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十一月は波乱の季節
58話 僕を諦めるの?
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「フーン。そんなことがあったんだ」
私が話している間、先輩は一言も喋ってくれなかった。
時々ピロロンと先輩のスマホの着信音が聞こえてたけど、先輩は全て無視してた。
私が全てを暴露し終わると、一度深いため息をはきだして、顔にかかる長い髪をうざったそうにかき上げる。
「それで市川さんは、三谷に言われて僕を諦めるの?」
再度私に視線を戻した先輩の目は、何故かそれまでより強く輝いているように見えた。眼鏡の向こう側の目が、強く強く私を射抜く。
そこに滲むのは怒り?
先輩は、多分、今、怒ってる。
私は……震え上がっていた。
だって、今まで私は一度も先輩が怒るところなんて見たことがなかったから。
気圧されて声も出ない私を前に、先輩が腰を浮かせて、私のベッドに手をついた。
「『特別』って言ってくれたのは、あれはウソ?」
そのまま私に身を乗り出してくるから、先輩の顔がすぐ目の前に迫ってきて、思わず私は後ずさる。
だけど狭いベッドの上で私が逃げられる距離はほとんどなかった。
視線は先輩の目に釘付けにされ、先輩の全身から押し寄せるプレッシャーに押し潰されそうな気がしてくる。
その勢いに負けた私は、とうとう抑えきれずに答えてしまった。
「嘘なんかじゃないです。嘘なんかじゃないから、だから……」
これ以上迷惑になるのは嫌だった。
斎藤先輩の邪魔をする存在にはなりたくなかった。
そう続けるつもりなのに、声が震えて出てこない。
邪魔になりたくないのは事実なのに、それを言ってしまえば、それで全て終わってしまう気がして。
先輩と一緒にいられる時間が、もうなくなってしまう気がして。
どれほど自分勝手だと言われたって、私は先輩を終わらせられない、終わらせたくない……
だから、私は声を出す代わりに、口をつぐんだ。
「僕は今日図書室で君に会うのを結構本気で楽しみにしてたんだよ」
口を閉ざした私を、先輩が間近に見下ろす。
試すように、私の目を角度を変えて覗き込みながら、薄っすらと笑みを浮かべて言葉を紡いだ。
「君に、僕の気持ちもちゃんと伝えたくて……」
そこでコトリと小首を傾げ、目を細めて私を睨む。
「でも、君が僕を諦めるって言うのなら、仕方ない」
そう口にした先輩は、寂しげな目をゆっくりと伏せていく。
終わってしまう。
私がなにもしなくても。
なにも言わなくても。
なにも出来ないまま、このまま終わってしまう。
……なにが?
なにが終わるんだろう。
なにか、とっても大切ななにかが、今、終わろうとしてる。
そこではたと気がついた。
恋。
そうだ。
今終わろうとしてるのは恋だ。
ここに来て、私は初めて自分の中で騒ぎ続けたこの気持の正体がわかった気がした。
そして、同時に絶望する。
そうか。私が今手放そうとしているのは、私自身の初恋だったんだ……
一気に目の前が暗くなり、そしてこみ上げるような悲しみが胸を締め付けた。
とうとう涙が滲み、嗚咽が上がりそうになる。
知ってる。
先輩は追いかけない。
先輩は助けない。
だって先輩はいつも私を終わらせようとしてきたんだから。
そう思い、私は先輩から視線を外して、涙を流す代わりに諦める為の深い吐息を吐いた。
と、突然、視界がフッと暗くなった。
「え……?」
全身が押さえつけられて動けない。
気づけば私は先輩の腕の中にいた。
壁に押し付けるようにして、強く抱きしめられていて。
「言ったでしょ。僕は多分Sだって」
先輩が私を抱きしめてる。厚手の制服からほんの少し外気の匂いがした。
先輩の髪が頬にあたる。背に回された先輩の腕がしっかり私を抱きとめていて。
「そんな顔をしてる君を、僕は簡単に逃してあげる気はないんだ」
先輩の声が頭の後ろからするのがなんか変だ。
先輩の腕の中は、狭いのに苦しくはなく、だけど息が詰まるほど胸が高鳴ってきて。
「だから市川さん。これからの話しをしよう」
先輩がそう告げる声を、私はほとんど気を失いそうになりながら聞いていた。
私が話している間、先輩は一言も喋ってくれなかった。
時々ピロロンと先輩のスマホの着信音が聞こえてたけど、先輩は全て無視してた。
私が全てを暴露し終わると、一度深いため息をはきだして、顔にかかる長い髪をうざったそうにかき上げる。
「それで市川さんは、三谷に言われて僕を諦めるの?」
再度私に視線を戻した先輩の目は、何故かそれまでより強く輝いているように見えた。眼鏡の向こう側の目が、強く強く私を射抜く。
そこに滲むのは怒り?
先輩は、多分、今、怒ってる。
私は……震え上がっていた。
だって、今まで私は一度も先輩が怒るところなんて見たことがなかったから。
気圧されて声も出ない私を前に、先輩が腰を浮かせて、私のベッドに手をついた。
「『特別』って言ってくれたのは、あれはウソ?」
そのまま私に身を乗り出してくるから、先輩の顔がすぐ目の前に迫ってきて、思わず私は後ずさる。
だけど狭いベッドの上で私が逃げられる距離はほとんどなかった。
視線は先輩の目に釘付けにされ、先輩の全身から押し寄せるプレッシャーに押し潰されそうな気がしてくる。
その勢いに負けた私は、とうとう抑えきれずに答えてしまった。
「嘘なんかじゃないです。嘘なんかじゃないから、だから……」
これ以上迷惑になるのは嫌だった。
斎藤先輩の邪魔をする存在にはなりたくなかった。
そう続けるつもりなのに、声が震えて出てこない。
邪魔になりたくないのは事実なのに、それを言ってしまえば、それで全て終わってしまう気がして。
先輩と一緒にいられる時間が、もうなくなってしまう気がして。
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だから、私は声を出す代わりに、口をつぐんだ。
「僕は今日図書室で君に会うのを結構本気で楽しみにしてたんだよ」
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「君に、僕の気持ちもちゃんと伝えたくて……」
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「でも、君が僕を諦めるって言うのなら、仕方ない」
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終わってしまう。
私がなにもしなくても。
なにも言わなくても。
なにも出来ないまま、このまま終わってしまう。
……なにが?
なにが終わるんだろう。
なにか、とっても大切ななにかが、今、終わろうとしてる。
そこではたと気がついた。
恋。
そうだ。
今終わろうとしてるのは恋だ。
ここに来て、私は初めて自分の中で騒ぎ続けたこの気持の正体がわかった気がした。
そして、同時に絶望する。
そうか。私が今手放そうとしているのは、私自身の初恋だったんだ……
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とうとう涙が滲み、嗚咽が上がりそうになる。
知ってる。
先輩は追いかけない。
先輩は助けない。
だって先輩はいつも私を終わらせようとしてきたんだから。
そう思い、私は先輩から視線を外して、涙を流す代わりに諦める為の深い吐息を吐いた。
と、突然、視界がフッと暗くなった。
「え……?」
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