斎藤先輩はSらしい

こみあ

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十一月は波乱の季節

59話 その顔が見れてよかった

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「びっくりした?」

 すっかり硬直して動けなくなった私からそっと身を離した先輩が、私の目の前で手を振ってる。
 やっと焦点があって見えたのは、目の前の先輩のいたずらっぽい笑顔だった。

「市川さん、これくらいしないと僕の言うこと聞いてくれそうになかったから」

 まるでそれまでのことが嘘みたいに、普通に話しながら先輩がまたも椅子に戻って私を見た。

「君のその顔が見れてよかった。少なくとも僕は嫌われてないみたいだね」

 でも、先輩はもう本当にいつもどおりで、ただ私を安心させるような優しい笑みを浮かべてて。

「わ、私は──」

 口から出そうになってる言葉が一体なんなのか、自分でも分からなくて、ただただパクパクと動かしてるだけだった私の唇を、先輩の人差し指がそっと塞いだ。
 そのままゆるく首を振った先輩が、小首を傾げて私を見る。

「市川さん、お願いがあるんだ。これから僕がする質問に、出来る限り素直に答えてくれる?」

 さっきの笑顔はいつの間にか消え去って、尋ねてくる先輩の顔は真剣そのものだ。私は方々に飛び散る意識をその先輩の真剣な目に集中させて、ただ静かにうなずいた。

「余計なことは全部忘れて、ただ率直に答えて欲しい」

 念を押すように先輩が重ねて言った。

「僕が一緒にいる日々と僕が一緒にいない日々、どちらがいい?」

 眼鏡の向こう側、尋ねる先輩のその瞳に私の姿が映ってる。
 その色素の薄い瞳には、嘘もバリアーもなにも見えなくて。
 先輩がただ真剣に私の気持ちを尋ねてるのが痛いほどわかって。

 そんな質問。答えなんて決まってる。

「斎藤先輩が一緒にいてくれる日々」

 答えると決まってしまえば、それはすんなりと私の口からこぼれ出た。
 先輩に言いたい言葉はいっぱいあったけど、それが何故か全てこの答えに集約されてる気がした。

「よかった」

 驚くほど、先輩の顔に安堵の色が広がっていくのが不思議だった。
 あの日保健室で私が見たかったのは、多分この素直な先輩の表情だったんだって今更思った。

「じゃあ最初から全部、ちゃんと話し合おうね」

 一息ついた先輩は、ニコリと笑ってそう言った。
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