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十一月は波乱の季節
55話 大丈夫だった?
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「塔子、大丈夫だった?」
「……うん」
教室に戻るとアッコちゃんがすぐに駆け寄ってきてくれた。エッちゃんもすぐ後ろに立ってる。
二人ともとても心配そうに私を見てるし、多分心配されるくらい今の自分の顔色が悪いのは知っていた。
だけど、そこでお昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り響き、私たちはそれ以上なに一つ言い交わせないまま、全部胸に押し込めてそれぞれ自分の席へと戻るしかなかった。
午後の授業は全く頭に入ってこなかった。
三谷先輩の言葉がずっとぐるぐる頭の中を回ってて、他のことが全然考えられない。ただ習慣で手が勝手にノートだけ取ってる。
ぼんやりしてる間に授業は終わり、私に声をかけようとしてくれたアッコちゃんとエッちゃんに、私はどうしても上手く伝えられる言葉が見つけられず。
「私、図書委員の仕事あるから行くね」
作り笑顔でそう言い置いて、二人に背を向けて逃げるように教室をとびだした。
図書室に来てからも頭はボーッとして、全くなにも考えられなかった。
本の返却・貸し出しの作業は手が勝手にやってくれてる。
でもたまになにかを尋ねられても、ほとんど役に立つ返答はできなかった。
同じことが何度も何度も脳裏を駆け巡る。
打算だけで交際を申し込んだのが、そもそも大きな間違いだったんだ。
当たり前だけど本当に失礼で、いくら先輩が受けてくれたからって、普通バレた時点で辞退するのが常識的な対応だったんだろう。
それなのに、文化祭で邪険にされても、二年の先輩たちに呼び出されても、私はなぜか先輩を諦めきれないで交際を続けてしまった。
それは先輩にしてみれば想定外だったのだろうか。
ずっと一緒に帰ってたのは、本当は仕方なくだったのだろうか。
ハロウィンのデートも、先輩にとっては迷惑だったのだろうか。
だけど、そんなことを思うたびに珍しく声をあげて笑った先輩や、あのクツクツ笑いが脳裏に蘇ってくる。
あれも全部気づかいからだったのだろうか?
本当に?
先輩はいつも私の話をちゃんと聞いてくれて、私の問いかけにもちゃんと答えてくれてきた。
でもそれが結果的に先輩に余計な時間ばかり取らせてて、それで先輩の受験が失敗したら、私はどうしたらいいんだろう。
私、先輩と一緒にいていいんだろうか?
思考は空回りを続け、どんどんと暗い方向へ暗い方向へと落ちていく。
その日、私は生まれて初めて夕ご飯を全く食べられなかった。
* * *
それから三日の間ずっと、私はとにかく一人でグルグルと悩みつづけた。
アッコちゃんとエッちゃんはとっても心配してくれたけど、今回は自分の中がぐちゃぐちゃ過ぎて、二人に相談さえ出来ないままだ。
真っ暗闇な週末を、ひたすら先輩の試験が上手くいくように祈って過ごし、そしてあけた月曜日。
今日は朝から気が重かった。
今朝とうとうレインで先輩から「図書室に行くよ」とメッセージが来てしまったのだ。
実はこの数日、毎日先輩に送っていた挨拶スタンプさえ送れなくなっていた。
先輩もからもなんの音沙汰もなく、ある意味自分ひとりで考える時間がもらえて助かってたのに。
まだどうやっても、どんな顔をして先輩に会えばいいのか分からない。
こんなに色々先輩に迷惑かけたのに。
しかも本当は私はもっと早く離れるべき人間だったかもしれないのに。
先輩と顔を合わせ、それを確認してしまうのが怖い。
でも会ってしまったら、きっと聞かずにはいられない……
悩みきった挙げ句。
お昼休み、私は一人図書室に向かい、お昼の受付の子に放課後の当番を今日だけ替わってもらえるようにお願いした。
すごく嫌な顔されたけど、今度お昼の当番を二回変わるってことで納得してくれた。
そう、私はまたも逃げ出すことを選択した。
放課後、いつもなら図書室に向かう時間。
私は後ろ髪を引かれる気持ちのまま、一人学校を後にした。
「……うん」
教室に戻るとアッコちゃんがすぐに駆け寄ってきてくれた。エッちゃんもすぐ後ろに立ってる。
二人ともとても心配そうに私を見てるし、多分心配されるくらい今の自分の顔色が悪いのは知っていた。
だけど、そこでお昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り響き、私たちはそれ以上なに一つ言い交わせないまま、全部胸に押し込めてそれぞれ自分の席へと戻るしかなかった。
午後の授業は全く頭に入ってこなかった。
三谷先輩の言葉がずっとぐるぐる頭の中を回ってて、他のことが全然考えられない。ただ習慣で手が勝手にノートだけ取ってる。
ぼんやりしてる間に授業は終わり、私に声をかけようとしてくれたアッコちゃんとエッちゃんに、私はどうしても上手く伝えられる言葉が見つけられず。
「私、図書委員の仕事あるから行くね」
作り笑顔でそう言い置いて、二人に背を向けて逃げるように教室をとびだした。
図書室に来てからも頭はボーッとして、全くなにも考えられなかった。
本の返却・貸し出しの作業は手が勝手にやってくれてる。
でもたまになにかを尋ねられても、ほとんど役に立つ返答はできなかった。
同じことが何度も何度も脳裏を駆け巡る。
打算だけで交際を申し込んだのが、そもそも大きな間違いだったんだ。
当たり前だけど本当に失礼で、いくら先輩が受けてくれたからって、普通バレた時点で辞退するのが常識的な対応だったんだろう。
それなのに、文化祭で邪険にされても、二年の先輩たちに呼び出されても、私はなぜか先輩を諦めきれないで交際を続けてしまった。
それは先輩にしてみれば想定外だったのだろうか。
ずっと一緒に帰ってたのは、本当は仕方なくだったのだろうか。
ハロウィンのデートも、先輩にとっては迷惑だったのだろうか。
だけど、そんなことを思うたびに珍しく声をあげて笑った先輩や、あのクツクツ笑いが脳裏に蘇ってくる。
あれも全部気づかいからだったのだろうか?
本当に?
先輩はいつも私の話をちゃんと聞いてくれて、私の問いかけにもちゃんと答えてくれてきた。
でもそれが結果的に先輩に余計な時間ばかり取らせてて、それで先輩の受験が失敗したら、私はどうしたらいいんだろう。
私、先輩と一緒にいていいんだろうか?
思考は空回りを続け、どんどんと暗い方向へ暗い方向へと落ちていく。
その日、私は生まれて初めて夕ご飯を全く食べられなかった。
* * *
それから三日の間ずっと、私はとにかく一人でグルグルと悩みつづけた。
アッコちゃんとエッちゃんはとっても心配してくれたけど、今回は自分の中がぐちゃぐちゃ過ぎて、二人に相談さえ出来ないままだ。
真っ暗闇な週末を、ひたすら先輩の試験が上手くいくように祈って過ごし、そしてあけた月曜日。
今日は朝から気が重かった。
今朝とうとうレインで先輩から「図書室に行くよ」とメッセージが来てしまったのだ。
実はこの数日、毎日先輩に送っていた挨拶スタンプさえ送れなくなっていた。
先輩もからもなんの音沙汰もなく、ある意味自分ひとりで考える時間がもらえて助かってたのに。
まだどうやっても、どんな顔をして先輩に会えばいいのか分からない。
こんなに色々先輩に迷惑かけたのに。
しかも本当は私はもっと早く離れるべき人間だったかもしれないのに。
先輩と顔を合わせ、それを確認してしまうのが怖い。
でも会ってしまったら、きっと聞かずにはいられない……
悩みきった挙げ句。
お昼休み、私は一人図書室に向かい、お昼の受付の子に放課後の当番を今日だけ替わってもらえるようにお願いした。
すごく嫌な顔されたけど、今度お昼の当番を二回変わるってことで納得してくれた。
そう、私はまたも逃げ出すことを選択した。
放課後、いつもなら図書室に向かう時間。
私は後ろ髪を引かれる気持ちのまま、一人学校を後にした。
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