘みのあるソースの味とともに口のなかいっぱいにお肉の旨味が広がった。
最初は緊張して食べられないと思ってたのに、気づけば夢中になってフォークを進めてしまう。
ふと横を見れば、先輩が少しホッとした顔でそんな私を見てるのが目に入った。
「お味はどう?」
「んっ、と、とっても美味しいです!」
問われて慌てて飲み下し、思わず少し声が大きくなる。
それを目撃した先輩のお兄さんがクスクスと笑ってる。
あ、抑えた笑い方が先輩とそっくり!
そのまま何事もなく、ディナーは和やかに進んでいった。
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