斎藤先輩はSらしい

こみあ

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十一月は波乱の季節

60話 言えちゃうんです

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「まず最初に言っておくけど、試験は多分受かったから馬鹿なことを気にする必要はないよ」

 まるで当たり前の事実というようにそう言い切った先輩に、私は目が点になる思いで問い返す。

「そんな簡単に言えちゃうんですか」
「言えちゃうんです」

 驚きのままの私の問を、先輩はおかしそうに見返して、おどけた調子で答えてくれた。

「こんなこといちいち人に言うことじゃないけど、市川さんやたら気にしてるみたいだからちゃんと説明しておくとね。僕は推薦に必要とされていたコンテストを既に2つ受賞してるんだ。だから今更落ちる理由がない」
「え……受賞って……コンテストって……?」

 突然出てきた話に全く理解が追いつかない私に、先輩がスマホを取り出して、2つのウェッブサイトを見せてくれた。
 そこには高校生対象の科学分野のコンテスト結果が表示されていて、意味不明な研究論文と一緒に最優秀賞の称号と先輩の名前が載っていた。
 もう一つのサイトは全く違う文学分野のコンテストで、こちらにも佳作として先輩の名前が添えられた作品が載ってる。

 知っている人の名前がこうして公式のサイトに並んでるのが不思議で、こんなサイトに名前が載ってる人がすぐ横に座ってるのがまた不思議で。

「天上人だ……」

 思わず声が溢れだした。またクスリと笑った先輩が先を続ける。

「今週あったのは最終面接だったんだよ。ただ僕の場合は前もって大学でやりたい研究が決まってるから、その内容を受験会場にいらした教授に添削してもらったんだ。数人の教授が僕の研究にも賛同してくれていたし、多分これで今更落ちることはないと思うよ」
「やっぱり天上人だ……」

 もうそれ以外言葉が出てこない。
 例え二歳の年の差があるにしたって、同じ高校生でこんなにも立ち位置が違う人間がここにいることがもう、尊敬を通り越しておかしくなってくる。

「うは、はは、アハハハ」

 思わず声をあげて笑い出した私に、先輩がやっぱりいつものクツクツ笑いを始めた。

 三谷先輩や私の心配なんて、凡人の悩むようなそれは、この先輩には全く必要なかったらしい。
 あれだけ悩んでた自分が馬鹿らしい。

 なんか色々と一気に気が抜けて、私はベッドの上でへたり込んだ。
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